二周目 参
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それから三日目にしてようやく、生きている人間を見つける事が出来た。
二日目にも人間は見つけたけど、その人は生きていなかったからそれはもう嬉しくてたまらなかった。しかし、出会ったどの人もお通夜のような空気を身に纏っていた。
「弟弟子が、俺のせいで鬼に食われてしまった!どうしたらいい!」
「もうだめだ、鬼にやられた傷が痛い。鬼が怖い。あんなのと戦えない」
「鬼殺隊に入ってもやっていける自信ない」
「死にたくないもう嫌だ帰りたいよぉ」
同じ育手の元から来た弟子の内一人が目の前で鬼に食われてしまい震える者、鬼から攻撃を受けて心が挫けてしまっている者など様々な理由で鬼殺隊入隊を諦めるものが続出した。
かわいそうに。この分だと隠としてもやっていけるかどうか。気持ちが落ち込んでしまった者に、今後も鬼と関わらせるのは酷というものだ。
私は鬼に出会わぬよう気をつけながら、その人達を山の出口まで案内した。
隊士になるといって山に残ったのは三人ほどか。私のベースキャンプ付近……ひなたの多い場所で過ごしつつ、夜は協力して鬼の頸を狙いに出ているそうだ。
皆、鬼に家族を殺されて憎む気持ちばかりが先行する者のようだった。協力し合うにはこれ以上ない結束力を見せることだろう。
食事だって、この山には大きな野鳥やうさぎ、鹿がいた。狩るのは鬼を倒すより簡単だ。捌けるかどうかなだけで。
僅かだが食べられるきのこも生えているし、火さえ起こせれば残りの日も無事に過ごせるはず。
「鹿肉……高タンパク低カロリー鉄分豊富……。ジンギスカン、いや、きのこたっぷり紅葉鍋かぁ。美味しそう」
よく動くし怪我で血を失いやすい鬼殺隊士にとって、最高の食材じゃないか!
今度杏寿郎さんも呼んで、一緒に食べよう。
そんな折、第六村人、いや七人目……?なんでもいいや、鬼ではなく生きてる人間をまた発見した。
「ふーん。ここから鬼の姿は見えないね」
木の上に座るその人の隣から、その視点の先を見つめる。どこを見ても深い霧に包まれた山が広がるだけで、鬼の姿は見つけられなかった。
「な、んだてめぇ!吃驚させんじゃねぇ!」
気配もなしに現れたから大層驚かせてしまったようだ。雷の呼吸使いかな?稲妻の走る刀を眼前に突きつけられた。
「驚かせてごめんなさい。もしかして貴方の視点から狩りやすい鬼でも見えるのかと思って」
「隠れてんだよばーか」
機嫌が悪そう、というか元々こういう顔をしているのかもしれないが、纏う雰囲気は今までここで見かけたどの人間とも違っている。
短い黒髪は少し癖っ毛で跳ねており、ふてぶてしい表情はいじっぱりにしか見えずかわいらしく、首の勾玉の飾りが唯一の色のある特徴。よく似合う。
うん。明槻に言わせたらただのツンデレで片付けられそうだ。
「貴方さえ良ければなんだけど、他の人と協力する気はない?鬼を倒したいならみんなと狩ればいいし、その気がなければみんなと固まって休んでいればいいし」
もちろん、山を降りたいなら出口まで一緒にお供する。と今までの人間と同じように付け加える。大人しく逃げ帰るタイプにはまったくみえないが。
この男の言葉はどの想像とも異なっていた。いや、ある意味では予想通りか。
「馬鹿らしい、なんで俺が。他の有象無象と群れるなんざごめんだ。
固まって休んだりして、誰かが自分の命惜しさに裏切ったらどうする。
信用できるのか?俺は他の人間を信用しない」
信用しないとか、伊黒さんみたいな事を言う子だな。そういえば伊黒さんは元気かな?
「一人でいたほうがよほど生き残れる。
どっか行け!消えろ!!」
「……そう。まあ、考えは人それぞれだからね」
これ以上いては構えられた刀で斬りつけられかねない。消えろと言われたし大人しく消えることにした。
だが、再会はすぐだった。
昨日会ったばかりのその人が、こちらに走ってきた。
やはり雷の呼吸使いなのか、なかなか足は速い。今の私の全速力とどっちが速いだろう?
「あ、昨日のひ、とぉぉぉ!?」
手をあげて挨拶……と思ったが、後ろには数体の鬼を引き連れていた。笑みが引き攣る。なんなら治療した足の傷まで恐怖で引き攣りそう。
「おい鬼ども!この女は稀血だ!俺でなくこいつを食え!!」
「は!?」
今この男はなんと言った?
「実はお前、鬼どもが騒いでた稀血の女だろ。協力してやるよ。連れてきた鬼はお前に全てやるから存分に倒すといい」
すれ違いざまの言葉に耳を疑う。
「ええっ!?貴方酷すぎない?そんな協力ってありなの!?私を囮にする気かー!!」
腹が立つので男を追いかける。つまり二人揃って鬼に追いかけられるわけで、どちらも全力疾走が始まった。
速さ勝負はどっこいどっこい、いや私の方がちょっぴり速いかも。
「うるせぇ!稀血なら大人しくどこかで鬼を引きつけとけ!俺はその隙に逃げるっ!」
「はあー?逃げるの!?」
「当たり前だろ!生き残りゃ勝ちだ!鬼を倒す必要はないんだからなあ!」
「向かってきた鬼の一匹や二匹くらい倒しなさいよこの意気地なしっ!鬼殺隊に入るんでしょ!!」
その時、足を引っ掛けられて転んでしまった。私でもそんな卑怯な真似しないぞ!?
鬼が迫る中転ぶとは、死ぬのと同意!急ぎ体勢を立て直し、再び走る。
「貴方最低ねっ殺す気!?誰かの犠牲で生き残ったら嬉しいの!?」
「自分さえよけりゃ他はどーでもいい!死ぬのが嫌ならあちこち逃げ回って生き残るんだな!いい加減ついてくんな!!」
「貴方が私の行く方向にいるだけでしょ!ここ一本道なのわかる!?」
「一本道!山の中に一本道もクソも……」
言い争いをしていたからだろう、二人揃って木の根に足を取られた。そのすぐ下の段差を転がり、ひらけたくぼみに落ち着いた。
「つぅっ……!」
「だ、大丈夫!?」
「いいから俺の上から体をどけろ!見ろ!てめぇのせいで囲まれちまったじゃねえか!」
下敷きにしてしまった彼の上から体を起こすと、下卑た笑みを浮かべた鬼どもが円形に並び、私達を囲んでいた。こうなっては倒さなくては逃げられないだろう。
鬼め、こんなところだけ連携しなくてもいいのに。
「わぁほんとだぁ。打開策は一つのようね」
「ムカつくことにそのようだな」
刀を構える金属音が二つ、金打のように響いた。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火っ!!伍ノ型・炎虎改乱咬み!!」
「雷の呼吸、弐ノ型・稲魂ッ!」
炎が一直線に走り抜け鬼の頸を刎ねる。それでも落ちぬその頸目掛け、炎虎の乱撃を繰り出してしとめる。
反対側では、雷の呼吸による斬撃が鬼を貫いていた。半円を描くような五連撃が美しい。
なんだ、逃げる必要ないくらい強いじゃん。
そうして鬼を倒し逃げてを繰り返し、ボロボロになりながらも私達は朝を迎えた。
「わぁい朝だぁ〜っと、あれ?体が変」
刀をやっと鞘に戻し、歓喜に腕を振り上げる。そのまま体がビキリと固まり、動かなくなった。足も支えていられず後ろに倒れる。
「変なんじゃなくて疲れただけだろ」
「なるほど。うん、疲れた………」
「俺ももう動けねぇ。しばらくは技も放てねえ……。
腹減った。何か持ってないのかよ」
同じように地面に倒れた彼は、どちらかというと度重なる疲労により空腹を感じているようだった。その性格から荷物も最初から少なさそうだし、私より碌に食べてないのは確実だ。
私はほら、千寿郎に大荷物で食べ物を持たされてるし?それこそ米一升分かな?と思うくらいのおむすびとか……。握るの大変だったろうな。ありがとう千寿郎。
「おむすびがあるけど食べる?水分は川で水汲んでこないと無いけど……」
「いい、よこせ」
荷物から二つ取り出して携帯していたおむすびの包み。戦闘で少しだけ形が崩れてはいたが無事だ。相変わらず味噌のいい香り。
差し出せばぶんどるようにして奪われた。私のおむすび……。いいけどさ!
ガツガツと頬張る様子を眺めていると、小さく言葉が返ってきた。
「……美味い」
美味しい食事は心の壁を溶かす。不機嫌そうな目が、少しだけ柔らかくなって見えた。
「弟がたっくさん持たせてくれたの。焼いてあるから日持ちもするし、あまじょっぱい味付けが美味しいの。ベースキャンプに戻ればまだあるよ」
「べーすきゃんぷ……?意味わからねぇ外つ国の言葉使うんじゃねえ」
「あ、ついてる」
「っ!さわんな」
ご飯粒取ろうとしたら、手を弾かれた。
心の壁はまだ厚かったか。
「……あと二日だねぇ」
「もう五日経ったってことだろ。二日なんざあっという間だ」
「だといいけど。ねえ、貴方名前は?」
「教えねえ」
「けち。私は煉獄朝緋」
「聞いてねぇよ!ったく、…………獪岳」
「なんだ、教えてくれるんじゃん」
「ちっ。飯の礼だよ」
やっぱりツンデレ気質だ。
獪岳が服の埃を払い立ち上がる。空腹が少し紛れたことで、動けるほどに回復したよう。
「もう行くの?大丈夫?」
「ああ。囮にして悪かったよ。じゃあな、朝緋」
「一緒に来なくていいんだ?」
「いかねぇっつったろ!」
こちらを一切見ずに手をひらひらと振ってくるその背に声をかけても、ひと蹴りにされた。
「また会おうね、獪岳」
お互い無事にこの試験を終えよう。
二日目にも人間は見つけたけど、その人は生きていなかったからそれはもう嬉しくてたまらなかった。しかし、出会ったどの人もお通夜のような空気を身に纏っていた。
「弟弟子が、俺のせいで鬼に食われてしまった!どうしたらいい!」
「もうだめだ、鬼にやられた傷が痛い。鬼が怖い。あんなのと戦えない」
「鬼殺隊に入ってもやっていける自信ない」
「死にたくないもう嫌だ帰りたいよぉ」
同じ育手の元から来た弟子の内一人が目の前で鬼に食われてしまい震える者、鬼から攻撃を受けて心が挫けてしまっている者など様々な理由で鬼殺隊入隊を諦めるものが続出した。
かわいそうに。この分だと隠としてもやっていけるかどうか。気持ちが落ち込んでしまった者に、今後も鬼と関わらせるのは酷というものだ。
私は鬼に出会わぬよう気をつけながら、その人達を山の出口まで案内した。
隊士になるといって山に残ったのは三人ほどか。私のベースキャンプ付近……ひなたの多い場所で過ごしつつ、夜は協力して鬼の頸を狙いに出ているそうだ。
皆、鬼に家族を殺されて憎む気持ちばかりが先行する者のようだった。協力し合うにはこれ以上ない結束力を見せることだろう。
食事だって、この山には大きな野鳥やうさぎ、鹿がいた。狩るのは鬼を倒すより簡単だ。捌けるかどうかなだけで。
僅かだが食べられるきのこも生えているし、火さえ起こせれば残りの日も無事に過ごせるはず。
「鹿肉……高タンパク低カロリー鉄分豊富……。ジンギスカン、いや、きのこたっぷり紅葉鍋かぁ。美味しそう」
よく動くし怪我で血を失いやすい鬼殺隊士にとって、最高の食材じゃないか!
今度杏寿郎さんも呼んで、一緒に食べよう。
そんな折、第六村人、いや七人目……?なんでもいいや、鬼ではなく生きてる人間をまた発見した。
「ふーん。ここから鬼の姿は見えないね」
木の上に座るその人の隣から、その視点の先を見つめる。どこを見ても深い霧に包まれた山が広がるだけで、鬼の姿は見つけられなかった。
「な、んだてめぇ!吃驚させんじゃねぇ!」
気配もなしに現れたから大層驚かせてしまったようだ。雷の呼吸使いかな?稲妻の走る刀を眼前に突きつけられた。
「驚かせてごめんなさい。もしかして貴方の視点から狩りやすい鬼でも見えるのかと思って」
「隠れてんだよばーか」
機嫌が悪そう、というか元々こういう顔をしているのかもしれないが、纏う雰囲気は今までここで見かけたどの人間とも違っている。
短い黒髪は少し癖っ毛で跳ねており、ふてぶてしい表情はいじっぱりにしか見えずかわいらしく、首の勾玉の飾りが唯一の色のある特徴。よく似合う。
うん。明槻に言わせたらただのツンデレで片付けられそうだ。
「貴方さえ良ければなんだけど、他の人と協力する気はない?鬼を倒したいならみんなと狩ればいいし、その気がなければみんなと固まって休んでいればいいし」
もちろん、山を降りたいなら出口まで一緒にお供する。と今までの人間と同じように付け加える。大人しく逃げ帰るタイプにはまったくみえないが。
この男の言葉はどの想像とも異なっていた。いや、ある意味では予想通りか。
「馬鹿らしい、なんで俺が。他の有象無象と群れるなんざごめんだ。
固まって休んだりして、誰かが自分の命惜しさに裏切ったらどうする。
信用できるのか?俺は他の人間を信用しない」
信用しないとか、伊黒さんみたいな事を言う子だな。そういえば伊黒さんは元気かな?
「一人でいたほうがよほど生き残れる。
どっか行け!消えろ!!」
「……そう。まあ、考えは人それぞれだからね」
これ以上いては構えられた刀で斬りつけられかねない。消えろと言われたし大人しく消えることにした。
だが、再会はすぐだった。
昨日会ったばかりのその人が、こちらに走ってきた。
やはり雷の呼吸使いなのか、なかなか足は速い。今の私の全速力とどっちが速いだろう?
「あ、昨日のひ、とぉぉぉ!?」
手をあげて挨拶……と思ったが、後ろには数体の鬼を引き連れていた。笑みが引き攣る。なんなら治療した足の傷まで恐怖で引き攣りそう。
「おい鬼ども!この女は稀血だ!俺でなくこいつを食え!!」
「は!?」
今この男はなんと言った?
「実はお前、鬼どもが騒いでた稀血の女だろ。協力してやるよ。連れてきた鬼はお前に全てやるから存分に倒すといい」
すれ違いざまの言葉に耳を疑う。
「ええっ!?貴方酷すぎない?そんな協力ってありなの!?私を囮にする気かー!!」
腹が立つので男を追いかける。つまり二人揃って鬼に追いかけられるわけで、どちらも全力疾走が始まった。
速さ勝負はどっこいどっこい、いや私の方がちょっぴり速いかも。
「うるせぇ!稀血なら大人しくどこかで鬼を引きつけとけ!俺はその隙に逃げるっ!」
「はあー?逃げるの!?」
「当たり前だろ!生き残りゃ勝ちだ!鬼を倒す必要はないんだからなあ!」
「向かってきた鬼の一匹や二匹くらい倒しなさいよこの意気地なしっ!鬼殺隊に入るんでしょ!!」
その時、足を引っ掛けられて転んでしまった。私でもそんな卑怯な真似しないぞ!?
鬼が迫る中転ぶとは、死ぬのと同意!急ぎ体勢を立て直し、再び走る。
「貴方最低ねっ殺す気!?誰かの犠牲で生き残ったら嬉しいの!?」
「自分さえよけりゃ他はどーでもいい!死ぬのが嫌ならあちこち逃げ回って生き残るんだな!いい加減ついてくんな!!」
「貴方が私の行く方向にいるだけでしょ!ここ一本道なのわかる!?」
「一本道!山の中に一本道もクソも……」
言い争いをしていたからだろう、二人揃って木の根に足を取られた。そのすぐ下の段差を転がり、ひらけたくぼみに落ち着いた。
「つぅっ……!」
「だ、大丈夫!?」
「いいから俺の上から体をどけろ!見ろ!てめぇのせいで囲まれちまったじゃねえか!」
下敷きにしてしまった彼の上から体を起こすと、下卑た笑みを浮かべた鬼どもが円形に並び、私達を囲んでいた。こうなっては倒さなくては逃げられないだろう。
鬼め、こんなところだけ連携しなくてもいいのに。
「わぁほんとだぁ。打開策は一つのようね」
「ムカつくことにそのようだな」
刀を構える金属音が二つ、金打のように響いた。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火っ!!伍ノ型・炎虎改乱咬み!!」
「雷の呼吸、弐ノ型・稲魂ッ!」
炎が一直線に走り抜け鬼の頸を刎ねる。それでも落ちぬその頸目掛け、炎虎の乱撃を繰り出してしとめる。
反対側では、雷の呼吸による斬撃が鬼を貫いていた。半円を描くような五連撃が美しい。
なんだ、逃げる必要ないくらい強いじゃん。
そうして鬼を倒し逃げてを繰り返し、ボロボロになりながらも私達は朝を迎えた。
「わぁい朝だぁ〜っと、あれ?体が変」
刀をやっと鞘に戻し、歓喜に腕を振り上げる。そのまま体がビキリと固まり、動かなくなった。足も支えていられず後ろに倒れる。
「変なんじゃなくて疲れただけだろ」
「なるほど。うん、疲れた………」
「俺ももう動けねぇ。しばらくは技も放てねえ……。
腹減った。何か持ってないのかよ」
同じように地面に倒れた彼は、どちらかというと度重なる疲労により空腹を感じているようだった。その性格から荷物も最初から少なさそうだし、私より碌に食べてないのは確実だ。
私はほら、千寿郎に大荷物で食べ物を持たされてるし?それこそ米一升分かな?と思うくらいのおむすびとか……。握るの大変だったろうな。ありがとう千寿郎。
「おむすびがあるけど食べる?水分は川で水汲んでこないと無いけど……」
「いい、よこせ」
荷物から二つ取り出して携帯していたおむすびの包み。戦闘で少しだけ形が崩れてはいたが無事だ。相変わらず味噌のいい香り。
差し出せばぶんどるようにして奪われた。私のおむすび……。いいけどさ!
ガツガツと頬張る様子を眺めていると、小さく言葉が返ってきた。
「……美味い」
美味しい食事は心の壁を溶かす。不機嫌そうな目が、少しだけ柔らかくなって見えた。
「弟がたっくさん持たせてくれたの。焼いてあるから日持ちもするし、あまじょっぱい味付けが美味しいの。ベースキャンプに戻ればまだあるよ」
「べーすきゃんぷ……?意味わからねぇ外つ国の言葉使うんじゃねえ」
「あ、ついてる」
「っ!さわんな」
ご飯粒取ろうとしたら、手を弾かれた。
心の壁はまだ厚かったか。
「……あと二日だねぇ」
「もう五日経ったってことだろ。二日なんざあっという間だ」
「だといいけど。ねえ、貴方名前は?」
「教えねえ」
「けち。私は煉獄朝緋」
「聞いてねぇよ!ったく、…………獪岳」
「なんだ、教えてくれるんじゃん」
「ちっ。飯の礼だよ」
やっぱりツンデレ気質だ。
獪岳が服の埃を払い立ち上がる。空腹が少し紛れたことで、動けるほどに回復したよう。
「もう行くの?大丈夫?」
「ああ。囮にして悪かったよ。じゃあな、朝緋」
「一緒に来なくていいんだ?」
「いかねぇっつったろ!」
こちらを一切見ずに手をひらひらと振ってくるその背に声をかけても、ひと蹴りにされた。
「また会おうね、獪岳」
お互い無事にこの試験を終えよう。