五周目 陸
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私の飢餓を煽るような言葉が続き、そして。
ヒトの匂いに陥落しそうに喘ぐ私の目の前、抜き身で地面に刺した日輪刀の刃で、腕を薄く斬りつける杏寿郎さん。
赤く一本線の入ったそこから、血がぼたぼたと滴り落ちる。
え……何してるの杏寿郎さん。なんで自分の腕に傷を……まさか。
ドクン。
その血の色、甘く芳しい匂いを嗅いだ瞬間、心臓が大きく音を立て、激しい眩暈に襲われた。
あ、もう我慢するの限界かも。気力で律するのもここまでか……。
それでも私は鬼にはなりきらない。人間の血肉は食べない。屈したりしない。決して口にするものかと、強靭な精神力で持ち堪える。
「朝緋……舐めろ、啜れ。もう限界だろう」
言われると思っていたから、目を閉じる。口もしっかりと閉じる。鼻も……閉じられたらいいんだけど私カバとかラクダじゃないからなあ。
斬られた足から流れ出る自分の血の匂いにでも集中しておこう。
「舐めなさい!俺の血を口にしろ!!」
うっ、唇に血で濡れた腕を押し付けられた。べちゃ、べっとりとぬめる、美味しそうな血の匂い。ああああ舐めたい吸いたい飲みたい齧りたいでも絶対に駄目。そんなの駄目。足がなくて痛いから余計に血が欲しくてしかたないけど駄目。
口にしたが最後、私はいつか悪鬼に成り下がる。そんなの嫌だ。
「ああもう!舐めろと、血を啜れと言っているのに、唇を固く引き結びおって!!」
絶対に口は開けないんだから!!
傷口を唇に押しつけられたまま、体を何度も何度も揺さぶられる。
見猿聞か猿言わ猿!私は貴方の言うことを聞く耳すら持ちません!!
しばらくして諦めたか、離れていく腕に安堵するも。
カプリ、ちゅく、……
「ッッ!」
耳たぶを食まれ、耳の中を舌先でなぞりあげられた。
杏寿郎さん好みに作り変えられた私の体は、それだけで快感を拾う。スイッチが入ってしまい、下腹部のあたりがじんじんと疼き出す。
欲しい。血や肉以上に、この人が欲しい。
声が出せたのなら、私はすぐにでも発情した猫みたいな声で啼いていたろう。
甘く艶やかな杏寿郎さんの吐息が耳から頬、首へと降りてきて、首筋に舌を這わす。ぬちり。舐め上げたそこに印をつけるが如く、ぢゅうぢゅうと強く吸い付き、そして噛み付く。
いくら鬼だとしても痕はついているだろう。
ピリリと頭の上から背筋へ一直線走り抜ける快感。ないはずの足にまで、快感が走る。
もう駄目だ、唇がわななく。でも今口を開けたら唇にべっとりとついた杏寿郎さんの血が口の中に入ってくる。
すでに啜りたくて舐めたくて、唾液でいっぱいの口の中が、それを求めている。
決して口を開けてはならない。
「頑なだな」
「………………」
しつこい上に頑ななのはどっちだ。涙目状態の目を開け、杏寿郎さんを睨みつける。
ずっと睨め付けていれば、杏寿郎さんがため息を吐きだしながら、指の腹で私の唇についた血を拭い、そして代わりにと口付けを施してくださった。
さっき性急にキスマークをつけてきた時とは違う、温かくて優しい口づけ。
ほんのちょっぴり杏寿郎さんの血の匂いはするけれど、それが気にならないほど、気持ちよくて優しくて。
杏寿郎さんの服の端をぎゅうと掴んでもっと、もっとと催促してしまう。
薄く開いた口から、舌先が侵入してきた。
ちゅる、ぴちゃ。
温かくて分厚い杏寿郎さんの舌が、私の口内を前から奥まで順繰りに這っていく。まるで私の全てを知るように、確かめるように。
私の舌先を捕まえて、自分の口の中へ誘導して、睦み合うように唾液を絡ませる。
ずっとずっと、求めていた温かさ。ずっとずっとこうしたかった。
私からも積極的に動いて絡んで、杏寿郎さんの舌を捕まえれば、私の鋭くなった牙が当たってしまった。
忘れていた鬼の牙……杏寿郎さんを傷つけてしまう!
慌てて舌を引っ込めて謝罪の意味で眉根を下げるけど、杏寿郎さんは軽やかに笑って私の頬を撫でた。
「……大丈夫だ、痛くないし傷ついてもいない。そんなことまで気にする朝緋は鬼じゃない、人と変わらん。俺が愛する優しい朝緋のままだ」
もう一度唇を重ね、強く優しく抱きしめられた。隙間ない抱擁で聞こえる杏寿郎さんの落ち着く鼓動。
今私は、快感と幸福の狭間にいる。
「こうしてまた朝緋をこの腕に抱きしめる事ができる……愛しい君と唇を重ねられる……。なんと幸福なことだろうか」
ん、それは私も同じ。杏寿郎さん、好き……大好き。
でもこの幸せは一時的なもの。一時のゆめまぼろし。大切な思い出にして胸に仕舞い込んで、そして早く貴方から離れなくちゃいけない。
だって私は醜い鬼だから。
……まあ、足が生えなくちゃ離れるにも逃げるにもどうしようもないけど。
うーん、いつ生えるんだろう。猗窩座は一瞬で生えていたけど、あれは上弦だからで。それと私とを比べちゃいけない。
しばしの幸せを噛み締めながら、足の様子を伺い待つ。杏寿郎さんが私を抱きしめる影でごそごそと腕を動かしていた。何してるんだろう。
「あとは君が俺の元から離れられないようにしておかんとな」
「……っ!?」
それどういう意味?と疑問を訴える暇はなく。抱きしめるのをやめ、再び唇を重ねられる。
今度は少し性急で強引な口づけ。
口を舌先でこじ開けられ、侵入され。
温かい舌と一緒に、流れ込んでくるぬるりとした液体。
「〜〜っ!?…………っ!……!!」
ただの口吸いじゃない!血だ、血だ!?
杏寿郎さんの血液が口の中いっぱいに流し込まれた!!
その舌ごと吐き出そうとするも、口で蓋をされ後頭部と腰は固定され動けない!逃げ場がない!!
息がうまくできずに鼻呼吸に切り替えるも、気道とともに喉も少しは開くわけで。
ごく、ごく、ごくん。
とろりと甘い血を、全て飲み込んでしまった。飲みたくなくて、でも飲みたくて、我慢していたそれを飲んでしまった。
これが……人の血の味。杏寿郎さんの血の味……。
なんて甘くてとろりと滑らかで美味しいの。鼻に抜ける香りのなんと芳しいことか。
「ふ、やっと飲んだか。
全く……朝緋は強情で困る。もう我慢は効かなくなったようだなあ?一心不乱に求めおって」
ちゅるちゅる、ぴちゃ。
もっともっとと求め、もはや杏寿郎さんの口からだけでは満足できず、腕を取って傷口から血を啜る私。一度口にしてしまったせいで、我慢が効かない。
がっついてごめんなさい。私の意思じゃないの。止まらないの。
「俺の飼い猫はほんに愛いな、よしよし」
杏寿郎さんが頭を撫でながら、斬り落とした私の足を、切断面に近づけていた。
血に夢中だった私は気が付かなかったけれど、肉体組織同士が惹かれ合い、腕を伸ばすように結合していったようだ。
これも血の摂取のおかげか。
ヒトの匂いに陥落しそうに喘ぐ私の目の前、抜き身で地面に刺した日輪刀の刃で、腕を薄く斬りつける杏寿郎さん。
赤く一本線の入ったそこから、血がぼたぼたと滴り落ちる。
え……何してるの杏寿郎さん。なんで自分の腕に傷を……まさか。
ドクン。
その血の色、甘く芳しい匂いを嗅いだ瞬間、心臓が大きく音を立て、激しい眩暈に襲われた。
あ、もう我慢するの限界かも。気力で律するのもここまでか……。
それでも私は鬼にはなりきらない。人間の血肉は食べない。屈したりしない。決して口にするものかと、強靭な精神力で持ち堪える。
「朝緋……舐めろ、啜れ。もう限界だろう」
言われると思っていたから、目を閉じる。口もしっかりと閉じる。鼻も……閉じられたらいいんだけど私カバとかラクダじゃないからなあ。
斬られた足から流れ出る自分の血の匂いにでも集中しておこう。
「舐めなさい!俺の血を口にしろ!!」
うっ、唇に血で濡れた腕を押し付けられた。べちゃ、べっとりとぬめる、美味しそうな血の匂い。ああああ舐めたい吸いたい飲みたい齧りたいでも絶対に駄目。そんなの駄目。足がなくて痛いから余計に血が欲しくてしかたないけど駄目。
口にしたが最後、私はいつか悪鬼に成り下がる。そんなの嫌だ。
「ああもう!舐めろと、血を啜れと言っているのに、唇を固く引き結びおって!!」
絶対に口は開けないんだから!!
傷口を唇に押しつけられたまま、体を何度も何度も揺さぶられる。
見猿聞か猿言わ猿!私は貴方の言うことを聞く耳すら持ちません!!
しばらくして諦めたか、離れていく腕に安堵するも。
カプリ、ちゅく、……
「ッッ!」
耳たぶを食まれ、耳の中を舌先でなぞりあげられた。
杏寿郎さん好みに作り変えられた私の体は、それだけで快感を拾う。スイッチが入ってしまい、下腹部のあたりがじんじんと疼き出す。
欲しい。血や肉以上に、この人が欲しい。
声が出せたのなら、私はすぐにでも発情した猫みたいな声で啼いていたろう。
甘く艶やかな杏寿郎さんの吐息が耳から頬、首へと降りてきて、首筋に舌を這わす。ぬちり。舐め上げたそこに印をつけるが如く、ぢゅうぢゅうと強く吸い付き、そして噛み付く。
いくら鬼だとしても痕はついているだろう。
ピリリと頭の上から背筋へ一直線走り抜ける快感。ないはずの足にまで、快感が走る。
もう駄目だ、唇がわななく。でも今口を開けたら唇にべっとりとついた杏寿郎さんの血が口の中に入ってくる。
すでに啜りたくて舐めたくて、唾液でいっぱいの口の中が、それを求めている。
決して口を開けてはならない。
「頑なだな」
「………………」
しつこい上に頑ななのはどっちだ。涙目状態の目を開け、杏寿郎さんを睨みつける。
ずっと睨め付けていれば、杏寿郎さんがため息を吐きだしながら、指の腹で私の唇についた血を拭い、そして代わりにと口付けを施してくださった。
さっき性急にキスマークをつけてきた時とは違う、温かくて優しい口づけ。
ほんのちょっぴり杏寿郎さんの血の匂いはするけれど、それが気にならないほど、気持ちよくて優しくて。
杏寿郎さんの服の端をぎゅうと掴んでもっと、もっとと催促してしまう。
薄く開いた口から、舌先が侵入してきた。
ちゅる、ぴちゃ。
温かくて分厚い杏寿郎さんの舌が、私の口内を前から奥まで順繰りに這っていく。まるで私の全てを知るように、確かめるように。
私の舌先を捕まえて、自分の口の中へ誘導して、睦み合うように唾液を絡ませる。
ずっとずっと、求めていた温かさ。ずっとずっとこうしたかった。
私からも積極的に動いて絡んで、杏寿郎さんの舌を捕まえれば、私の鋭くなった牙が当たってしまった。
忘れていた鬼の牙……杏寿郎さんを傷つけてしまう!
慌てて舌を引っ込めて謝罪の意味で眉根を下げるけど、杏寿郎さんは軽やかに笑って私の頬を撫でた。
「……大丈夫だ、痛くないし傷ついてもいない。そんなことまで気にする朝緋は鬼じゃない、人と変わらん。俺が愛する優しい朝緋のままだ」
もう一度唇を重ね、強く優しく抱きしめられた。隙間ない抱擁で聞こえる杏寿郎さんの落ち着く鼓動。
今私は、快感と幸福の狭間にいる。
「こうしてまた朝緋をこの腕に抱きしめる事ができる……愛しい君と唇を重ねられる……。なんと幸福なことだろうか」
ん、それは私も同じ。杏寿郎さん、好き……大好き。
でもこの幸せは一時的なもの。一時のゆめまぼろし。大切な思い出にして胸に仕舞い込んで、そして早く貴方から離れなくちゃいけない。
だって私は醜い鬼だから。
……まあ、足が生えなくちゃ離れるにも逃げるにもどうしようもないけど。
うーん、いつ生えるんだろう。猗窩座は一瞬で生えていたけど、あれは上弦だからで。それと私とを比べちゃいけない。
しばしの幸せを噛み締めながら、足の様子を伺い待つ。杏寿郎さんが私を抱きしめる影でごそごそと腕を動かしていた。何してるんだろう。
「あとは君が俺の元から離れられないようにしておかんとな」
「……っ!?」
それどういう意味?と疑問を訴える暇はなく。抱きしめるのをやめ、再び唇を重ねられる。
今度は少し性急で強引な口づけ。
口を舌先でこじ開けられ、侵入され。
温かい舌と一緒に、流れ込んでくるぬるりとした液体。
「〜〜っ!?…………っ!……!!」
ただの口吸いじゃない!血だ、血だ!?
杏寿郎さんの血液が口の中いっぱいに流し込まれた!!
その舌ごと吐き出そうとするも、口で蓋をされ後頭部と腰は固定され動けない!逃げ場がない!!
息がうまくできずに鼻呼吸に切り替えるも、気道とともに喉も少しは開くわけで。
ごく、ごく、ごくん。
とろりと甘い血を、全て飲み込んでしまった。飲みたくなくて、でも飲みたくて、我慢していたそれを飲んでしまった。
これが……人の血の味。杏寿郎さんの血の味……。
なんて甘くてとろりと滑らかで美味しいの。鼻に抜ける香りのなんと芳しいことか。
「ふ、やっと飲んだか。
全く……朝緋は強情で困る。もう我慢は効かなくなったようだなあ?一心不乱に求めおって」
ちゅるちゅる、ぴちゃ。
もっともっとと求め、もはや杏寿郎さんの口からだけでは満足できず、腕を取って傷口から血を啜る私。一度口にしてしまったせいで、我慢が効かない。
がっついてごめんなさい。私の意思じゃないの。止まらないの。
「俺の飼い猫はほんに愛いな、よしよし」
杏寿郎さんが頭を撫でながら、斬り落とした私の足を、切断面に近づけていた。
血に夢中だった私は気が付かなかったけれど、肉体組織同士が惹かれ合い、腕を伸ばすように結合していったようだ。
これも血の摂取のおかげか。