五周目 陸
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鬼の出現は年中無休。そんな鬼を討伐する鬼殺隊は猫の手も……ううん、鬼の手も借りたい状況。
夜しか動けないとはいえ、強いし傷は治り、柱よりも隊士よりも使い勝手のいい駒である鬼の私は、たくさんの任務に駆り出された。
炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天
鬼の力のせいで威力の増した赤と青の炎が夜空に映える。パチパチと爆ぜて薄くなる頃には、鬼の体は刎ねた頸ごと消え失せていた。
未だ刃毀れ一つ見せない私の炎を鞘に収める。
「──朝緋」
ギクリ。
背後から聞こえた言葉と同時、反射的に正面の林の木に隠れる。
気配がなかった。殺気も息遣いすら皆無で。
「朝緋、行くな」
聞き間違えるはずがない。その声の持ち主は杏寿郎さんだった。心臓がどっどっどっとうるさく小刻みに動いている。
「朝緋。此方を向け……嫌ならば、その木の影から出なくていい。暗がりからでいい」
木の影からそっと顔を出すと、そこにはホッとした様子の杏寿郎さん。
杏寿郎の姿、久しぶりに見たなあ……。月明かりに照らされた黄金色の髪が綺麗だ。
「青い炎が目撃されていると聞いてきてみれば、やはり朝緋だったのだな」
──目撃されている?どこかで噂になってしまっているのかしら。私の技は一般の炎の呼吸より目立つ色合いをしてるからなあ。でも、結構こっそり行動してるのに。
「ああいい、そんな訝しげな顔をするな
冨岡がな、青い炎は見ていない。鬼となった継子は見ていない。と、聞いてもいないことをしきりに言うのでな。逆に怪しいと思って調べたら君に辿り着いた」
「!?」
あンの水柱〜〜!ただ黙っていれば済むのにー余計なこと杏寿郎さんに教えちゃって〜!!
普段無口で言葉足りないことが多いのに、なんでこういう時ばかり一言も二言も余計なの!
「朝緋は怒っているようだが俺は冨岡に感謝している。どんな姿であれ、朝緋とこうして会えたのだから。
鬼としてでも、生きていてくれて嬉しいよ」
かつて私も鬼と化した貴方に思った言葉だ。私達、思うことはいつも同じ。お揃いのことが多くて、さよならしなきゃって思ってたのに、反故にしたくなる。また会えたことも嬉しくてたまらない。
「でも、鬼となって生きていることはわかっていた。
先日に炎柱邸へ来て刀と指輪、それに簪も持っていったろう。物盗りにしてはおかしいと思った。その際、少し取り乱して炎柱邸を半壊させてしまったが、まあそれは致し方なし」
やっぱりあれでバレるよねえ。杏寿郎さんのことだし、朝のルーティンで私の代わりともいうべき刀や指輪を眺めるだろうし。簪にも気付くとは思わなかっ……えっ、炎柱邸が半壊?
「心配するな、もう直した」
あ、ならいいや。屋根にでも穴が空いて雨漏り……だなんて絶対嫌だ。まあ私はもう行かないけど。
杏寿郎さんの様子がおかしい。ふるふると体を震わせて、まるで何かをじっと耐えているかのよう。
「…………ああ、駄目だ!君が存在するとわかって、俺は欲深くなってしまった!
見るだけなんて満足できない……。朝緋、頼むからこちらに来てくれ」
ここから出なくていいと言ったのは杏寿郎さんじゃない。その言葉を前に、服をきゅっとつまむ。
私だって本当はそっちに行きたいし、飛びつきたい。でもこの姿じゃ駄目。だから離れている。
幼子に言い聞かせるかのように、その場でしゃがみ、手招きしてくる。
「こちらにおいで。柱である前に俺は君の夫だ。怖がらなくていい、頸を斬りはしない。
だって朝緋は人を食べていないだろう。理性もあるだろう。正気だろう。君は頸を落とすべき鬼ではないとわかっている。
だからおいで、こちらへおいで」
私が怖がっているのは頸を落とされることじゃない。
あんなに大好きだった杏寿郎さんの目。なのに今の杏寿郎さんの目は怖かった。
暗い暗い、仄暗い炎を目に宿して見える。
ごめん、杏寿郎さん。どちらにせよ貴方の元に行くわけにいかない。
猗窩座と同じ方法になってしまうけれど、林の中へと逃げていく私。
……だったけど。
「────っ!!」
気がついたら林の中、地面に転がっていた。視線が、低い。
それに何、この足の痛み……、
「なぜ逃げようとした。おいでと言ったはずだ」
杏寿郎さんの足が見えて。
視線を上げると、そこには無表情の杏寿郎さんが立っていた。
その手にあるのは、杏寿郎さんの日輪刀。そして私の両足。
……足!?
下半身を見れば、そこにあるはずの足がなかった。夥しい量の出血。鬼となってなお変質しない、稀血の匂い。
確認してしまえば、強烈な痛みが襲ってくる。
痛い!痛い!痛い!!鬼だから我慢できるだなんて誰が言った?痛いじゃん!!痛みの度合い変わらないよ!!
血鬼術は自分に発動してくれないし!
「君が逃げようとするから斬ってしまったよ」
刀を地面に刺し、手にした私の足を大切なものでも扱うようにするりと撫でている。繋がっていないはずのそこが快感でぞわりと粟立った。
「ああ俺の朝緋だ。もう絶対に離しはしない」
私の足を愛おしそうにそばに置くと、今度は転がって動けない私を抱きしめてくる。
私、貴方と一緒にいられないのに。見られたくないのに。やだ、離してよ。血が足りなくなって来てる。離れてよ。このままじゃ私、せっかく我慢できているのに血も欲しくなる。
腕の中じたばたともがいてみるも、逆に隙間なく抱きしめられて息もできないほど拘束されてしまった。
「こらこら暴れるな。足がないのだぞ、そう逃げようとするな。──それとも手も斬り落とされたいのか」
そばにある日輪刀が光る。杏寿郎さんのこれは脅しなんかじゃない。仄暗い目が本気だと語っていた。
大人しくしないと、手まで斬り落とされる。
「鬼になってからそういったものを何も口にしていないようだからな。我慢はできているようだが実際は血が欲しかろう、人間の肉が欲しかろう。
その怪我を癒すにも人間を食べたかろうなあ」
鬼になってから初めて負った、大量出血を伴う深く大きな怪我だ。
感じたことのない飢えが襲って来て、目の前の人を噛みたいと、食べたいと口からよだれがこぼれる。少しでも口を開けば喉から漏れる唸り声。
「声が出ないのは力が足りなすぎるせいか?人を食わないせいか?かわいそうに、声も出せぬほど弱っているのだろうなあ」
声は元々出ない……だなんて伝える余裕もない。気が狂いそうな飢餓の中、手のひらに爪を食い込ませて必死に耐える。
全身にふき出す汗でより一層喉が渇いた。目の前の人を、獲物を、餌を噛みたい。食らいつきたい。
こんなに辛いならいっそのこと一思いに殺して欲しい。貴方を傷つけてしまう前に、死んでしまいたい。
夜しか動けないとはいえ、強いし傷は治り、柱よりも隊士よりも使い勝手のいい駒である鬼の私は、たくさんの任務に駆り出された。
炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天
鬼の力のせいで威力の増した赤と青の炎が夜空に映える。パチパチと爆ぜて薄くなる頃には、鬼の体は刎ねた頸ごと消え失せていた。
未だ刃毀れ一つ見せない私の炎を鞘に収める。
「──朝緋」
ギクリ。
背後から聞こえた言葉と同時、反射的に正面の林の木に隠れる。
気配がなかった。殺気も息遣いすら皆無で。
「朝緋、行くな」
聞き間違えるはずがない。その声の持ち主は杏寿郎さんだった。心臓がどっどっどっとうるさく小刻みに動いている。
「朝緋。此方を向け……嫌ならば、その木の影から出なくていい。暗がりからでいい」
木の影からそっと顔を出すと、そこにはホッとした様子の杏寿郎さん。
杏寿郎の姿、久しぶりに見たなあ……。月明かりに照らされた黄金色の髪が綺麗だ。
「青い炎が目撃されていると聞いてきてみれば、やはり朝緋だったのだな」
──目撃されている?どこかで噂になってしまっているのかしら。私の技は一般の炎の呼吸より目立つ色合いをしてるからなあ。でも、結構こっそり行動してるのに。
「ああいい、そんな訝しげな顔をするな
冨岡がな、青い炎は見ていない。鬼となった継子は見ていない。と、聞いてもいないことをしきりに言うのでな。逆に怪しいと思って調べたら君に辿り着いた」
「!?」
あンの水柱〜〜!ただ黙っていれば済むのにー余計なこと杏寿郎さんに教えちゃって〜!!
普段無口で言葉足りないことが多いのに、なんでこういう時ばかり一言も二言も余計なの!
「朝緋は怒っているようだが俺は冨岡に感謝している。どんな姿であれ、朝緋とこうして会えたのだから。
鬼としてでも、生きていてくれて嬉しいよ」
かつて私も鬼と化した貴方に思った言葉だ。私達、思うことはいつも同じ。お揃いのことが多くて、さよならしなきゃって思ってたのに、反故にしたくなる。また会えたことも嬉しくてたまらない。
「でも、鬼となって生きていることはわかっていた。
先日に炎柱邸へ来て刀と指輪、それに簪も持っていったろう。物盗りにしてはおかしいと思った。その際、少し取り乱して炎柱邸を半壊させてしまったが、まあそれは致し方なし」
やっぱりあれでバレるよねえ。杏寿郎さんのことだし、朝のルーティンで私の代わりともいうべき刀や指輪を眺めるだろうし。簪にも気付くとは思わなかっ……えっ、炎柱邸が半壊?
「心配するな、もう直した」
あ、ならいいや。屋根にでも穴が空いて雨漏り……だなんて絶対嫌だ。まあ私はもう行かないけど。
杏寿郎さんの様子がおかしい。ふるふると体を震わせて、まるで何かをじっと耐えているかのよう。
「…………ああ、駄目だ!君が存在するとわかって、俺は欲深くなってしまった!
見るだけなんて満足できない……。朝緋、頼むからこちらに来てくれ」
ここから出なくていいと言ったのは杏寿郎さんじゃない。その言葉を前に、服をきゅっとつまむ。
私だって本当はそっちに行きたいし、飛びつきたい。でもこの姿じゃ駄目。だから離れている。
幼子に言い聞かせるかのように、その場でしゃがみ、手招きしてくる。
「こちらにおいで。柱である前に俺は君の夫だ。怖がらなくていい、頸を斬りはしない。
だって朝緋は人を食べていないだろう。理性もあるだろう。正気だろう。君は頸を落とすべき鬼ではないとわかっている。
だからおいで、こちらへおいで」
私が怖がっているのは頸を落とされることじゃない。
あんなに大好きだった杏寿郎さんの目。なのに今の杏寿郎さんの目は怖かった。
暗い暗い、仄暗い炎を目に宿して見える。
ごめん、杏寿郎さん。どちらにせよ貴方の元に行くわけにいかない。
猗窩座と同じ方法になってしまうけれど、林の中へと逃げていく私。
……だったけど。
「────っ!!」
気がついたら林の中、地面に転がっていた。視線が、低い。
それに何、この足の痛み……、
「なぜ逃げようとした。おいでと言ったはずだ」
杏寿郎さんの足が見えて。
視線を上げると、そこには無表情の杏寿郎さんが立っていた。
その手にあるのは、杏寿郎さんの日輪刀。そして私の両足。
……足!?
下半身を見れば、そこにあるはずの足がなかった。夥しい量の出血。鬼となってなお変質しない、稀血の匂い。
確認してしまえば、強烈な痛みが襲ってくる。
痛い!痛い!痛い!!鬼だから我慢できるだなんて誰が言った?痛いじゃん!!痛みの度合い変わらないよ!!
血鬼術は自分に発動してくれないし!
「君が逃げようとするから斬ってしまったよ」
刀を地面に刺し、手にした私の足を大切なものでも扱うようにするりと撫でている。繋がっていないはずのそこが快感でぞわりと粟立った。
「ああ俺の朝緋だ。もう絶対に離しはしない」
私の足を愛おしそうにそばに置くと、今度は転がって動けない私を抱きしめてくる。
私、貴方と一緒にいられないのに。見られたくないのに。やだ、離してよ。血が足りなくなって来てる。離れてよ。このままじゃ私、せっかく我慢できているのに血も欲しくなる。
腕の中じたばたともがいてみるも、逆に隙間なく抱きしめられて息もできないほど拘束されてしまった。
「こらこら暴れるな。足がないのだぞ、そう逃げようとするな。──それとも手も斬り落とされたいのか」
そばにある日輪刀が光る。杏寿郎さんのこれは脅しなんかじゃない。仄暗い目が本気だと語っていた。
大人しくしないと、手まで斬り落とされる。
「鬼になってからそういったものを何も口にしていないようだからな。我慢はできているようだが実際は血が欲しかろう、人間の肉が欲しかろう。
その怪我を癒すにも人間を食べたかろうなあ」
鬼になってから初めて負った、大量出血を伴う深く大きな怪我だ。
感じたことのない飢えが襲って来て、目の前の人を噛みたいと、食べたいと口からよだれがこぼれる。少しでも口を開けば喉から漏れる唸り声。
「声が出ないのは力が足りなすぎるせいか?人を食わないせいか?かわいそうに、声も出せぬほど弱っているのだろうなあ」
声は元々出ない……だなんて伝える余裕もない。気が狂いそうな飢餓の中、手のひらに爪を食い込ませて必死に耐える。
全身にふき出す汗でより一層喉が渇いた。目の前の人を、獲物を、餌を噛みたい。食らいつきたい。
こんなに辛いならいっそのこと一思いに殺して欲しい。貴方を傷つけてしまう前に、死んでしまいたい。