五周目 陸
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日輪刀、か。
爪と牙程度では、巷に出没する鬼に対抗はできない。というか、鬼は日輪刀で頸を落とさないことには討伐は不可能だ。
それこそ、猗窩座の言うとおり終わりがない戦いにしかならない。
太陽に当てるのは、鬼である私も共倒れになってしまって無意味。命と引き換えに、なんて無駄な真似はしたくない。
…………取りに行くしかないかあ。
正直、気は乗らない。
任務に出かけていて不在でありますように。
そう思いながら、炎柱邸へと夜半過ぎに忍び込めば。
「!?」
どきーん!心臓が飛び出るところだった。声が出ない状態で良かったと思う。
庭に面する杏寿郎さんの部屋の障子戸が開いていた。そこから見えるのは、布団に横になる愛しい人の姿だった
開けっぱなしで寝るなんて無防備すぎないか杏寿郎さん!襲われちゃうよ!?私みたいな杏寿郎さん大好きな人に!
っていうか柱は忙しいはずでしょ!なんでいるのさ!非番なの!?
いや違う。非番じゃないな、これ。
柱が一人あまり使い物にならない状態。任務に行かないのでしばらく謹慎にしている。だからこそ鬼の手でも借りたい状況らしい、と炭治郎が教えてくれたのを思い出した。
状況的に、そんなの一人しか思いつかないではないか。
私という番をなくした、杏寿郎さんだ。
普段は心を燃やして前へ前へと突き進む杏寿郎さんだけど、『以前』私を喪った時の落ち込みようはそれはもう酷かったそうだ。今もまた、それに近い状態なのだろうと思う。
でも、私は貴方の前に出たくない。今も、これから先も。
早く元の貴方に戻りますように。私がいなくても、心を熱く燃やす炎柱に戻りますように。
まぁ、眠っているようなので真相はわからないけれどね。
いけない、今は日輪刀だ。
まさか杏寿郎さんの部屋にあったりはしないだろうな……。そう思いながら、ぴょこりと顔を出してお部屋を覗く。
うん、杏寿郎さんのお部屋ではなさそう!良かったー!抱えて寝られたりしてた日には、私は諦めるほかなかった。
杏寿郎さんは魘されてお眠りになっていた。汗をかいて眉間に皺を寄せていらっしゃる。こんな近くに私が、いや、鬼がいるのに起きないとは……相当深く悪夢に堕ちていらっしゃるのか。魘夢はもういないよ悪夢よ去れ。
……どんな悪夢を見てるんだろう。起こしたい、ふきだす汗を拭ってあげたい。でも今の私には出来ない。
涙ぐみそうになるのをグッと堪えて抜き足差し足忍び足、隣の自分の部屋に入る。
刀掛けに置かれた私の日輪刀二振りを見つけ、そっと持ち出す。ああ、久しぶりのこの腰の重み!しっくりくる!たまらなく愛おしい私の炎達よ、おかえりそしてただいま!!
あとでめ一杯撫でてあげるからねちゅっちゅ。
「………………」
早くここを出ないと、そう思ったけどその前に。
文机の上。上等な布の上に大切そうに置かれた、杏寿郎さんからの贈り物が目に入る。
細い鎖に通された指輪。杏寿郎さんの手が唯一掴めた、私の一部。
よかった、歪んでないし壊れてない。いただいた時と変わらない、赤いルビーの杏寿郎さんと同じ瞳の輝き。
これがあれば私は大丈夫。杏寿郎さんと離れていても頑張れる。
首に通してその愛おしい重みを味わう。
ああそうだ。杏寿郎さんからいただいたもう一つも持っていこう。文机の引き出しをそうっと開けて、そこに入っている簪を取り出す。
私の最終選別が無事終わった時に杏寿郎さんが贈ってくれた簪。杏寿郎さんの色をした蜻蛉玉が美しい、私の大切な宝物。
私ったらどれだけ杏寿郎さんのおめめが好きなんだかなぁ……ちょっと呆れちゃうわね。
手に取り髪にさすと。
シャラリ、小さく音が鳴った。
しまった!この簪、垂れている飾りのせいで微かだけど音が鳴るんだった!
「誰かいるのか」
起きないと思われた杏寿郎さんが、ちょっぴりの物音で起きた!!
やばい、やばいったらやばい!ウワァァァどうしよう!?
庭から要がこっちだと、目で訴えていた。
あわてて、音を出さないようにしながら飛び出す。……あずまと共に縁側の下に押し込まれた。
「カァー!」
「なんだ、要か……」
私は小石私は小石私は小石。
「カァー!起コシテシマイ申シ訳アリマセン杏寿郎サマ!!」
「いや、いい。ちょうど喉が渇いていたからな」
縁側の廊下。床の上から杏寿郎さんの声が聞こえる。
久しぶりにお聞きするその声は、とても愛おしく、だけれどもとても心配になるくらい覇気がなくて掠れて聞こえた。
なんて痛ましい……涙が視界を遮る。
いなくなったのを見計らい、涙を拭いながらあずまと共に縁側から這い出す。
要にはあずまから事前に話をつけてもらっておいて良かったな。おかげで協力してもらえた。
忍び込んで盗むような真似をしてごめんなさい。
顔を見られて良かった。声が聞けて良かった。
さよなら、杏寿郎さん……私の愛しい人。
ずっとずっと、大好きです。
今までも、これからもずっと。
爪と牙程度では、巷に出没する鬼に対抗はできない。というか、鬼は日輪刀で頸を落とさないことには討伐は不可能だ。
それこそ、猗窩座の言うとおり終わりがない戦いにしかならない。
太陽に当てるのは、鬼である私も共倒れになってしまって無意味。命と引き換えに、なんて無駄な真似はしたくない。
…………取りに行くしかないかあ。
正直、気は乗らない。
任務に出かけていて不在でありますように。
そう思いながら、炎柱邸へと夜半過ぎに忍び込めば。
「!?」
どきーん!心臓が飛び出るところだった。声が出ない状態で良かったと思う。
庭に面する杏寿郎さんの部屋の障子戸が開いていた。そこから見えるのは、布団に横になる愛しい人の姿だった
開けっぱなしで寝るなんて無防備すぎないか杏寿郎さん!襲われちゃうよ!?私みたいな杏寿郎さん大好きな人に!
っていうか柱は忙しいはずでしょ!なんでいるのさ!非番なの!?
いや違う。非番じゃないな、これ。
柱が一人あまり使い物にならない状態。任務に行かないのでしばらく謹慎にしている。だからこそ鬼の手でも借りたい状況らしい、と炭治郎が教えてくれたのを思い出した。
状況的に、そんなの一人しか思いつかないではないか。
私という番をなくした、杏寿郎さんだ。
普段は心を燃やして前へ前へと突き進む杏寿郎さんだけど、『以前』私を喪った時の落ち込みようはそれはもう酷かったそうだ。今もまた、それに近い状態なのだろうと思う。
でも、私は貴方の前に出たくない。今も、これから先も。
早く元の貴方に戻りますように。私がいなくても、心を熱く燃やす炎柱に戻りますように。
まぁ、眠っているようなので真相はわからないけれどね。
いけない、今は日輪刀だ。
まさか杏寿郎さんの部屋にあったりはしないだろうな……。そう思いながら、ぴょこりと顔を出してお部屋を覗く。
うん、杏寿郎さんのお部屋ではなさそう!良かったー!抱えて寝られたりしてた日には、私は諦めるほかなかった。
杏寿郎さんは魘されてお眠りになっていた。汗をかいて眉間に皺を寄せていらっしゃる。こんな近くに私が、いや、鬼がいるのに起きないとは……相当深く悪夢に堕ちていらっしゃるのか。魘夢はもういないよ悪夢よ去れ。
……どんな悪夢を見てるんだろう。起こしたい、ふきだす汗を拭ってあげたい。でも今の私には出来ない。
涙ぐみそうになるのをグッと堪えて抜き足差し足忍び足、隣の自分の部屋に入る。
刀掛けに置かれた私の日輪刀二振りを見つけ、そっと持ち出す。ああ、久しぶりのこの腰の重み!しっくりくる!たまらなく愛おしい私の炎達よ、おかえりそしてただいま!!
あとでめ一杯撫でてあげるからねちゅっちゅ。
「………………」
早くここを出ないと、そう思ったけどその前に。
文机の上。上等な布の上に大切そうに置かれた、杏寿郎さんからの贈り物が目に入る。
細い鎖に通された指輪。杏寿郎さんの手が唯一掴めた、私の一部。
よかった、歪んでないし壊れてない。いただいた時と変わらない、赤いルビーの杏寿郎さんと同じ瞳の輝き。
これがあれば私は大丈夫。杏寿郎さんと離れていても頑張れる。
首に通してその愛おしい重みを味わう。
ああそうだ。杏寿郎さんからいただいたもう一つも持っていこう。文机の引き出しをそうっと開けて、そこに入っている簪を取り出す。
私の最終選別が無事終わった時に杏寿郎さんが贈ってくれた簪。杏寿郎さんの色をした蜻蛉玉が美しい、私の大切な宝物。
私ったらどれだけ杏寿郎さんのおめめが好きなんだかなぁ……ちょっと呆れちゃうわね。
手に取り髪にさすと。
シャラリ、小さく音が鳴った。
しまった!この簪、垂れている飾りのせいで微かだけど音が鳴るんだった!
「誰かいるのか」
起きないと思われた杏寿郎さんが、ちょっぴりの物音で起きた!!
やばい、やばいったらやばい!ウワァァァどうしよう!?
庭から要がこっちだと、目で訴えていた。
あわてて、音を出さないようにしながら飛び出す。……あずまと共に縁側の下に押し込まれた。
「カァー!」
「なんだ、要か……」
私は小石私は小石私は小石。
「カァー!起コシテシマイ申シ訳アリマセン杏寿郎サマ!!」
「いや、いい。ちょうど喉が渇いていたからな」
縁側の廊下。床の上から杏寿郎さんの声が聞こえる。
久しぶりにお聞きするその声は、とても愛おしく、だけれどもとても心配になるくらい覇気がなくて掠れて聞こえた。
なんて痛ましい……涙が視界を遮る。
いなくなったのを見計らい、涙を拭いながらあずまと共に縁側から這い出す。
要にはあずまから事前に話をつけてもらっておいて良かったな。おかげで協力してもらえた。
忍び込んで盗むような真似をしてごめんなさい。
顔を見られて良かった。声が聞けて良かった。
さよなら、杏寿郎さん……私の愛しい人。
ずっとずっと、大好きです。
今までも、これからもずっと。