五周目 陸
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を開けるとそこには杏寿郎さんでなく、猗窩座のドアップが待ち構えていた。
「────っ!?」
「目が覚めるのが早い、だがまだ二割も鬼になっていない」
私を杏寿郎さんの元に帰してよ!
そう言いたいのに、声が出なかった。
喉が痛いとかじゃなくて、声がでない!!なんで!?こちとら魔女に声帯を奪われた人魚じゃないんですけど!?
起き上がってみればとてつもない痛みが全身を襲う。けれど、痛みよりも気分の悪さと怠さが先行している。
杏寿郎さんはいっそのこと殺してくれ、と思うくらい長い間痛みと格闘してたっていうけど、個人差ありまくりだね。だって、動けないほどじゃないもの。
「おい、痛みはどうだ」
「〜〜〜っ」
「……変貌痛で言葉も出ないか」
いや、痛み関係なく声が出ないんですが?猗窩座にぶつけたい罵詈雑言の数々もあったのに……ああ、腹立つ。
怠くて動くの億劫だし最悪な気分だ。
「お前、なかなか鬼に変貌しないな。この分だと柱が鬼になる時よりも時間がかかるのではないか?こっちは女が嫌いだというに、鬼にしてから連れてくるよう言われているのだ。早く完全な鬼になれよ」
そう言って奥に引っ込む猗窩座。
えっと、ここはどこで私は誰?
私は煉獄朝緋、炎柱の継子。元、になってしまうかもしれないけれど。
で、ここはどこかの洞窟、かな?洞窟の岩肌でなく一部しかなさそうな柔らかい草の上に横たえられていたようだ。膝にどこかで拝借したのか、敷布がかかっていた。
女が嫌いだという割に、面倒見てくれるんじゃん。起きた時も、私の顔の汗を手拭いで拭っていてくれたみたいだし。
なんなのこいつ。女を食べたことがないというのも、あながち嘘ではないのかも。
でも、相手に絆されることはない。私は猗窩座を、鬼舞辻無惨を、悪鬼を決して許さない。
私の中から殺意が目覚めた瞬間、鬼化が進んだ。二割と言っていたけど、今はどのくらい進んだのだろう。……そんなことどうでもいいか。
進んだ鬼化によって得られた私の新しい攻撃手段、爪を岩肌で鋭く研いでおく。うわ、黒板を引っ掻いた耳障りな音出しちゃった自分に大ダメージ!
声は出ないので心で雄叫びを上げながら、そのまま跳躍し猗窩座へと肉薄する。
「ふん、羅針を使わずともわかったぞ。これがお前の殺気と闘気だということがな。だがその程度の鬼化能力で俺に勝とうとは三百年は早い!」
確かに私の爪は猗窩座の腕に一つも傷をつけることができなかった。まだ生えたばかりで弱すぎたか……でも三百年は多すぎる。
腹立たしげに、次いで殴りかかり、蹴り飛ばす。
ああ、動いてると怠かったのが嘘のように気分がいい。吐き気も痛みも軽減される。あんなに億劫だったのになあ。
気がまぎれるからかなぁ。
日輪刀があったらもっとよかったのに。
鬼化は進まなくとも鬼は鬼。
私の調子がいいからか、猗窩座も気分が乗って、攻撃を仕掛けてくる。……めっちゃ痛い。
「鬼ならば女も子供も関係なくやりあえていいな!やはり杏寿郎も共に鬼にしておけばよかった!!さすれば、お前達二人の連携攻撃とやりあえたのになァ!!」
杏寿郎さんを鬼に!?それだけはさせない。
足癖の悪い朝緋ちゃん必殺、回し蹴りを繰り出すも、逆に強烈な蹴りをもらって吹っ飛ばされた。
岩肌に体が食い込んで痛い……。
「だが知らんのか。鬼同士の争いには終わりがない。貴様も鬼だがまだ半分以上が人間だ。
痛い思いをするだけ損だぞ」
不毛な争いだなんてこと、こちとらよく知ってるってーの。それでも、腹の立つこの鬼を滅したくて攻撃するのだ。
それが予期せず鬼となってしまった私にできる唯一の償いだ。
けれど、息が切れてしまった。炎の呼吸は──使えてる。この息切れは、鬼化がゆるゆる進んでいる影響だろう。軽減されるとは言ったけど、結局のところ怠さも痛みもこれ以上ないほど激しいことに変わりはないのだ。
疲弊する私を見て、にんまりと猗窩座が笑う。
「完全な鬼になってからまた挑んで来い」
猗窩座にとっては運動にもならないらしい。んー!やっぱり腹が立つ!!
が、地団駄踏む私の様子をにまにま見ていた奴の様子がガラリと変わった。目を細め、私を獲物か何かのように見据えている。
「あの方の命令だ。鬼化が完了していなくともいいから、お前をすぐに連れてこいとのことだ」
「!?」
えっやだ。まだ時間があると踏んだから、余裕で猗窩座を殺しにかかっていたのに。
鬼舞辻無惨のところなんかに行ったら何されるかわかったものじゃない。死ぬより恐ろしい目に遭う。私の今までの情報も取られてしまうかもしれない。どこでどう繋がるかはわからないけれど、鬼殺隊の敗北に繋がってしまう可能性が出てくる。
杏寿郎さんを、大切な人達を守れない。
咄嗟に逃げようとした私を捕まえて引きずる猗窩座。殴っても引っ掻いても蹴り付けても噛みついても、びくともしない。逆に締め付ける腕に力が入り、意識を落とされそうだった。
ジタバタもがくと、胸の内ポケットからカサリと音がした。
そうだ、藤のお守りがまだ懐に……!
『今回』の無限列車では、藤のお守りを少し多めに持ってきていたのだった。
鬼化している今、これを破ったら私はどうなるのだろう。少し怖いけど、他に逃れる方法はない。
密閉された袋を破り、お守りの中身を撒き散らした。
薄紫の花弁が、粉が、大量に撒き散らされる。その芳しく甘い芳香と共に。
「ぎゃあああ!!ふ、藤だと!?貴様……!貴様とて鬼だというに一体何を考えて……、うぐっ、苦し……、」
私のことを離し、その場に這いつくばる猗窩座。私はというと。
おえ、何これちょっと気持ち悪い。鬼化のせいであんなに好きだった藤の香りが嫌いになるなんて。
半分も鬼化していない状態な為か、この程度で済んだ。
なんにせよ今のうちに逃げなくては……!洞窟を抜け、外へと飛び出す。
「待て、外は昼間だっ!」
え?──昼、間?鬼が嫌う、昼間?
ジュッ
「っ!?──!」
うわぁ焼け死ぬ溶け死ぬ!……いや、大して痛くない。熱した鍋に一瞬触れてしまったレベルの火傷だ!
なるほど、これもまだそこまで鬼になっていないからか!!
この程度なら我慢できる。どうせ治るし!
つまり猗窩座から、鬼舞辻無惨から逃げられる!!
だって、完全なる鬼の猗窩座は太陽の下を歩けないもの。
洞窟の入り口から睨む猗窩座に、こちらもにんまりと笑みを返す。さっき笑ったお返しだ。
「っ!お前はじきに昼間に動けなくなる!!夜には鬼狩りや他の鬼に怯える日々だ!!俺が捕まえる時までせいぜい震えて過ごすことだ!!」
はいはい吠えるがいいさ。私は鬼殺隊士にも他の鬼にも震えて過ごしたりはしないし、決して捕まりもしないから。
貴方こそ私を連れ帰らなかった罰で、鬼舞辻無惨にこっぴどく叱られるといい。
「────っ!?」
「目が覚めるのが早い、だがまだ二割も鬼になっていない」
私を杏寿郎さんの元に帰してよ!
そう言いたいのに、声が出なかった。
喉が痛いとかじゃなくて、声がでない!!なんで!?こちとら魔女に声帯を奪われた人魚じゃないんですけど!?
起き上がってみればとてつもない痛みが全身を襲う。けれど、痛みよりも気分の悪さと怠さが先行している。
杏寿郎さんはいっそのこと殺してくれ、と思うくらい長い間痛みと格闘してたっていうけど、個人差ありまくりだね。だって、動けないほどじゃないもの。
「おい、痛みはどうだ」
「〜〜〜っ」
「……変貌痛で言葉も出ないか」
いや、痛み関係なく声が出ないんですが?猗窩座にぶつけたい罵詈雑言の数々もあったのに……ああ、腹立つ。
怠くて動くの億劫だし最悪な気分だ。
「お前、なかなか鬼に変貌しないな。この分だと柱が鬼になる時よりも時間がかかるのではないか?こっちは女が嫌いだというに、鬼にしてから連れてくるよう言われているのだ。早く完全な鬼になれよ」
そう言って奥に引っ込む猗窩座。
えっと、ここはどこで私は誰?
私は煉獄朝緋、炎柱の継子。元、になってしまうかもしれないけれど。
で、ここはどこかの洞窟、かな?洞窟の岩肌でなく一部しかなさそうな柔らかい草の上に横たえられていたようだ。膝にどこかで拝借したのか、敷布がかかっていた。
女が嫌いだという割に、面倒見てくれるんじゃん。起きた時も、私の顔の汗を手拭いで拭っていてくれたみたいだし。
なんなのこいつ。女を食べたことがないというのも、あながち嘘ではないのかも。
でも、相手に絆されることはない。私は猗窩座を、鬼舞辻無惨を、悪鬼を決して許さない。
私の中から殺意が目覚めた瞬間、鬼化が進んだ。二割と言っていたけど、今はどのくらい進んだのだろう。……そんなことどうでもいいか。
進んだ鬼化によって得られた私の新しい攻撃手段、爪を岩肌で鋭く研いでおく。うわ、黒板を引っ掻いた耳障りな音出しちゃった自分に大ダメージ!
声は出ないので心で雄叫びを上げながら、そのまま跳躍し猗窩座へと肉薄する。
「ふん、羅針を使わずともわかったぞ。これがお前の殺気と闘気だということがな。だがその程度の鬼化能力で俺に勝とうとは三百年は早い!」
確かに私の爪は猗窩座の腕に一つも傷をつけることができなかった。まだ生えたばかりで弱すぎたか……でも三百年は多すぎる。
腹立たしげに、次いで殴りかかり、蹴り飛ばす。
ああ、動いてると怠かったのが嘘のように気分がいい。吐き気も痛みも軽減される。あんなに億劫だったのになあ。
気がまぎれるからかなぁ。
日輪刀があったらもっとよかったのに。
鬼化は進まなくとも鬼は鬼。
私の調子がいいからか、猗窩座も気分が乗って、攻撃を仕掛けてくる。……めっちゃ痛い。
「鬼ならば女も子供も関係なくやりあえていいな!やはり杏寿郎も共に鬼にしておけばよかった!!さすれば、お前達二人の連携攻撃とやりあえたのになァ!!」
杏寿郎さんを鬼に!?それだけはさせない。
足癖の悪い朝緋ちゃん必殺、回し蹴りを繰り出すも、逆に強烈な蹴りをもらって吹っ飛ばされた。
岩肌に体が食い込んで痛い……。
「だが知らんのか。鬼同士の争いには終わりがない。貴様も鬼だがまだ半分以上が人間だ。
痛い思いをするだけ損だぞ」
不毛な争いだなんてこと、こちとらよく知ってるってーの。それでも、腹の立つこの鬼を滅したくて攻撃するのだ。
それが予期せず鬼となってしまった私にできる唯一の償いだ。
けれど、息が切れてしまった。炎の呼吸は──使えてる。この息切れは、鬼化がゆるゆる進んでいる影響だろう。軽減されるとは言ったけど、結局のところ怠さも痛みもこれ以上ないほど激しいことに変わりはないのだ。
疲弊する私を見て、にんまりと猗窩座が笑う。
「完全な鬼になってからまた挑んで来い」
猗窩座にとっては運動にもならないらしい。んー!やっぱり腹が立つ!!
が、地団駄踏む私の様子をにまにま見ていた奴の様子がガラリと変わった。目を細め、私を獲物か何かのように見据えている。
「あの方の命令だ。鬼化が完了していなくともいいから、お前をすぐに連れてこいとのことだ」
「!?」
えっやだ。まだ時間があると踏んだから、余裕で猗窩座を殺しにかかっていたのに。
鬼舞辻無惨のところなんかに行ったら何されるかわかったものじゃない。死ぬより恐ろしい目に遭う。私の今までの情報も取られてしまうかもしれない。どこでどう繋がるかはわからないけれど、鬼殺隊の敗北に繋がってしまう可能性が出てくる。
杏寿郎さんを、大切な人達を守れない。
咄嗟に逃げようとした私を捕まえて引きずる猗窩座。殴っても引っ掻いても蹴り付けても噛みついても、びくともしない。逆に締め付ける腕に力が入り、意識を落とされそうだった。
ジタバタもがくと、胸の内ポケットからカサリと音がした。
そうだ、藤のお守りがまだ懐に……!
『今回』の無限列車では、藤のお守りを少し多めに持ってきていたのだった。
鬼化している今、これを破ったら私はどうなるのだろう。少し怖いけど、他に逃れる方法はない。
密閉された袋を破り、お守りの中身を撒き散らした。
薄紫の花弁が、粉が、大量に撒き散らされる。その芳しく甘い芳香と共に。
「ぎゃあああ!!ふ、藤だと!?貴様……!貴様とて鬼だというに一体何を考えて……、うぐっ、苦し……、」
私のことを離し、その場に這いつくばる猗窩座。私はというと。
おえ、何これちょっと気持ち悪い。鬼化のせいであんなに好きだった藤の香りが嫌いになるなんて。
半分も鬼化していない状態な為か、この程度で済んだ。
なんにせよ今のうちに逃げなくては……!洞窟を抜け、外へと飛び出す。
「待て、外は昼間だっ!」
え?──昼、間?鬼が嫌う、昼間?
ジュッ
「っ!?──!」
うわぁ焼け死ぬ溶け死ぬ!……いや、大して痛くない。熱した鍋に一瞬触れてしまったレベルの火傷だ!
なるほど、これもまだそこまで鬼になっていないからか!!
この程度なら我慢できる。どうせ治るし!
つまり猗窩座から、鬼舞辻無惨から逃げられる!!
だって、完全なる鬼の猗窩座は太陽の下を歩けないもの。
洞窟の入り口から睨む猗窩座に、こちらもにんまりと笑みを返す。さっき笑ったお返しだ。
「っ!お前はじきに昼間に動けなくなる!!夜には鬼狩りや他の鬼に怯える日々だ!!俺が捕まえる時までせいぜい震えて過ごすことだ!!」
はいはい吠えるがいいさ。私は鬼殺隊士にも他の鬼にも震えて過ごしたりはしないし、決して捕まりもしないから。
貴方こそ私を連れ帰らなかった罰で、鬼舞辻無惨にこっぴどく叱られるといい。