五周目 陸
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パンッ!!
何かが弾けるような音。
「────!?」
え、何?何が起きた?気がついたら、杏寿郎さんの腕の中で目を白黒させていた。
「稀血くさい……。咄嗟のことで、つい本気になってしまったではないか」
猗窩座の拳が血で赤い。誰の血?稀血、つまり私の血?
自分の体で違和感のある場所を見てみれば、左肩が抉れて血に濡れていた。
それまでは何事かと思うだけだったそれも、認識してしまうと途端に強烈な痛みに襲われる。患部が熱い!!
「いっ……!!」
「朝緋!回復の呼吸をしろ!!」
「してるよ!してるから大丈夫!!こんなの痛くな……」
「嘘を言うな痛いだろう!いい加減休め!」
「でも私も戦いたい!あいつだけは、あいつだけは『今回』こそ……!!」
「君の気持ちはよくわかるがあとは俺がやる!」
そう言って炭治郎達に私を預けて行ってしまった杏寿郎さん。
ああ、痛いし情けないしで、恥ずかしくて泣きたくなる。
「女という生き物はなんと弱い、かわいそうに。だが鬼になればそんな痛みともおさらばだ。女が鬼になるのは決まっているのだから、杏寿郎、お前もいい加減鬼になると決めたらどうだ」
「俺は鬼にならない!朝緋も鬼にしない!!──炎の呼吸、参ノ型 気炎万象!!」
私ですら入る隙のなさそうな、速い動きで繰り広げられる攻防の応酬。
炭治郎も伊之助も、私の肩に布で治療を施しながら、その攻防の激しさをただただ見守る。助太刀に入ったところで足手纏いにしかならないと、震える手は悔しさを滲ませていた。
わかる、わかるよ。でも、そこで立ち止まっちゃ私は駄目なんだ。
自身に当たらぬよう動き回り刀を振るうも、ビッ!!音速の拳が杏寿郎さんの額をかすったのが見えた。赤い血が額を濡らす。
次いで拳が脇腹に入り、肋骨が折れる音が聞こえた。
杏寿郎さんの太陽のような目はまだ潰れていない。だけれどもその赤と音は私の怒りを、涙を呼び覚ますには十分すぎた。
肩の痛みがひいていく。いや、ひいてはいない。忘れてしまうほど、血が沸き立ち、怒りに燃えていた。怒りで目の前も真っ赤に染まる。
「朝緋さん、また動く気ですかっ!」
「傷が開くぞ!?」
私の様子に気がついた炭治郎達が止めようとするも、私は止まらない。瞬時に動き、刀を抜いて戦いの最中に飛び込む。
「お前!猗窩座!!よくもよくもよくも!!杏寿郎さんをっ!師範を傷つけたなぁ!!」
「なっ、稀血女!貴様まだ動くのか!?」
「うぁぁぁっ!それ以上させない!!」
傷が開いて痛いけれど、おかげで杏寿郎さんの目を潰さんと迫る腕を横から斬り落とすことができた。
だけれど腕くらいはすぐに再生してしまうせいで、攻撃の応酬は止まらない。私が加勢しようと猛攻は続く。
「くっ、朝緋は本当に命令を聞かん子だな!?」
「ありがとうございますっ!」
「褒めていない!だが満身創痍の体で動くとはまるで不死鳥のようで尊敬するっ!!」
不死鳥……。死の瞬間に自ら燃え上がり、その灰から再び蘇る神鳥。
自らの血に濡れようと、腕がもげようと、何度だって立ち上がるであろう諦めの悪い私。その様が不死鳥と似ているなど畏れ多いけれど、杏寿郎さんに言われたからかな?不思議と力が湧いた。
「君の変わらぬ思いはわかった!!共にいくぞ!!」
「はいっ!」
壱ノ型から肆ノ型まで。順繰りに繰り出して猗窩座に対抗していく。
杏寿郎さんが伍ノ型の呼吸に入ったのがわかり、その炎虎に合わせ、私も同じく炎虎を繰り出す。
「「炎の呼吸、伍ノ型 炎虎!!」」
「破壊殺 乱式!!」
猗窩座が対抗して、似た部類の技を放ってくる。
攻撃力の高い炎虎を二人同時でならきっと……ううん、それだけでは足りない。
「追加の炎虎・乱咬み!」
あくまで私でなく、杏寿郎さんを狙おうとする猗窩座に少しでも多く傷痕を残したい。敵の力を削りたい。
その一心で複数回斬りつける炎虎乱咬みと、高火力の本家炎虎を交互に放った。
「やったか!勝ったのか!!」
伊之助が叫ぶ。
残念ながら結果はほとんど変わらず、猗窩座に軍配が上がった。ただ、『今回』はこれで杏寿郎さんが血を流すことはなく済んだ。それだけで私としては良しとしたい。
少しずつ朝も近くなってきた。
……あと少し、もう少し持ち堪えれば、この鬼を撃退できる。
倒せずとももういい。誰も死なず、誰も鬼にもならずに済めばそれで……。
息を切らし私も杏寿郎さんも疲弊はしている。
疲労困憊。その言葉が似合う私達だけど、だからこそ今ここでまだ倒れるわけにいかない。
猗窩座をひたすら睨みつけながら、支え合って立つ。
「鬼と人間。必死に戦ったとしても全て無駄だ。
お前達からの素晴らしい斬撃の数々、それももう既に完治してしまった。だが人間のお前達はどうだ?満身創痍ではないか。鬼であれば瞬きする間に治る。
どう足掻いても人間では鬼には勝てない」
いいや、いつかは勝つ。勝ってみせる。
諦めが悪く、常に成長を続けるのが人間という生き物だ。
お前の頸にもこの刃は届くよ、絶対に。
「すぅ、はぁ……ふぅぅぅぅ…………」
「!?杏寿郎さん、その呼吸法は……!」
杏寿郎さんが奥義を使う時の呼吸をしだした。
奥義 玖ノ型 煉獄。
私達の名前がついた、命や魂をも相手にぶつける必殺の斬撃。
けれどそれは、隙が大きく相手からの攻撃も受けやすいという欠点のある大技。
「いい。止めるな、朝緋。今が使い時だ」
「それは諸刃の剣です。多大な負担がかかるしそれに……」
貴方がまた死んでしまうかもしれない。だから使って欲しくないのが私の本音だ。
「これ以外の方法が思いつかない!俺の妻なら覚悟を決めろ、朝緋!」
「まだ妻じゃないって言って……ううん、そうですね。覚悟を決めます、私の愛しい旦那様……」
「うん。ありがとう、朝緋」
ぎゅうと手を握り合い、そして名残惜しいそれをゆっくりと放す。
「俺は、俺の責務を全うする!
ここにいる者は誰も死なせない!鬼にもしない!!大切な者を守り抜いて見せる!!」
なんて勇ましくて凛々しくてかっこいいお言葉。
それでもなぜだか涙はこぼれる。感情がぐちゃぐちゃだ。妻と呼ばれて嬉しい気持ち、また同じ結末がやってきたらどうしようという恐怖の気持ち、猗窩座への怒り、様々な感情が渦を巻いて私に纏わりつく。
「炎の呼吸、奥義!!」
何かが弾けるような音。
「────!?」
え、何?何が起きた?気がついたら、杏寿郎さんの腕の中で目を白黒させていた。
「稀血くさい……。咄嗟のことで、つい本気になってしまったではないか」
猗窩座の拳が血で赤い。誰の血?稀血、つまり私の血?
自分の体で違和感のある場所を見てみれば、左肩が抉れて血に濡れていた。
それまでは何事かと思うだけだったそれも、認識してしまうと途端に強烈な痛みに襲われる。患部が熱い!!
「いっ……!!」
「朝緋!回復の呼吸をしろ!!」
「してるよ!してるから大丈夫!!こんなの痛くな……」
「嘘を言うな痛いだろう!いい加減休め!」
「でも私も戦いたい!あいつだけは、あいつだけは『今回』こそ……!!」
「君の気持ちはよくわかるがあとは俺がやる!」
そう言って炭治郎達に私を預けて行ってしまった杏寿郎さん。
ああ、痛いし情けないしで、恥ずかしくて泣きたくなる。
「女という生き物はなんと弱い、かわいそうに。だが鬼になればそんな痛みともおさらばだ。女が鬼になるのは決まっているのだから、杏寿郎、お前もいい加減鬼になると決めたらどうだ」
「俺は鬼にならない!朝緋も鬼にしない!!──炎の呼吸、参ノ型 気炎万象!!」
私ですら入る隙のなさそうな、速い動きで繰り広げられる攻防の応酬。
炭治郎も伊之助も、私の肩に布で治療を施しながら、その攻防の激しさをただただ見守る。助太刀に入ったところで足手纏いにしかならないと、震える手は悔しさを滲ませていた。
わかる、わかるよ。でも、そこで立ち止まっちゃ私は駄目なんだ。
自身に当たらぬよう動き回り刀を振るうも、ビッ!!音速の拳が杏寿郎さんの額をかすったのが見えた。赤い血が額を濡らす。
次いで拳が脇腹に入り、肋骨が折れる音が聞こえた。
杏寿郎さんの太陽のような目はまだ潰れていない。だけれどもその赤と音は私の怒りを、涙を呼び覚ますには十分すぎた。
肩の痛みがひいていく。いや、ひいてはいない。忘れてしまうほど、血が沸き立ち、怒りに燃えていた。怒りで目の前も真っ赤に染まる。
「朝緋さん、また動く気ですかっ!」
「傷が開くぞ!?」
私の様子に気がついた炭治郎達が止めようとするも、私は止まらない。瞬時に動き、刀を抜いて戦いの最中に飛び込む。
「お前!猗窩座!!よくもよくもよくも!!杏寿郎さんをっ!師範を傷つけたなぁ!!」
「なっ、稀血女!貴様まだ動くのか!?」
「うぁぁぁっ!それ以上させない!!」
傷が開いて痛いけれど、おかげで杏寿郎さんの目を潰さんと迫る腕を横から斬り落とすことができた。
だけれど腕くらいはすぐに再生してしまうせいで、攻撃の応酬は止まらない。私が加勢しようと猛攻は続く。
「くっ、朝緋は本当に命令を聞かん子だな!?」
「ありがとうございますっ!」
「褒めていない!だが満身創痍の体で動くとはまるで不死鳥のようで尊敬するっ!!」
不死鳥……。死の瞬間に自ら燃え上がり、その灰から再び蘇る神鳥。
自らの血に濡れようと、腕がもげようと、何度だって立ち上がるであろう諦めの悪い私。その様が不死鳥と似ているなど畏れ多いけれど、杏寿郎さんに言われたからかな?不思議と力が湧いた。
「君の変わらぬ思いはわかった!!共にいくぞ!!」
「はいっ!」
壱ノ型から肆ノ型まで。順繰りに繰り出して猗窩座に対抗していく。
杏寿郎さんが伍ノ型の呼吸に入ったのがわかり、その炎虎に合わせ、私も同じく炎虎を繰り出す。
「「炎の呼吸、伍ノ型 炎虎!!」」
「破壊殺 乱式!!」
猗窩座が対抗して、似た部類の技を放ってくる。
攻撃力の高い炎虎を二人同時でならきっと……ううん、それだけでは足りない。
「追加の炎虎・乱咬み!」
あくまで私でなく、杏寿郎さんを狙おうとする猗窩座に少しでも多く傷痕を残したい。敵の力を削りたい。
その一心で複数回斬りつける炎虎乱咬みと、高火力の本家炎虎を交互に放った。
「やったか!勝ったのか!!」
伊之助が叫ぶ。
残念ながら結果はほとんど変わらず、猗窩座に軍配が上がった。ただ、『今回』はこれで杏寿郎さんが血を流すことはなく済んだ。それだけで私としては良しとしたい。
少しずつ朝も近くなってきた。
……あと少し、もう少し持ち堪えれば、この鬼を撃退できる。
倒せずとももういい。誰も死なず、誰も鬼にもならずに済めばそれで……。
息を切らし私も杏寿郎さんも疲弊はしている。
疲労困憊。その言葉が似合う私達だけど、だからこそ今ここでまだ倒れるわけにいかない。
猗窩座をひたすら睨みつけながら、支え合って立つ。
「鬼と人間。必死に戦ったとしても全て無駄だ。
お前達からの素晴らしい斬撃の数々、それももう既に完治してしまった。だが人間のお前達はどうだ?満身創痍ではないか。鬼であれば瞬きする間に治る。
どう足掻いても人間では鬼には勝てない」
いいや、いつかは勝つ。勝ってみせる。
諦めが悪く、常に成長を続けるのが人間という生き物だ。
お前の頸にもこの刃は届くよ、絶対に。
「すぅ、はぁ……ふぅぅぅぅ…………」
「!?杏寿郎さん、その呼吸法は……!」
杏寿郎さんが奥義を使う時の呼吸をしだした。
奥義 玖ノ型 煉獄。
私達の名前がついた、命や魂をも相手にぶつける必殺の斬撃。
けれどそれは、隙が大きく相手からの攻撃も受けやすいという欠点のある大技。
「いい。止めるな、朝緋。今が使い時だ」
「それは諸刃の剣です。多大な負担がかかるしそれに……」
貴方がまた死んでしまうかもしれない。だから使って欲しくないのが私の本音だ。
「これ以外の方法が思いつかない!俺の妻なら覚悟を決めろ、朝緋!」
「まだ妻じゃないって言って……ううん、そうですね。覚悟を決めます、私の愛しい旦那様……」
「うん。ありがとう、朝緋」
ぎゅうと手を握り合い、そして名残惜しいそれをゆっくりと放す。
「俺は、俺の責務を全うする!
ここにいる者は誰も死なせない!鬼にもしない!!大切な者を守り抜いて見せる!!」
なんて勇ましくて凛々しくてかっこいいお言葉。
それでもなぜだか涙はこぼれる。感情がぐちゃぐちゃだ。妻と呼ばれて嬉しい気持ち、また同じ結末がやってきたらどうしようという恐怖の気持ち、猗窩座への怒り、様々な感情が渦を巻いて私に纏わりつく。
「炎の呼吸、奥義!!」