二周目 参
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戦闘の痕跡があれば近くに獲物である人間がいる可能性がある、本能でそう考える鬼は多い。
即座に離れて良かった。倒した鬼の軌跡を辿り、別の鬼が来ていたよう。
この選別では無理に鬼を倒す必要はない。
無駄に斬っていては、そのうち刀が折れてしまう。この刀は私個人の日輪刀ではないのだから。
「入り組んでるなあ」
崖や高い段差を乗り越えて、藪や草むらの隙間を掻き分け先へと進む。岩でできたトンネルや倒れた木がそのまま橋となった場所もあり、鬼がいなくともサバイバルゲームをしている感覚だ。……令和の時代にそんなゲームをした経験は皆無だが。
川も滝もあり、水場は確保できた。万が一怪我をしても血の匂いを流せるし、水浴びもできる。
この近くを拠点にしておこうと決め、おむすびなどが入った荷を隠しておく。
揺れる草むらからはいつ鬼が出てくるかわからずとても恐ろしいが、隠れることはせず他の参加者を探そうと思った。
中腹より奥へと進めば霧が深い。それでも鬼は夜目は利くし霧なんてなんのそので襲ってくる。
「こちらにもハンデの一つや二つ欲しいところね」
紫外線ライトとか欲しい。むしろ無限列車の任務中に欲しかったな。
「ぎゃあああ!」
その時、他の参加者の悲鳴が聞こえた。
この先かなり奥からだ!助けたいけれど、間に合わない可能性が高い。遠い!
私が今出せる一番の速さで向かいその場を覗くが、やはりというべきかなんというか。腕は欠損し、夥しい血があたりに飛び散っている。
参加者であろう男性はすでに死んでいた。
「遅かった……」
私がもっと速かったなら。かつての速さで到着できたなら、違っていたかもしれない。……ごめんなさい。
けどこの人を殺した鬼はどこに?
不思議に思ったその時、ガサリと目の前の茂みが揺れた。
「うひひぃ……女だ。女の肉だ……!」
「なっ!?」
飛び出してきたのは参加者の人間ではなく、もちろん鬼だった。まるでチキンでも食べ歩きするかのように、殺された人の腕をかじりながらの登場。
ただ、私を視認した瞬間に、その腕を打ち捨てていた。
うん知ってる!鬼達は肉質柔らかな子供や女の肉が好きだものね!?でも嬉しくないからお残しは許しません。
硬い鱗のようなものに覆われた鬼の巨大な拳が、私に向かってくる。拳による風圧が、顔にかかった。
まずい、完全には避けられないッ!
咄嗟に頭を庇うように後ろに跳んだが、少し遅く。頭の代わりに足に傷を負ってしまった!
「うぁっつ!痛たぁ……!」
なるほど、鱗のようなものは見た目通り鰐や鮫の皮膚のように硬いのか。かすっただけで大根おろしのように擦られ、裂傷のような傷ができた。
鬼の拳が触れた袴はぱっくりと裂け、傷ついた肌からは血がだらだらと流れる。
もう一発の拳が迫る。
ああ、なんと不甲斐ない。たかが低級の鬼に、してやられた。穴があったら入りたい!
「なんだこの血の匂い!胸がドキドキするなッ!」
突然鬼が胸を押さえ、赤い顔で私の方を見た。襲い来る勢いは殺さずに。
もう一度拳が私に当たるかと思いきやだ。
むぎゅ。
「え」
胸を鷲掴みにされ、わしわしと揉まれた!えっ、えっ!?
揉んだ本人は、はあはあしている!
「ひっ、いやあああっ!痴漢!!この人いや鬼!痴漢っ!!
炎の呼吸弐ノ型昇り炎天ッッ!!」
すぱぁん!と、揉んでくる手を思い切り斬り落とす。頸を斬ればよかったのだが、あまりのショックでその事が頭から消えていた。
そしてその場から逃走する。
そうだった!稀血以前に、私の血には鬼を催淫状態にする効果があるんだった!
大事な事なのに、忘れていた!!
後ろを確認すれば。
「ぎゃぁぁぁあ!くねくねしながら追いかけてこないで!気持ち悪い!!」
体をくねらせながら、鬼が追ってきていた。
「待ってくれぇ……乳揉ませてくれぇ……!ついでに稀血食わせろぉおお!!」
「揉むか食うかどっちよ!?あとおっきい声出すなー!!」
自分で言っていて悔しいが、私はそこまでそれが大きいわけではない。ささやかとも言わないが、大正時代としてはまあ普通の大きさだろう。しいていうなら、蟲柱とどっこいどっこいか。
といいつつ鬼殺の最中に揺れるのは苦しいので、サラシは巻いていた。
しかし、今の私のそれは小さい。まだ成長していない。なのに。なのに……。
普通揉むかー!?
鬼はみんなロリコンなのだろうか!つまり、その大元の鬼舞辻無惨もロリコ……やめよう、想像したくない。
そこからは地獄の始まり。
鬼が騒ぎ立てたことと私が走り回って稀血の匂いを撒き散らしてしまったことで、他の鬼や参加者にすらも今期の最終選別に『稀血持ちがいる』と伝わったようで。
どんどんと鬼が押し寄せて追ってきた。まるで、ゴキブリホイホイにでもなった気分だ!
みな低級の鬼ゆえ鬼同士が結託することはなかったのが不幸中の幸いか。
誰が私を食べるか穢すか揉むかさげすんでもらうかを争って同族殺しを始めていた。
食べるも穢すも嫌だけど揉むとかさげすんでもらうってなんだ。
私をめぐって争わないで、なんてくっだらない言葉で現実逃避したくなるほどだった。
でも、逃げる事はできなかった。
「壱ノ型不知火っ!」
せっかくすぐそこに屯していただいているので、これはチャンスかとまとめて頸を落とそうとした。
けれど力は足りず、鬼の頸はひとつも落とせなかった。横着してまとめてやろうとなんてしちゃダメね。
斬りつけられた痛みに我に返った鬼どもが、こちらを一斉に振り向く。
「稀血稀血稀血!」「美味い肉食わせろぉぉぉ!」「揉む揉む揉む……」
「突っ込ませてほしい!穢したいっ!」
「さけすんでくれ踏んでくれぇぇぇ!お願いしますううう!!」
奴らは揃いも揃って一様に、牙を剥き出して追いかけてきた。気持ち悪いことを叫びながらだ。
余計なことしちゃった…!何もせずそっと逃げればよかった。
「ひいいい!あああ早く朝になってー!助けてっ杏寿郎さぁん!!」
太陽の光は届きにくい山だけど、それでも昼間は明るい場所もないわけではない。ただ、すごーく範囲が狭そうだったので、勝手に明るい場所を広くさせていただいた。
ええ、ええ、そうですよ。ベースキャンプを作るのに、日の当たる場所も作りたくって木を何本も伐採しましたよ!自然破壊させていただきました!THE!更地!!
だって、木を切ってはならないとは言われてませんから。
場を自身の有利なように変えて鬼殺の任にあたることは、そう珍しいことじゃない。
朝の日差しから逃げる鬼のゆくてを阻むべく、森を焼くこともある。
今回は最終選別の場でそれを実行しただけだ!だからそこに行けば、少しは鬼の襲撃を凌げる。休めるのだ。
だけども。
「しつっ…こい!知ってたけどしつこい!!」
足の速い鬼も中にいたのだろう。引き離せなかった鬼もいた。
私の速度は最盛期より遅かった。
夜明けまでは四刻半あるかないか。山向こうが薄く明るい。ついてくる鬼は二匹。落とせるか?頸を落とせるか??
力の強さ的にまだまだ不知火で足りないというなら。
不知火を応用し作った、私独自の型がある。この肉体に戻ってからは一度も練習ひとつしたことはなかったが、不思議なことに失敗はしないと確信していた。
空気を胸いっぱいに取り込み吐き出せば、独特の呼吸音が聞こえた。
『刀は己の体の一部。全身で振るえ』
杏寿郎さんに言われた事が、頭の中に浮かんでくる。
「はぁーーーッ!!」
刀を回転させながら鬼の頸へと思い切り叩き込めば、とぐろを巻いた炎が走り抜ける。その後に残るのは頸と胴体が綺麗にわかれた、鬼の成れの果てだった。
流石に死ぬのではないかと思った。実際、走馬灯のようなものを何度も見た。
その時脳裏に浮かんだのは、『前』の杏寿郎さんが最期に言ってくれた愛の言葉だった。
最期の瞬間を思い出すと今でも涙が滲んでつらくなるが、同時に告白の言葉が嬉しかったなあ。
杏寿郎さんはどのタイミングで私に好意を持ってくれていたのだろう?
自慢じゃないが前の私との間に、そういったフラグはあっただろうか。
とはいえ、私はもう貴方への愛は最初から好感度マックスなので、恋愛シュミレーションならハッピーなトゥルーエンド一直線だが。
『以前』の私の時からそうだった。刷り込みか何かのように、私は杏寿郎さんへの愛を募らせていた。
この想いを前に、決してバッドエンドなどあり得ない。
あらやだ。明槻の趣味に引っ張られてる。私は別にオタクじゃないんだけどなぁ。
ともかくこれ以上血を流し、鬼を寄せ付けるわけにはいかない。
傷を川の水で洗い流すと、呼吸を使い止血を試みる。……上手くいった。袴の切れ端で傷を覆っておけば、治療完了と。
即座に離れて良かった。倒した鬼の軌跡を辿り、別の鬼が来ていたよう。
この選別では無理に鬼を倒す必要はない。
無駄に斬っていては、そのうち刀が折れてしまう。この刀は私個人の日輪刀ではないのだから。
「入り組んでるなあ」
崖や高い段差を乗り越えて、藪や草むらの隙間を掻き分け先へと進む。岩でできたトンネルや倒れた木がそのまま橋となった場所もあり、鬼がいなくともサバイバルゲームをしている感覚だ。……令和の時代にそんなゲームをした経験は皆無だが。
川も滝もあり、水場は確保できた。万が一怪我をしても血の匂いを流せるし、水浴びもできる。
この近くを拠点にしておこうと決め、おむすびなどが入った荷を隠しておく。
揺れる草むらからはいつ鬼が出てくるかわからずとても恐ろしいが、隠れることはせず他の参加者を探そうと思った。
中腹より奥へと進めば霧が深い。それでも鬼は夜目は利くし霧なんてなんのそので襲ってくる。
「こちらにもハンデの一つや二つ欲しいところね」
紫外線ライトとか欲しい。むしろ無限列車の任務中に欲しかったな。
「ぎゃあああ!」
その時、他の参加者の悲鳴が聞こえた。
この先かなり奥からだ!助けたいけれど、間に合わない可能性が高い。遠い!
私が今出せる一番の速さで向かいその場を覗くが、やはりというべきかなんというか。腕は欠損し、夥しい血があたりに飛び散っている。
参加者であろう男性はすでに死んでいた。
「遅かった……」
私がもっと速かったなら。かつての速さで到着できたなら、違っていたかもしれない。……ごめんなさい。
けどこの人を殺した鬼はどこに?
不思議に思ったその時、ガサリと目の前の茂みが揺れた。
「うひひぃ……女だ。女の肉だ……!」
「なっ!?」
飛び出してきたのは参加者の人間ではなく、もちろん鬼だった。まるでチキンでも食べ歩きするかのように、殺された人の腕をかじりながらの登場。
ただ、私を視認した瞬間に、その腕を打ち捨てていた。
うん知ってる!鬼達は肉質柔らかな子供や女の肉が好きだものね!?でも嬉しくないからお残しは許しません。
硬い鱗のようなものに覆われた鬼の巨大な拳が、私に向かってくる。拳による風圧が、顔にかかった。
まずい、完全には避けられないッ!
咄嗟に頭を庇うように後ろに跳んだが、少し遅く。頭の代わりに足に傷を負ってしまった!
「うぁっつ!痛たぁ……!」
なるほど、鱗のようなものは見た目通り鰐や鮫の皮膚のように硬いのか。かすっただけで大根おろしのように擦られ、裂傷のような傷ができた。
鬼の拳が触れた袴はぱっくりと裂け、傷ついた肌からは血がだらだらと流れる。
もう一発の拳が迫る。
ああ、なんと不甲斐ない。たかが低級の鬼に、してやられた。穴があったら入りたい!
「なんだこの血の匂い!胸がドキドキするなッ!」
突然鬼が胸を押さえ、赤い顔で私の方を見た。襲い来る勢いは殺さずに。
もう一度拳が私に当たるかと思いきやだ。
むぎゅ。
「え」
胸を鷲掴みにされ、わしわしと揉まれた!えっ、えっ!?
揉んだ本人は、はあはあしている!
「ひっ、いやあああっ!痴漢!!この人いや鬼!痴漢っ!!
炎の呼吸弐ノ型昇り炎天ッッ!!」
すぱぁん!と、揉んでくる手を思い切り斬り落とす。頸を斬ればよかったのだが、あまりのショックでその事が頭から消えていた。
そしてその場から逃走する。
そうだった!稀血以前に、私の血には鬼を催淫状態にする効果があるんだった!
大事な事なのに、忘れていた!!
後ろを確認すれば。
「ぎゃぁぁぁあ!くねくねしながら追いかけてこないで!気持ち悪い!!」
体をくねらせながら、鬼が追ってきていた。
「待ってくれぇ……乳揉ませてくれぇ……!ついでに稀血食わせろぉおお!!」
「揉むか食うかどっちよ!?あとおっきい声出すなー!!」
自分で言っていて悔しいが、私はそこまでそれが大きいわけではない。ささやかとも言わないが、大正時代としてはまあ普通の大きさだろう。しいていうなら、蟲柱とどっこいどっこいか。
といいつつ鬼殺の最中に揺れるのは苦しいので、サラシは巻いていた。
しかし、今の私のそれは小さい。まだ成長していない。なのに。なのに……。
普通揉むかー!?
鬼はみんなロリコンなのだろうか!つまり、その大元の鬼舞辻無惨もロリコ……やめよう、想像したくない。
そこからは地獄の始まり。
鬼が騒ぎ立てたことと私が走り回って稀血の匂いを撒き散らしてしまったことで、他の鬼や参加者にすらも今期の最終選別に『稀血持ちがいる』と伝わったようで。
どんどんと鬼が押し寄せて追ってきた。まるで、ゴキブリホイホイにでもなった気分だ!
みな低級の鬼ゆえ鬼同士が結託することはなかったのが不幸中の幸いか。
誰が私を食べるか穢すか揉むかさげすんでもらうかを争って同族殺しを始めていた。
食べるも穢すも嫌だけど揉むとかさげすんでもらうってなんだ。
私をめぐって争わないで、なんてくっだらない言葉で現実逃避したくなるほどだった。
でも、逃げる事はできなかった。
「壱ノ型不知火っ!」
せっかくすぐそこに屯していただいているので、これはチャンスかとまとめて頸を落とそうとした。
けれど力は足りず、鬼の頸はひとつも落とせなかった。横着してまとめてやろうとなんてしちゃダメね。
斬りつけられた痛みに我に返った鬼どもが、こちらを一斉に振り向く。
「稀血稀血稀血!」「美味い肉食わせろぉぉぉ!」「揉む揉む揉む……」
「突っ込ませてほしい!穢したいっ!」
「さけすんでくれ踏んでくれぇぇぇ!お願いしますううう!!」
奴らは揃いも揃って一様に、牙を剥き出して追いかけてきた。気持ち悪いことを叫びながらだ。
余計なことしちゃった…!何もせずそっと逃げればよかった。
「ひいいい!あああ早く朝になってー!助けてっ杏寿郎さぁん!!」
太陽の光は届きにくい山だけど、それでも昼間は明るい場所もないわけではない。ただ、すごーく範囲が狭そうだったので、勝手に明るい場所を広くさせていただいた。
ええ、ええ、そうですよ。ベースキャンプを作るのに、日の当たる場所も作りたくって木を何本も伐採しましたよ!自然破壊させていただきました!THE!更地!!
だって、木を切ってはならないとは言われてませんから。
場を自身の有利なように変えて鬼殺の任にあたることは、そう珍しいことじゃない。
朝の日差しから逃げる鬼のゆくてを阻むべく、森を焼くこともある。
今回は最終選別の場でそれを実行しただけだ!だからそこに行けば、少しは鬼の襲撃を凌げる。休めるのだ。
だけども。
「しつっ…こい!知ってたけどしつこい!!」
足の速い鬼も中にいたのだろう。引き離せなかった鬼もいた。
私の速度は最盛期より遅かった。
夜明けまでは四刻半あるかないか。山向こうが薄く明るい。ついてくる鬼は二匹。落とせるか?頸を落とせるか??
力の強さ的にまだまだ不知火で足りないというなら。
不知火を応用し作った、私独自の型がある。この肉体に戻ってからは一度も練習ひとつしたことはなかったが、不思議なことに失敗はしないと確信していた。
空気を胸いっぱいに取り込み吐き出せば、独特の呼吸音が聞こえた。
『刀は己の体の一部。全身で振るえ』
杏寿郎さんに言われた事が、頭の中に浮かんでくる。
「はぁーーーッ!!」
刀を回転させながら鬼の頸へと思い切り叩き込めば、とぐろを巻いた炎が走り抜ける。その後に残るのは頸と胴体が綺麗にわかれた、鬼の成れの果てだった。
流石に死ぬのではないかと思った。実際、走馬灯のようなものを何度も見た。
その時脳裏に浮かんだのは、『前』の杏寿郎さんが最期に言ってくれた愛の言葉だった。
最期の瞬間を思い出すと今でも涙が滲んでつらくなるが、同時に告白の言葉が嬉しかったなあ。
杏寿郎さんはどのタイミングで私に好意を持ってくれていたのだろう?
自慢じゃないが前の私との間に、そういったフラグはあっただろうか。
とはいえ、私はもう貴方への愛は最初から好感度マックスなので、恋愛シュミレーションならハッピーなトゥルーエンド一直線だが。
『以前』の私の時からそうだった。刷り込みか何かのように、私は杏寿郎さんへの愛を募らせていた。
この想いを前に、決してバッドエンドなどあり得ない。
あらやだ。明槻の趣味に引っ張られてる。私は別にオタクじゃないんだけどなぁ。
ともかくこれ以上血を流し、鬼を寄せ付けるわけにはいかない。
傷を川の水で洗い流すと、呼吸を使い止血を試みる。……上手くいった。袴の切れ端で傷を覆っておけば、治療完了と。