五周目 陸
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随分と昔から青い彼岸花を探している。
大した情報もない中で無惨様が求めんとする花一つを、この広い日の本で探し出すというのは至難の業だ。それは森の中に隠された木の葉一枚を見つけ出すようなもの。
ましてや上弦の鬼の一部は、特定の場所を根城にして動かない者、探索が苦手と抜かす者など、やる気のない奴が多すぎる。
青い彼岸花を探して各地を巡る中、下弦の壱が負けたとの情報が無惨様より伝えられた。
下弦では一番上の壱とはいえ、下弦か。下弦は鬼狩りにやられて欠けてもすぐに補充され、我ら上弦の鬼とは実力の差も大きい。
大した痛手ではないと思う。
しかし、無惨様が伝えたいのはそんな事ではなかった。
そこは俺のいる場所からかなり近い。そこには下弦の鬼をやった柱もいるそうだ。
柱を始末してくるよう命令が下った瞬間、俺は嬉しくて嬉しくて口角が上がるのを止められなかった。
興奮で無惨様の続きの言葉がほとんど頭に入らぬくらいだ。向こう側で無惨様がため息をつくのが聞こえたような気がする。
駆け出す足もいつもより速い。
柱をやるのは久しぶりだ。一体どんな奴だろう。
遠くからでもわかる、強き者の気配。そして夜の闇に立ち昇るかと思うほどの闘気。
「む!」
「な、上弦……!」
「……きたわね」
降り立った先にいたのは三人の鬼狩り。一人は黄金色と朱の髪の強そうなやつ。この男が柱に違いない。燃え上がるほどの強さの闘気を体の内に秘めている。
その傍には女の隊士。女は放っておくからいいとして、少し離れたところにいる隊士が邪魔だな。先に始末しておくべきか。
緑の羽織を着た隊士に向かって拳を放つ。だがそれはあと少しのところで柱らしき男の技に防がれた。
「炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天」
俺の拳を中心に真っ二つに斬り込みが入り、腕が綺麗に二本に分かれる。こんなもの一瞬でくっついてしまうから痛手ではない。それよりこの強さ、速さ!今までこれほどの逸材がいただろうか!好敵手として申し分ない!
「いい刀だ」
腕についた血を舐めながら、称賛の言葉を口にする。相手は険しい顔で俺を睨み、警戒するばかり。まだすぐにはやり合わないから、安心しろ。
「なぜこの少年から狙うのか理解できない」
「そんなことか。
その場にいる鬼狩りは全て殺すよう命じられている。まずは邪魔な奴からと思っただけだ。
そうしたら柱と心置きなく戦えるだろう?話もしたいと思ったからな」
「俺と君が何の話を?俺は君が嫌いだ。初対面のはずなのだが、何故か君を見ているだけで虫唾が走り、腑が煮えくり返る思いだ」
会った事もないというに、随分と嫌われたものだ。いや、会った事がない?俺もこいつをどこかで……気のせいだな。
「俺は弱い人間が嫌いなだけだ。弱者を見ると虫唾が走る」
ちらりとガキと女を見る。ガキの傍に走り寄ったこの女もまた、目の前の男より弱い。
女にしてはかなり強いであろう事はわかるがまだ一歩足りん。それに俺は女の鬼狩りに興味がない。ほんの一瞬で視線を外す。
物事の価値基準が俺とは違うと、男が否定の言葉を放ってきたがそんなことどうでもいい。
この男と戦いたい。いや、人間のままではこの男もまだ力が足りん。鬼になるよう誘おう。
鬼になれば、ずっと戦い続けられるからな。
こいつが鬼になればかなりの強さの鬼となろう!すぐさま至高の領域に到達するに違いない!
「素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」
「ならない」
俺を見据え、視線を一つも外さないまま即答だ。少しも迷いがない。
「見ればわかる。お前の強さ、柱だな。その闘気練り上げられている。至高の領域に近い」
「……俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
称賛を繰り返したからか、それともこれから殺死合いを始めるにあたっての挨拶か、男が自分の名を名乗った。
ああそうだな、死合いをするなら名乗りは大事だ。俺も自分の名を告げた。
そのまま、再度鬼へと誘う。
人では老いるし死ぬから駄目だ。その強さは無駄となる。鬼となれば死なない。何百年も鍛錬し続けられる。より強くなれるのだと。
「鬼になろう杏寿郎」
だが、人間の愛おしさ、尊さなどというもので俺の考えを否定してきた。どうあっても、方向性は相容れぬらしい。
「何度でも言う。君と俺とでは価値基準が違う、とな。俺はいかなる理由があろうとも、鬼にならない!」
「そうだよ。師範は絶対に、鬼にならない……鬼にはしない、私がさせない!!」
それまで黙っていた女が出しゃばるように前に出てきて、俺の行手をも言葉をも阻害するように手を広げて立ちはだかる。
なんなんだこの女は。俺と杏寿郎の話を邪魔しやがって、そんなに死にたいのか。
「朝緋、相手は上弦だ。前に出ず下がっていろ」
「だって……」
「だってじゃないだろう。先ほどまで君は下弦の壱に狙われて……」
杏寿郎の声色でわかった。師範などと呼んでいるが、この女は杏寿郎と恋仲か何かの大切な人間だ。
恋仲……、遠い昔、俺にも大切な……。
その時、頭の奥で無惨様の声がした。
──猗窩座、その女は鬼にしろ。鬼にして私の元へ連れて来い──
っ!?
なぜ、無惨様はこの女に興味を……鬼になど考えるのだ。ただの女だ。
そう思ってしまうのは仕方なかった。無惨様が、俺にご自身が見てきたこの女についての記憶を流し込んで来る。
『青』い炎。不思議な気配。時折見られる何かを知っているようなそぶり。女人ながら複数の呼吸までを使うその力。そして稀血。
──稀血の女鬼狩り……何度か見かけたがやはり不思議な気配を感じる。その女は鬼にしよう。稀血の鬼は初めてだ。
炎の呼吸を扱う鬼狩りだが、扱うその炎も赤くそして青い。
青、つまりは青い彼岸花を私にもたらす可能性もあるかもしれない。
何かを知っているのなら、それも調べたい。鬼にして頭をいじくりまわせば、その女の持ちうる情報は全て私のものだ。
少しでも青い彼岸花に繋がる可能性があるものは、一つも逃したくない。
他の鬼狩りは殺せ。女は鬼にしろ──
俺の目を通して、無惨様が狙い定めて女を見つめた。
「そこの女、お前も鬼になれ。お前が鬼になる事をあの方が望んでいる」
「はいぃ?」
「……なんだと?」
「下弦の鬼にも狙われていたのならわかるだろう。稀血であるお前を食べる目的でなく捕まえるのだから、理由くらい思いつくはずだ」
「わかるかっ!初めて聞いたわよ!?」
「朝緋を鬼に……!?そんな真似させるか!」
今度は女を守るようにして杏寿郎が前に出た。
「杏寿郎、これは決定事項だ」
この女を鬼にする事に、正直言うと俺は一つも興味がない。稀血なら食料にすべきでは?
だが、青い彼岸花の捜索も頓挫していたのも事実。少しでも可能性が見出せるなら、こいつを鬼にするのもやぶさかではない。
「共に鬼になればいい。大事な女が鬼になったのならば杏寿郎も鬼になることに抵抗がなくなる。鬼になりやすかろう?」
「何度でも言う!俺も朝緋も決して鬼にはならない!鬼にしない!!」
またも強く強く否定される。
「そうか」
交渉は決裂だ。杏寿郎が鬼になれば、俺ももっと強くなれると踏んだのだがここまで否定されてはな……残念だ。
殺意を込めてバキリと指を鳴らす。
術式展開 破壊殺 羅針
「女は必ず鬼にする。杏寿郎、お前は鬼にならないなら殺す」
杏寿郎が刀を構える。
「朝緋、下がっていろ!」
「嫌だ!私も戦いま、きゃあ!?」
「竈門少年、悪いが朝緋を頼む!!」
女はあっちの鬼狩りの元へと投げ飛ばされたか。……まあ女はあとだ。
まずは杏寿郎との楽しい殺死合いの時間だ。
少しは楽しませてもらおうか、炎柱。
大した情報もない中で無惨様が求めんとする花一つを、この広い日の本で探し出すというのは至難の業だ。それは森の中に隠された木の葉一枚を見つけ出すようなもの。
ましてや上弦の鬼の一部は、特定の場所を根城にして動かない者、探索が苦手と抜かす者など、やる気のない奴が多すぎる。
青い彼岸花を探して各地を巡る中、下弦の壱が負けたとの情報が無惨様より伝えられた。
下弦では一番上の壱とはいえ、下弦か。下弦は鬼狩りにやられて欠けてもすぐに補充され、我ら上弦の鬼とは実力の差も大きい。
大した痛手ではないと思う。
しかし、無惨様が伝えたいのはそんな事ではなかった。
そこは俺のいる場所からかなり近い。そこには下弦の鬼をやった柱もいるそうだ。
柱を始末してくるよう命令が下った瞬間、俺は嬉しくて嬉しくて口角が上がるのを止められなかった。
興奮で無惨様の続きの言葉がほとんど頭に入らぬくらいだ。向こう側で無惨様がため息をつくのが聞こえたような気がする。
駆け出す足もいつもより速い。
柱をやるのは久しぶりだ。一体どんな奴だろう。
遠くからでもわかる、強き者の気配。そして夜の闇に立ち昇るかと思うほどの闘気。
「む!」
「な、上弦……!」
「……きたわね」
降り立った先にいたのは三人の鬼狩り。一人は黄金色と朱の髪の強そうなやつ。この男が柱に違いない。燃え上がるほどの強さの闘気を体の内に秘めている。
その傍には女の隊士。女は放っておくからいいとして、少し離れたところにいる隊士が邪魔だな。先に始末しておくべきか。
緑の羽織を着た隊士に向かって拳を放つ。だがそれはあと少しのところで柱らしき男の技に防がれた。
「炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天」
俺の拳を中心に真っ二つに斬り込みが入り、腕が綺麗に二本に分かれる。こんなもの一瞬でくっついてしまうから痛手ではない。それよりこの強さ、速さ!今までこれほどの逸材がいただろうか!好敵手として申し分ない!
「いい刀だ」
腕についた血を舐めながら、称賛の言葉を口にする。相手は険しい顔で俺を睨み、警戒するばかり。まだすぐにはやり合わないから、安心しろ。
「なぜこの少年から狙うのか理解できない」
「そんなことか。
その場にいる鬼狩りは全て殺すよう命じられている。まずは邪魔な奴からと思っただけだ。
そうしたら柱と心置きなく戦えるだろう?話もしたいと思ったからな」
「俺と君が何の話を?俺は君が嫌いだ。初対面のはずなのだが、何故か君を見ているだけで虫唾が走り、腑が煮えくり返る思いだ」
会った事もないというに、随分と嫌われたものだ。いや、会った事がない?俺もこいつをどこかで……気のせいだな。
「俺は弱い人間が嫌いなだけだ。弱者を見ると虫唾が走る」
ちらりとガキと女を見る。ガキの傍に走り寄ったこの女もまた、目の前の男より弱い。
女にしてはかなり強いであろう事はわかるがまだ一歩足りん。それに俺は女の鬼狩りに興味がない。ほんの一瞬で視線を外す。
物事の価値基準が俺とは違うと、男が否定の言葉を放ってきたがそんなことどうでもいい。
この男と戦いたい。いや、人間のままではこの男もまだ力が足りん。鬼になるよう誘おう。
鬼になれば、ずっと戦い続けられるからな。
こいつが鬼になればかなりの強さの鬼となろう!すぐさま至高の領域に到達するに違いない!
「素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」
「ならない」
俺を見据え、視線を一つも外さないまま即答だ。少しも迷いがない。
「見ればわかる。お前の強さ、柱だな。その闘気練り上げられている。至高の領域に近い」
「……俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
称賛を繰り返したからか、それともこれから殺死合いを始めるにあたっての挨拶か、男が自分の名を名乗った。
ああそうだな、死合いをするなら名乗りは大事だ。俺も自分の名を告げた。
そのまま、再度鬼へと誘う。
人では老いるし死ぬから駄目だ。その強さは無駄となる。鬼となれば死なない。何百年も鍛錬し続けられる。より強くなれるのだと。
「鬼になろう杏寿郎」
だが、人間の愛おしさ、尊さなどというもので俺の考えを否定してきた。どうあっても、方向性は相容れぬらしい。
「何度でも言う。君と俺とでは価値基準が違う、とな。俺はいかなる理由があろうとも、鬼にならない!」
「そうだよ。師範は絶対に、鬼にならない……鬼にはしない、私がさせない!!」
それまで黙っていた女が出しゃばるように前に出てきて、俺の行手をも言葉をも阻害するように手を広げて立ちはだかる。
なんなんだこの女は。俺と杏寿郎の話を邪魔しやがって、そんなに死にたいのか。
「朝緋、相手は上弦だ。前に出ず下がっていろ」
「だって……」
「だってじゃないだろう。先ほどまで君は下弦の壱に狙われて……」
杏寿郎の声色でわかった。師範などと呼んでいるが、この女は杏寿郎と恋仲か何かの大切な人間だ。
恋仲……、遠い昔、俺にも大切な……。
その時、頭の奥で無惨様の声がした。
──猗窩座、その女は鬼にしろ。鬼にして私の元へ連れて来い──
っ!?
なぜ、無惨様はこの女に興味を……鬼になど考えるのだ。ただの女だ。
そう思ってしまうのは仕方なかった。無惨様が、俺にご自身が見てきたこの女についての記憶を流し込んで来る。
『青』い炎。不思議な気配。時折見られる何かを知っているようなそぶり。女人ながら複数の呼吸までを使うその力。そして稀血。
──稀血の女鬼狩り……何度か見かけたがやはり不思議な気配を感じる。その女は鬼にしよう。稀血の鬼は初めてだ。
炎の呼吸を扱う鬼狩りだが、扱うその炎も赤くそして青い。
青、つまりは青い彼岸花を私にもたらす可能性もあるかもしれない。
何かを知っているのなら、それも調べたい。鬼にして頭をいじくりまわせば、その女の持ちうる情報は全て私のものだ。
少しでも青い彼岸花に繋がる可能性があるものは、一つも逃したくない。
他の鬼狩りは殺せ。女は鬼にしろ──
俺の目を通して、無惨様が狙い定めて女を見つめた。
「そこの女、お前も鬼になれ。お前が鬼になる事をあの方が望んでいる」
「はいぃ?」
「……なんだと?」
「下弦の鬼にも狙われていたのならわかるだろう。稀血であるお前を食べる目的でなく捕まえるのだから、理由くらい思いつくはずだ」
「わかるかっ!初めて聞いたわよ!?」
「朝緋を鬼に……!?そんな真似させるか!」
今度は女を守るようにして杏寿郎が前に出た。
「杏寿郎、これは決定事項だ」
この女を鬼にする事に、正直言うと俺は一つも興味がない。稀血なら食料にすべきでは?
だが、青い彼岸花の捜索も頓挫していたのも事実。少しでも可能性が見出せるなら、こいつを鬼にするのもやぶさかではない。
「共に鬼になればいい。大事な女が鬼になったのならば杏寿郎も鬼になることに抵抗がなくなる。鬼になりやすかろう?」
「何度でも言う!俺も朝緋も決して鬼にはならない!鬼にしない!!」
またも強く強く否定される。
「そうか」
交渉は決裂だ。杏寿郎が鬼になれば、俺ももっと強くなれると踏んだのだがここまで否定されてはな……残念だ。
殺意を込めてバキリと指を鳴らす。
術式展開 破壊殺 羅針
「女は必ず鬼にする。杏寿郎、お前は鬼にならないなら殺す」
杏寿郎が刀を構える。
「朝緋、下がっていろ!」
「嫌だ!私も戦いま、きゃあ!?」
「竈門少年、悪いが朝緋を頼む!!」
女はあっちの鬼狩りの元へと投げ飛ばされたか。……まあ女はあとだ。
まずは杏寿郎との楽しい殺死合いの時間だ。
少しは楽しませてもらおうか、炎柱。