五周目 伍
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あの中でゆっくりとろりと甘い時間を永遠に過ごすことができたなら……なんて少しは考えてしまった。
あの夢には、やはり私の心の奥の願望も詰まっている。
けれど、それが魘夢の狙いでもあった。
私の心を掻き乱してきて、絶対許さない。
「朝緋さん起きたんですね!」
「おせーぞまだら!!」
覚醒すれば、鬼の触腕に囲まれる中、炭治郎と伊之助が盾となって私を守っていた。
魘夢の触腕や眼と散々戦った後か、顔に少しばかり疲れの色を滲ませている。
「ごめん!どのくらい寝てた!?」
「え、あ、三分くらいです!」
三分!あの長さが三分とな!カップラーメン出来上がっちゃうよ!?いやいやいや、長い時間眠ってたらもっと迷惑はかけるし私も困るからいいけどさ。
でも三分かあ……炭治郎達はいつも一瞬で覚醒していたというに、私ったらなんてみっともない先輩だろう。
「眠ったままのまだらをとっ捕まえようとする鬼の腕から俺様達が守ったぜ!」
「うん!ありがとう!ほんっとごめん!!」
あああやっぱり守ってもらってたぁ!不甲斐ない不甲斐ない不甲斐ない!!
「いえ!いいんです!煉獄さんがいない今、朝緋さんのことは俺が守ります!貴女を奪われるわけにはいきませんから!!」
「ああ!雌を守るのは雄として当然だからな!!」
そう言いながら、三人で鬼の触腕を減らすべく刀を振るう。杏寿郎さんレベルに眩しい表情と言葉。
「なんつー王子様達。将来が楽しみ過ぎる……」
「おうじさま?」
「なんでもない!まだ鬼の頸は斬れていないのよね!私も頑張る!!」
「ああ!頼んだぞまだら!早く鬼の頸を斬らねぇと皆持たねぇからな!!」
もう眠りになんて落ちない。
さよならもしたのにまた戻ってきたのか?なんてあちらの杏寿郎さんに言われちゃうし、下の階級の隊士に頼りきりだったなんて先輩として。炎柱の継子として恥ずかしい。
それに『前』は眼を見ないために目を閉じて、感覚で斬っていたではないか!
思い出せ、その感覚。
肉壁に眼が見開き、また私達を眠りに落とそうと躍起になる魘夢。
私もだけど、二人も眠りに落とさせない。
「炎の呼吸、壱ノ型……不知火!!」
増え方と向かう先的に、もう私を捕まえるために構う余裕はなくなったよう。炭治郎と伊之助を重点的に狙っている。頸を守ろうと必死だ。
どんどんと増えていく触腕、鬼の眼を、視線は向けずに感覚だけで駆け抜けながら一気に斬り払い、二人が進む道を作る。
「邪魔はさせないし、私は許さないと誓った!お前の頸が落ちるその時まで、私の怒りは鎮まらない!!」
心を燃やし、闘志と怒りを刃に乗せる。でも冷静さは決して失わず、心には常に流れる水を。静かな水面を思い浮かべる。
炎の呼吸と水の呼吸。そのどちらも使いこなすための、心の在り方。
「炎の呼吸──、炎山渦!盛炎のうねり!炎虎改・乱咬み!!水の呼吸参の型流流舞!!
全部全部、斬り落としてあげる!!」
全集中で邪魔な全てを斬り落とすと、鬼の頸までの道が一気に拓けた。
「伊之助!呼吸を合わせろ!朝緋さんが道を開けてくれた!連撃行くぞ!!」
「おう!着いてこい!!
獣の呼吸、肆ノ牙 切細裂き!!」
頸の骨を覆う肉壁を、伊之助の六連撃が斬り退かす。
炭治郎の呼吸が、独特の熱いものへと変わる。私や杏寿郎さんのものとは違う、赤い炎が舞い始めた。
「ヒノカミ神楽 碧羅の天!!」
美しい炎の円環が、太く硬い鬼の頸の骨を断つ!!
「ギャアァァァァァ!!」
魘夢の断末魔が響き渡り、最後の抵抗なのか、触腕が大量に飛び出てくる。
けれどこんなのはもう私の敵じゃないし、どこに伸ばしているのか自分でもわかっていないのか私には一つも届かなかった。
簡単にかわし、その全てを斬る。
肉が限界まで膨張し、そして破裂していく。
終わった……!
けれどまだだ。まだ一息もつけない!
同時に列車が脱線し、横転する。融合が解かれた今、この列車はただの列車。
倒れた車体が、轟音と共に線路を滑っていく。
『幾度となく』体験しているとはいえ、相変わらずものすごい衝撃だ!!
けれど魘夢の肉がクッションとなるおかげで、今回も摩擦熱での火災は発生しなかった。
「あいたぁ!?……受け身とったのにお尻打ったあー」
投げ出された線路沿いの草むらの中、お尻をさすりながら立ち上がる。青痣が出来そうな気がする。私のお尻なんて杏寿郎さんしか見ないからいいけ……何考えてるの私。
「ッ二人とも大丈夫!?──伊之助!!」
同じくそばに投げ出されたであろう、二人を探せば伊之助はすぐ見つかった。
「鬼の肉でバインバインして助かったぜ!!三太郎は……!」
「誰よそれ」
「あっいるじゃねぇか三太郎!!」
伊之助の指さす先には炭治郎。
三太郎って炭治郎のこと!?本当に名前覚えるの下手過ぎる……。慣れたけど私のことはいつも『まだら』だし。
もう私、まだらに改名しようかなあ。
「炭治郎、大丈夫?」
「うっ、体を強く打ち付けましたが、なんとか大丈夫、です……」
受け身が取れたとしてもあの衝撃だ。ましてや炭治郎は「二度ほど放てる!」とは言ったけども、まだまだ成長途中のヒノカミ神楽を使った直後。疲れていて当然だ。
「よかった……でもすぐに動けそうもないね。大事をとって、休みながら回復の呼吸に努めようか。
伊之助は先に怪我人の救護に回ってくれる?」
「おう!子分共の頼みなら行ってくるぜ!」
元気いっぱい、猪突猛進で向かっていく伊之助。若いなあ……。私もまだ若いけど。
炭治郎に改めて呼吸を伝授する。本来は杏寿郎さんが教えていたものだろうけど、まあいいだろう。
「呼吸の精度をあげて。体の隅々まで神経を……って、これはもう蝶屋敷で教えたわね。
とにかく集中、はい集中。痛いところや怪我したところに全集中!」
杏寿郎さんの真似をして、炭治郎の額に指を押し付ける。テシテシテシテシ!ツンツンツン!!
「あの、朝緋さんそれは集中しづらいです」
「え?ごめん!?あはは、何度も指で突いてたらそりゃ落ち着かないよねっ」
ピタ。気を取り直して、指を動かさずに集中させる。炭治郎の呼吸が一定のリズムを保って体内を流れているのを感じとり、そこで指を離した。
「……よし、大丈夫そうだね。炭治郎は少し休んでてね」
「はい……」
ほっとした様子で笑みを浮かべる炭治郎から視線を外す。
と、列車の影にピクピク動く塊を発見した。
変わり果てた魘夢の最期の姿だった。
「君が魘夢の頸部分かな。随分と小さな肉塊になっちゃってまあ……」
「…………、っ、〜〜っ、!!」
口がもうない。だから言葉を発したくとも、しゃべれないようだ。目だけで罵倒し、恨みの言葉を放たれていると感じる。
「私を捕まえるどころじゃなかったね。連れていくなんて命令は無視して、早くから私を食べていればこんな事にはならなかったかもね。貴方の勝ちだったかもしれないのにね」
私もそう。何回も繰り返しても、失敗ばかり。思う未来が望めなくて。あとから『あの時にこうすればよかった』っていうたらればばかり考える。
「でも残念。悪さばかりする鬼さん達には未来はないよ」
ぷすぷすと燻りながら消えていく魘夢にその言葉を落とす。あの特徴的な目玉が消えていくのを確認し、一息ついた。
あの夢には、やはり私の心の奥の願望も詰まっている。
けれど、それが魘夢の狙いでもあった。
私の心を掻き乱してきて、絶対許さない。
「朝緋さん起きたんですね!」
「おせーぞまだら!!」
覚醒すれば、鬼の触腕に囲まれる中、炭治郎と伊之助が盾となって私を守っていた。
魘夢の触腕や眼と散々戦った後か、顔に少しばかり疲れの色を滲ませている。
「ごめん!どのくらい寝てた!?」
「え、あ、三分くらいです!」
三分!あの長さが三分とな!カップラーメン出来上がっちゃうよ!?いやいやいや、長い時間眠ってたらもっと迷惑はかけるし私も困るからいいけどさ。
でも三分かあ……炭治郎達はいつも一瞬で覚醒していたというに、私ったらなんてみっともない先輩だろう。
「眠ったままのまだらをとっ捕まえようとする鬼の腕から俺様達が守ったぜ!」
「うん!ありがとう!ほんっとごめん!!」
あああやっぱり守ってもらってたぁ!不甲斐ない不甲斐ない不甲斐ない!!
「いえ!いいんです!煉獄さんがいない今、朝緋さんのことは俺が守ります!貴女を奪われるわけにはいきませんから!!」
「ああ!雌を守るのは雄として当然だからな!!」
そう言いながら、三人で鬼の触腕を減らすべく刀を振るう。杏寿郎さんレベルに眩しい表情と言葉。
「なんつー王子様達。将来が楽しみ過ぎる……」
「おうじさま?」
「なんでもない!まだ鬼の頸は斬れていないのよね!私も頑張る!!」
「ああ!頼んだぞまだら!早く鬼の頸を斬らねぇと皆持たねぇからな!!」
もう眠りになんて落ちない。
さよならもしたのにまた戻ってきたのか?なんてあちらの杏寿郎さんに言われちゃうし、下の階級の隊士に頼りきりだったなんて先輩として。炎柱の継子として恥ずかしい。
それに『前』は眼を見ないために目を閉じて、感覚で斬っていたではないか!
思い出せ、その感覚。
肉壁に眼が見開き、また私達を眠りに落とそうと躍起になる魘夢。
私もだけど、二人も眠りに落とさせない。
「炎の呼吸、壱ノ型……不知火!!」
増え方と向かう先的に、もう私を捕まえるために構う余裕はなくなったよう。炭治郎と伊之助を重点的に狙っている。頸を守ろうと必死だ。
どんどんと増えていく触腕、鬼の眼を、視線は向けずに感覚だけで駆け抜けながら一気に斬り払い、二人が進む道を作る。
「邪魔はさせないし、私は許さないと誓った!お前の頸が落ちるその時まで、私の怒りは鎮まらない!!」
心を燃やし、闘志と怒りを刃に乗せる。でも冷静さは決して失わず、心には常に流れる水を。静かな水面を思い浮かべる。
炎の呼吸と水の呼吸。そのどちらも使いこなすための、心の在り方。
「炎の呼吸──、炎山渦!盛炎のうねり!炎虎改・乱咬み!!水の呼吸参の型流流舞!!
全部全部、斬り落としてあげる!!」
全集中で邪魔な全てを斬り落とすと、鬼の頸までの道が一気に拓けた。
「伊之助!呼吸を合わせろ!朝緋さんが道を開けてくれた!連撃行くぞ!!」
「おう!着いてこい!!
獣の呼吸、肆ノ牙 切細裂き!!」
頸の骨を覆う肉壁を、伊之助の六連撃が斬り退かす。
炭治郎の呼吸が、独特の熱いものへと変わる。私や杏寿郎さんのものとは違う、赤い炎が舞い始めた。
「ヒノカミ神楽 碧羅の天!!」
美しい炎の円環が、太く硬い鬼の頸の骨を断つ!!
「ギャアァァァァァ!!」
魘夢の断末魔が響き渡り、最後の抵抗なのか、触腕が大量に飛び出てくる。
けれどこんなのはもう私の敵じゃないし、どこに伸ばしているのか自分でもわかっていないのか私には一つも届かなかった。
簡単にかわし、その全てを斬る。
肉が限界まで膨張し、そして破裂していく。
終わった……!
けれどまだだ。まだ一息もつけない!
同時に列車が脱線し、横転する。融合が解かれた今、この列車はただの列車。
倒れた車体が、轟音と共に線路を滑っていく。
『幾度となく』体験しているとはいえ、相変わらずものすごい衝撃だ!!
けれど魘夢の肉がクッションとなるおかげで、今回も摩擦熱での火災は発生しなかった。
「あいたぁ!?……受け身とったのにお尻打ったあー」
投げ出された線路沿いの草むらの中、お尻をさすりながら立ち上がる。青痣が出来そうな気がする。私のお尻なんて杏寿郎さんしか見ないからいいけ……何考えてるの私。
「ッ二人とも大丈夫!?──伊之助!!」
同じくそばに投げ出されたであろう、二人を探せば伊之助はすぐ見つかった。
「鬼の肉でバインバインして助かったぜ!!三太郎は……!」
「誰よそれ」
「あっいるじゃねぇか三太郎!!」
伊之助の指さす先には炭治郎。
三太郎って炭治郎のこと!?本当に名前覚えるの下手過ぎる……。慣れたけど私のことはいつも『まだら』だし。
もう私、まだらに改名しようかなあ。
「炭治郎、大丈夫?」
「うっ、体を強く打ち付けましたが、なんとか大丈夫、です……」
受け身が取れたとしてもあの衝撃だ。ましてや炭治郎は「二度ほど放てる!」とは言ったけども、まだまだ成長途中のヒノカミ神楽を使った直後。疲れていて当然だ。
「よかった……でもすぐに動けそうもないね。大事をとって、休みながら回復の呼吸に努めようか。
伊之助は先に怪我人の救護に回ってくれる?」
「おう!子分共の頼みなら行ってくるぜ!」
元気いっぱい、猪突猛進で向かっていく伊之助。若いなあ……。私もまだ若いけど。
炭治郎に改めて呼吸を伝授する。本来は杏寿郎さんが教えていたものだろうけど、まあいいだろう。
「呼吸の精度をあげて。体の隅々まで神経を……って、これはもう蝶屋敷で教えたわね。
とにかく集中、はい集中。痛いところや怪我したところに全集中!」
杏寿郎さんの真似をして、炭治郎の額に指を押し付ける。テシテシテシテシ!ツンツンツン!!
「あの、朝緋さんそれは集中しづらいです」
「え?ごめん!?あはは、何度も指で突いてたらそりゃ落ち着かないよねっ」
ピタ。気を取り直して、指を動かさずに集中させる。炭治郎の呼吸が一定のリズムを保って体内を流れているのを感じとり、そこで指を離した。
「……よし、大丈夫そうだね。炭治郎は少し休んでてね」
「はい……」
ほっとした様子で笑みを浮かべる炭治郎から視線を外す。
と、列車の影にピクピク動く塊を発見した。
変わり果てた魘夢の最期の姿だった。
「君が魘夢の頸部分かな。随分と小さな肉塊になっちゃってまあ……」
「…………、っ、〜〜っ、!!」
口がもうない。だから言葉を発したくとも、しゃべれないようだ。目だけで罵倒し、恨みの言葉を放たれていると感じる。
「私を捕まえるどころじゃなかったね。連れていくなんて命令は無視して、早くから私を食べていればこんな事にはならなかったかもね。貴方の勝ちだったかもしれないのにね」
私もそう。何回も繰り返しても、失敗ばかり。思う未来が望めなくて。あとから『あの時にこうすればよかった』っていうたらればばかり考える。
「でも残念。悪さばかりする鬼さん達には未来はないよ」
ぷすぷすと燻りながら消えていく魘夢にその言葉を落とす。あの特徴的な目玉が消えていくのを確認し、一息ついた。