五周目 伍
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杏寿郎さんの想い、私の想い。
思い出すそれらを壊されてしまいそうで、ポロポロと涙がこぼれ出す。
「はあ……目障りだが贈るまではそのままつけていていい。俺は朝緋を泣かせたいわけじゃない」
涙を指で拭いとり、目尻にキスひとつ。
優しい顔で苦笑して指輪から手を退かすと、再び猛虎の如き鋭く熱い視線でこちらを射抜く。
「……啼かせたくはあるがな。続けようか?」
耳に唇を寄せて低く囁き、私の服に手をかける。
「!!……っやだ、やだってば!私、こんなことしてる場合じゃ、……な、……、」
捲り上げられた服。素肌に這う杏寿郎さんの手や唇からの刺激に肌がチリチリ焦げるかのよう。ぴくぴくと痙攣が止まらず、吐息が漏れる。
「反応はとてもいいが?」
するぅり、その指がスカートの内側に伸びる。
「──嫌っ!やめて!!駄目だって、言ってるの!!」
鬼殺隊舐めんな!刀を握ったことがなさそうなこの世界の杏寿郎さんになんて負けてたまるか!!
渾身の力……いいや火事場の馬鹿力とでも言うべき力で杏寿郎さんを引っぺがす。
尚も伸びて来る腕を振り払おうとするも、避けられ、ふかふかのベッドのせいで体が傾く。
「きゃ、……いたぁ〜」
ベッドから落ちてしまった。意外と痛い。
「大丈夫か朝緋!だがそうやって暴れるから落ちるのだぞ」
「元はと言えば杏寿郎さん、貴方が──」
普通、ベッドの下って助平な本が置いてあるのよね?え、違う?杏寿郎さんがそんなものを読むわけがないって?確かに、あまり考えつかない。
代わりにベッドの下からは、見覚えのある房飾りがはみ出ていた。
それは、杏寿郎さんが私の日輪刀に結んでくれた下緒にとても似ている。
いや、私の日輪刀だ!!
「私の、日輪刀……?あっ」
手を伸ばして取る前に、杏寿郎さんに奪われてしまった。
「見つかってしまったか。長物を隠せる場所がそこしかなかったものでなあ」
瞬間的には私の方が強くとも、基本的には戦いに慣れていないはずの杏寿郎さんの方がこの世界でも強い。体格もよくて、年上で、男性。その要素だけで私はすぐ捩じ伏せられる。
奪い返すのは至難の業。
「なぜ、この時代の貴方が日輪刀を知っているの。ううん、なぜ隠していたの?」
「君がいなくなるのが嫌だからだ。頸を斬る瞬間を見るのは堪らなく辛い。あの時も辛かった。もうあんな思いはしたくない。
俺はここでずっと、朝緋と一緒に静かに暮らしていたい……」
頸を斬る瞬間?『あの時』?
「朝緋にとってここは偽りの……所詮は夢の世界かもしれない。けれどこの俺には現実で。
君が思う先は少し違えど『また会いたい』と一瞬でも思ってくれたから、こうしてまた君をこの世界に呼び込むことが出来た」
思い出した。
確かに『前回』同じような夢を魘夢に見させられた。この夢はあの時と繋がっている?
あの時の続き?
「本物の朝緋は鬼に連れ去られてしまうのだろう。だが表のことは表の世界の者に任せればいい。鬼とやらに委ねてしまえばいい。
君が鬼の手に渡ろうと肉体がどうなろうと、極端な話死のうとも、ここの世界は何も変わらず平和だ。
目覚めずにいれば、ずっと幸せに暮らしていられる。鬼が倒され血鬼術とやらが解除されても、君さえ望めばここにいられる。
俺と共にいよう、朝緋。君だってもう楽になりたいだろう?」
刀を後ろ手にするのは変わらず。私を抱き寄せて囁いてくる。
現実の世界が、私がどうなろうと知ったこっちゃないってこと?ここにいる杏寿郎さんは鬼がどれだけの人を殺め、どれほど悪いことをしてきたのか知らないからそんなことを言えるんだ。
でも、私との幸せを望むその気持ちはだけは嬉しい。
「そうだね……とっても惹かれるお誘いだわ。私ももう楽になりたい」
「そうだろうとも!」
「でも駄目。私の現実はあちら。ここじゃない」
「…………俺を置いていくのか?俺にまた君の死を見ろというのか?」
飼い主に置いて行かれた犬のような寂しくて悲しげな顔。
でもね、涙に訴えてくるような潤んだ瞳の誘いには決して乗らない。突き放すように真っ直ぐ気持ちを伝える。
「見たくないなら見なければいい。
私は私の杏寿郎さんを助けたい。貴方じゃない。私の杏寿郎さんとの未来を望む。
杏寿郎さんと共に、誰も彼もが夜の闇を恐れなくて済む平和な世の中を作りたいの。
こちらの世界では駄目」
だから日輪刀を返して。
自分でも手を伸ばせば取れそうな位置にある。けれど、杏寿郎さんの理解を得て、杏寿郎さんの手から返してほしい。
そうでないと意味がない。また繰り返す。
「貴方も同じ煉獄杏寿郎なら、私の気持ちをわかってくれるでしょ」
まるで睨めっこ。
視線を逸らさずじっと目を見つめる。早く視線を外したいけれど、先に外した方の負けな気がする。
「はあ……」
先に折れたのは杏寿郎さんだ。視線こそそのままだったけれど、眉根を下げて短くため息を吐かれた。
「頑なだな」
「『貴方』からよく言われます」
抱きしめていた私をようやく解放して、日輪刀をそっと手にし、渡してくる。
受け取ると熱くない炎が包んでくると共に、乱れに乱れた衣服から、格好が見慣れた隊服と羽織へ変貌した。
やっぱり隊服はしっくりくる。この羽織がないと落ち着かない。
つまり、私には鬼を狩っている方が合うのだ。
「ああ、もっと朝緋といたかったなあ」
「ん、ごめんね……」
なかなか手を離してくれない。するすると私の手のひらを、指をなぞり握り、絡めてくる。
名残惜しいと言いたげに。
「その衣装も似合う。とても凛々しくてか格好いいぞ」
「……ありがと」
「もう行くのだな。……気をつけて」
ようやく決心がついたのか、離れていく杏寿郎さんの熱い手のひら。
送られた言葉にしっかりと頷き返す。
抜いた日輪刀の刃を自分の首にあて、私は再び別れの言葉を口にした。
「さよなら」
もう、最後の口付けはしない。
思い出すそれらを壊されてしまいそうで、ポロポロと涙がこぼれ出す。
「はあ……目障りだが贈るまではそのままつけていていい。俺は朝緋を泣かせたいわけじゃない」
涙を指で拭いとり、目尻にキスひとつ。
優しい顔で苦笑して指輪から手を退かすと、再び猛虎の如き鋭く熱い視線でこちらを射抜く。
「……啼かせたくはあるがな。続けようか?」
耳に唇を寄せて低く囁き、私の服に手をかける。
「!!……っやだ、やだってば!私、こんなことしてる場合じゃ、……な、……、」
捲り上げられた服。素肌に這う杏寿郎さんの手や唇からの刺激に肌がチリチリ焦げるかのよう。ぴくぴくと痙攣が止まらず、吐息が漏れる。
「反応はとてもいいが?」
するぅり、その指がスカートの内側に伸びる。
「──嫌っ!やめて!!駄目だって、言ってるの!!」
鬼殺隊舐めんな!刀を握ったことがなさそうなこの世界の杏寿郎さんになんて負けてたまるか!!
渾身の力……いいや火事場の馬鹿力とでも言うべき力で杏寿郎さんを引っぺがす。
尚も伸びて来る腕を振り払おうとするも、避けられ、ふかふかのベッドのせいで体が傾く。
「きゃ、……いたぁ〜」
ベッドから落ちてしまった。意外と痛い。
「大丈夫か朝緋!だがそうやって暴れるから落ちるのだぞ」
「元はと言えば杏寿郎さん、貴方が──」
普通、ベッドの下って助平な本が置いてあるのよね?え、違う?杏寿郎さんがそんなものを読むわけがないって?確かに、あまり考えつかない。
代わりにベッドの下からは、見覚えのある房飾りがはみ出ていた。
それは、杏寿郎さんが私の日輪刀に結んでくれた下緒にとても似ている。
いや、私の日輪刀だ!!
「私の、日輪刀……?あっ」
手を伸ばして取る前に、杏寿郎さんに奪われてしまった。
「見つかってしまったか。長物を隠せる場所がそこしかなかったものでなあ」
瞬間的には私の方が強くとも、基本的には戦いに慣れていないはずの杏寿郎さんの方がこの世界でも強い。体格もよくて、年上で、男性。その要素だけで私はすぐ捩じ伏せられる。
奪い返すのは至難の業。
「なぜ、この時代の貴方が日輪刀を知っているの。ううん、なぜ隠していたの?」
「君がいなくなるのが嫌だからだ。頸を斬る瞬間を見るのは堪らなく辛い。あの時も辛かった。もうあんな思いはしたくない。
俺はここでずっと、朝緋と一緒に静かに暮らしていたい……」
頸を斬る瞬間?『あの時』?
「朝緋にとってここは偽りの……所詮は夢の世界かもしれない。けれどこの俺には現実で。
君が思う先は少し違えど『また会いたい』と一瞬でも思ってくれたから、こうしてまた君をこの世界に呼び込むことが出来た」
思い出した。
確かに『前回』同じような夢を魘夢に見させられた。この夢はあの時と繋がっている?
あの時の続き?
「本物の朝緋は鬼に連れ去られてしまうのだろう。だが表のことは表の世界の者に任せればいい。鬼とやらに委ねてしまえばいい。
君が鬼の手に渡ろうと肉体がどうなろうと、極端な話死のうとも、ここの世界は何も変わらず平和だ。
目覚めずにいれば、ずっと幸せに暮らしていられる。鬼が倒され血鬼術とやらが解除されても、君さえ望めばここにいられる。
俺と共にいよう、朝緋。君だってもう楽になりたいだろう?」
刀を後ろ手にするのは変わらず。私を抱き寄せて囁いてくる。
現実の世界が、私がどうなろうと知ったこっちゃないってこと?ここにいる杏寿郎さんは鬼がどれだけの人を殺め、どれほど悪いことをしてきたのか知らないからそんなことを言えるんだ。
でも、私との幸せを望むその気持ちはだけは嬉しい。
「そうだね……とっても惹かれるお誘いだわ。私ももう楽になりたい」
「そうだろうとも!」
「でも駄目。私の現実はあちら。ここじゃない」
「…………俺を置いていくのか?俺にまた君の死を見ろというのか?」
飼い主に置いて行かれた犬のような寂しくて悲しげな顔。
でもね、涙に訴えてくるような潤んだ瞳の誘いには決して乗らない。突き放すように真っ直ぐ気持ちを伝える。
「見たくないなら見なければいい。
私は私の杏寿郎さんを助けたい。貴方じゃない。私の杏寿郎さんとの未来を望む。
杏寿郎さんと共に、誰も彼もが夜の闇を恐れなくて済む平和な世の中を作りたいの。
こちらの世界では駄目」
だから日輪刀を返して。
自分でも手を伸ばせば取れそうな位置にある。けれど、杏寿郎さんの理解を得て、杏寿郎さんの手から返してほしい。
そうでないと意味がない。また繰り返す。
「貴方も同じ煉獄杏寿郎なら、私の気持ちをわかってくれるでしょ」
まるで睨めっこ。
視線を逸らさずじっと目を見つめる。早く視線を外したいけれど、先に外した方の負けな気がする。
「はあ……」
先に折れたのは杏寿郎さんだ。視線こそそのままだったけれど、眉根を下げて短くため息を吐かれた。
「頑なだな」
「『貴方』からよく言われます」
抱きしめていた私をようやく解放して、日輪刀をそっと手にし、渡してくる。
受け取ると熱くない炎が包んでくると共に、乱れに乱れた衣服から、格好が見慣れた隊服と羽織へ変貌した。
やっぱり隊服はしっくりくる。この羽織がないと落ち着かない。
つまり、私には鬼を狩っている方が合うのだ。
「ああ、もっと朝緋といたかったなあ」
「ん、ごめんね……」
なかなか手を離してくれない。するすると私の手のひらを、指をなぞり握り、絡めてくる。
名残惜しいと言いたげに。
「その衣装も似合う。とても凛々しくてか格好いいぞ」
「……ありがと」
「もう行くのだな。……気をつけて」
ようやく決心がついたのか、離れていく杏寿郎さんの熱い手のひら。
送られた言葉にしっかりと頷き返す。
抜いた日輪刀の刃を自分の首にあて、私は再び別れの言葉を口にした。
「さよなら」
もう、最後の口付けはしない。