二周目 参
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
季節関係なく美しく藤の花が咲き誇る藤襲山。藤の香りに包まれながら山を登ると神社の鳥居と見間違うような赤い柱があり、石畳みの敷かれたそこが最終選別の集合場所となっていた。
集うは十人十色の最終選別参加者、十数名。
遅れること数刻。すっかり暗くなったその場所に辿り着いた私は、他の参加者の邪魔にならない位置から始まりを待った。
周りの参加者をそっと見渡す。
あっちにいる男の子は『前』もいたな。その隣の女の子もそうだ。岩の上にふてぶてしく座している、首に勾玉をつけた男の子も見覚えがあった。
なるほど。参加者リストについては『前』の記憶とほぼ変わらないらしい。全てを覚えているわけではないので、『前回』も絶対にいた人だよ!とは言い切れないけどね。
最後の参加予定者が揃うと産屋敷家の者かそれに近しい人間が、最終選別の説明をし始めた。
お館様が健康体で動けるうちはお館様自らが、それが叶わぬなら御子息御息女がその役を務めてきたという話だが、今はお館様もお体がよろしくなく御子様達もまだ幼い。
つまり今回は産屋敷家に近しい人物なのだろうな。……私も例外なく、お館様をお慕いしている。会えるのはいつになるだろうなあ。御尊顔を拝見したい。
説明が終わった。
鬼共の巣食う中七日巻を生き抜く。ただそれだけとはいえ改めて聞くと身震いが止まらない。
私達はいわば、鬼という空腹の鯉が放たれた生簀の中に放り込まれる餌のようなもの。中に入れば群がってくるだろう。想像するのも恐ろしいよね!
あと、かわいい鯉達に例えてごめん。
参加者が移動を開始した。
この階段を登ればもう藤の花もない。怖いけど……行かなきゃ。
私も後に続き、中へと歩みを進めた。
「……ん!絶対に生き残る!」
そう約束したし、私は二回目だ。
人と同じ姿形をした鬼を斬る、その事に抵抗があった一度目の選別。
だけど今は大丈夫、ある程度慣れている…………はず。
思い出せ。かつて炎柱の継子だったあの頃を。走り抜けるような私の炎の速さを。かつての私の実力を。
山の中へと走り出した瞬間、最終選別は開始される。今回の目標は人とも協力して生き残ることだ。
『前』は、私とあともう二人くらいしか生き残らず、合格率はもちろん生存率の低い結果に終わった。
あの時は鬼を一匹二匹程倒して、何事もなく終えた。人と協力して選別を乗り越えるなんて、考える余裕すらなく。
今回もそれでいいのかもだけれど、救える者は救いたい。選別中に出逢った人に協力をあおぎたい。生存者を増やしたい。
だって隊士を増やせば、巡り巡って自分の大切な人を救うことに繋がるかもしれないもの。でなくとも、確実に市井の人の一人か二人は助かるよね?
そういう打算的な考えが私の中にはあった。
……のに、いない。
「みんなどこ行ったの。消えるの早すぎない?」
第一村人発見!みたいに誰かとすぐ会えると思っていたのに、すでに鬼に食われたのかよと思いたくなるくらい、人っ子ひとり見当たらない。
藪の中にでも隠れてるの?気配隠すの上手いな。
「ったく、なんでいないのよ。隠れ鬼じゃないんだからさぁ……。心細いわー」
仕方ない、見つかるまでは一人行動だ。
それに、出会った人によっては足を引っ張ったり引っ張られたりもするだろうし、その辺りはよくよく吟味しなくては。
まずは自分の力でどこまでやれるか試そう。
「と、思いつつ朝緋ちゃんは鬼が出ませんようにと願うのでした」
静かな山の中に自分の声だけが聞こえる。いや、奥の方から悲鳴やら唸り声も聞こえてくるような……なんにせよ、不気味!
藤に囲まれていた時は清浄で神聖な感じがしたのに、離れてしまうと山中は真逆の空気に包まれている。
「この分だと昼間も暗そうね」
警戒だけは怠らないよう注意しつつ、朝になったら太陽が顔を出すであろうひらけているような場所も探す。
ベースキャンプ作りは基本だ。
嫌な気配も感じ始めた……そろそろ刀を出しておこう。抜ける準備では遅い。
お借りした刀の刀身を改めて眺める。薄い焔色の日輪刀……。自分のものではないこれで、どこまでやれるのだろう。
杏寿郎さんと違い、私に色変わりの儀はなかった。自分の日輪刀が欲しかった。
せめて千寿郎には、色変わりの儀をしてやりたいなあ。『今回』は色が変わるかもしれないし。
「っ!?」
その時だ。刃に映るそれに気がつき、真上に跳んだ。
空から見下ろした地上では、現れた鬼の爪により地面が深く抉れていた。
「よくも避けたなぁぁあ!」
「はあ、避けるに決まってるでしょうが」
軽やかに木の上に降り立つさまは猿にでもなった気分だった。
最終選別の参加者にしてはちょっとやりすぎな感じはしないでもないが、ここで頭角のようなものを出したところでどうせ誰も見ていない。
「うーん。まさか第一村人が鬼だとは。杏寿郎さん風にいうと『よもやよもや』、ね」
槇寿朗さんに助けられた時はこんなにゆっくりと見る暇はなかったから、鬼の風貌をまじまじと見るのはこの体では初めてだ。
なんと醜く恐ろしい見た目。口からよだれを垂らす様子を見ると、知能も低そうだ。
「久しぶりの人肉だァ!!食わせろっ!!」
鬼も跳躍できるようだ。爪や牙を剥き出しにして、大きく跳んで私の後を追ってきた。
……一直線で愚直で、なんと単調な動き。
恐怖はある。だけれども心はひどく落ち着いていた。
こうして実際に刀を持ったからか、はたまた鬼を目の前にしたからか。かつて鬼殺の任で培った経験が鮮明に蘇ってきた。どう動けば相手の頸を落とせるかが本能でわかった。
「参ノ型・気炎万象っ!」
上部から叩きつけるかのように素早く強く斬り払う技。
鬼の頸は豪快に斬り落としたが、しかし地面への着地の衝撃はふぅわりとしたものとなった。鬼はなにも言わずに私の炎の前に塵と化した。痛みを感じる暇もなかったろう。
「…………斬れた。鬼の頸が斬れた……!」
先程までの落ち着きは何処へやら。緊張の糸がプツリと切れたかのように、腰を抜かしてその場に座り込む。
でもダメだ、立ち止まっていてはまた襲われる。早く移動しなければ。
「第二村人こそ、人間でありますように」
集うは十人十色の最終選別参加者、十数名。
遅れること数刻。すっかり暗くなったその場所に辿り着いた私は、他の参加者の邪魔にならない位置から始まりを待った。
周りの参加者をそっと見渡す。
あっちにいる男の子は『前』もいたな。その隣の女の子もそうだ。岩の上にふてぶてしく座している、首に勾玉をつけた男の子も見覚えがあった。
なるほど。参加者リストについては『前』の記憶とほぼ変わらないらしい。全てを覚えているわけではないので、『前回』も絶対にいた人だよ!とは言い切れないけどね。
最後の参加予定者が揃うと産屋敷家の者かそれに近しい人間が、最終選別の説明をし始めた。
お館様が健康体で動けるうちはお館様自らが、それが叶わぬなら御子息御息女がその役を務めてきたという話だが、今はお館様もお体がよろしくなく御子様達もまだ幼い。
つまり今回は産屋敷家に近しい人物なのだろうな。……私も例外なく、お館様をお慕いしている。会えるのはいつになるだろうなあ。御尊顔を拝見したい。
説明が終わった。
鬼共の巣食う中七日巻を生き抜く。ただそれだけとはいえ改めて聞くと身震いが止まらない。
私達はいわば、鬼という空腹の鯉が放たれた生簀の中に放り込まれる餌のようなもの。中に入れば群がってくるだろう。想像するのも恐ろしいよね!
あと、かわいい鯉達に例えてごめん。
参加者が移動を開始した。
この階段を登ればもう藤の花もない。怖いけど……行かなきゃ。
私も後に続き、中へと歩みを進めた。
「……ん!絶対に生き残る!」
そう約束したし、私は二回目だ。
人と同じ姿形をした鬼を斬る、その事に抵抗があった一度目の選別。
だけど今は大丈夫、ある程度慣れている…………はず。
思い出せ。かつて炎柱の継子だったあの頃を。走り抜けるような私の炎の速さを。かつての私の実力を。
山の中へと走り出した瞬間、最終選別は開始される。今回の目標は人とも協力して生き残ることだ。
『前』は、私とあともう二人くらいしか生き残らず、合格率はもちろん生存率の低い結果に終わった。
あの時は鬼を一匹二匹程倒して、何事もなく終えた。人と協力して選別を乗り越えるなんて、考える余裕すらなく。
今回もそれでいいのかもだけれど、救える者は救いたい。選別中に出逢った人に協力をあおぎたい。生存者を増やしたい。
だって隊士を増やせば、巡り巡って自分の大切な人を救うことに繋がるかもしれないもの。でなくとも、確実に市井の人の一人か二人は助かるよね?
そういう打算的な考えが私の中にはあった。
……のに、いない。
「みんなどこ行ったの。消えるの早すぎない?」
第一村人発見!みたいに誰かとすぐ会えると思っていたのに、すでに鬼に食われたのかよと思いたくなるくらい、人っ子ひとり見当たらない。
藪の中にでも隠れてるの?気配隠すの上手いな。
「ったく、なんでいないのよ。隠れ鬼じゃないんだからさぁ……。心細いわー」
仕方ない、見つかるまでは一人行動だ。
それに、出会った人によっては足を引っ張ったり引っ張られたりもするだろうし、その辺りはよくよく吟味しなくては。
まずは自分の力でどこまでやれるか試そう。
「と、思いつつ朝緋ちゃんは鬼が出ませんようにと願うのでした」
静かな山の中に自分の声だけが聞こえる。いや、奥の方から悲鳴やら唸り声も聞こえてくるような……なんにせよ、不気味!
藤に囲まれていた時は清浄で神聖な感じがしたのに、離れてしまうと山中は真逆の空気に包まれている。
「この分だと昼間も暗そうね」
警戒だけは怠らないよう注意しつつ、朝になったら太陽が顔を出すであろうひらけているような場所も探す。
ベースキャンプ作りは基本だ。
嫌な気配も感じ始めた……そろそろ刀を出しておこう。抜ける準備では遅い。
お借りした刀の刀身を改めて眺める。薄い焔色の日輪刀……。自分のものではないこれで、どこまでやれるのだろう。
杏寿郎さんと違い、私に色変わりの儀はなかった。自分の日輪刀が欲しかった。
せめて千寿郎には、色変わりの儀をしてやりたいなあ。『今回』は色が変わるかもしれないし。
「っ!?」
その時だ。刃に映るそれに気がつき、真上に跳んだ。
空から見下ろした地上では、現れた鬼の爪により地面が深く抉れていた。
「よくも避けたなぁぁあ!」
「はあ、避けるに決まってるでしょうが」
軽やかに木の上に降り立つさまは猿にでもなった気分だった。
最終選別の参加者にしてはちょっとやりすぎな感じはしないでもないが、ここで頭角のようなものを出したところでどうせ誰も見ていない。
「うーん。まさか第一村人が鬼だとは。杏寿郎さん風にいうと『よもやよもや』、ね」
槇寿朗さんに助けられた時はこんなにゆっくりと見る暇はなかったから、鬼の風貌をまじまじと見るのはこの体では初めてだ。
なんと醜く恐ろしい見た目。口からよだれを垂らす様子を見ると、知能も低そうだ。
「久しぶりの人肉だァ!!食わせろっ!!」
鬼も跳躍できるようだ。爪や牙を剥き出しにして、大きく跳んで私の後を追ってきた。
……一直線で愚直で、なんと単調な動き。
恐怖はある。だけれども心はひどく落ち着いていた。
こうして実際に刀を持ったからか、はたまた鬼を目の前にしたからか。かつて鬼殺の任で培った経験が鮮明に蘇ってきた。どう動けば相手の頸を落とせるかが本能でわかった。
「参ノ型・気炎万象っ!」
上部から叩きつけるかのように素早く強く斬り払う技。
鬼の頸は豪快に斬り落としたが、しかし地面への着地の衝撃はふぅわりとしたものとなった。鬼はなにも言わずに私の炎の前に塵と化した。痛みを感じる暇もなかったろう。
「…………斬れた。鬼の頸が斬れた……!」
先程までの落ち着きは何処へやら。緊張の糸がプツリと切れたかのように、腰を抜かしてその場に座り込む。
でもダメだ、立ち止まっていてはまた襲われる。早く移動しなければ。
「第二村人こそ、人間でありますように」