五周目 伍
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この人達が皆の精神の核とやらを破壊しないようにしないと。
杏寿郎さんは反射的に破壊を阻止しようとしたのか、毎回侵入者の攻撃を防ぐような行動をする。けれどそれが『今回』も上手く行くとは限らない。いつだって危険や死ははすぐそばにある。
「禰󠄀豆子ちゃん、出てきてもらってもいい?」
座席に置いてある禰󠄀豆子ちゃんの箱に呼び掛ければ、しばしの沈黙の後、ギイイと音を立てて箱の蓋がゆっくり開いた。
ころん、と小さくて桃色の塊が中から転がり出てくる。
かわいい、うちの子にしたい。そう思った瞬間、頭の中の炭治郎に却下された。けち。
じっと見てくるその瞳。警戒されているのか、それともただ様子を窺っているのか。
御館様のところでちょっぴり私のことを見かけていてくれてたら嬉しい。あ、でも、あの時の禰󠄀豆子ちゃんはそれどころじゃなかったか。
「蝶屋敷でお花を渡したお姉さんですよ〜。わかるかな」
渡したといってもそれだって箱越し。声はわかれども顔は見ていない。でも禰󠄀豆子ちゃんは、その一言でわかってくれた。つんめのりそうなほど勢いよく抱きついてくる。
「ム!」
「ありがとうのハグ?どういたしまして」
小さな頭を何度も撫でる。炭治郎、やっぱり禰󠄀豆子ちゃんちょうだい。あ、駄目か。けちけちけち。
「禰󠄀豆子ちゃん、早速なんだけど力を貸して欲しいの。
この縄ね、切ったら駄目な鬼の一部なの。皆が所持している切符も鬼の一部。禰󠄀豆子ちゃんは血鬼術で炎が出せるのよね?『全員のを全部丸ごと』燃やしちゃってくれる?」
「ムー!!」
大きく返事をした禰󠄀豆子ちゃんが手をかざす。ボゥ、なんて音じゃない。ゴォォォォという激しい音が間近に聞こえた。
「ありが……すでに燃え盛ってるーー!?思い切りがよすぎる!」
辺り一面火の海だ。
杏寿郎さん達火だるまじゃん火炙りじゃん中世魔女狩りもびっくり大火事大惨事。これが本物の炎じゃなくてよかった。
縄と切符だけが綺麗に燃えていく……。
「ムー、ムーゥ!」
「よ、よくできました……」
こんなにも勢いよくやってくれるとは思いもしなかった。『今まで』だって、ここまで凄くなかったし。胸を張る禰󠄀豆子ちゃんを、撫でる。
協力者諸君をまとめて縛り、藤のお守りをその懐に突っ込んでおく。目覚めて暴れられても困るし、ついでに目がすぐ覚めないようにしておこう。
意識がない中、意識を更に刈り取るよう、しっかり手刀を入れておく。……私の力強すぎて死んだりはしないよね?こういう時にしのぶ特製の眠り薬でもあれば最高なのに。
ちょいちょい。羽織の端を引かれる。禰󠄀豆子ちゃんが何か他にする事はない?と言っているようだ。
「他に?そうね……なかなか起きないと思うけど、皆を起こしてくれるかな?私は悪い鬼を退治しに行かなくちゃいけないからさ」
強く頷く彼女の頭を今一度撫で、その場を離れる。
あとは禰󠄀豆子ちゃんや、起きた人に任せよう。まあ、起きるためには自刃が必要になるようだけど……。
きっと、杏寿郎さんや炭治郎達なら大丈夫だ。
その確信を胸に、ひとり先頭車両へ向かう。
……屋根の上か。屋根の上に鬼がいる。
下弦の壱魘夢は果たして、先頭車両の屋根の上に立っていた。
「こんばんは。気持ちの良い月夜と風だよね」
燕尾服のような上着を風に遊ばせながら、前方を向く彼に声をかける。
振り向いてくれた魘夢は私の姿を認めると、ぱあと明るい笑顔を浮かべた。
「やっぱり眠らなかった鬼狩りは君かぁ!
また偽造の切符を使ったの〜?最初に会った時も偽造だったんでしょ。君ほんとやりたい放題だねぇ」
「女の子はあれもしたいこれもしたい欲張りな生き物なので」
「ふふ、でもそっかぁ……よかった、生きてたんだね。会えて嬉しいよ、稀血ちゃん」
「生きてたんだねって……アンタが川に落としたんでしょ、下弦の壱魘夢」
落ちるのも落とされるのも慣れているとはいえ、あれは少し怖かった。橋から川がありえないほど高すぎる!紐なしバンジー勘弁して。
「何故俺の名を?教えたっけ?」
「私に滅される鬼相手に答える義理はないね!炎の呼吸、参ノ型 気炎万象!!」
キョトンと顔を傾げるその首、刎ね飛ばしてくれる!!抜いた日輪刀を魘夢めがけて振りおろす。
が、その身を上手く翻し、私の肩を軸に飛び上がって避け、背後に回られた。
私は闘牛か何かか。
「速いねぇ。でもここにいる俺を倒したところで無駄だよ?」
「無駄?……なるほどそういうこと。でもお前の本体の頸が今どこにあるか、私は知ってる」
列車との融合には少し早い気はする。でも終わっているなら、頸のある場所に斬りに赴くのみ。
チャキ、炎煌めく刀身を見せつけるように構える。
「先ほどお前が立っていた場所。前方車両どころか、運転士のいる真下。分厚い鉄の床板下部分に、巣食うように巨大な頸が横になってるよね?まるで列車そのものが一人の鬼の体になったかのように」
「…………何故それを?」
「さあね、教えない。とりあえず目の前に鬼の形をしたものがいるだけで私は癪に障るので、その頸は落とさせてもらうよッ」
壱ノ型 不知火
炎の呼吸の基本にして、最速のこの技で魘夢の頸に狙い定める。
「ふーん。あの方が望むのは君の、何かを知っているようなその口ぶりや話が理由かな……」
刃がその頸に届く瞬間、魘夢が呟きながら飛んで、すれ違いざまに私の脇腹を蹴った。相変わらずすばしっこいし、なかなかに鋭い蹴りだ。
「稀血ちゃん。あの方が君を御所望だ。俺としては稀血である君を食べてしまいたいところなんだけどねぇ……」
「は、何言って……、」
両腕を広げる。
「大人しく捕まろうか?」
その背中から、そして私の足元から大量の触手が湧いて私に向かってきた。
私の!トラウマ!!
「ひぃ!!?」
というかあの方というのは鬼舞辻無惨か!
御所望って、つまり私を捕まえて連れて行くということ!?まさかとは思うけど、私が時間を『繰り返し』ている事に気づかれた?秘密がバレてしまった?
捕まれば敵の本拠地を知れるチャンスではあるけれども……でも。
「絶対に嫌!!雷の呼吸、参ノ型 聚蚊成雷!!」
空中で回転しながら四方八方斬り付けて逃れる。
奴が何のために私を必要としているかは知らない。でも単身乗り込むのも、連れて行かれるのも真っ平ごめんだ。
そこから逃げられる気が一つもしないし、鬼の首領の前にだなんて何をされるかわかったものじゃない。きっと死ぬより酷い目に遭う。
そして『二度と』杏寿郎さんに会えない。そんな気がする……。
「って、多すぎる!ちょちょちょ、こっち来ないで!?」
いなしてもいなしても、次から次に湧いて出る触手を、鳥肌を立てながら斬り刻む。
触手には嫌な思い出しかないのだ。特にこの、魘夢の触手には。
杏寿郎さんは反射的に破壊を阻止しようとしたのか、毎回侵入者の攻撃を防ぐような行動をする。けれどそれが『今回』も上手く行くとは限らない。いつだって危険や死ははすぐそばにある。
「禰󠄀豆子ちゃん、出てきてもらってもいい?」
座席に置いてある禰󠄀豆子ちゃんの箱に呼び掛ければ、しばしの沈黙の後、ギイイと音を立てて箱の蓋がゆっくり開いた。
ころん、と小さくて桃色の塊が中から転がり出てくる。
かわいい、うちの子にしたい。そう思った瞬間、頭の中の炭治郎に却下された。けち。
じっと見てくるその瞳。警戒されているのか、それともただ様子を窺っているのか。
御館様のところでちょっぴり私のことを見かけていてくれてたら嬉しい。あ、でも、あの時の禰󠄀豆子ちゃんはそれどころじゃなかったか。
「蝶屋敷でお花を渡したお姉さんですよ〜。わかるかな」
渡したといってもそれだって箱越し。声はわかれども顔は見ていない。でも禰󠄀豆子ちゃんは、その一言でわかってくれた。つんめのりそうなほど勢いよく抱きついてくる。
「ム!」
「ありがとうのハグ?どういたしまして」
小さな頭を何度も撫でる。炭治郎、やっぱり禰󠄀豆子ちゃんちょうだい。あ、駄目か。けちけちけち。
「禰󠄀豆子ちゃん、早速なんだけど力を貸して欲しいの。
この縄ね、切ったら駄目な鬼の一部なの。皆が所持している切符も鬼の一部。禰󠄀豆子ちゃんは血鬼術で炎が出せるのよね?『全員のを全部丸ごと』燃やしちゃってくれる?」
「ムー!!」
大きく返事をした禰󠄀豆子ちゃんが手をかざす。ボゥ、なんて音じゃない。ゴォォォォという激しい音が間近に聞こえた。
「ありが……すでに燃え盛ってるーー!?思い切りがよすぎる!」
辺り一面火の海だ。
杏寿郎さん達火だるまじゃん火炙りじゃん中世魔女狩りもびっくり大火事大惨事。これが本物の炎じゃなくてよかった。
縄と切符だけが綺麗に燃えていく……。
「ムー、ムーゥ!」
「よ、よくできました……」
こんなにも勢いよくやってくれるとは思いもしなかった。『今まで』だって、ここまで凄くなかったし。胸を張る禰󠄀豆子ちゃんを、撫でる。
協力者諸君をまとめて縛り、藤のお守りをその懐に突っ込んでおく。目覚めて暴れられても困るし、ついでに目がすぐ覚めないようにしておこう。
意識がない中、意識を更に刈り取るよう、しっかり手刀を入れておく。……私の力強すぎて死んだりはしないよね?こういう時にしのぶ特製の眠り薬でもあれば最高なのに。
ちょいちょい。羽織の端を引かれる。禰󠄀豆子ちゃんが何か他にする事はない?と言っているようだ。
「他に?そうね……なかなか起きないと思うけど、皆を起こしてくれるかな?私は悪い鬼を退治しに行かなくちゃいけないからさ」
強く頷く彼女の頭を今一度撫で、その場を離れる。
あとは禰󠄀豆子ちゃんや、起きた人に任せよう。まあ、起きるためには自刃が必要になるようだけど……。
きっと、杏寿郎さんや炭治郎達なら大丈夫だ。
その確信を胸に、ひとり先頭車両へ向かう。
……屋根の上か。屋根の上に鬼がいる。
下弦の壱魘夢は果たして、先頭車両の屋根の上に立っていた。
「こんばんは。気持ちの良い月夜と風だよね」
燕尾服のような上着を風に遊ばせながら、前方を向く彼に声をかける。
振り向いてくれた魘夢は私の姿を認めると、ぱあと明るい笑顔を浮かべた。
「やっぱり眠らなかった鬼狩りは君かぁ!
また偽造の切符を使ったの〜?最初に会った時も偽造だったんでしょ。君ほんとやりたい放題だねぇ」
「女の子はあれもしたいこれもしたい欲張りな生き物なので」
「ふふ、でもそっかぁ……よかった、生きてたんだね。会えて嬉しいよ、稀血ちゃん」
「生きてたんだねって……アンタが川に落としたんでしょ、下弦の壱魘夢」
落ちるのも落とされるのも慣れているとはいえ、あれは少し怖かった。橋から川がありえないほど高すぎる!紐なしバンジー勘弁して。
「何故俺の名を?教えたっけ?」
「私に滅される鬼相手に答える義理はないね!炎の呼吸、参ノ型 気炎万象!!」
キョトンと顔を傾げるその首、刎ね飛ばしてくれる!!抜いた日輪刀を魘夢めがけて振りおろす。
が、その身を上手く翻し、私の肩を軸に飛び上がって避け、背後に回られた。
私は闘牛か何かか。
「速いねぇ。でもここにいる俺を倒したところで無駄だよ?」
「無駄?……なるほどそういうこと。でもお前の本体の頸が今どこにあるか、私は知ってる」
列車との融合には少し早い気はする。でも終わっているなら、頸のある場所に斬りに赴くのみ。
チャキ、炎煌めく刀身を見せつけるように構える。
「先ほどお前が立っていた場所。前方車両どころか、運転士のいる真下。分厚い鉄の床板下部分に、巣食うように巨大な頸が横になってるよね?まるで列車そのものが一人の鬼の体になったかのように」
「…………何故それを?」
「さあね、教えない。とりあえず目の前に鬼の形をしたものがいるだけで私は癪に障るので、その頸は落とさせてもらうよッ」
壱ノ型 不知火
炎の呼吸の基本にして、最速のこの技で魘夢の頸に狙い定める。
「ふーん。あの方が望むのは君の、何かを知っているようなその口ぶりや話が理由かな……」
刃がその頸に届く瞬間、魘夢が呟きながら飛んで、すれ違いざまに私の脇腹を蹴った。相変わらずすばしっこいし、なかなかに鋭い蹴りだ。
「稀血ちゃん。あの方が君を御所望だ。俺としては稀血である君を食べてしまいたいところなんだけどねぇ……」
「は、何言って……、」
両腕を広げる。
「大人しく捕まろうか?」
その背中から、そして私の足元から大量の触手が湧いて私に向かってきた。
私の!トラウマ!!
「ひぃ!!?」
というかあの方というのは鬼舞辻無惨か!
御所望って、つまり私を捕まえて連れて行くということ!?まさかとは思うけど、私が時間を『繰り返し』ている事に気づかれた?秘密がバレてしまった?
捕まれば敵の本拠地を知れるチャンスではあるけれども……でも。
「絶対に嫌!!雷の呼吸、参ノ型 聚蚊成雷!!」
空中で回転しながら四方八方斬り付けて逃れる。
奴が何のために私を必要としているかは知らない。でも単身乗り込むのも、連れて行かれるのも真っ平ごめんだ。
そこから逃げられる気が一つもしないし、鬼の首領の前にだなんて何をされるかわかったものじゃない。きっと死ぬより酷い目に遭う。
そして『二度と』杏寿郎さんに会えない。そんな気がする……。
「って、多すぎる!ちょちょちょ、こっち来ないで!?」
いなしてもいなしても、次から次に湧いて出る触手を、鳥肌を立てながら斬り刻む。
触手には嫌な思い出しかないのだ。特にこの、魘夢の触手には。