五周目 伍
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伊之助が列車の速さに騒いでいる。外に出て並走し、競争がしたいと訴えて窓から身を乗り出している。
善逸が必死で止めているからいいけど、ホントこの子って危ない真似するよねぇ。
「危険だぞ」
「鬼が出るよ〜?」
鬼。の言葉を聞き、三人共がぴたりと止まる。
「え……」
「言っておくけど、鬼の出る任務地に向かっているわけじゃなくて、この汽車に鬼が出るんだからね。そこんとこ間違えないように」
「ど、どういうこと?」
血の気が引いた青い顔の善逸。そんなに怖がらなくとも、任務で鬼の元に行こうとしていたのは変わらないのだから、いつ鬼が出ようと平気なように心構えはしていて欲しい。
「短期間の内にこの汽車で四十名以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが、鬼は討伐できなかったのでな」
「うっ……その節は申し訳ありません」
「別に責めていない!朝緋は鬼の情報を持ち帰ってきただろう!上々だ!!」
違う。それは『幾度となく』見てきたから知っていた情報がほとんどだ。今回新しく得た情報なんてほぼゼロ。
「朝緋さんも行ったのですね」
「うん……何も出来ずに帰ってきたけどね」
私はいつも誰の役にも、何の役にも立たない木偶の坊だ。
「朝緋のような階級が比較的高い剣士すら狩れなかった鬼だからな。だから柱である俺が来た」
その言葉を皮切りに、嫌だ!降りる!と騒ぎ始める善逸。毎度変わらぬ反応に、苦笑して慰めること数分。
──来た。
扉の向こうから、私達を眠りの底に堕としに、鬼の協力者の車掌がやってきた。
杏寿郎さん、伊之助、善逸。そして炭治郎と、順繰りに切符に切り込みを入れられていく。
切れ込みを入れられた瞬間、席に体をふらふらともたれさせ、眠りに落ちていく姿が見えた。血鬼術切符を所持していた影響で、次々に眠っていく姿は双方には見えていなかったようだ。
「貴女の切符も……拝見いたします……」
相変わらず生気のない表情だこと。魘夢に願ったところで貴方の奥さんと娘さんは、現実には戻ってこないのに。
「はい、お願いします」
私の切符は他の人と違う。自分で偽造した、特別な物だ。杏寿郎さんには渡していない、自分の分だけだ。
何故って、魘夢には切符を切った瞬間に「あれ?眠らない子がいるようだね」とバレてしまうからだ。そうなるとここにいる隊士全員が眠らないというのはまずい。私一人くらいなら放置されるかもしれないけれど、全員となれば最悪協力者が殺されたり、乗客が今すぐ食われてらしまうかもしれない。
展開が変わり過ぎれば、救えるはずの命が救えない可能性も出てくる。
……杏寿郎さんがいなくなる未来だけは絶対に嫌だ。
バタフライエフェクトは気にしない、と思ったばかりだけれど、あまりにも大きく変え過ぎるのはよろしくない。
パチン。
私の切符を切る音が聞こえ、私は眠りに落ちるふりをした。
……車掌が走って戻って行くわね。
きっとその先に協力者に指示をしている魘夢がいるはず。だってこれから、血鬼術で作った縄を持たせて一団を向かわせるんでしょうから。
それは別に止めない。
こっそり後をつけて扉の隙間から其処を覗けば。
「うわ、鬼の手首が落ちてきた」
泣いて懇願する車掌の前に、魘夢の特徴である口のくっついた手首が落ちてきた。
こういうキャラクターが出てくるホラーコメディものの洋画あったよね。ホラーは苦手だけど、あれは観られる。だって面白いもの。
おねむり、と言葉を発した瞬間、車掌の体が崩れ落ちた。
おおっとそうだ、これはまた耳栓が活躍する時よね。今のは車掌にだけ向けられた血鬼術だけど、こっちにも飛んでくる可能性は高いから対策は練っておかなくては。ふー、危ない危ない。
奥に縄を繋いでくる協力者達が控えているのが見えた。
結核の子はこんなところで馬鹿な真似していないで、早く静養して欲しいものだ。
魘夢が協力者達にこれからの手順を説明している。
相手は鬼なのに、それも今なんて手首のお化け状態なのに、幸せな夢見たさに目の前が見えていない人間達は真剣に聞いている。そのままだと最終的に幸せな夢から一転、絶望の夢を見せられて鬼に食べられてしまうというに。
「俺はしばらく先頭車両から動けない」
とうとう、融合を開始するのだろうか。やはりこのおにの頸は前にあるのね。変なタイミングで邂逅したり、送り込んだ隊士を助けたりしてしまったので、『今回』のみ違う場所に移動していたらどうしようと思っていたから聞けてよかった。
今度は精神の核を破壊、という説明をしている。私が玉羊羹と言った物ね。桃色のやつ食べたいけど何味だっけ。
夢の中は無限ではなく夢を見ている者を中心に円形。夢の外にあるのは無意識領域。心の在り方は人それぞれで、人によって無意識領域の世界は全く違う景色が。世界が存在する……?
凄くファンタジック!なにそれ楽しそ……、じゃない。楽しんでどうする。
でも、杏寿郎さんの無意識領域かあ。夢も覗きたいしそこも覗きたい。どんな世界が広がっているのだろう。
ただ、一番気になるのは自分の無意識領域だ。とてつもなく変てこな世界な気がする。
そしてそこには精神の核というのがあって、それを破壊するように指示している。
破壊すると夢の持ち主が廃人になるそうだ。
廃人は困るので、断固拒否だね。
「ああそうそう。一人眠っていない鬼狩りがいるみたい。まあ、一人くらいならいいと思うけど……見つけたら教えてね」
ギクリ。
私の事だ。まだ融合がきちんと始まっていないから、私の居場所までは把握できてなさそうだ。今もバレてない……多分。
協力者達が移動するみたいなので、私も慌てて戻った。
隠れながら眺めていると、強力者達が杏寿郎さん、炭治郎、善逸、伊之助の手首と自分の手首を縄で繋いでいるのが目に入る。魘夢の血鬼術の縄……改めて見ると神様の元に祀られているようなしめ縄のような見た目で、でも禍々しい雰囲気を纏っている。
彼らはゆっくり、ゆっくり呼吸して────
「あっ寝た」
その場にいる者が眠りに落ちたのを確認する。その際つい、座席の陰から声を出してしまった。
「!?お前が眠ってないや……つ、ぅー」
「そうね。私は眠ってません」
大声を出される前に、男性の意識を刈り取る。
一人忘れていた。
本来は私と繋がる予定だった人ね。悪いけどもう、貴方の改心を待つ時間はないけどきっと、自分で立ち直れると信じてる。
人間は弱く儚く脆い。それと同時にとても強い生き物だから。
「杏寿郎さん……」
杏寿郎さんの頬を両の手で挟み、その額にぴとりと自らの額を合わせる。起きている時にこんなことをすれば確実にキスで応えられてしまうだろうね。
……貴方は今一体どんな夢を見ているの。
『前』に聞いたような夢かな。私はまた出ているの?その夢は幸せな物?
本当は私も夢が見たい。貴方とずっと一緒にいられる幸せな夢。魘夢が見せる幸せな夢にこの身を委ねてしまいたい……。
車掌さんのこと言えないね。
「でも最後に絶望の夢を見せるんだっけか。それは要らないかも」
善逸が必死で止めているからいいけど、ホントこの子って危ない真似するよねぇ。
「危険だぞ」
「鬼が出るよ〜?」
鬼。の言葉を聞き、三人共がぴたりと止まる。
「え……」
「言っておくけど、鬼の出る任務地に向かっているわけじゃなくて、この汽車に鬼が出るんだからね。そこんとこ間違えないように」
「ど、どういうこと?」
血の気が引いた青い顔の善逸。そんなに怖がらなくとも、任務で鬼の元に行こうとしていたのは変わらないのだから、いつ鬼が出ようと平気なように心構えはしていて欲しい。
「短期間の内にこの汽車で四十名以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが、鬼は討伐できなかったのでな」
「うっ……その節は申し訳ありません」
「別に責めていない!朝緋は鬼の情報を持ち帰ってきただろう!上々だ!!」
違う。それは『幾度となく』見てきたから知っていた情報がほとんどだ。今回新しく得た情報なんてほぼゼロ。
「朝緋さんも行ったのですね」
「うん……何も出来ずに帰ってきたけどね」
私はいつも誰の役にも、何の役にも立たない木偶の坊だ。
「朝緋のような階級が比較的高い剣士すら狩れなかった鬼だからな。だから柱である俺が来た」
その言葉を皮切りに、嫌だ!降りる!と騒ぎ始める善逸。毎度変わらぬ反応に、苦笑して慰めること数分。
──来た。
扉の向こうから、私達を眠りの底に堕としに、鬼の協力者の車掌がやってきた。
杏寿郎さん、伊之助、善逸。そして炭治郎と、順繰りに切符に切り込みを入れられていく。
切れ込みを入れられた瞬間、席に体をふらふらともたれさせ、眠りに落ちていく姿が見えた。血鬼術切符を所持していた影響で、次々に眠っていく姿は双方には見えていなかったようだ。
「貴女の切符も……拝見いたします……」
相変わらず生気のない表情だこと。魘夢に願ったところで貴方の奥さんと娘さんは、現実には戻ってこないのに。
「はい、お願いします」
私の切符は他の人と違う。自分で偽造した、特別な物だ。杏寿郎さんには渡していない、自分の分だけだ。
何故って、魘夢には切符を切った瞬間に「あれ?眠らない子がいるようだね」とバレてしまうからだ。そうなるとここにいる隊士全員が眠らないというのはまずい。私一人くらいなら放置されるかもしれないけれど、全員となれば最悪協力者が殺されたり、乗客が今すぐ食われてらしまうかもしれない。
展開が変わり過ぎれば、救えるはずの命が救えない可能性も出てくる。
……杏寿郎さんがいなくなる未来だけは絶対に嫌だ。
バタフライエフェクトは気にしない、と思ったばかりだけれど、あまりにも大きく変え過ぎるのはよろしくない。
パチン。
私の切符を切る音が聞こえ、私は眠りに落ちるふりをした。
……車掌が走って戻って行くわね。
きっとその先に協力者に指示をしている魘夢がいるはず。だってこれから、血鬼術で作った縄を持たせて一団を向かわせるんでしょうから。
それは別に止めない。
こっそり後をつけて扉の隙間から其処を覗けば。
「うわ、鬼の手首が落ちてきた」
泣いて懇願する車掌の前に、魘夢の特徴である口のくっついた手首が落ちてきた。
こういうキャラクターが出てくるホラーコメディものの洋画あったよね。ホラーは苦手だけど、あれは観られる。だって面白いもの。
おねむり、と言葉を発した瞬間、車掌の体が崩れ落ちた。
おおっとそうだ、これはまた耳栓が活躍する時よね。今のは車掌にだけ向けられた血鬼術だけど、こっちにも飛んでくる可能性は高いから対策は練っておかなくては。ふー、危ない危ない。
奥に縄を繋いでくる協力者達が控えているのが見えた。
結核の子はこんなところで馬鹿な真似していないで、早く静養して欲しいものだ。
魘夢が協力者達にこれからの手順を説明している。
相手は鬼なのに、それも今なんて手首のお化け状態なのに、幸せな夢見たさに目の前が見えていない人間達は真剣に聞いている。そのままだと最終的に幸せな夢から一転、絶望の夢を見せられて鬼に食べられてしまうというに。
「俺はしばらく先頭車両から動けない」
とうとう、融合を開始するのだろうか。やはりこのおにの頸は前にあるのね。変なタイミングで邂逅したり、送り込んだ隊士を助けたりしてしまったので、『今回』のみ違う場所に移動していたらどうしようと思っていたから聞けてよかった。
今度は精神の核を破壊、という説明をしている。私が玉羊羹と言った物ね。桃色のやつ食べたいけど何味だっけ。
夢の中は無限ではなく夢を見ている者を中心に円形。夢の外にあるのは無意識領域。心の在り方は人それぞれで、人によって無意識領域の世界は全く違う景色が。世界が存在する……?
凄くファンタジック!なにそれ楽しそ……、じゃない。楽しんでどうする。
でも、杏寿郎さんの無意識領域かあ。夢も覗きたいしそこも覗きたい。どんな世界が広がっているのだろう。
ただ、一番気になるのは自分の無意識領域だ。とてつもなく変てこな世界な気がする。
そしてそこには精神の核というのがあって、それを破壊するように指示している。
破壊すると夢の持ち主が廃人になるそうだ。
廃人は困るので、断固拒否だね。
「ああそうそう。一人眠っていない鬼狩りがいるみたい。まあ、一人くらいならいいと思うけど……見つけたら教えてね」
ギクリ。
私の事だ。まだ融合がきちんと始まっていないから、私の居場所までは把握できてなさそうだ。今もバレてない……多分。
協力者達が移動するみたいなので、私も慌てて戻った。
隠れながら眺めていると、強力者達が杏寿郎さん、炭治郎、善逸、伊之助の手首と自分の手首を縄で繋いでいるのが目に入る。魘夢の血鬼術の縄……改めて見ると神様の元に祀られているようなしめ縄のような見た目で、でも禍々しい雰囲気を纏っている。
彼らはゆっくり、ゆっくり呼吸して────
「あっ寝た」
その場にいる者が眠りに落ちたのを確認する。その際つい、座席の陰から声を出してしまった。
「!?お前が眠ってないや……つ、ぅー」
「そうね。私は眠ってません」
大声を出される前に、男性の意識を刈り取る。
一人忘れていた。
本来は私と繋がる予定だった人ね。悪いけどもう、貴方の改心を待つ時間はないけどきっと、自分で立ち直れると信じてる。
人間は弱く儚く脆い。それと同時にとても強い生き物だから。
「杏寿郎さん……」
杏寿郎さんの頬を両の手で挟み、その額にぴとりと自らの額を合わせる。起きている時にこんなことをすれば確実にキスで応えられてしまうだろうね。
……貴方は今一体どんな夢を見ているの。
『前』に聞いたような夢かな。私はまた出ているの?その夢は幸せな物?
本当は私も夢が見たい。貴方とずっと一緒にいられる幸せな夢。魘夢が見せる幸せな夢にこの身を委ねてしまいたい……。
車掌さんのこと言えないね。
「でも最後に絶望の夢を見せるんだっけか。それは要らないかも」