五周目 伍
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杏寿郎さんの仕置きという魔の手からは無事に逃れ、私達は今、無限列車があるという整備工場の方まで足を運んでいた。
覗いてみれば、列車の顔というべき車両が真正面にデン!と構えていた。
微かだけど、そこに漂うのは鬼の気配。杏寿郎さんも気づいたようで、二人、目を見合わせる。
下弦の壱、魘夢……。やはり今は無限列車の中にも周囲にもいない。
違う列車に隠れているのかも。
魘夢は人間の時に何かあったのか、無限列車に何かしらの拘りがあるようにも見えたから、必ずこの列車にやってくるはず。
明日の運行時に駅に運ぶ際にでも乗ってくるのかもしれないし、ここで張っていればあるいは……。
いや、それでもバレないように乗ってくるだろうな。乗り移る瞬間を見つけられる自信がない。あの鬼は多少回りくどくなろうと、巧妙に鬼殺隊から隠れて動く。
眺めていれば、ここの親方が関係者以外立ち入り禁止だと声をかけてきた。
杏寿郎さんは『以前』同様に、お弁当を届けにきた鉄道管理局の者だと嘘をつく。親方の視線がちらと、私にも向いたので。
「右に同じく〜」
と、そう返して笑っておいた。どんな時も笑顔大事。
お弁当を配りながら奥を探る。ああ、下弦の壱と違う鬼の気配が漂ってきている。杏寿郎さんはかろうじてまだ気がついていない。
このあとここの人がお弁当を奥の詰め所に持って行くことになるのよね。そしてそこで鬼に捕らわれた子を見つける、と。
他の人を怖がらせるのはしのびない。ならば私が先に動こう。
「奥の人にもお弁当届けておきますね」
「朝緋……?」
その際、杏寿郎さんが何故奥にも人がいると知っている、と怪訝な顔をしたけれど無視した。
詰め所の中に忍び込むと、ちょうど男の子が鬼に捕まった瞬間だった。傷はついているが、まだ爪は深く食い込んでいない。
上弦の参と似たような刺青があるけれど、これ、罪人の証に似ている気がする。この鬼も、猗窩座も元罪人なのかしら。
もぐ、と牛鍋弁当を食べながら考察する。んー、美味しい。
「ん、なんだこの匂い……くせぇな」
私がいる事より先にお弁当の匂いに気がつくとはね。この鬼も炭治郎と同じように嗅覚が鋭いのかも。
いや、あんなかわいい炭治郎と一緒にしちゃ駄目ね。
「いい匂いでしょ。駅のかわいいお弁当屋さんが売ってくれた牛鍋弁当よ。んー、また買いに行かなくっちゃね。挨拶したいし」
「!?」
背後で呑気にお弁当を食べている私に、鬼がようやく気付いた。
実は、持ってきたのは自分で食べる分だというね。だって、全部ここの人に食べられちゃうの悲しかったんだもの。私も食べたい今食べたい。あんぱんだって私は食べられなかったし?
あらやだ私、まだ言ってる。食い意地張っててごめんなさい。
「鬼狩り……!いつ、ここに……」
「気がつくの遅くない?少年、君の分も表にあるからあとで食べてね」
「あ、あ……た、助けて」
にっこり笑うも、少年はそれどころではない。助けを求めている。
目だけで『助ける』と訴え、鬼に向き直る。
「……ねぇ、その子を離してくれないかな?」
「嫌だね、こいつは不味そうだからな。不味そうな人間は夜通し傷つけて楽しむんだ」
爪が食い込まんと力入れられる。少年の服に血が滲んでいく。
「待ちなさい。それ以上その子を傷をつけたら許さないよ。ほら、その場所を代わってあげるから、私を傷つけて楽しめば?」
「ふむ、お前も不味そうだもんなぁ。鬼狩り」
「不味そう?ほんとーに?」
鬼の顔を覗き込むかのように聞く。
「稀血だから私の方が美味しいし、この場にはもう一人貴方達のだぁいきらいな鬼狩りがいるのよ。それも柱。私はその柱の好いた人だけどどうする?柱に目にもの見せたくなーい?」
「稀血……確かにお前の匂いは稀血だ……それに柱……」
稀血とわかり、ごくりと喉を鳴らす。あと一息。
「私みたいな恋仲の人質でもいないと、柱には対抗できないよ?君みたいな鬼はすぐに頸をすぱんと斬られちゃうだろうねー?」
「……その刀を置け。それからこっちに来い!」
「はいはい、交渉成立ね」
日輪刀を一振り、足元に置いて少年と場所を変わる。鬼が私を拘束してきた。
……うっ杏寿郎さん以外に、それも鬼に触れられるなんて。気持ち悪さに鳥肌が立つ。
逃げなさい。口の動きだけで伝えれば、扉を開けて少年が出ていった。
「んー。稀血なら別だ。そのまま連れてって食っちまおう……」
「!?」
ゲッそれは困る。まあ、対抗手段なんていくらでもあるけど。
「わあこわーい。助けて愛する柱の人ー。
私を柱の目の前で食べるのだけはやめてー。愛する人に見られながら食べられるのは嫌だー」
「よし、柱の目の前で食ってやる!」
棒読みでして欲しくない事を言えば、鬼はニンマリ笑ってから、少年が出ていった扉に向かった。
「少年から聞いた、鬼がいたとはな……って、朝緋!?何故、鬼に捕まっている!!」
鬼の存在を認めた杏寿郎さんが、鬼の腕の中に収まる私を見てぎょっとしている。そりゃそうよね、いなくなったと思ったら鬼と一緒に来るんだもの。逃げようと思えば逃げられるような私がだ。
「きゃー助けて杏寿郎さーん。捕まっちゃったよー。わーん」
これも棒読み。
「……日輪刀はどうした」
「置いてきた!」
「はあ……」
深いため息ひとつ。ちょっと、捕まってるってんのにため息って少し酷くない?
「す、すみません、あの女の人は自分の身代わりになって……」
私の前に捕まっていた少年がおろおろしている。君は怪我をしてるんだから、大人しくしてほしいな。
「早くその子の手当てを手配してあげて〜。鬼にやられて怪我してるの」
「ああ、わかった。君はあちらに」
多分、医療班やここいら担当の隊士を呼ぶため、すでに要が手配に飛んでいるはずだ。他の整備士同様にここから離れてもらうだけでいい。他の整備士や親方もこの場から離れて固唾を飲んで見守っているのが遠く見えた。
「さて、彼女を放してもらおうか」
「嫌だ。この女はお前の大事な女なんだろう?そして稀血なんだろう?
お前、柱なんだってな。大切な女が目の前で犯されたら?喰われたらどんな顔をするんだあ?」
犯されることも喰われることもまずありえない。それがわかっていようとも、その言葉は杏寿郎さんの逆鱗に触れたようだ。
ピクピク震えるこめかみに青筋が浮き、その背後にはめらりと燃える怒りの炎が見えている。
「確かに彼女は俺の大切な人だ。……俺の目の前でなんだって?犯す?喰らうだと?それ以上俺の朝緋に触れるな!不愉快だ!!」
「こっちは愉快……、」
「斬る!!!!」
ゴッッッ!!
熱く猛り狂った炎虎が飛んできて、鬼の側面をわずかに抉った。私の顔スレスレやん。
「うぎゃあ!?」
「え、こわ」
「フウウウウ……ああ、怒りのせいで手元が狂って外れてしまったではないか。朝緋、決して動くなよ。今からその鬼の頸を細切れにするからなぁ……」
ゆらり、怒り狂う虎の王がすぐそこに立っている。炎の呼吸が、口から本当に炎として現れて見えた。
「え、え、こわ」
斬られて怒っている鬼より怖い。もう遊んでられない。元々遊んではいないけどさ。
「次も斬る!!!!」
「わぁぁぁ!杏寿郎さ、師範ちょっと待ってお願いだから!水の呼吸陸ノ型ねじれ渦!!」
素早く懐から二本目の刀を取り出し、体を捻りながら周囲を斬り裂く技で抜け出す。
ギャリギャリギャリ!!高速で振り抜いた私の刃が、鬼の体を何度も斬りつけ、そして私は勢いをつけて逃れる。
「ギャア!?」
「ひ……引っかかったーやーいやーい!私には日輪刀が二本あるのでーす!!」
「てめっ……騙したな」
杏寿郎さんに鬼ごと斬られる前にできてよかったぁ……。鬼より怖い、私の貴方。
「…………朝緋……」
あっやばい。怒りがこっち向いた。杏寿郎さん、まだ怖い人のままだった!
「君がそうやって逃げられるのは知っていたぞ!何故さっさとやらないのだ!!」
「あっ、ご、ごめん……!ほらそれより今は鬼!」
「む、……あとで覚えておけ」
いいえ覚えておきません。
覗いてみれば、列車の顔というべき車両が真正面にデン!と構えていた。
微かだけど、そこに漂うのは鬼の気配。杏寿郎さんも気づいたようで、二人、目を見合わせる。
下弦の壱、魘夢……。やはり今は無限列車の中にも周囲にもいない。
違う列車に隠れているのかも。
魘夢は人間の時に何かあったのか、無限列車に何かしらの拘りがあるようにも見えたから、必ずこの列車にやってくるはず。
明日の運行時に駅に運ぶ際にでも乗ってくるのかもしれないし、ここで張っていればあるいは……。
いや、それでもバレないように乗ってくるだろうな。乗り移る瞬間を見つけられる自信がない。あの鬼は多少回りくどくなろうと、巧妙に鬼殺隊から隠れて動く。
眺めていれば、ここの親方が関係者以外立ち入り禁止だと声をかけてきた。
杏寿郎さんは『以前』同様に、お弁当を届けにきた鉄道管理局の者だと嘘をつく。親方の視線がちらと、私にも向いたので。
「右に同じく〜」
と、そう返して笑っておいた。どんな時も笑顔大事。
お弁当を配りながら奥を探る。ああ、下弦の壱と違う鬼の気配が漂ってきている。杏寿郎さんはかろうじてまだ気がついていない。
このあとここの人がお弁当を奥の詰め所に持って行くことになるのよね。そしてそこで鬼に捕らわれた子を見つける、と。
他の人を怖がらせるのはしのびない。ならば私が先に動こう。
「奥の人にもお弁当届けておきますね」
「朝緋……?」
その際、杏寿郎さんが何故奥にも人がいると知っている、と怪訝な顔をしたけれど無視した。
詰め所の中に忍び込むと、ちょうど男の子が鬼に捕まった瞬間だった。傷はついているが、まだ爪は深く食い込んでいない。
上弦の参と似たような刺青があるけれど、これ、罪人の証に似ている気がする。この鬼も、猗窩座も元罪人なのかしら。
もぐ、と牛鍋弁当を食べながら考察する。んー、美味しい。
「ん、なんだこの匂い……くせぇな」
私がいる事より先にお弁当の匂いに気がつくとはね。この鬼も炭治郎と同じように嗅覚が鋭いのかも。
いや、あんなかわいい炭治郎と一緒にしちゃ駄目ね。
「いい匂いでしょ。駅のかわいいお弁当屋さんが売ってくれた牛鍋弁当よ。んー、また買いに行かなくっちゃね。挨拶したいし」
「!?」
背後で呑気にお弁当を食べている私に、鬼がようやく気付いた。
実は、持ってきたのは自分で食べる分だというね。だって、全部ここの人に食べられちゃうの悲しかったんだもの。私も食べたい今食べたい。あんぱんだって私は食べられなかったし?
あらやだ私、まだ言ってる。食い意地張っててごめんなさい。
「鬼狩り……!いつ、ここに……」
「気がつくの遅くない?少年、君の分も表にあるからあとで食べてね」
「あ、あ……た、助けて」
にっこり笑うも、少年はそれどころではない。助けを求めている。
目だけで『助ける』と訴え、鬼に向き直る。
「……ねぇ、その子を離してくれないかな?」
「嫌だね、こいつは不味そうだからな。不味そうな人間は夜通し傷つけて楽しむんだ」
爪が食い込まんと力入れられる。少年の服に血が滲んでいく。
「待ちなさい。それ以上その子を傷をつけたら許さないよ。ほら、その場所を代わってあげるから、私を傷つけて楽しめば?」
「ふむ、お前も不味そうだもんなぁ。鬼狩り」
「不味そう?ほんとーに?」
鬼の顔を覗き込むかのように聞く。
「稀血だから私の方が美味しいし、この場にはもう一人貴方達のだぁいきらいな鬼狩りがいるのよ。それも柱。私はその柱の好いた人だけどどうする?柱に目にもの見せたくなーい?」
「稀血……確かにお前の匂いは稀血だ……それに柱……」
稀血とわかり、ごくりと喉を鳴らす。あと一息。
「私みたいな恋仲の人質でもいないと、柱には対抗できないよ?君みたいな鬼はすぐに頸をすぱんと斬られちゃうだろうねー?」
「……その刀を置け。それからこっちに来い!」
「はいはい、交渉成立ね」
日輪刀を一振り、足元に置いて少年と場所を変わる。鬼が私を拘束してきた。
……うっ杏寿郎さん以外に、それも鬼に触れられるなんて。気持ち悪さに鳥肌が立つ。
逃げなさい。口の動きだけで伝えれば、扉を開けて少年が出ていった。
「んー。稀血なら別だ。そのまま連れてって食っちまおう……」
「!?」
ゲッそれは困る。まあ、対抗手段なんていくらでもあるけど。
「わあこわーい。助けて愛する柱の人ー。
私を柱の目の前で食べるのだけはやめてー。愛する人に見られながら食べられるのは嫌だー」
「よし、柱の目の前で食ってやる!」
棒読みでして欲しくない事を言えば、鬼はニンマリ笑ってから、少年が出ていった扉に向かった。
「少年から聞いた、鬼がいたとはな……って、朝緋!?何故、鬼に捕まっている!!」
鬼の存在を認めた杏寿郎さんが、鬼の腕の中に収まる私を見てぎょっとしている。そりゃそうよね、いなくなったと思ったら鬼と一緒に来るんだもの。逃げようと思えば逃げられるような私がだ。
「きゃー助けて杏寿郎さーん。捕まっちゃったよー。わーん」
これも棒読み。
「……日輪刀はどうした」
「置いてきた!」
「はあ……」
深いため息ひとつ。ちょっと、捕まってるってんのにため息って少し酷くない?
「す、すみません、あの女の人は自分の身代わりになって……」
私の前に捕まっていた少年がおろおろしている。君は怪我をしてるんだから、大人しくしてほしいな。
「早くその子の手当てを手配してあげて〜。鬼にやられて怪我してるの」
「ああ、わかった。君はあちらに」
多分、医療班やここいら担当の隊士を呼ぶため、すでに要が手配に飛んでいるはずだ。他の整備士同様にここから離れてもらうだけでいい。他の整備士や親方もこの場から離れて固唾を飲んで見守っているのが遠く見えた。
「さて、彼女を放してもらおうか」
「嫌だ。この女はお前の大事な女なんだろう?そして稀血なんだろう?
お前、柱なんだってな。大切な女が目の前で犯されたら?喰われたらどんな顔をするんだあ?」
犯されることも喰われることもまずありえない。それがわかっていようとも、その言葉は杏寿郎さんの逆鱗に触れたようだ。
ピクピク震えるこめかみに青筋が浮き、その背後にはめらりと燃える怒りの炎が見えている。
「確かに彼女は俺の大切な人だ。……俺の目の前でなんだって?犯す?喰らうだと?それ以上俺の朝緋に触れるな!不愉快だ!!」
「こっちは愉快……、」
「斬る!!!!」
ゴッッッ!!
熱く猛り狂った炎虎が飛んできて、鬼の側面をわずかに抉った。私の顔スレスレやん。
「うぎゃあ!?」
「え、こわ」
「フウウウウ……ああ、怒りのせいで手元が狂って外れてしまったではないか。朝緋、決して動くなよ。今からその鬼の頸を細切れにするからなぁ……」
ゆらり、怒り狂う虎の王がすぐそこに立っている。炎の呼吸が、口から本当に炎として現れて見えた。
「え、え、こわ」
斬られて怒っている鬼より怖い。もう遊んでられない。元々遊んではいないけどさ。
「次も斬る!!!!」
「わぁぁぁ!杏寿郎さ、師範ちょっと待ってお願いだから!水の呼吸陸ノ型ねじれ渦!!」
素早く懐から二本目の刀を取り出し、体を捻りながら周囲を斬り裂く技で抜け出す。
ギャリギャリギャリ!!高速で振り抜いた私の刃が、鬼の体を何度も斬りつけ、そして私は勢いをつけて逃れる。
「ギャア!?」
「ひ……引っかかったーやーいやーい!私には日輪刀が二本あるのでーす!!」
「てめっ……騙したな」
杏寿郎さんに鬼ごと斬られる前にできてよかったぁ……。鬼より怖い、私の貴方。
「…………朝緋……」
あっやばい。怒りがこっち向いた。杏寿郎さん、まだ怖い人のままだった!
「君がそうやって逃げられるのは知っていたぞ!何故さっさとやらないのだ!!」
「あっ、ご、ごめん……!ほらそれより今は鬼!」
「む、……あとで覚えておけ」
いいえ覚えておきません。