五周目 伍
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「列車に巣食う鬼と言っても、件の無限列車は運行中止になっているようだな」
運行中止……確か機関庫に移動したんだっけ。今の時点で私が知っているのはおかしいから言わないけれどね。……ああでも結局機関庫からも移動して、整備工場に運ばれてしまうのよね。
……その間魘夢はどこにいるんだろう。それを見つけられれば頸を落とすのも、太陽の光に当てて滅するのも簡単な気がする。
考え込んでいれば、手を引かれた。
「よし、まずは沿線上を見て回ろう。この付近では切り裂き魔というのも出没しているようだからな。
鬼ならば頸を落とす。鬼でなくただの殺人者ならば、捕らえて警察に引き渡す。我々は鬼相手からでなくとも、人々を悪きものより守るのが使命だからな!」
切り裂き魔……魘夢が隠れ蓑にしていた鬼だ。
「殺人者じゃなくて、鬼だと思いますよ」
「朝緋は何故わかる?」
うぇっ!何故って聞かれちゃった。ええーと、あっ!!ちょうどいいところに、探し人の掲示板があった。
「ほら、町の掲示板に載っている探し人の紙。
無限列車での行方不明者を除いてみても、列車だけじゃなくて町中で切り裂き行為がある。そしてその近くには必ずといっていいほど行方不明者もいますでしょう?人を食べている証拠かと」
「なるほどな」
駅の車掌さんがやられた話も新聞に書かれ、切り抜きで貼り付けられている。切り裂き魔の最初の犠牲者だ。
前はこの鬼自体を早めに滅したから、車掌さんも、そのあとの犠牲者も、整備工場の人もふくちゃん達も鬼により傷つけられず、鬼の存在も知らずにいられた。
車掌さんは私くらいの娘さんがいると言っていたっけ。助けてあげられなくてごめんなさい。
「……貼ってあるのは物騒な話題ばかりだ。早く頸を落として夜も安心して歩けるようにせねばな」
「ええ、本当に……」
鬼の情報を探して奔走し続け、夜になった。逃げ足の速いあの鬼も、空腹でそろそろ出てくる時間かな。
ああ、この月の形……今夜だ。
確かあの時、あちらのあたりで女性が鬼に傷つけられていたは、……ず?
「きゃああああっ!」
女性の甲高い悲鳴が響く。
「!?朝緋、いくぞ!」
「はいっ」
しまった、遅かった。
私はいつも判断も行動も何もかもが遅い。きっとこの先も、私の判断が遅くて最悪の結果を生んでしまうんだ。
「鬼はどこに……!」
連れている隠と共に杏寿郎さんと現場に急行する途中、濃紺の羽織を纏ったあの隊士が私達に合流し、並んだ。
「君は……この任務を共にする調査班の隊士だな!」
「炎柱と継子の朝緋さんですね!他の任務に行っていましたので自分は今からの参加です!」
「そうか、お疲れ様だ!」
挨拶しながら急げば、足に視線を感じる。杏寿郎さんがご自分の体で私の足が見えるのを遮った。
私の生足を見せたくないなら、最初っから短いスカートの隊服を作らせないでよね。毎回、隊士や人からの視線が集中してキツいんだから。
現場へ到着すれば、鬼は逃走した後だった。
負傷した女性は……怪我はひどいが傷は比較的浅い。
『以前』同様に傷も残らず治るだろうと思う。
治るよね?ね?医療班の皆様、頼みまーす!
杏寿郎さん、隊士と共にあたりを見回す。警戒を怠らない二人と離れ、私は一人少し遠くまで駆けて見てきたけれどやっぱりいない。
あの速さで足早にどこかに去ったのね。ここにはもう、用はないと踏んで。
「鬼の気配は色濃く残っているが、もうこの近くにはいないのだな?」
「気配の濃い場所を捜索しましたがそのようでした。ほんと、逃げ足の速いやつ……!」
次に現れるのは、多分明日の夜。整備工場ということになる。
「自分は女性の方に付き添ってきます。その後、列車の調査に赴きます」
「うむ!頼んだ!!
俺達は鬼の痕跡を引き続き調べる。詳細は鎹烏で知らせるからあとで落ち合おう」
「はい!」
一晩、情報を集めてみたけれど、大した成果は得られず終わった。わかったことと言えば『以前』と変わらぬことばかり。
助かった被害者からの話は多々得られたのでよしとしよう。その結果でだけど、元々鬼になる前から善人とはあまり言えない人間が、鬼になったのかも……とは思った。
鬼舞辻無惨も、基本的には悪い人を中心に鬼にしてるのかしら。基準がわからないし、鬼の首領の考えなんて分かりたくもない。
それにしても、音速を誇ると豪語するだけあって、行動範囲広いな……。この沿線上からはみ出てるじゃないのさ。おかげでお昼どころか、三時のおやつ休憩まで潰れてしまった!朝はかろうじて食べられたからいいという問題ではない。私も杏寿郎さんも腹っぺらしなのだ。
ううう、おなかすいたよー。
あっ!あのお蕎麦屋さんは!!
「師範。少し遅くなりましたが、お食事にしませんか」
「そうだな、何か食べよう!」
「ならそこで。ぜひそこで。絶対そこで。そこのお蕎麦屋さんで」
杏寿郎さんの背中を押し、そして指さして蕎麦屋を猛プッシュ。私の目はお蕎麦色に染まり、胃袋はお蕎麦を待ち侘びている。
「なんだすぐそこに蕎麦屋があったのか!やけにぐいぐい勧めてくるなぁ!……ふむ、二階はないようだな」
二階って……この助平柱が。
「残念そうにしないでくれます?ここのお蕎麦、とっても美味しいんですから」
「来たことがあるのか?この沿線上に?」
「に、任務でちょろっと……」
「ふぅん?」
じっと見つめられて目が泳いだ。
店に入れば相変わらずの閑古鳥。店員も店主以外はおらず、お客さんも私達の他に寝入っている一人のみ。
これは鬼のせいだから仕方ない。
「さて、何にするか「天ぷらそば!私天ぷらそばがいい!お皿に別添えで!!」……決めるのが早いな朝緋」
「もう初めからこれだ!って決めていたので」
前に杏寿郎さんがサービスでかき揚げをいただいているのを見てから、サクサクジュワッとしたかき揚げや天ぷらが食べたくてたまらなかったのよね。あれ、ずるすぎる。
「俺はかけ蕎麦を三杯頼もう」
「天ぷらそばに、かけ蕎麦三杯ね。あいよ」
先に届いた杏寿郎さんのお蕎麦。伸びてしまうと美味しさが半減するのでお先食べてもらう。ずるずるずる〜!一口目から小気味良い蕎麦を啜る音と、いつもの言葉。
「美味い!美味い!美味い!!」
「今日も美味いが炸裂してますね、いい食べっぷり!よっ!さすが炎柱!!」
「ははは!美味いから美味いと声が出てしまうだけだぞ!」
杏寿郎さんの二杯目が届くと同時、私にも揚げたて熱々の天ぷらつきお蕎麦が届いた。
「届いた届いた。ひゃー、美味しそう!いただきます」
サクッ!!ずるるっ、サクサクッッ!
「あ〜美味しい〜サクサク〜じゅわ〜お蕎麦つるしこ〜しみる〜んまい〜〜」
お腹の中からほこほこして力が湧いてくる。贅沢にも海老天も鶏かしわ天も乗ってる。お茄子と獅子唐、蓮根、他にもあって超豪華!誰かさんが喜びそうな芋の天ぷらも乗ってる。あげないけど。
「美味そうだな……どれ」
お箸が全集中の呼吸。シュバッと芋天が私の皿から消え、杏寿郎さんの口の中に消えていく。
「あっ私の芋天!?」
「うむ、ほくほくわっしょいな味だ!やはり芋は美味いな!!」
「……杏寿郎さん知ってます?食べ物の恨みは海より深いんですよ」
「芋天くらいで心の狭い」
「狭くて結構。絶対恨む〜!」
「ふふふ、恨んでごらん。痛くも痒くもないぞ。朝緋の恨みは布団の中で、朝緋ごとこの腹に全て収めてみせようなぁ?」
「まっ!やらしい。ここは人間でなく食べ物を食べるところですよ」
スルスルと伸びてきた指をぺちん!と弾き返した。
運行中止……確か機関庫に移動したんだっけ。今の時点で私が知っているのはおかしいから言わないけれどね。……ああでも結局機関庫からも移動して、整備工場に運ばれてしまうのよね。
……その間魘夢はどこにいるんだろう。それを見つけられれば頸を落とすのも、太陽の光に当てて滅するのも簡単な気がする。
考え込んでいれば、手を引かれた。
「よし、まずは沿線上を見て回ろう。この付近では切り裂き魔というのも出没しているようだからな。
鬼ならば頸を落とす。鬼でなくただの殺人者ならば、捕らえて警察に引き渡す。我々は鬼相手からでなくとも、人々を悪きものより守るのが使命だからな!」
切り裂き魔……魘夢が隠れ蓑にしていた鬼だ。
「殺人者じゃなくて、鬼だと思いますよ」
「朝緋は何故わかる?」
うぇっ!何故って聞かれちゃった。ええーと、あっ!!ちょうどいいところに、探し人の掲示板があった。
「ほら、町の掲示板に載っている探し人の紙。
無限列車での行方不明者を除いてみても、列車だけじゃなくて町中で切り裂き行為がある。そしてその近くには必ずといっていいほど行方不明者もいますでしょう?人を食べている証拠かと」
「なるほどな」
駅の車掌さんがやられた話も新聞に書かれ、切り抜きで貼り付けられている。切り裂き魔の最初の犠牲者だ。
前はこの鬼自体を早めに滅したから、車掌さんも、そのあとの犠牲者も、整備工場の人もふくちゃん達も鬼により傷つけられず、鬼の存在も知らずにいられた。
車掌さんは私くらいの娘さんがいると言っていたっけ。助けてあげられなくてごめんなさい。
「……貼ってあるのは物騒な話題ばかりだ。早く頸を落として夜も安心して歩けるようにせねばな」
「ええ、本当に……」
鬼の情報を探して奔走し続け、夜になった。逃げ足の速いあの鬼も、空腹でそろそろ出てくる時間かな。
ああ、この月の形……今夜だ。
確かあの時、あちらのあたりで女性が鬼に傷つけられていたは、……ず?
「きゃああああっ!」
女性の甲高い悲鳴が響く。
「!?朝緋、いくぞ!」
「はいっ」
しまった、遅かった。
私はいつも判断も行動も何もかもが遅い。きっとこの先も、私の判断が遅くて最悪の結果を生んでしまうんだ。
「鬼はどこに……!」
連れている隠と共に杏寿郎さんと現場に急行する途中、濃紺の羽織を纏ったあの隊士が私達に合流し、並んだ。
「君は……この任務を共にする調査班の隊士だな!」
「炎柱と継子の朝緋さんですね!他の任務に行っていましたので自分は今からの参加です!」
「そうか、お疲れ様だ!」
挨拶しながら急げば、足に視線を感じる。杏寿郎さんがご自分の体で私の足が見えるのを遮った。
私の生足を見せたくないなら、最初っから短いスカートの隊服を作らせないでよね。毎回、隊士や人からの視線が集中してキツいんだから。
現場へ到着すれば、鬼は逃走した後だった。
負傷した女性は……怪我はひどいが傷は比較的浅い。
『以前』同様に傷も残らず治るだろうと思う。
治るよね?ね?医療班の皆様、頼みまーす!
杏寿郎さん、隊士と共にあたりを見回す。警戒を怠らない二人と離れ、私は一人少し遠くまで駆けて見てきたけれどやっぱりいない。
あの速さで足早にどこかに去ったのね。ここにはもう、用はないと踏んで。
「鬼の気配は色濃く残っているが、もうこの近くにはいないのだな?」
「気配の濃い場所を捜索しましたがそのようでした。ほんと、逃げ足の速いやつ……!」
次に現れるのは、多分明日の夜。整備工場ということになる。
「自分は女性の方に付き添ってきます。その後、列車の調査に赴きます」
「うむ!頼んだ!!
俺達は鬼の痕跡を引き続き調べる。詳細は鎹烏で知らせるからあとで落ち合おう」
「はい!」
一晩、情報を集めてみたけれど、大した成果は得られず終わった。わかったことと言えば『以前』と変わらぬことばかり。
助かった被害者からの話は多々得られたのでよしとしよう。その結果でだけど、元々鬼になる前から善人とはあまり言えない人間が、鬼になったのかも……とは思った。
鬼舞辻無惨も、基本的には悪い人を中心に鬼にしてるのかしら。基準がわからないし、鬼の首領の考えなんて分かりたくもない。
それにしても、音速を誇ると豪語するだけあって、行動範囲広いな……。この沿線上からはみ出てるじゃないのさ。おかげでお昼どころか、三時のおやつ休憩まで潰れてしまった!朝はかろうじて食べられたからいいという問題ではない。私も杏寿郎さんも腹っぺらしなのだ。
ううう、おなかすいたよー。
あっ!あのお蕎麦屋さんは!!
「師範。少し遅くなりましたが、お食事にしませんか」
「そうだな、何か食べよう!」
「ならそこで。ぜひそこで。絶対そこで。そこのお蕎麦屋さんで」
杏寿郎さんの背中を押し、そして指さして蕎麦屋を猛プッシュ。私の目はお蕎麦色に染まり、胃袋はお蕎麦を待ち侘びている。
「なんだすぐそこに蕎麦屋があったのか!やけにぐいぐい勧めてくるなぁ!……ふむ、二階はないようだな」
二階って……この助平柱が。
「残念そうにしないでくれます?ここのお蕎麦、とっても美味しいんですから」
「来たことがあるのか?この沿線上に?」
「に、任務でちょろっと……」
「ふぅん?」
じっと見つめられて目が泳いだ。
店に入れば相変わらずの閑古鳥。店員も店主以外はおらず、お客さんも私達の他に寝入っている一人のみ。
これは鬼のせいだから仕方ない。
「さて、何にするか「天ぷらそば!私天ぷらそばがいい!お皿に別添えで!!」……決めるのが早いな朝緋」
「もう初めからこれだ!って決めていたので」
前に杏寿郎さんがサービスでかき揚げをいただいているのを見てから、サクサクジュワッとしたかき揚げや天ぷらが食べたくてたまらなかったのよね。あれ、ずるすぎる。
「俺はかけ蕎麦を三杯頼もう」
「天ぷらそばに、かけ蕎麦三杯ね。あいよ」
先に届いた杏寿郎さんのお蕎麦。伸びてしまうと美味しさが半減するのでお先食べてもらう。ずるずるずる〜!一口目から小気味良い蕎麦を啜る音と、いつもの言葉。
「美味い!美味い!美味い!!」
「今日も美味いが炸裂してますね、いい食べっぷり!よっ!さすが炎柱!!」
「ははは!美味いから美味いと声が出てしまうだけだぞ!」
杏寿郎さんの二杯目が届くと同時、私にも揚げたて熱々の天ぷらつきお蕎麦が届いた。
「届いた届いた。ひゃー、美味しそう!いただきます」
サクッ!!ずるるっ、サクサクッッ!
「あ〜美味しい〜サクサク〜じゅわ〜お蕎麦つるしこ〜しみる〜んまい〜〜」
お腹の中からほこほこして力が湧いてくる。贅沢にも海老天も鶏かしわ天も乗ってる。お茄子と獅子唐、蓮根、他にもあって超豪華!誰かさんが喜びそうな芋の天ぷらも乗ってる。あげないけど。
「美味そうだな……どれ」
お箸が全集中の呼吸。シュバッと芋天が私の皿から消え、杏寿郎さんの口の中に消えていく。
「あっ私の芋天!?」
「うむ、ほくほくわっしょいな味だ!やはり芋は美味いな!!」
「……杏寿郎さん知ってます?食べ物の恨みは海より深いんですよ」
「芋天くらいで心の狭い」
「狭くて結構。絶対恨む〜!」
「ふふふ、恨んでごらん。痛くも痒くもないぞ。朝緋の恨みは布団の中で、朝緋ごとこの腹に全て収めてみせようなぁ?」
「まっ!やらしい。ここは人間でなく食べ物を食べるところですよ」
スルスルと伸びてきた指をぺちん!と弾き返した。