五周目 肆
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無限列車へ鬼討伐へ向かう隊士数名の中に、自分を組み込んでもらった。
今回は鬼を討伐という明確な目的があるため、鬼殺隊数名の貸切運行だ。鬼側もこの機会に殺しにくるだろう。
ここら一帯の部隊長も務める柱の杏寿郎さんは、他の男性隊士の中に私を放り込むのを最後まで渋っていたけれど、そこは御館様の口添え。
行きたい旨を御館様に一言お伝えしておいたので……あとは言わずともわかるだろう。
同行の隊士は確かに男性ばかりだ。女性隊士は私のみ。だから杏寿郎さんが嫌な顔をするのもわかる。
けれど、この隊士達と私は仲良くする必要はないし、なんなら会話をする必要もない。
何故なら、この部隊に組み込まれていると言っても、私は隊士達と別行動だからだ。
真正面から普通に切符を買って乗り込む隊士と切符も買わずに乗り込む私。
乗り込む時間帯すら、別で。
私が正規のルートでなく、途中通過する丘の上から列車に乗り込んだ時には、隊士達は血鬼術の眠りに落ちていた。
うん、初見なら切符が血鬼術の一部だなんて気づかないから想定内。私や杏寿郎さんでさえ、気が付かずに眠りに落ちたもの。
「隊士とこの人達、魘夢の縄で繋がれてる……」
魘夢はもう協力者を用意してたのね。でもあの時の子たちじゃない。
あの中の一人は慣れているようだったから、てっきりこの時にも協力者として参加しているかと思っちゃった。
「時間的にはまだ繋ぎたて、かな」
縄を外そうと試みていれば。
「あれぇ?眠っていない子がいるね。どこから入り込んだ鬼狩りなのかな?」
「普通に屋根からだけど?」
後ろから声がする。振り向きもせずに答え、日輪刀に手をかける。
「ふぅん?屋根から乗るなんて普通じゃないね」
「鬼に普通を語られたくないよ」
日輪刀を抜きながら、羽織を翻して相手に振り返る。魘夢が私の顔を、目を驚いたように見た。
「なぁんだ!あの時の子だねぇ!その金と朱の目を覚えているよ!!あの時、変な格好していたのはその髪を隠して俺を欺くためかなぁ?
君も鬼狩りだったんだねぇ。あの時に仕留めておけばよかったよ!!」
きゃらきゃら笑う魘夢の顔、手、体に至るまで人間の血で濡れている。
「……覚えていたなら何よりよ」
「ふふっ、ただでさえ認められていない組織なんでしょう?なのに君一人無賃乗車とは感心しないねぇ。犯罪だよ」
「人殺しする鬼に言われる筋合いはないわね」
人を喰っている最中だったのか。血だらけの人間の首を掴んで引き摺りながら笑っている。笑みを浮かべた唇の隙間から血が、そして人の肉が見え隠れしていた。視線に気がついた鬼がぺろり、唇を舐める。
「俺はね、良い夢を見せて、最期に悪夢を見せるんだ。絶望に濡れた人間の顔が大好きでね。
そのあとに食べると格別に美味しいんだ。見てよ、この人間の最期の顔!最高の調味料だと思わない?」
うちの隊士の一人だ……胸がむかむかする。
悪夢の最中で殺して食べる、だなんてまるで都市伝説の猿夢だ。うっ、嫌なもの思い出しちゃったなぁ。
私は幽霊も苦手だけど、都市伝説の類いも苦手だ。ホラーゲームも怖い話も大嫌い。
その点、鬼はいい。だって実態があって斬れるもの。
まあ、その考え方も行動も。
「下種め」
としか思えず、大嫌いだけど。
「炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天」
一息で近づき、下段から斬りあげる。紙一重で避けた魘夢がにこにこ笑っている。……むかつくわね。
「こんな狭い車内でよく刀を振る気になれるよねぇ。俺に当たるわけないのに」
「……そうね。アンタ意外と素早く動けるんだったわね。眠らせて逃げて、それくらいしか出来ないような奴なのかと思ってたわ」
鬼は斬られるとそれを治すために体力を使う。それは下弦だろうと上弦だろうと同じ。倒しにくい相手の戦力を削ぐには、地道に斬っては斬り、斬っては斬り、が一番だ。
「そうだよね、ほんと眠らないね、君。さっきから俺が『強制昏倒睡眠の囁き』っていう、素敵な子守唄を歌ってあげてるのにぃ。眼も見てくれないからやりにくくてたまらないよねぇ」
挑発には乗らない、か。
まあ、血鬼術のみ弾く特殊な耳栓をしているし、強制的に眠らせてくる技を奴が放とうとすれば私は目を閉じる。だから攻撃が私に届くことはない。
「私が眠るための子守唄は、愛する人の声のみよ!お前の声は届かない!!お前の血鬼術の目も、見なければどうということは……ない!」
水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き。
もう一本の日輪刀に持ち替え、まるで西洋の剣、レイピアのように刺突する最速の技で魘夢を狙う。
「おっと。ここじゃ分が悪くなりそう。でも鬼狩りは少々面倒でも、確実に殺さないとなあ……」
軽業者のようにくるりとかわしきり、魘夢はこの前と同じようにして、今度は夜の闇に溶けた。
「あっまた逃げた!」
列車から飛び降りてはいないようなので、近くにはいるだろうけれど、今はこっちのことが優先だ。精神の……なんだっけ?何かを協力者に玉羊羹みたいにぷっちんされない内に、隊士達に繋がる縄をなんとかしないと。
「まずは返してもらうわよ、私の仲間達を」
絶望の表情を浮かべたまま亡くなっている、喰われかけの仲間の亡骸には丁寧に手を合わせる。
それから全員の縄を解いていく。
切ってしまえば楽だけど、切ったら駄目なのよね。
とはいえすぐには起きないこともわかっている。
ここにいられても騒がれても、ましてや助太刀なんてされても邪魔なだけ。ここにいる隊士は私より遥か下の階級だ。隊士まで人質に取られたら身動きが取れなくなるのは私だ。
ちょうどカーブに差し掛かる。おまけに周囲は草のたくさん生えた柔らかな土地。
……隊士なら大丈夫だろうと、カーブで速度が落ちた瞬間、列車から全員投げ落とした。
ひどいって?起きたら体は痛いし怪我もしているかもしれないけど、鬼に食われて死ぬよりマシ。私も絶対に助けられる自信はないし、これ以上殺させない、喰わせないための措置だ。許せ。
縄を解いてもまだすぐに起きず眠っている協力者さん達は……うん。藤の匂い袋だけ懐に入れといてあげよう。あとは放置で。
今回は鬼を討伐という明確な目的があるため、鬼殺隊数名の貸切運行だ。鬼側もこの機会に殺しにくるだろう。
ここら一帯の部隊長も務める柱の杏寿郎さんは、他の男性隊士の中に私を放り込むのを最後まで渋っていたけれど、そこは御館様の口添え。
行きたい旨を御館様に一言お伝えしておいたので……あとは言わずともわかるだろう。
同行の隊士は確かに男性ばかりだ。女性隊士は私のみ。だから杏寿郎さんが嫌な顔をするのもわかる。
けれど、この隊士達と私は仲良くする必要はないし、なんなら会話をする必要もない。
何故なら、この部隊に組み込まれていると言っても、私は隊士達と別行動だからだ。
真正面から普通に切符を買って乗り込む隊士と切符も買わずに乗り込む私。
乗り込む時間帯すら、別で。
私が正規のルートでなく、途中通過する丘の上から列車に乗り込んだ時には、隊士達は血鬼術の眠りに落ちていた。
うん、初見なら切符が血鬼術の一部だなんて気づかないから想定内。私や杏寿郎さんでさえ、気が付かずに眠りに落ちたもの。
「隊士とこの人達、魘夢の縄で繋がれてる……」
魘夢はもう協力者を用意してたのね。でもあの時の子たちじゃない。
あの中の一人は慣れているようだったから、てっきりこの時にも協力者として参加しているかと思っちゃった。
「時間的にはまだ繋ぎたて、かな」
縄を外そうと試みていれば。
「あれぇ?眠っていない子がいるね。どこから入り込んだ鬼狩りなのかな?」
「普通に屋根からだけど?」
後ろから声がする。振り向きもせずに答え、日輪刀に手をかける。
「ふぅん?屋根から乗るなんて普通じゃないね」
「鬼に普通を語られたくないよ」
日輪刀を抜きながら、羽織を翻して相手に振り返る。魘夢が私の顔を、目を驚いたように見た。
「なぁんだ!あの時の子だねぇ!その金と朱の目を覚えているよ!!あの時、変な格好していたのはその髪を隠して俺を欺くためかなぁ?
君も鬼狩りだったんだねぇ。あの時に仕留めておけばよかったよ!!」
きゃらきゃら笑う魘夢の顔、手、体に至るまで人間の血で濡れている。
「……覚えていたなら何よりよ」
「ふふっ、ただでさえ認められていない組織なんでしょう?なのに君一人無賃乗車とは感心しないねぇ。犯罪だよ」
「人殺しする鬼に言われる筋合いはないわね」
人を喰っている最中だったのか。血だらけの人間の首を掴んで引き摺りながら笑っている。笑みを浮かべた唇の隙間から血が、そして人の肉が見え隠れしていた。視線に気がついた鬼がぺろり、唇を舐める。
「俺はね、良い夢を見せて、最期に悪夢を見せるんだ。絶望に濡れた人間の顔が大好きでね。
そのあとに食べると格別に美味しいんだ。見てよ、この人間の最期の顔!最高の調味料だと思わない?」
うちの隊士の一人だ……胸がむかむかする。
悪夢の最中で殺して食べる、だなんてまるで都市伝説の猿夢だ。うっ、嫌なもの思い出しちゃったなぁ。
私は幽霊も苦手だけど、都市伝説の類いも苦手だ。ホラーゲームも怖い話も大嫌い。
その点、鬼はいい。だって実態があって斬れるもの。
まあ、その考え方も行動も。
「下種め」
としか思えず、大嫌いだけど。
「炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天」
一息で近づき、下段から斬りあげる。紙一重で避けた魘夢がにこにこ笑っている。……むかつくわね。
「こんな狭い車内でよく刀を振る気になれるよねぇ。俺に当たるわけないのに」
「……そうね。アンタ意外と素早く動けるんだったわね。眠らせて逃げて、それくらいしか出来ないような奴なのかと思ってたわ」
鬼は斬られるとそれを治すために体力を使う。それは下弦だろうと上弦だろうと同じ。倒しにくい相手の戦力を削ぐには、地道に斬っては斬り、斬っては斬り、が一番だ。
「そうだよね、ほんと眠らないね、君。さっきから俺が『強制昏倒睡眠の囁き』っていう、素敵な子守唄を歌ってあげてるのにぃ。眼も見てくれないからやりにくくてたまらないよねぇ」
挑発には乗らない、か。
まあ、血鬼術のみ弾く特殊な耳栓をしているし、強制的に眠らせてくる技を奴が放とうとすれば私は目を閉じる。だから攻撃が私に届くことはない。
「私が眠るための子守唄は、愛する人の声のみよ!お前の声は届かない!!お前の血鬼術の目も、見なければどうということは……ない!」
水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き。
もう一本の日輪刀に持ち替え、まるで西洋の剣、レイピアのように刺突する最速の技で魘夢を狙う。
「おっと。ここじゃ分が悪くなりそう。でも鬼狩りは少々面倒でも、確実に殺さないとなあ……」
軽業者のようにくるりとかわしきり、魘夢はこの前と同じようにして、今度は夜の闇に溶けた。
「あっまた逃げた!」
列車から飛び降りてはいないようなので、近くにはいるだろうけれど、今はこっちのことが優先だ。精神の……なんだっけ?何かを協力者に玉羊羹みたいにぷっちんされない内に、隊士達に繋がる縄をなんとかしないと。
「まずは返してもらうわよ、私の仲間達を」
絶望の表情を浮かべたまま亡くなっている、喰われかけの仲間の亡骸には丁寧に手を合わせる。
それから全員の縄を解いていく。
切ってしまえば楽だけど、切ったら駄目なのよね。
とはいえすぐには起きないこともわかっている。
ここにいられても騒がれても、ましてや助太刀なんてされても邪魔なだけ。ここにいる隊士は私より遥か下の階級だ。隊士まで人質に取られたら身動きが取れなくなるのは私だ。
ちょうどカーブに差し掛かる。おまけに周囲は草のたくさん生えた柔らかな土地。
……隊士なら大丈夫だろうと、カーブで速度が落ちた瞬間、列車から全員投げ落とした。
ひどいって?起きたら体は痛いし怪我もしているかもしれないけど、鬼に食われて死ぬよりマシ。私も絶対に助けられる自信はないし、これ以上殺させない、喰わせないための措置だ。許せ。
縄を解いてもまだすぐに起きず眠っている協力者さん達は……うん。藤の匂い袋だけ懐に入れといてあげよう。あとは放置で。