五周目 肆
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魘夢らしき鬼の痕跡が沿線上に見られるようになってきた。
まだ、音速を誇らしげに語るあの鬼は出ていない。
あの鬼を隠れ蓑にして魘夢は水面下でひっそり動いていたけれど、今はまだ本当に巧妙に隠れており、隠にも鬼殺隊士の調査班にもわからないレベルだ。
こんなの、何度か経験した私しか気が付かないだろう。
私は御館様に文を飛ばし、特別に調査させてもらう事にした。何も言わずに独自に調査、だなんて真似はもうしない。そりゃあ、御館様にも疑問に思われたし、杏寿郎さんに至っては何度も、何故なのだと。俺も行くと言われたから少し困ってしまったけど。
今はまだ大事にするわけにいかない。
最初から柱が出てしまえば、そりゃあすぐに片付いていいのかもしれないけれど、それでは駄目。
魘夢は無限列車の任務で討伐しなくてはならない……のよね。
……上弦の参・猗窩座とも、あの場で相対しなくてはならない。ああ、いやだ。本当言うとそれだけは回避したくて、逃げ出したくてたまらない。
もやもやが消えない。
任務終わりの疲れた体に鞭打ち、私は今夜も夜の闇を走る列車内でひとり、調査だ。
消える人間は今のところ一人か二人。
指定席がきっちり決められたりして何人乗車しているか、だなんてわからない時代。
駅側も乗った人数を数えているわけもなし、記録にも残っていないだろうし、人が多少消えたところで気付かれることは少ない。すぐには発覚しないように、鬼殺隊に気づかれないように少しずつ消えていく。
「……この客車には十二人……。前の車両は九人、ね」
鬼の気配をわずかに感じたから乗って見た列車。ビンゴ、だとは思う。
眠る人の手に握られた切り込みのある切符。鬼の匂いなんてものは炭治郎でもあるまいしわからないけれど、すでに血鬼術は発動している。でなければ、車両の人間が全て眠りに落ちるだなんてありえない。
私は切符を偽造して乗っているから眠らないで済んでいるけれど、一人眠ってないぞ?と気づかれているんだろうなぁ。接触してくるかな。
今の私は隊服を脱ぎ、ハンチング帽に着物と袴姿。頭の上と服がミスマッチだけれど、特徴がありすぎる髪色を隠すためだ。ダサくても我慢。
着物の中に隠した日輪刀のせいで動きにくい中、見回りを続ける。
「なんで!?八人に減った……!」
いつのまに鬼が来たのか。前の車両を除くと、一人消えていた。
いたはずの場所に急行し、椅子を調べる。血痕もない、荷物もない。あるのは先ほどまで人がいた温かさ。そして丸呑みされたか否か、一瞬にして食べられてしまったとわかる、わずかな血の匂いだけ。
魘夢は列車と融合して巨大な肉塊にまで変貌するような鬼だ。丸呑みの線は濃厚だ。
もうここにない命に、謝罪と祈りを捧げて立ち上がる。
列車がトンネルに入る。狙ってなのか明かりが消え、一瞬暗くなった。
「切符は切ったはずなのに、君はなんで眠らなかったのかな……不思議だねぇ」
「ひっ!」
トンネルを抜けて明るくなったと同時、鬼が隣に立っていた。鬼の呼気が、私の背後。耳に当たる距離。
日輪刀を抜きそうになったけれど、私は飛び退いて距離を取るにとどめた。
「反応が早いなぁ」
向かって来たら改めて日輪刀を抜こう。それまでは、駄目だ。ここには眠る人間がいる。車両内でこの鬼と戦ったことはないけれど、どんな方法で攻撃してくるかわからない。まあまずはお眠り攻撃なんだろうけど、それでも下手な真似をして人間を人質にでも取られたら厄介だ。
まだ私が鬼殺隊だとバレていない内なら、きっと人質を取ってくることもないだろう。様子を見ないと。
鬼が私の服装を上から下までまじまじと見やる。その瞳にあるのは、下弦の壱の文字。
魘夢だ。
「変な服装だね。上下で不恰好にも程があるよ」
「変わったお化粧と目をしてる奴に言われたくないわね」
鬼にまで言われた、ちくせう。私だって好きで帽子を被っているわけじゃない。こんな格好をしている時こそ、杏寿郎さんにもらったリボンや、簪を挿してお洒落がしたいというに。
「化粧じゃないんだけどねぇ。君だって金と朱の変な目の色してるし、人のこと言えないよね?」
ほほう、自分の事を人と言いますか。
「私の目は大好きな人とお揃いなの。変な色なんかじゃない。馬鹿にするな」
「ふーん?まあいいや。
君みたいな子に見られちゃったことだし、今日はもういいかな。またね!」
「ぁっ、ちょ、……」
真後ろの扉を開け、外に通じる連結部分から飛び降りていく魘夢。にっこり笑顔が、なんとも腹立たしい。
でもまさか、眠りの血鬼術を放つこともなく、外に逃走とは思わなかった。
……してやられた。列車内の人数を数えたら、一人どころか三人の人間が、いた痕跡すら残さず消えていた。
場面はそれから更に数日後に至る。
四十名。四十名もの人間が、一晩で消息を絶った。
私はいなかった。遠方の任務に出ていた夜だ。
世間では神隠しなどと呼ばれて新聞にも大きく取り沙汰された。鬼の仕業であることは、私の調査でも改めて確定し、とうとうお館様も動いた。
調査をさせてもらっていたというのに、結局今までの展開と同じ道を辿ってしまった。なんと不甲斐ない……。
任務に赴いていたのだから仕方がない、と御館様も杏寿郎さんも怒りはしなかったし、むしろ鬼の存在を確認できてよかった、などと褒めて下さったけれど、自分としては悔しくて悲しくてたまらなかった。
こんなことなら、誰かに情報を共有しておけばよかった。私だけでなんとかしてみせる、だなんて思うからだ。四十名が喰われる事は、展開上知っていたのに。
鬼殺隊は人間を鬼から守る存在。なんとしても消えてしまう四十名だけは助けたかった。
なのにこの体たらくとは。
炎柱の継子失格だ。
まだ、音速を誇らしげに語るあの鬼は出ていない。
あの鬼を隠れ蓑にして魘夢は水面下でひっそり動いていたけれど、今はまだ本当に巧妙に隠れており、隠にも鬼殺隊士の調査班にもわからないレベルだ。
こんなの、何度か経験した私しか気が付かないだろう。
私は御館様に文を飛ばし、特別に調査させてもらう事にした。何も言わずに独自に調査、だなんて真似はもうしない。そりゃあ、御館様にも疑問に思われたし、杏寿郎さんに至っては何度も、何故なのだと。俺も行くと言われたから少し困ってしまったけど。
今はまだ大事にするわけにいかない。
最初から柱が出てしまえば、そりゃあすぐに片付いていいのかもしれないけれど、それでは駄目。
魘夢は無限列車の任務で討伐しなくてはならない……のよね。
……上弦の参・猗窩座とも、あの場で相対しなくてはならない。ああ、いやだ。本当言うとそれだけは回避したくて、逃げ出したくてたまらない。
もやもやが消えない。
任務終わりの疲れた体に鞭打ち、私は今夜も夜の闇を走る列車内でひとり、調査だ。
消える人間は今のところ一人か二人。
指定席がきっちり決められたりして何人乗車しているか、だなんてわからない時代。
駅側も乗った人数を数えているわけもなし、記録にも残っていないだろうし、人が多少消えたところで気付かれることは少ない。すぐには発覚しないように、鬼殺隊に気づかれないように少しずつ消えていく。
「……この客車には十二人……。前の車両は九人、ね」
鬼の気配をわずかに感じたから乗って見た列車。ビンゴ、だとは思う。
眠る人の手に握られた切り込みのある切符。鬼の匂いなんてものは炭治郎でもあるまいしわからないけれど、すでに血鬼術は発動している。でなければ、車両の人間が全て眠りに落ちるだなんてありえない。
私は切符を偽造して乗っているから眠らないで済んでいるけれど、一人眠ってないぞ?と気づかれているんだろうなぁ。接触してくるかな。
今の私は隊服を脱ぎ、ハンチング帽に着物と袴姿。頭の上と服がミスマッチだけれど、特徴がありすぎる髪色を隠すためだ。ダサくても我慢。
着物の中に隠した日輪刀のせいで動きにくい中、見回りを続ける。
「なんで!?八人に減った……!」
いつのまに鬼が来たのか。前の車両を除くと、一人消えていた。
いたはずの場所に急行し、椅子を調べる。血痕もない、荷物もない。あるのは先ほどまで人がいた温かさ。そして丸呑みされたか否か、一瞬にして食べられてしまったとわかる、わずかな血の匂いだけ。
魘夢は列車と融合して巨大な肉塊にまで変貌するような鬼だ。丸呑みの線は濃厚だ。
もうここにない命に、謝罪と祈りを捧げて立ち上がる。
列車がトンネルに入る。狙ってなのか明かりが消え、一瞬暗くなった。
「切符は切ったはずなのに、君はなんで眠らなかったのかな……不思議だねぇ」
「ひっ!」
トンネルを抜けて明るくなったと同時、鬼が隣に立っていた。鬼の呼気が、私の背後。耳に当たる距離。
日輪刀を抜きそうになったけれど、私は飛び退いて距離を取るにとどめた。
「反応が早いなぁ」
向かって来たら改めて日輪刀を抜こう。それまでは、駄目だ。ここには眠る人間がいる。車両内でこの鬼と戦ったことはないけれど、どんな方法で攻撃してくるかわからない。まあまずはお眠り攻撃なんだろうけど、それでも下手な真似をして人間を人質にでも取られたら厄介だ。
まだ私が鬼殺隊だとバレていない内なら、きっと人質を取ってくることもないだろう。様子を見ないと。
鬼が私の服装を上から下までまじまじと見やる。その瞳にあるのは、下弦の壱の文字。
魘夢だ。
「変な服装だね。上下で不恰好にも程があるよ」
「変わったお化粧と目をしてる奴に言われたくないわね」
鬼にまで言われた、ちくせう。私だって好きで帽子を被っているわけじゃない。こんな格好をしている時こそ、杏寿郎さんにもらったリボンや、簪を挿してお洒落がしたいというに。
「化粧じゃないんだけどねぇ。君だって金と朱の変な目の色してるし、人のこと言えないよね?」
ほほう、自分の事を人と言いますか。
「私の目は大好きな人とお揃いなの。変な色なんかじゃない。馬鹿にするな」
「ふーん?まあいいや。
君みたいな子に見られちゃったことだし、今日はもういいかな。またね!」
「ぁっ、ちょ、……」
真後ろの扉を開け、外に通じる連結部分から飛び降りていく魘夢。にっこり笑顔が、なんとも腹立たしい。
でもまさか、眠りの血鬼術を放つこともなく、外に逃走とは思わなかった。
……してやられた。列車内の人数を数えたら、一人どころか三人の人間が、いた痕跡すら残さず消えていた。
場面はそれから更に数日後に至る。
四十名。四十名もの人間が、一晩で消息を絶った。
私はいなかった。遠方の任務に出ていた夜だ。
世間では神隠しなどと呼ばれて新聞にも大きく取り沙汰された。鬼の仕業であることは、私の調査でも改めて確定し、とうとうお館様も動いた。
調査をさせてもらっていたというのに、結局今までの展開と同じ道を辿ってしまった。なんと不甲斐ない……。
任務に赴いていたのだから仕方がない、と御館様も杏寿郎さんも怒りはしなかったし、むしろ鬼の存在を確認できてよかった、などと褒めて下さったけれど、自分としては悔しくて悲しくてたまらなかった。
こんなことなら、誰かに情報を共有しておけばよかった。私だけでなんとかしてみせる、だなんて思うからだ。四十名が喰われる事は、展開上知っていたのに。
鬼殺隊は人間を鬼から守る存在。なんとしても消えてしまう四十名だけは助けたかった。
なのにこの体たらくとは。
炎柱の継子失格だ。