五周目 肆
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肌を重ねるのは最適な仲直りの方法だとは、人から聞いていたけれど本当なようで。
愛し愛される特殊な方法を意外に楽しみながらも、私達は仲直りしてまどろみに落ちた。
途中で目覚めた私の隣、杏寿郎さんがすやすやと眠っている。
激しい行為を物語る杏寿郎さんの髪の毛。前髪が汗に濡れ、まっすぐに下りてしまっている。
前髪が下りたその姿はかっこよくて色気に溢れていて、でも眠っているからかとってもかわいらしい。
その前髪をそっと持ち上げる。ん、起きてない。
「……大好きだよ。喧嘩するようなことになってごめんね」
仲直りはしたけれど、改めてそう呟き、そして額に口づけを落とす。
もしあの任務が言い渡されるなら、後三ヶ月もないのを思い出す。確実に回ってくるあの任務。
それを思うと胃袋が途端に重くなる。
行きたくないな。行かせたくないな。
だってあの任務に行ったら、この寝顔を見ることができなくなるかもしれなくなるんだ……。
そんな展開は今度こそ。今度こそ回避してみせる。でも、うまく行かなかったら?
そればかり考えてしまう。
胃が痛い……。
でも今だけは。今だけは……。
柔らかい杏寿郎さんの髪をそっと撫で、今一度額に唇を落とす。
しばらく見つめてから、私はまた眠りに落ちた。
「──やれやれ、俺の愛し子はなんと可愛いことをしてくれるのだろうな。俺も朝緋が大好きだ」
そう言って杏寿郎さんが私を抱きしめたことは知らない。
翌朝は、杏寿郎さんが先に起きていた。
普段は私が先に起きることが多いけれど、ほら、昨晩はちょっとね。そういう日の朝は、杏寿郎さんが先に起床する時がある。しょうがないじゃない?精魂尽き果ててるし、腰がすっごく痛いんだもの。
「おはよう御座います。……あれ、任務ですか?」
縁側に座るその人は、すでに黒い隊服に身を包んでいる。もうすぐ昇るであろう太陽を待ち侘びて、東の空を見つめていた。
もう一つの太陽が輝く瞳が此方を向く。
今日の貴方も綺麗でかっこいい。
「おはよう朝緋!いいや、任務ではないな!」
「任務じゃないのに隊服……変なの」
にっこり笑顔がとても眩しいなあ。
不思議に思いながらも、朝食の支度に取り掛かる。
今日の献立……は、例によってどれも量が多いのでともかく、箸休めにしては皿に出す量がこれまた多いお漬物が、食卓を占領する。
今回は漬け汁に酢を加えて漬けた蕪だ。酸味のある蕪も、一緒に漬け込んだシャッキリした茎の部分も美味しい。
でもそればかり食べていたら、さすがに杏寿郎さんも疑問に思ったみたい。
「美味い!美味い!美味……、朝緋、なぜ漬物ばかり食べている?肉や魚、卵を食べなくては強くなれないのだと俺に教えたのは朝緋ではないか」
「んー、なんか気持ち悪くって。さっぱりしてるものとか、大好物のあいすくりんみたいなのが食べたい気分なんです」
とか言いつつも、他のおかずも食べるしご飯だって大盛り。若干いつもより少ないかな?レベル。
すると杏寿郎さんの表情が明るくなった。
「悪阻か!?」
「なんでそうなるの。なんでわくわくしてるの。昨日の今日で出来てたら怖いでしょ」
そもそも薬を飲んでいるからそんなことにはならない。鬼となった時の杏寿郎さんのなら、その強さで薬の効果を打ち消してしまいそうだったけど。あのあと比較的すぐにまた『戻って』しまったから、真相はわからない。
……って、私ったら朝っぱらから何変なこと想像してるんだろう。顔が熱い。
「身重の女性を鬼から助けたことがあってな。悪阻とやらで気持ちが悪く、さっぱりとした食事しか摂れぬのだと言っていた」
「あー、症状は人によるけど、悪阻って気持ち悪くなったり、酸っぱいものが食べたくなったりするみたいだからね。あと特定の食べ物をいっぱい食べちゃう食べ悪阻、なんてのもあるらしいよ」
「なんと!食べ悪阻になったら芋ばかり食べてしまいそうだな!」
それは杏寿郎さんだけだと思う。
あ、でもやたらとフライドポテトが食べたくなるって人がいたな。
「どちらにせよ私の場合はちがうよ。ただちょっと、これからを思うと気分が落ち込んでしまって。胃までもがずーんって重いのよ」
「ふむ、気の持ちように感じる。逆に食事をたくさんとれば治るのではないか?干し芋食うか?」
スッと目の前に差し出される芋。
「食べませんどこから出したのその芋」
「ポケットだ!」
「尚更食べませんよ。いつのですか捨ててください」
「いつのかわからぬからと言って芋を捨てろと!?」
「よく見て!?端っこカビてるじゃん!干し芋じゃなくて、普通の芋を入れといたら少し乾燥しただけでしょ!?捨ててよ!
隊服のポケットも汚れてると思うし任務じゃないなら洗うから脱いで!?」
出された自称干し芋とやらは、丸芋状態でカピカピしていてぱっと見は美味しそうに見えた。なのによーく見ると、端の方に青カビがついていて、あっこれ食べたらお腹壊すやつ!だった。
「むっ!今脱いでいいのか?今すぐに君という食事を摂ってもいいのなら脱ごう!」
「わー!今脱がなくていい!昨晩散々したでしょ!もうおなかいっぱいです!!」
「そうだな!昨晩の俺はしょこらぁとまみれの君で腹が満ちた!そして君の胎は俺で満ちた!
どれ、ぱんぱんになった朝緋の胎の中を、俺は泳いでいるかな?」
「──ッ!?!!?」
するぅり、下腹部をひと撫でされ、顔が、全身が熱く赤くなってしまった。
「っははは!冗談だ!頼む、洗ってくれ!!」
すぽぽぽーん!と、隊服の上着に限らず、その下のシャツまで脱いで渡してくる杏寿郎さん。せめて着替えを準備してから脱いでほしい……昨晩散々見たとはいえ、上半身裸の御姿は心臓に悪い。
「潔く脱ぎすぎ……羞恥心どこに行ったの?」
「君の前だからどこか遠くに行ってしまったな」
私の前でも羞恥心は捨てないでいてほしい。その羞恥心、誰が拾うと思って?私だよ。杏寿郎さんの裸が目の前にあったら、私が照れて恥ずかしくなっちゃう。
替えの着物を着てもらい、ついでに食後の片付けも終わったら、やっとこさ心臓が落ち着いた。
「さて、朝緋や。そろそろ父上に君との婚姻についてを報告しようと思うのだが」
「ん、いつかは言わなくちゃいけないもんね」
薬指に嵌められた指輪を互いにするりとなぞり、自分達の未来についてそれぞれ夢想する。
一人は共に在れると信じて進み、一人はその未来が来るのかと不安に感じながら進んでいる。
「いつ行く?」
「今日だ」
「えっ今日!?……心の準備何にもしてないんですけど」
「準備など必要ない。大丈夫だ、俺達にはお館様がついている。反対された時用に御館様からの口添えの文もいただいている」
杏寿郎さんにしては悪どい笑みを顔に浮かべている。
「用意周到ってわけね。気合い入ってるぅ……」
「だからこそ、隊服を着ていたのだが、まあ普段着でもやる事は変わらん」
隊服が鬼殺隊士にとっての一番の礼服だから、その気持ちはわかる。着ると気合い入るもんね。
槇寿朗さんとの話し合いがどうなったかって?
喧嘩っ早い私が今回は口を挟まなかった事、なかなかに策士な杏寿郎さんが槇寿朗さんより上手だった事、そして決定打の御館様からの文によって見事、槇寿朗さんを頷かせる事に成功した。
拍手をして祝ってくれた千寿郎の前での杏寿郎さんは、見たことがないほどのドヤ顔を晒していた。
その夜、お祝いにと私がまた食べられた。
愛し愛される特殊な方法を意外に楽しみながらも、私達は仲直りしてまどろみに落ちた。
途中で目覚めた私の隣、杏寿郎さんがすやすやと眠っている。
激しい行為を物語る杏寿郎さんの髪の毛。前髪が汗に濡れ、まっすぐに下りてしまっている。
前髪が下りたその姿はかっこよくて色気に溢れていて、でも眠っているからかとってもかわいらしい。
その前髪をそっと持ち上げる。ん、起きてない。
「……大好きだよ。喧嘩するようなことになってごめんね」
仲直りはしたけれど、改めてそう呟き、そして額に口づけを落とす。
もしあの任務が言い渡されるなら、後三ヶ月もないのを思い出す。確実に回ってくるあの任務。
それを思うと胃袋が途端に重くなる。
行きたくないな。行かせたくないな。
だってあの任務に行ったら、この寝顔を見ることができなくなるかもしれなくなるんだ……。
そんな展開は今度こそ。今度こそ回避してみせる。でも、うまく行かなかったら?
そればかり考えてしまう。
胃が痛い……。
でも今だけは。今だけは……。
柔らかい杏寿郎さんの髪をそっと撫で、今一度額に唇を落とす。
しばらく見つめてから、私はまた眠りに落ちた。
「──やれやれ、俺の愛し子はなんと可愛いことをしてくれるのだろうな。俺も朝緋が大好きだ」
そう言って杏寿郎さんが私を抱きしめたことは知らない。
翌朝は、杏寿郎さんが先に起きていた。
普段は私が先に起きることが多いけれど、ほら、昨晩はちょっとね。そういう日の朝は、杏寿郎さんが先に起床する時がある。しょうがないじゃない?精魂尽き果ててるし、腰がすっごく痛いんだもの。
「おはよう御座います。……あれ、任務ですか?」
縁側に座るその人は、すでに黒い隊服に身を包んでいる。もうすぐ昇るであろう太陽を待ち侘びて、東の空を見つめていた。
もう一つの太陽が輝く瞳が此方を向く。
今日の貴方も綺麗でかっこいい。
「おはよう朝緋!いいや、任務ではないな!」
「任務じゃないのに隊服……変なの」
にっこり笑顔がとても眩しいなあ。
不思議に思いながらも、朝食の支度に取り掛かる。
今日の献立……は、例によってどれも量が多いのでともかく、箸休めにしては皿に出す量がこれまた多いお漬物が、食卓を占領する。
今回は漬け汁に酢を加えて漬けた蕪だ。酸味のある蕪も、一緒に漬け込んだシャッキリした茎の部分も美味しい。
でもそればかり食べていたら、さすがに杏寿郎さんも疑問に思ったみたい。
「美味い!美味い!美味……、朝緋、なぜ漬物ばかり食べている?肉や魚、卵を食べなくては強くなれないのだと俺に教えたのは朝緋ではないか」
「んー、なんか気持ち悪くって。さっぱりしてるものとか、大好物のあいすくりんみたいなのが食べたい気分なんです」
とか言いつつも、他のおかずも食べるしご飯だって大盛り。若干いつもより少ないかな?レベル。
すると杏寿郎さんの表情が明るくなった。
「悪阻か!?」
「なんでそうなるの。なんでわくわくしてるの。昨日の今日で出来てたら怖いでしょ」
そもそも薬を飲んでいるからそんなことにはならない。鬼となった時の杏寿郎さんのなら、その強さで薬の効果を打ち消してしまいそうだったけど。あのあと比較的すぐにまた『戻って』しまったから、真相はわからない。
……って、私ったら朝っぱらから何変なこと想像してるんだろう。顔が熱い。
「身重の女性を鬼から助けたことがあってな。悪阻とやらで気持ちが悪く、さっぱりとした食事しか摂れぬのだと言っていた」
「あー、症状は人によるけど、悪阻って気持ち悪くなったり、酸っぱいものが食べたくなったりするみたいだからね。あと特定の食べ物をいっぱい食べちゃう食べ悪阻、なんてのもあるらしいよ」
「なんと!食べ悪阻になったら芋ばかり食べてしまいそうだな!」
それは杏寿郎さんだけだと思う。
あ、でもやたらとフライドポテトが食べたくなるって人がいたな。
「どちらにせよ私の場合はちがうよ。ただちょっと、これからを思うと気分が落ち込んでしまって。胃までもがずーんって重いのよ」
「ふむ、気の持ちように感じる。逆に食事をたくさんとれば治るのではないか?干し芋食うか?」
スッと目の前に差し出される芋。
「食べませんどこから出したのその芋」
「ポケットだ!」
「尚更食べませんよ。いつのですか捨ててください」
「いつのかわからぬからと言って芋を捨てろと!?」
「よく見て!?端っこカビてるじゃん!干し芋じゃなくて、普通の芋を入れといたら少し乾燥しただけでしょ!?捨ててよ!
隊服のポケットも汚れてると思うし任務じゃないなら洗うから脱いで!?」
出された自称干し芋とやらは、丸芋状態でカピカピしていてぱっと見は美味しそうに見えた。なのによーく見ると、端の方に青カビがついていて、あっこれ食べたらお腹壊すやつ!だった。
「むっ!今脱いでいいのか?今すぐに君という食事を摂ってもいいのなら脱ごう!」
「わー!今脱がなくていい!昨晩散々したでしょ!もうおなかいっぱいです!!」
「そうだな!昨晩の俺はしょこらぁとまみれの君で腹が満ちた!そして君の胎は俺で満ちた!
どれ、ぱんぱんになった朝緋の胎の中を、俺は泳いでいるかな?」
「──ッ!?!!?」
するぅり、下腹部をひと撫でされ、顔が、全身が熱く赤くなってしまった。
「っははは!冗談だ!頼む、洗ってくれ!!」
すぽぽぽーん!と、隊服の上着に限らず、その下のシャツまで脱いで渡してくる杏寿郎さん。せめて着替えを準備してから脱いでほしい……昨晩散々見たとはいえ、上半身裸の御姿は心臓に悪い。
「潔く脱ぎすぎ……羞恥心どこに行ったの?」
「君の前だからどこか遠くに行ってしまったな」
私の前でも羞恥心は捨てないでいてほしい。その羞恥心、誰が拾うと思って?私だよ。杏寿郎さんの裸が目の前にあったら、私が照れて恥ずかしくなっちゃう。
替えの着物を着てもらい、ついでに食後の片付けも終わったら、やっとこさ心臓が落ち着いた。
「さて、朝緋や。そろそろ父上に君との婚姻についてを報告しようと思うのだが」
「ん、いつかは言わなくちゃいけないもんね」
薬指に嵌められた指輪を互いにするりとなぞり、自分達の未来についてそれぞれ夢想する。
一人は共に在れると信じて進み、一人はその未来が来るのかと不安に感じながら進んでいる。
「いつ行く?」
「今日だ」
「えっ今日!?……心の準備何にもしてないんですけど」
「準備など必要ない。大丈夫だ、俺達にはお館様がついている。反対された時用に御館様からの口添えの文もいただいている」
杏寿郎さんにしては悪どい笑みを顔に浮かべている。
「用意周到ってわけね。気合い入ってるぅ……」
「だからこそ、隊服を着ていたのだが、まあ普段着でもやる事は変わらん」
隊服が鬼殺隊士にとっての一番の礼服だから、その気持ちはわかる。着ると気合い入るもんね。
槇寿朗さんとの話し合いがどうなったかって?
喧嘩っ早い私が今回は口を挟まなかった事、なかなかに策士な杏寿郎さんが槇寿朗さんより上手だった事、そして決定打の御館様からの文によって見事、槇寿朗さんを頷かせる事に成功した。
拍手をして祝ってくれた千寿郎の前での杏寿郎さんは、見たことがないほどのドヤ顔を晒していた。
その夜、お祝いにと私がまた食べられた。