五周目 肆
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「ところで朝緋さんはなぜここに?お見舞いだけの理由で俺達に会いに来るとは到底思えません」
「ああうん、聞きたいことがあったからさ」
すちゃと、紙と萬年筆を懐から取り出し、炭治郎と向かい合わせで座りじっと見つめる。炭治郎が少し怯えた。
「何の尋問が始まるんですかこれ」
「尋問でも問診でもないただのおしゃべりだけど、書き残しておくとあとで思い出す時に便利だからね」
「は、はあ」
繰り返しで『また』戻る羽目になったとしても、メモは持ち越せないのがとても残念でならない。それでもこの生が続く限り、毎日のように眺めていたら脳みそには叩き込まれる。記憶に残って持ち越せる。
「体がつらいだろうから寝たままでいいよ。炭治郎は顎も怪我してるんでしょ?お話しするのもつらいならそこで止めるから遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます。それでは寝たままでお願いしますが、話は出来るので大丈夫です」
「そ。……えぇと、炭治郎達はなんの任務がどのように辛かった?」
どの任務が辛いものだったのか、どんな戦いをしてきたのか。それによって得られたもの、直すべきところがどこなのかを私はまず最初に聞いた。
彼らをもっと強化するためには、これもまた必要な情報なのだ。
「やっぱり下弦の伍ですかね。今までの鬼とは比べ物にならないほど強かったです」
「俺は全部だよー!!」
「ひとつもつらくなかった。ただ今回は、俺が弱かった……かもしれねぇ」
「……なるほどね」
数字持ちを相手にしたのだ。炭治郎の言うことはわかる。
でも、善逸の全部というのは、いささか弱気が過ぎる。この子はそんなに弱くないはずなのに、何故こんなにも怖がりなのだろう。精神面がまだまだ成長していない。隊士としての考え方は落第点もの。
その性根ごと鍛え直したい。……時間が足りない。
「んー、善逸にはもっと早く会いたかったなあ」
「えっ!お、俺にもっと早く会いたかっただなんてーー!何これモテ期来た!?俺のことそんなに好きなの朝緋さーーん!!」
「好きの意味じゃないから勘違いやめようか」
氷点下の声音と顔を向ければ、善逸は黙った。
「伊之助はもう少しよく考えた方がいいよ。弱かったと反省したところはいいけど、ひとつもつらくなかったわけないでしょ。苦戦したところはあるはず」
「考える……?」
「猪突猛進はいいけど、猪だって時には立ち止まってよく考えて行動するよ。じゃないと私に捕まって食べられちゃうからねぇ……?」
「お、俺を食べるのか……!鬼か、まだらお前、鬼なのか!?……ゲホゴホッ」
ニタリ、今度は少し不穏な雰囲気を纏って言えば、喉が痛くて声が出しにくいはずの伊之助がギョッとして大声を上げた。そのせいで咳き込んでいる。
「大きな声出すと治りが遅くなるよ。
伊之助じゃなくて猪を食べるのよ。鍋にして。でもちゃんと考えてくれないなら、伊之助もお鍋に入れて食べちゃおうかなー?牡丹鍋って本当美味しいのよね、じゅるり」
「ぴっ」
伊之助が布団を被った。
「俺がもっと強ければ……」
ありゃ、こっちではまだ下弦の伍との戦いについて考えていたか。……まじめだ。友情、努力、勝利……さすが主人公とされる炭治郎だ。
友情は育まれている。努力はこれから。勝利はその先に。
「炭治郎、その気持ちがあれば大丈夫だよ」
もっと早くこの子達に会えるよう、御館様に手紙を送っておくべきだったな。なんで私がこの子達を知っているか不審がられるだろうけど。でもなりふり構ってなんていられない。
自分自身はもちろん、この子達を強化したかった。多少なりとはいえ、私も水の呼吸と雷の呼吸を使えるのだから、何かしら教えられるものはあるはずだ。
ま、雷の呼吸はほとんど使えてないけど。
「炭治郎は水の呼吸を使うのよね」
「はい。元水柱だという鱗滝さんの元で学び、そして会得しました」
「私も一時期鱗滝さんのところにいたのよ」
「えっ、水の呼吸の使い手なのですか?あれ、でもさっきは炎柱の継子って……」
「私は炎の呼吸の使い手〜。
ただ、鱗滝ブートキャンプを……こほん、鱗滝さんの修行を受けたくて。だから、水の呼吸も一部使える」
そう言って腰に刺したいつもの刀でなく、少し短くて刃色の黒い二本目の刀を抜いて見せる。
これもまた、普段の日輪刀と違う美しさにあふれている。
「適性的には炎の呼吸が一番私の体には合う。だから基本は炎の呼吸使いで普通の日輪刀を使用。
で、これが水の呼吸を使う時の二本目の刀。他の呼吸を使ったとしても刀にも体にも負担がかかりにくくできてるの」
「炎の呼吸に適性があるのに、鱗滝さんに弟子入り……合わないのならあの修行は殊更キツいでしょうに」
「そうね。齢七、八つくらいの時かな?水の呼吸の修行がしたかったから自ら志願して弟子入りしたんだけど、ほんっと結構きついよね。罠だらけの山の中駆け降りるのとかさあ……」
何度体を穴だらけにされそうになったか。こうしてピンピンしてるのでわかると思うけど、全てほぼかわすことができた。
「えええっあれをそんな幼い内から自ら受けに……!頭おかしいんじゃないですか?」
「頭はおかしくないよ私に失礼だよ炭治郎」
曇りなき眼で言われ、目の前にあった炭治郎の額に向かって、ペチン!強めのデコピンをぶつける。
「イタッ!?」
「ん?今のは何ですか?」
突き指した。
「デコピンだけど。炭治郎って石頭なのね。突き指したぁ……頭突きだけで鬼を倒せそう」
「いいえ!怯ませることはできますが、倒すまではできません!
鬼を倒すための俺の武器は。強みは、水の呼吸の技と、ヒノカミ神楽です」
聞こうと思っていたヒノカミ神楽について、先に炭治郎の口から聞けそうだ。
「下弦の伍を倒す時にも使ったって技ね」
「倒してません。冨岡さんが来てくれなかったら俺は今頃……。
それにヒノカミ神楽も使いこなせてない。少し使うだけで、動けなくなってしまう」
悔しそうな顔だ。布団の中でミシミシと拳を握りしめているようだった。
「うーん。ヒノカミ神楽はいつから使ってるの?」
「その時が初めてです」
「えっまじで?」
つい、まじで?なんて声が出てしまった。
なるほど、圧倒的に経験不足だったか。
神楽舞なんていうくらいだから幼い頃から慣れ親しんだものなのかと思ってた……。いや、慣れていたところで隊士になんてならなかったら、それが戦いに応用できるだなんて思わないで終わるだろう。
戦いには応用してないけど、今の私の出生地である神社の舞だって、特別な時にしか舞わない。あまね様の前で軽く披露してきた時も、とんと忘れていてすぐ踊る事は出来なかった。
「じゃあ普段から使わないとだね。多分、怪我が治ったら機能回復訓練というのが始まって、落ちた体力を元に戻す事になる」
「はい!」
「まずは全集中の呼吸を常に保ちなさい。それが基本。それだけでもかなり強くなる」
「はい!」
「そして。とても、とても大変かもしれないけれど、その他にヒノカミ神楽を使いこなす事。初めてだったから動けなくなっても仕方ない、なんて言っていられない。自分の生死に関わるのだから、死に物狂いで慣れて、使ってもすぐ動けるように鍛錬する事」
「は、はい!」
「水の呼吸からヒノカミ神楽への切り替え。ヒノカミ神楽から水の呼吸への切り替えが、すんなり出来るようにもならないとだね。複数の呼吸を使う者はそんなとこにも気を回さなくちゃいけない。お互い大変だね」
「はい……とても難しそうですね……」
大丈夫、私は炭治郎は頑張り屋さんだって事を知ってる。まだまだだけど、こんな私にだって出来たんだもの。君になら出来る。
「強くなるにはひたすら頑張るしかない。鍛える他ない」
「頑張ります。ヒノカミ神楽の全ての型にも慣れます。使いこなします!」
「うん!時間があれば私も鍛錬に付き合ってあげるから、頑張ってね。そこで寝てしまったお二人さん含めてビシバシ鍛えてあげる!」
「心強いです……!」
全ての型、かあ。ヒノカミ神楽には一体いくつの型があるのだろう。名前の通り、神楽舞に似たそれをぜひ一から見てみたい。
「あの……俺からも一つ、聞きたいです。朝緋さんの体からする煉獄さんの匂いの話をしましたよね」
!?!!?
「わっヤダ!その話蒸し返しちゃう感じ!?恥ずかしいからやめてってば……!」
「違います、匂いの話はあってますが違う匂いの話です。何で恥ずかしいんですか……」
だってその、杏寿郎さんと肌を重ねたからお互いの匂いがついたわけだし?そんな事、他の人に気づかれたくない〜!!
「匂いですぐわかりましたが、朝緋さんは稀血なのですね。禰󠄀豆子を傷つけた柱の人も稀血のようでしたが。
差別をするわけではないのですが、女性な上に稀血で、何故隊士になったのかと思いまして。
それに貴女はひどく焦っている。俺なんかよりももっともっと、強さを求めて焦っている。生き急ぐみたいに」
ああ、そんな細かいとこまで匂いでバレちゃうのか。ほんと、よく利くお鼻だなあ。
「…………、……隊士になったのは、親達を鬼に殺されたからだよ。引き取られた先が代々鬼狩りをしてきた煉獄家だったし、そもそもが煉獄杏寿郎さんと一緒に鬼と戦う道を進みたくて。強くなりたいのは本当。だからといって、別に生き急ぐほど焦ってなんかいないよ。覚悟を決めて命を燃やして戦っているのはみんな一緒」
稀血だからといって守られるばかりは嫌だから。自分の身は自分で守りたいし、自分の大切な人をこの手で守りたい、ただそれだけ。
貴方を守りたい。貴方のいない未来はもう嫌だ。
「そうですか……あの、頑張るのは大事な事だと聞いたばかりですが、無理だけはしないでくださいね」
「ありがとう、炭治郎。
……あ、そうだ。最後にこれを聞かないとね。
無惨ってどんな姿だった?どこにいたの?能力は?何してた?」
これこれ。これもすごく必要な情報だ。絶対絶対、また『繰り返す』のは御免だけど、万が一ということもある。情報を得ている事で、何か変わるかもしれない。
「貴女もそれを聞くのですね」
「鬼殺隊士としてはとっても気になることよ。だって、ラスボスの情報は握っておきたいもの」
「らすぼす……」
炭治郎から鬼舞辻無惨の情報を聞き出した私は蝶屋敷をあとにした。
強く、か。
雷の呼吸も、もっとしっかり教わって放てるようにならないとね……時間がない。
任務に、炭治郎達の修行の手伝いに、自身の鍛錬、そのほかにもたくさん……。やる事だらけだ。
あ、そういえばこのタイミングの炭治郎は全集中の呼吸を常に、の意味わかっていたっけ?はい!の連続で流しちゃった気がする。
聞き慣れてない言葉だったらどうしよう。……まあ、蝶屋敷の人達が教えてくれるだろう。
「ああうん、聞きたいことがあったからさ」
すちゃと、紙と萬年筆を懐から取り出し、炭治郎と向かい合わせで座りじっと見つめる。炭治郎が少し怯えた。
「何の尋問が始まるんですかこれ」
「尋問でも問診でもないただのおしゃべりだけど、書き残しておくとあとで思い出す時に便利だからね」
「は、はあ」
繰り返しで『また』戻る羽目になったとしても、メモは持ち越せないのがとても残念でならない。それでもこの生が続く限り、毎日のように眺めていたら脳みそには叩き込まれる。記憶に残って持ち越せる。
「体がつらいだろうから寝たままでいいよ。炭治郎は顎も怪我してるんでしょ?お話しするのもつらいならそこで止めるから遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます。それでは寝たままでお願いしますが、話は出来るので大丈夫です」
「そ。……えぇと、炭治郎達はなんの任務がどのように辛かった?」
どの任務が辛いものだったのか、どんな戦いをしてきたのか。それによって得られたもの、直すべきところがどこなのかを私はまず最初に聞いた。
彼らをもっと強化するためには、これもまた必要な情報なのだ。
「やっぱり下弦の伍ですかね。今までの鬼とは比べ物にならないほど強かったです」
「俺は全部だよー!!」
「ひとつもつらくなかった。ただ今回は、俺が弱かった……かもしれねぇ」
「……なるほどね」
数字持ちを相手にしたのだ。炭治郎の言うことはわかる。
でも、善逸の全部というのは、いささか弱気が過ぎる。この子はそんなに弱くないはずなのに、何故こんなにも怖がりなのだろう。精神面がまだまだ成長していない。隊士としての考え方は落第点もの。
その性根ごと鍛え直したい。……時間が足りない。
「んー、善逸にはもっと早く会いたかったなあ」
「えっ!お、俺にもっと早く会いたかっただなんてーー!何これモテ期来た!?俺のことそんなに好きなの朝緋さーーん!!」
「好きの意味じゃないから勘違いやめようか」
氷点下の声音と顔を向ければ、善逸は黙った。
「伊之助はもう少しよく考えた方がいいよ。弱かったと反省したところはいいけど、ひとつもつらくなかったわけないでしょ。苦戦したところはあるはず」
「考える……?」
「猪突猛進はいいけど、猪だって時には立ち止まってよく考えて行動するよ。じゃないと私に捕まって食べられちゃうからねぇ……?」
「お、俺を食べるのか……!鬼か、まだらお前、鬼なのか!?……ゲホゴホッ」
ニタリ、今度は少し不穏な雰囲気を纏って言えば、喉が痛くて声が出しにくいはずの伊之助がギョッとして大声を上げた。そのせいで咳き込んでいる。
「大きな声出すと治りが遅くなるよ。
伊之助じゃなくて猪を食べるのよ。鍋にして。でもちゃんと考えてくれないなら、伊之助もお鍋に入れて食べちゃおうかなー?牡丹鍋って本当美味しいのよね、じゅるり」
「ぴっ」
伊之助が布団を被った。
「俺がもっと強ければ……」
ありゃ、こっちではまだ下弦の伍との戦いについて考えていたか。……まじめだ。友情、努力、勝利……さすが主人公とされる炭治郎だ。
友情は育まれている。努力はこれから。勝利はその先に。
「炭治郎、その気持ちがあれば大丈夫だよ」
もっと早くこの子達に会えるよう、御館様に手紙を送っておくべきだったな。なんで私がこの子達を知っているか不審がられるだろうけど。でもなりふり構ってなんていられない。
自分自身はもちろん、この子達を強化したかった。多少なりとはいえ、私も水の呼吸と雷の呼吸を使えるのだから、何かしら教えられるものはあるはずだ。
ま、雷の呼吸はほとんど使えてないけど。
「炭治郎は水の呼吸を使うのよね」
「はい。元水柱だという鱗滝さんの元で学び、そして会得しました」
「私も一時期鱗滝さんのところにいたのよ」
「えっ、水の呼吸の使い手なのですか?あれ、でもさっきは炎柱の継子って……」
「私は炎の呼吸の使い手〜。
ただ、鱗滝ブートキャンプを……こほん、鱗滝さんの修行を受けたくて。だから、水の呼吸も一部使える」
そう言って腰に刺したいつもの刀でなく、少し短くて刃色の黒い二本目の刀を抜いて見せる。
これもまた、普段の日輪刀と違う美しさにあふれている。
「適性的には炎の呼吸が一番私の体には合う。だから基本は炎の呼吸使いで普通の日輪刀を使用。
で、これが水の呼吸を使う時の二本目の刀。他の呼吸を使ったとしても刀にも体にも負担がかかりにくくできてるの」
「炎の呼吸に適性があるのに、鱗滝さんに弟子入り……合わないのならあの修行は殊更キツいでしょうに」
「そうね。齢七、八つくらいの時かな?水の呼吸の修行がしたかったから自ら志願して弟子入りしたんだけど、ほんっと結構きついよね。罠だらけの山の中駆け降りるのとかさあ……」
何度体を穴だらけにされそうになったか。こうしてピンピンしてるのでわかると思うけど、全てほぼかわすことができた。
「えええっあれをそんな幼い内から自ら受けに……!頭おかしいんじゃないですか?」
「頭はおかしくないよ私に失礼だよ炭治郎」
曇りなき眼で言われ、目の前にあった炭治郎の額に向かって、ペチン!強めのデコピンをぶつける。
「イタッ!?」
「ん?今のは何ですか?」
突き指した。
「デコピンだけど。炭治郎って石頭なのね。突き指したぁ……頭突きだけで鬼を倒せそう」
「いいえ!怯ませることはできますが、倒すまではできません!
鬼を倒すための俺の武器は。強みは、水の呼吸の技と、ヒノカミ神楽です」
聞こうと思っていたヒノカミ神楽について、先に炭治郎の口から聞けそうだ。
「下弦の伍を倒す時にも使ったって技ね」
「倒してません。冨岡さんが来てくれなかったら俺は今頃……。
それにヒノカミ神楽も使いこなせてない。少し使うだけで、動けなくなってしまう」
悔しそうな顔だ。布団の中でミシミシと拳を握りしめているようだった。
「うーん。ヒノカミ神楽はいつから使ってるの?」
「その時が初めてです」
「えっまじで?」
つい、まじで?なんて声が出てしまった。
なるほど、圧倒的に経験不足だったか。
神楽舞なんていうくらいだから幼い頃から慣れ親しんだものなのかと思ってた……。いや、慣れていたところで隊士になんてならなかったら、それが戦いに応用できるだなんて思わないで終わるだろう。
戦いには応用してないけど、今の私の出生地である神社の舞だって、特別な時にしか舞わない。あまね様の前で軽く披露してきた時も、とんと忘れていてすぐ踊る事は出来なかった。
「じゃあ普段から使わないとだね。多分、怪我が治ったら機能回復訓練というのが始まって、落ちた体力を元に戻す事になる」
「はい!」
「まずは全集中の呼吸を常に保ちなさい。それが基本。それだけでもかなり強くなる」
「はい!」
「そして。とても、とても大変かもしれないけれど、その他にヒノカミ神楽を使いこなす事。初めてだったから動けなくなっても仕方ない、なんて言っていられない。自分の生死に関わるのだから、死に物狂いで慣れて、使ってもすぐ動けるように鍛錬する事」
「は、はい!」
「水の呼吸からヒノカミ神楽への切り替え。ヒノカミ神楽から水の呼吸への切り替えが、すんなり出来るようにもならないとだね。複数の呼吸を使う者はそんなとこにも気を回さなくちゃいけない。お互い大変だね」
「はい……とても難しそうですね……」
大丈夫、私は炭治郎は頑張り屋さんだって事を知ってる。まだまだだけど、こんな私にだって出来たんだもの。君になら出来る。
「強くなるにはひたすら頑張るしかない。鍛える他ない」
「頑張ります。ヒノカミ神楽の全ての型にも慣れます。使いこなします!」
「うん!時間があれば私も鍛錬に付き合ってあげるから、頑張ってね。そこで寝てしまったお二人さん含めてビシバシ鍛えてあげる!」
「心強いです……!」
全ての型、かあ。ヒノカミ神楽には一体いくつの型があるのだろう。名前の通り、神楽舞に似たそれをぜひ一から見てみたい。
「あの……俺からも一つ、聞きたいです。朝緋さんの体からする煉獄さんの匂いの話をしましたよね」
!?!!?
「わっヤダ!その話蒸し返しちゃう感じ!?恥ずかしいからやめてってば……!」
「違います、匂いの話はあってますが違う匂いの話です。何で恥ずかしいんですか……」
だってその、杏寿郎さんと肌を重ねたからお互いの匂いがついたわけだし?そんな事、他の人に気づかれたくない〜!!
「匂いですぐわかりましたが、朝緋さんは稀血なのですね。禰󠄀豆子を傷つけた柱の人も稀血のようでしたが。
差別をするわけではないのですが、女性な上に稀血で、何故隊士になったのかと思いまして。
それに貴女はひどく焦っている。俺なんかよりももっともっと、強さを求めて焦っている。生き急ぐみたいに」
ああ、そんな細かいとこまで匂いでバレちゃうのか。ほんと、よく利くお鼻だなあ。
「…………、……隊士になったのは、親達を鬼に殺されたからだよ。引き取られた先が代々鬼狩りをしてきた煉獄家だったし、そもそもが煉獄杏寿郎さんと一緒に鬼と戦う道を進みたくて。強くなりたいのは本当。だからといって、別に生き急ぐほど焦ってなんかいないよ。覚悟を決めて命を燃やして戦っているのはみんな一緒」
稀血だからといって守られるばかりは嫌だから。自分の身は自分で守りたいし、自分の大切な人をこの手で守りたい、ただそれだけ。
貴方を守りたい。貴方のいない未来はもう嫌だ。
「そうですか……あの、頑張るのは大事な事だと聞いたばかりですが、無理だけはしないでくださいね」
「ありがとう、炭治郎。
……あ、そうだ。最後にこれを聞かないとね。
無惨ってどんな姿だった?どこにいたの?能力は?何してた?」
これこれ。これもすごく必要な情報だ。絶対絶対、また『繰り返す』のは御免だけど、万が一ということもある。情報を得ている事で、何か変わるかもしれない。
「貴女もそれを聞くのですね」
「鬼殺隊士としてはとっても気になることよ。だって、ラスボスの情報は握っておきたいもの」
「らすぼす……」
炭治郎から鬼舞辻無惨の情報を聞き出した私は蝶屋敷をあとにした。
強く、か。
雷の呼吸も、もっとしっかり教わって放てるようにならないとね……時間がない。
任務に、炭治郎達の修行の手伝いに、自身の鍛錬、そのほかにもたくさん……。やる事だらけだ。
あ、そういえばこのタイミングの炭治郎は全集中の呼吸を常に、の意味わかっていたっけ?はい!の連続で流しちゃった気がする。
聞き慣れてない言葉だったらどうしよう。……まあ、蝶屋敷の人達が教えてくれるだろう。