五周目 肆
名前変換
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杏寿郎さんにはうまく言い聞かせて、私は先に本部をあとにした。
それに柱合会議は半年に一度で、話す内容は多岐に渡って長引いてしまい、夜までかかるようなものだもの。
お見舞いとしての団子の詰め合わせその他諸々を携え、向かうは蝶屋敷。
炭治郎に聞くことがたくさんある。これは、明槻とも話し合った内容だ。今後の展開にも私の目指す未来にも関わる。
情報は多ければ多いほど良い。刀だけが武器じゃない。
コンコン、入り口の壁を叩いて来訪を知らせる。ベッドに横になった炭治郎の目がこっちを向いた。善逸と伊之助は……完全に寝てる。
「こんにちは。入ってもいい?」
「貴女はさっき本部にいた……」
「階級甲、炎柱が継子、煉獄朝緋です」
「俺は竈門炭治郎です。階級甲……?煉獄朝緋さんは継子なんですね」
「甲は柱のすぐ下の階級だよ。私は大して強くないけど」
椅子に座るよう勧めてくれたので、遠慮なく座る。あ、そばに禰󠄀豆子ちゃんの箱が置いてある……一部壊れてるし不死川さんの血の跡があって痛々しい。不死川さんだって痛いだろうに……。
ほんと、鬼とみなすと自分の傷さえ顧みず見境なしに突っ込んでいく人だなあ。
「炎柱はわかる?黄色と赤の髪色をした柱」
「ハキハキしゃべっていた方ですね。同じ苗字……妹さんですか?同じ匂いがします」
「えっ同じ匂い!?」
前々から炭治郎達を知っているとバレるよりいいけど、杏寿郎さんと同じ匂いってどゆことー!?
顔に出ていたらしい。
「あ、俺は人より鼻が利くんです!それで、あの柱の人と朝緋さんが同じ匂いだと……。
ん?あれ……同じ匂いというか、隣で一緒に眠った時みたいにお互いの体の匂いがついている感じかこれ……それに、どことなく甘くてでも海水の潮のような……?」
お互いの体の匂い!甘い!それにし、しししし、潮!!
ぼひゅっ!!顔から炎の呼吸が出るとはこのことだ。
「ごめん竈門君それ以上言うのやめてほしい恥ずかしくて死んじゃう……あと、下の名前で呼ばせて……」
「恥ずかしい……?わかりました。
名前は好きに呼んでください。煉獄さんと混同するので俺も朝緋さんと呼ばせてもらいますね!」
「ソウシテ」
全身までもが玖ノ型奥義・煉獄で消し炭になりそうな中、隣のベッドから衣擦れの音がした。
「んーー、炭治郎、うるさいぞぉ……。
って、可愛い女の子がいるー!ひゃーー!俺のお見舞い!?俺我妻善逸!善逸って呼んでね!君の名前は!?」
うるさいのはどちらだろう。善逸は相変わらず賑やかな子だ。
「こんにちは善逸。これでも年上で階級が上なので君付けしないで呼ばせてもらうね。私は炎柱継子の煉獄朝緋。よろしくね」
挨拶すれば友好の証にとそっと手を伸ばそうとしたのがわかる。けれど蜘蛛化により手足が極端に短くなってしまっている善逸。手が届かないことを思い出してさっと隠したので、代わりに頭を撫でておいた。
おお、杏寿郎さんとは違うふわふわさ加減。
「むふふー、呼び捨てにされちゃった。撫でられちゃった。その手を俺からも取りたいけど、俺今手足が蜘蛛にされかかって短いんだ〜ごめんねぇ」
「あらま、蜘蛛にされかかるなんて災難ねぇ……早く治りますように」
「この薬を飲めば早く良くなるんだけど、すごく苦くて。しかもしかも!一日に五回!五回も飲まなくちゃいけないんだよぉ……!」
「善逸!朝緋さんにそんなことを言っても仕方ないだろう!!ちゃんと飲むんだ!!」
気持ちはわかる。あの我慢強い杏寿郎さんでさえ、顔を顰めて嫌がるここの苦い薬。でもね、私だって常日頃から継続してお薬を飲んでるんだからね?
「軟弱だなぁ……治すためでしょ。炭治郎も言う通り我慢して飲まなくちゃ」
「でも、本当に不味くてー……」
「……あ。口移しなら飲む?」
「「えっ」」
この前、杏寿郎さんが私の薬を口に含んで、私の喉に流してきたのよねぇ。あれは咽せるほどに苦く、でも同時に口付けのせいかやけに甘かったっけ。
って……何言った?今私この子に何言った?
「あーははは!!なんてね!」
「なんだ、冗談だったのかぁ」
「冗談に決まってるだろ何考えてるんだ善逸!ねっ!朝緋さん!!」
「あ、当たり前でしょ!」
言われた張本人たる善逸はともかく、ウブなのかそれよりも更に顔を真っ赤にした炭治郎が確認の言葉をかけてくる。
……返答が上擦った。
「それはそうと、このお隣で寝ている子は?眠ってる……のよね?」
「ああ、彼は嘴平伊之助です。猪の皮をかぶっている為わかりづらいかもしれませんが、薬を飲まされてやっと眠ったところです」
「なんか、薬が効きにくいみたい。俺よりたくさん飲まされてかわいそうだったよな〜」
伊之助の言動や性格を考えると無理やり飲まされたとしか考えられない。あの苦い薬を大量に……。ご愁傷様。
……思ったんだけど猪の頭とった方がいいんじゃないのかな。寝息もちょっぴり寝苦しそう。
それに、この頭の下……みたことない。伊之助の素顔ってどんなだろう?ごくり。
「……うーん……えいっ!!」
「え、ちょ、朝緋さん!?」
カパッ!!
我慢ができずに猪頭を勢いよく外してみればそこにあったのは、怪我は痛々しいけれど今まで見たことがないくらいかわいい美少女の顔だった。
「何これかわいい!えっ、伊之助って実は女の子!?」
つい、本人に了解もとっていない内から呼び捨てにしてしまうほどの衝撃。
「朝緋さん、伊之助はれっきとした男です」
「寝巻きでわからないと思うけど、いつもは上半身が裸でムキムキしてるんだよ。そんな顔してるのに、女の子じゃないのが勿体無いよな」
確かにむきむきの体だったっけ。今は蝶屋敷のパジャマ姿だから見えてないけど、無限列車で会った時には上半身裸だったなぁ。初めて見た時は裸より猪頭でびっくりしたけど、それ以降は見慣れてしまったせいか、感覚が麻痺していたな。
「まあ、そうよね。じゃないと、炭治郎や善逸と同室になるわけないもんね」
ごそ、その時伊之助が動いた。長くて綺麗なまつ毛がふるふると震え、ぱっちりキラキラの目が開いた。
眠れる森の美少女かな?どうしよう可愛すぎて、ぷりぷりとかわいらしいおべべ着せたい。
「ヨワクッテゴメンネ……ぇ、ぁ……俺の頭は……?」
「ごめん、起こしちゃったね」
本当に薬の分解能力が高いのねこの子。薬がこんなにも効きにくいんじゃ下手に怪我させられないな……。
視界の鮮明さで自分が今、素顔を晒していると分かったか、きょろきょろと探す目が最後私の持つ猪の頭に辿り着く。
「……あ、俺の頭。……お前誰だ」
伊之助にしては掠れて小さな声が届く。喉がやられているという話だったね。
「私は煉獄朝緋。猪頭の中の人はどんなかな〜ってつい見てしまったの。ごめんなさいね」
「蓮根まだら?」
惜しい!いや、惜しくない!結局まだらって呼ばれてるし。
「蓮根じゃないなあ。煉獄朝緋です」
「頭を返してくれ。勝手に顔を見たんだから見舞いの食べ物もくれ……」
「あら、君は素顔くらいで見物料取る気かな?」
つん、と伊之助のほっぺたを指でつつく。うわ、肌も美少女って感じ。しっとりもっちり、きめ細やかで綺麗。
「ゴメン」
お見舞いの食べ物は欲しがっているけれど、いつもの伊之助の覇気は全くないなあ。こんな事されたら、絶対払い除けてたよね。
体だけじゃなくて心が弱ってるみたいだ。体をゆっくり休めて、早く心身ともに健康になってほしい。
「まあ、お見舞いの品はあるんだけどね。お団子持ってきたからみんなで食べて」
どちゃっ!大きな風呂敷に包んできたるは『前』と同じく、大量のお団子だ。あー、みたらし美味しそう。鋼鐵塚さんが好きだって気持ちもわかる。
「多くない!?」
「いっぱい食べないと強くなれないからね。たんまり持ってきました!」
善逸がいつも通りに叫ぶ勢いで驚いている中、ふふん、と笑い飛ばして先に一本食べちゃう。
お見舞いなら彼らに先にあげなって?そこに食べてくれとばかりに美味しそうなお団子があれば食べちゃうに決まってる。
「ありがとうございます。多いからわかりますが、朝緋さんも食べるんですね……」
「うんごめん。そもそも炎の呼吸使いはいっぱい食べるのよねえ。
あ、伊之助には噛まずに舐められる甘味、キャラメルもあげようね」
「アリガト」
口に入れてあげたら噛まずに素直に舐めている……よかった。
「禰󠄀豆子ちゃんは鬼だからお団子は食べられないし、はいお花」
ベルトの背中側に差し込んで運んできたから、挟んでいた部分がほんの少しへたってしまったけれどまだまだ綺麗な花盛り。
それをベッド脇の机に置いておく。
「禰󠄀豆子にまで……お気遣いありがとうございます。禰󠄀豆子、お花をもらったよ。よかったなぁ〜あとで髪に挿してあげような」
カタン、お返事代わりに箱が動いた。
「禰󠄀豆子ちゃんって人も食べずに回復するんだよね?なら、傷ってなかなか治らないんじゃないの。中で痛い痛いになってない?大丈夫?」
いくら睡眠で回復できるとはいえ、栄養なしにじゃ時間がかかりそうだもの。とはいえ、二年間我慢できているその記録は、決して終わらせてはならない。人間を食べさせるわけにはいかない。
「回復の速さは他の鬼と変わりません。大丈夫です。ただ治るからといって、禰󠄀豆子を傷つけてきたあの人は謝っても許しませんが!!」
不死川さんは、鬼が嫌いで性格的にちょっと過激なだけなんだけどなぁ。あれで好物のおはぎを食べる瞬間は口元が綻んでかわいらしいし、面倒見がとっても良い後輩思いの優しいお兄ちゃんなのよね。
私の周りは優しい兄で溢れている。
兄と言えば目の前の炭治郎もそうだ。それも重度のシスコンモンペに見える。
「炭治郎ってかなりのシスコンだよね」
「しす、なんです?」
「妹を目に入れても痛くないほど可愛がっているって意味。禰󠄀豆子ちゃんが結婚するってなったら、炭治郎は相手のことを相当試すんじゃない?この人は本当に禰󠄀豆子を幸せにしてくれるかどうか、って」
「試しますね!まず、俺より強くなくちゃ駄目だ!」
うん、良い笑顔。……隣のベッドで横になった善逸が、びくと体を震わせた。
善逸って惚れっぽいけど禰󠄀豆子ちゃんが本命みたいだもんね。
それに柱合会議は半年に一度で、話す内容は多岐に渡って長引いてしまい、夜までかかるようなものだもの。
お見舞いとしての団子の詰め合わせその他諸々を携え、向かうは蝶屋敷。
炭治郎に聞くことがたくさんある。これは、明槻とも話し合った内容だ。今後の展開にも私の目指す未来にも関わる。
情報は多ければ多いほど良い。刀だけが武器じゃない。
コンコン、入り口の壁を叩いて来訪を知らせる。ベッドに横になった炭治郎の目がこっちを向いた。善逸と伊之助は……完全に寝てる。
「こんにちは。入ってもいい?」
「貴女はさっき本部にいた……」
「階級甲、炎柱が継子、煉獄朝緋です」
「俺は竈門炭治郎です。階級甲……?煉獄朝緋さんは継子なんですね」
「甲は柱のすぐ下の階級だよ。私は大して強くないけど」
椅子に座るよう勧めてくれたので、遠慮なく座る。あ、そばに禰󠄀豆子ちゃんの箱が置いてある……一部壊れてるし不死川さんの血の跡があって痛々しい。不死川さんだって痛いだろうに……。
ほんと、鬼とみなすと自分の傷さえ顧みず見境なしに突っ込んでいく人だなあ。
「炎柱はわかる?黄色と赤の髪色をした柱」
「ハキハキしゃべっていた方ですね。同じ苗字……妹さんですか?同じ匂いがします」
「えっ同じ匂い!?」
前々から炭治郎達を知っているとバレるよりいいけど、杏寿郎さんと同じ匂いってどゆことー!?
顔に出ていたらしい。
「あ、俺は人より鼻が利くんです!それで、あの柱の人と朝緋さんが同じ匂いだと……。
ん?あれ……同じ匂いというか、隣で一緒に眠った時みたいにお互いの体の匂いがついている感じかこれ……それに、どことなく甘くてでも海水の潮のような……?」
お互いの体の匂い!甘い!それにし、しししし、潮!!
ぼひゅっ!!顔から炎の呼吸が出るとはこのことだ。
「ごめん竈門君それ以上言うのやめてほしい恥ずかしくて死んじゃう……あと、下の名前で呼ばせて……」
「恥ずかしい……?わかりました。
名前は好きに呼んでください。煉獄さんと混同するので俺も朝緋さんと呼ばせてもらいますね!」
「ソウシテ」
全身までもが玖ノ型奥義・煉獄で消し炭になりそうな中、隣のベッドから衣擦れの音がした。
「んーー、炭治郎、うるさいぞぉ……。
って、可愛い女の子がいるー!ひゃーー!俺のお見舞い!?俺我妻善逸!善逸って呼んでね!君の名前は!?」
うるさいのはどちらだろう。善逸は相変わらず賑やかな子だ。
「こんにちは善逸。これでも年上で階級が上なので君付けしないで呼ばせてもらうね。私は炎柱継子の煉獄朝緋。よろしくね」
挨拶すれば友好の証にとそっと手を伸ばそうとしたのがわかる。けれど蜘蛛化により手足が極端に短くなってしまっている善逸。手が届かないことを思い出してさっと隠したので、代わりに頭を撫でておいた。
おお、杏寿郎さんとは違うふわふわさ加減。
「むふふー、呼び捨てにされちゃった。撫でられちゃった。その手を俺からも取りたいけど、俺今手足が蜘蛛にされかかって短いんだ〜ごめんねぇ」
「あらま、蜘蛛にされかかるなんて災難ねぇ……早く治りますように」
「この薬を飲めば早く良くなるんだけど、すごく苦くて。しかもしかも!一日に五回!五回も飲まなくちゃいけないんだよぉ……!」
「善逸!朝緋さんにそんなことを言っても仕方ないだろう!!ちゃんと飲むんだ!!」
気持ちはわかる。あの我慢強い杏寿郎さんでさえ、顔を顰めて嫌がるここの苦い薬。でもね、私だって常日頃から継続してお薬を飲んでるんだからね?
「軟弱だなぁ……治すためでしょ。炭治郎も言う通り我慢して飲まなくちゃ」
「でも、本当に不味くてー……」
「……あ。口移しなら飲む?」
「「えっ」」
この前、杏寿郎さんが私の薬を口に含んで、私の喉に流してきたのよねぇ。あれは咽せるほどに苦く、でも同時に口付けのせいかやけに甘かったっけ。
って……何言った?今私この子に何言った?
「あーははは!!なんてね!」
「なんだ、冗談だったのかぁ」
「冗談に決まってるだろ何考えてるんだ善逸!ねっ!朝緋さん!!」
「あ、当たり前でしょ!」
言われた張本人たる善逸はともかく、ウブなのかそれよりも更に顔を真っ赤にした炭治郎が確認の言葉をかけてくる。
……返答が上擦った。
「それはそうと、このお隣で寝ている子は?眠ってる……のよね?」
「ああ、彼は嘴平伊之助です。猪の皮をかぶっている為わかりづらいかもしれませんが、薬を飲まされてやっと眠ったところです」
「なんか、薬が効きにくいみたい。俺よりたくさん飲まされてかわいそうだったよな〜」
伊之助の言動や性格を考えると無理やり飲まされたとしか考えられない。あの苦い薬を大量に……。ご愁傷様。
……思ったんだけど猪の頭とった方がいいんじゃないのかな。寝息もちょっぴり寝苦しそう。
それに、この頭の下……みたことない。伊之助の素顔ってどんなだろう?ごくり。
「……うーん……えいっ!!」
「え、ちょ、朝緋さん!?」
カパッ!!
我慢ができずに猪頭を勢いよく外してみればそこにあったのは、怪我は痛々しいけれど今まで見たことがないくらいかわいい美少女の顔だった。
「何これかわいい!えっ、伊之助って実は女の子!?」
つい、本人に了解もとっていない内から呼び捨てにしてしまうほどの衝撃。
「朝緋さん、伊之助はれっきとした男です」
「寝巻きでわからないと思うけど、いつもは上半身が裸でムキムキしてるんだよ。そんな顔してるのに、女の子じゃないのが勿体無いよな」
確かにむきむきの体だったっけ。今は蝶屋敷のパジャマ姿だから見えてないけど、無限列車で会った時には上半身裸だったなぁ。初めて見た時は裸より猪頭でびっくりしたけど、それ以降は見慣れてしまったせいか、感覚が麻痺していたな。
「まあ、そうよね。じゃないと、炭治郎や善逸と同室になるわけないもんね」
ごそ、その時伊之助が動いた。長くて綺麗なまつ毛がふるふると震え、ぱっちりキラキラの目が開いた。
眠れる森の美少女かな?どうしよう可愛すぎて、ぷりぷりとかわいらしいおべべ着せたい。
「ヨワクッテゴメンネ……ぇ、ぁ……俺の頭は……?」
「ごめん、起こしちゃったね」
本当に薬の分解能力が高いのねこの子。薬がこんなにも効きにくいんじゃ下手に怪我させられないな……。
視界の鮮明さで自分が今、素顔を晒していると分かったか、きょろきょろと探す目が最後私の持つ猪の頭に辿り着く。
「……あ、俺の頭。……お前誰だ」
伊之助にしては掠れて小さな声が届く。喉がやられているという話だったね。
「私は煉獄朝緋。猪頭の中の人はどんなかな〜ってつい見てしまったの。ごめんなさいね」
「蓮根まだら?」
惜しい!いや、惜しくない!結局まだらって呼ばれてるし。
「蓮根じゃないなあ。煉獄朝緋です」
「頭を返してくれ。勝手に顔を見たんだから見舞いの食べ物もくれ……」
「あら、君は素顔くらいで見物料取る気かな?」
つん、と伊之助のほっぺたを指でつつく。うわ、肌も美少女って感じ。しっとりもっちり、きめ細やかで綺麗。
「ゴメン」
お見舞いの食べ物は欲しがっているけれど、いつもの伊之助の覇気は全くないなあ。こんな事されたら、絶対払い除けてたよね。
体だけじゃなくて心が弱ってるみたいだ。体をゆっくり休めて、早く心身ともに健康になってほしい。
「まあ、お見舞いの品はあるんだけどね。お団子持ってきたからみんなで食べて」
どちゃっ!大きな風呂敷に包んできたるは『前』と同じく、大量のお団子だ。あー、みたらし美味しそう。鋼鐵塚さんが好きだって気持ちもわかる。
「多くない!?」
「いっぱい食べないと強くなれないからね。たんまり持ってきました!」
善逸がいつも通りに叫ぶ勢いで驚いている中、ふふん、と笑い飛ばして先に一本食べちゃう。
お見舞いなら彼らに先にあげなって?そこに食べてくれとばかりに美味しそうなお団子があれば食べちゃうに決まってる。
「ありがとうございます。多いからわかりますが、朝緋さんも食べるんですね……」
「うんごめん。そもそも炎の呼吸使いはいっぱい食べるのよねえ。
あ、伊之助には噛まずに舐められる甘味、キャラメルもあげようね」
「アリガト」
口に入れてあげたら噛まずに素直に舐めている……よかった。
「禰󠄀豆子ちゃんは鬼だからお団子は食べられないし、はいお花」
ベルトの背中側に差し込んで運んできたから、挟んでいた部分がほんの少しへたってしまったけれどまだまだ綺麗な花盛り。
それをベッド脇の机に置いておく。
「禰󠄀豆子にまで……お気遣いありがとうございます。禰󠄀豆子、お花をもらったよ。よかったなぁ〜あとで髪に挿してあげような」
カタン、お返事代わりに箱が動いた。
「禰󠄀豆子ちゃんって人も食べずに回復するんだよね?なら、傷ってなかなか治らないんじゃないの。中で痛い痛いになってない?大丈夫?」
いくら睡眠で回復できるとはいえ、栄養なしにじゃ時間がかかりそうだもの。とはいえ、二年間我慢できているその記録は、決して終わらせてはならない。人間を食べさせるわけにはいかない。
「回復の速さは他の鬼と変わりません。大丈夫です。ただ治るからといって、禰󠄀豆子を傷つけてきたあの人は謝っても許しませんが!!」
不死川さんは、鬼が嫌いで性格的にちょっと過激なだけなんだけどなぁ。あれで好物のおはぎを食べる瞬間は口元が綻んでかわいらしいし、面倒見がとっても良い後輩思いの優しいお兄ちゃんなのよね。
私の周りは優しい兄で溢れている。
兄と言えば目の前の炭治郎もそうだ。それも重度のシスコンモンペに見える。
「炭治郎ってかなりのシスコンだよね」
「しす、なんです?」
「妹を目に入れても痛くないほど可愛がっているって意味。禰󠄀豆子ちゃんが結婚するってなったら、炭治郎は相手のことを相当試すんじゃない?この人は本当に禰󠄀豆子を幸せにしてくれるかどうか、って」
「試しますね!まず、俺より強くなくちゃ駄目だ!」
うん、良い笑顔。……隣のベッドで横になった善逸が、びくと体を震わせた。
善逸って惚れっぽいけど禰󠄀豆子ちゃんが本命みたいだもんね。