五周目 参
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ちゃぷ……。
目の前で湯煙たゆたう、少し濁った温泉を目にしながら、唇を噛み締める。
ふい、と顔を背けても、杏寿郎さんは私の顔を覗き込んで視界に自身が映り込むように仕向けてきた。
「朝緋。頼むから聞いてくれ」
「……この距離じゃ、聞きたくなくても聞こえちゃうじゃない。
耳栓したとしても、意味をなさないほど近くで大声出すんでしょ。前に言ってたよね」
眉根をほんの少し下げて、くすっと笑っている。私も観念して、同じような笑みを浮かべた。
「俺は君が好きだ。好きで好きでたまらない。朝緋も俺を好いてくれている。違わないだろう?そろそろ素直になってくれ。俺とずっと共にいてくれ。夫婦になってくれ。
……『うん』と、頷いてくれ」
壊れ物でも扱うようにそっと手を取られ、手のひらで覆い隠すように握られる。暖かくて優しい大きな手のひら……大好き。
「師範……まずは、め・お・と、じゃなくて恋仲ではないでしょうか」
「師範と呼ぶな……。
ここまで我慢した俺を褒めてくれ。俺は夫婦がいい。これを証しの一つとして、受け取ってくれまいか?」
「指、輪……?ええっ、指輪!?」
左手の薬指に、光る物が嵌められているのに気がついた。どこからどう見ても結婚指輪だ。
確かに明治くらいから、日本にも結婚指輪が浸透してきたけれど、まさか杏寿郎さんが知っていたなんて。今までは贈られたことなんてなかったし。
「朝緋には簪を贈っているが、つけているところはほとんど見られない。だから代わりに指輪を贈る。
朝緋は俺の目も好きだな?」
「はい……好き、です」
「そうだろうとも。だからこの、燃ゆるような紅色の宝石をあしらわせてもらった」
「ルビー、かな。とても綺麗……」
純金の輪の中、その存在を主張するように嵌め込まれた紅の玉。大きすぎず小さすぎない、美しい杏寿郎さんと同じ色したそれを、キラキラと太陽の光にかざす。
「嬉しいです……ありがとうございます」
「気に入ったようだな」
よく見たら、同じ物がいつの間にやら杏寿郎さんの指にも嵌っていた。
指のサイズなんていつの間に測ったのだろう。忙しい任務の合間に、この人が宝石店に惜しげもなく通って私のためにと作っている姿を思い浮かべる。
ここまでされたら、もう引けない。戻れない。進む先は決まっている……彼の腕の中だ。
「よろしくお願いしますっ」
今度は私から。
飛びつくようにして、杏寿郎さんを抱きしめる。すぐに抱きしめ返されて、気がつけば私の世界にいるのは杏寿郎さんだけになってしまった。
腕の中から私の太陽を見上げる。
「私も杏寿郎さんが大好きです!ずっとずっと前から。貴方が私を好きになる前から、貴方よりももっともーっと、貴方を想う気持ちは強かった!!」
「なぬ!?
はははっ!俺よりも強く想っていただなんて、信じられんな!俺の方が朝緋を想う気持ちは強いのだが!!」
どちらがよりお互いを想っているかの話がしばし続いたけれど、結局堂々巡りで。最終的にお湯の掛け合いに発展して私達は水遊びに興じてしまった。
湯の中で後ろから抱きしめられて杏寿郎さんの膝の上。お腹に回された手を取り、自分の指輪と杏寿郎さんの指輪を改めて眺める。
「任務中に落としたりしないかすごく不安だね。無くしたりしたら私、悲しすぎて毎日泣き暮らしちゃう」
「そうすっぱ抜けたりはせんだろうて。
朝緋の日輪刀の柄巻きならば、指輪が邪魔になることはないはずだからな。そして君は順応するのが早い。だから大丈夫だ。俺の指輪もまた然り。
それに、鬼殺の際の邪魔にならぬような形で作っていただいたから問題ない!」
オーダーメイド……!!柱のお給金は言った分だけ貰えるとは言うけれど、これ、一体いくらなの!?怖くて聞けない。
「それより口づけを……いいか?」
後ろから覗き込み、私の顎に手を添えて上向かせてくる。いいかと言うより、する寸前。
断ることを憚られるような、物欲しそうな愛しい雄の姿がそこにあった。
「ん、さっき散々してきたじゃない」
「気持ちがきちんと通じ合ってからの口づけはまた違うはずだ」
「変わらないと思、」
押し倒されるようにして、口づけが重ねられた。そのまま二人共に、バシャンと水中に倒れ込む。
「ぁ……ん、はぁっ、……」
「んん、……、ン……」
完全に湯の中に入らないよう、杏寿郎さんの体に全身で抱きつく私。もはや、足を全力でその体に絡ませ、ぴったりくっついてしまっている状態。……抱っこちゃん人形かな。
「ふ、は……、このままシたいものだな」
おっとぉ、とんでもない発言が聞こえたぞ。杏寿郎さんの下半身の方も、少しばかり大きく固くなったような気がする。気がするではない、そうだと確実に断言できる。
「な、何をかな?」
「言っていいのか?言ったら今すぐ行動に移してしまうぞ」
「言わなくていいです」
「残念、また今度だな」
少し残念そうに離れていく、杏寿郎さんの唇、体。
「通じ合ったばかりなのでそれだけは我慢して?」
「ふむ。これもまた忍耐か……お次はどこまで我慢できるだろうなぁ?俺も、朝緋も」
……ノーコメントで。
その後、びしょ濡れの濡れ鼠状態の私と、水も滴る良い男の杏寿郎さんは、隊服の水分を少しでもなくそうと絞ったんだけども……。水にも炎にも鬼の攻撃にも強い隊服だからこそなのか、一度含んだ水はなかなか落ちてくれなかった。
そうよね。お洗濯した時もなかなか乾かないもんね。
「絞ってみてもずぶ濡れなのは変わらんな!このまま入っては宿の者に怒られてしまいそうだ。庭から入るか……」
「品行方正な炎柱様がそんな事していいの?ちゃんと玄関から入って二人で怒られましょ。ね?杏寿郎さん」
「そうだな。二人揃って怒られるとしよう!」
少し先を歩いていた杏寿郎さんが、立ち止まり振り返る。その腕が私に伸ばされた。
「濡れた服のままだから今度こそ、俺でなくて朝緋が風邪をひいてしまう。同じく濡れた体だが、羽織の中に包まるといい。
……おいで」
優しく迎え入れるその手のひらに指を重ね、羽織の中に入る。
「杏寿郎さんの匂いがする……」
「嫌な匂いか?」
「ううん、大好き。あったかい……」
すりすりと頬擦りすれば、抱きしめる力が強く、でもさらに優しくなる。このまま寝ちゃいたい。
でもこうしていると、冷たく凍った川での任務の時を思い出す。
あの時も特別暖かいなって思ったけれど、今はもっともっと暖かく感じる。浸かっていたのが温泉だからじゃない。
やっと杏寿郎さんに想いを告げられた。やっと本来の望みのままに、杏寿郎さんの隣にいられるからだ。
強さを追い求める気持ちは変わらない。恋愛にばかり現を抜かさぬよう自身を律すると誓う。
けれど、今はどうかこのままでいさせてね。杏寿郎さんの温もりで暖まらせて。
もっと強くなるから。この人を我が命に変えても守るから。
望む未来にしてみせるから。
目の前で湯煙たゆたう、少し濁った温泉を目にしながら、唇を噛み締める。
ふい、と顔を背けても、杏寿郎さんは私の顔を覗き込んで視界に自身が映り込むように仕向けてきた。
「朝緋。頼むから聞いてくれ」
「……この距離じゃ、聞きたくなくても聞こえちゃうじゃない。
耳栓したとしても、意味をなさないほど近くで大声出すんでしょ。前に言ってたよね」
眉根をほんの少し下げて、くすっと笑っている。私も観念して、同じような笑みを浮かべた。
「俺は君が好きだ。好きで好きでたまらない。朝緋も俺を好いてくれている。違わないだろう?そろそろ素直になってくれ。俺とずっと共にいてくれ。夫婦になってくれ。
……『うん』と、頷いてくれ」
壊れ物でも扱うようにそっと手を取られ、手のひらで覆い隠すように握られる。暖かくて優しい大きな手のひら……大好き。
「師範……まずは、め・お・と、じゃなくて恋仲ではないでしょうか」
「師範と呼ぶな……。
ここまで我慢した俺を褒めてくれ。俺は夫婦がいい。これを証しの一つとして、受け取ってくれまいか?」
「指、輪……?ええっ、指輪!?」
左手の薬指に、光る物が嵌められているのに気がついた。どこからどう見ても結婚指輪だ。
確かに明治くらいから、日本にも結婚指輪が浸透してきたけれど、まさか杏寿郎さんが知っていたなんて。今までは贈られたことなんてなかったし。
「朝緋には簪を贈っているが、つけているところはほとんど見られない。だから代わりに指輪を贈る。
朝緋は俺の目も好きだな?」
「はい……好き、です」
「そうだろうとも。だからこの、燃ゆるような紅色の宝石をあしらわせてもらった」
「ルビー、かな。とても綺麗……」
純金の輪の中、その存在を主張するように嵌め込まれた紅の玉。大きすぎず小さすぎない、美しい杏寿郎さんと同じ色したそれを、キラキラと太陽の光にかざす。
「嬉しいです……ありがとうございます」
「気に入ったようだな」
よく見たら、同じ物がいつの間にやら杏寿郎さんの指にも嵌っていた。
指のサイズなんていつの間に測ったのだろう。忙しい任務の合間に、この人が宝石店に惜しげもなく通って私のためにと作っている姿を思い浮かべる。
ここまでされたら、もう引けない。戻れない。進む先は決まっている……彼の腕の中だ。
「よろしくお願いしますっ」
今度は私から。
飛びつくようにして、杏寿郎さんを抱きしめる。すぐに抱きしめ返されて、気がつけば私の世界にいるのは杏寿郎さんだけになってしまった。
腕の中から私の太陽を見上げる。
「私も杏寿郎さんが大好きです!ずっとずっと前から。貴方が私を好きになる前から、貴方よりももっともーっと、貴方を想う気持ちは強かった!!」
「なぬ!?
はははっ!俺よりも強く想っていただなんて、信じられんな!俺の方が朝緋を想う気持ちは強いのだが!!」
どちらがよりお互いを想っているかの話がしばし続いたけれど、結局堂々巡りで。最終的にお湯の掛け合いに発展して私達は水遊びに興じてしまった。
湯の中で後ろから抱きしめられて杏寿郎さんの膝の上。お腹に回された手を取り、自分の指輪と杏寿郎さんの指輪を改めて眺める。
「任務中に落としたりしないかすごく不安だね。無くしたりしたら私、悲しすぎて毎日泣き暮らしちゃう」
「そうすっぱ抜けたりはせんだろうて。
朝緋の日輪刀の柄巻きならば、指輪が邪魔になることはないはずだからな。そして君は順応するのが早い。だから大丈夫だ。俺の指輪もまた然り。
それに、鬼殺の際の邪魔にならぬような形で作っていただいたから問題ない!」
オーダーメイド……!!柱のお給金は言った分だけ貰えるとは言うけれど、これ、一体いくらなの!?怖くて聞けない。
「それより口づけを……いいか?」
後ろから覗き込み、私の顎に手を添えて上向かせてくる。いいかと言うより、する寸前。
断ることを憚られるような、物欲しそうな愛しい雄の姿がそこにあった。
「ん、さっき散々してきたじゃない」
「気持ちがきちんと通じ合ってからの口づけはまた違うはずだ」
「変わらないと思、」
押し倒されるようにして、口づけが重ねられた。そのまま二人共に、バシャンと水中に倒れ込む。
「ぁ……ん、はぁっ、……」
「んん、……、ン……」
完全に湯の中に入らないよう、杏寿郎さんの体に全身で抱きつく私。もはや、足を全力でその体に絡ませ、ぴったりくっついてしまっている状態。……抱っこちゃん人形かな。
「ふ、は……、このままシたいものだな」
おっとぉ、とんでもない発言が聞こえたぞ。杏寿郎さんの下半身の方も、少しばかり大きく固くなったような気がする。気がするではない、そうだと確実に断言できる。
「な、何をかな?」
「言っていいのか?言ったら今すぐ行動に移してしまうぞ」
「言わなくていいです」
「残念、また今度だな」
少し残念そうに離れていく、杏寿郎さんの唇、体。
「通じ合ったばかりなのでそれだけは我慢して?」
「ふむ。これもまた忍耐か……お次はどこまで我慢できるだろうなぁ?俺も、朝緋も」
……ノーコメントで。
その後、びしょ濡れの濡れ鼠状態の私と、水も滴る良い男の杏寿郎さんは、隊服の水分を少しでもなくそうと絞ったんだけども……。水にも炎にも鬼の攻撃にも強い隊服だからこそなのか、一度含んだ水はなかなか落ちてくれなかった。
そうよね。お洗濯した時もなかなか乾かないもんね。
「絞ってみてもずぶ濡れなのは変わらんな!このまま入っては宿の者に怒られてしまいそうだ。庭から入るか……」
「品行方正な炎柱様がそんな事していいの?ちゃんと玄関から入って二人で怒られましょ。ね?杏寿郎さん」
「そうだな。二人揃って怒られるとしよう!」
少し先を歩いていた杏寿郎さんが、立ち止まり振り返る。その腕が私に伸ばされた。
「濡れた服のままだから今度こそ、俺でなくて朝緋が風邪をひいてしまう。同じく濡れた体だが、羽織の中に包まるといい。
……おいで」
優しく迎え入れるその手のひらに指を重ね、羽織の中に入る。
「杏寿郎さんの匂いがする……」
「嫌な匂いか?」
「ううん、大好き。あったかい……」
すりすりと頬擦りすれば、抱きしめる力が強く、でもさらに優しくなる。このまま寝ちゃいたい。
でもこうしていると、冷たく凍った川での任務の時を思い出す。
あの時も特別暖かいなって思ったけれど、今はもっともっと暖かく感じる。浸かっていたのが温泉だからじゃない。
やっと杏寿郎さんに想いを告げられた。やっと本来の望みのままに、杏寿郎さんの隣にいられるからだ。
強さを追い求める気持ちは変わらない。恋愛にばかり現を抜かさぬよう自身を律すると誓う。
けれど、今はどうかこのままでいさせてね。杏寿郎さんの温もりで暖まらせて。
もっと強くなるから。この人を我が命に変えても守るから。
望む未来にしてみせるから。