五周目 参
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「ひまわりが空飛んでる……!」
夏真っ盛りに炎柱邸の庭で鍛錬に励んでいたら、東の空に向けた視界に、ふわふわ揺れる飛来物が映り込んだ。
どう見ても夏の花、ひまわりにしか見えないそれ。
え、何これ血鬼術?
私の中で、変なものは全て血鬼術に分類される。幽霊?心霊現象?知らない子ですねぇ。
飛来物は自分の鎹烏だった。あずまがその身の丈よりも巨大なひまわりを運んできたのだった。
「あずま!?どーしたのこれ」
「獪岳ガ、朝緋チャンニッテ……ゼェハァ、ソレヨリオ水チョーダイ……スゴク重カッタ!」
ひょろひょろひょろ〜と私の腕の中に落下してきた彼女を抱き留め、ひまわりを受け取る。まずは疲弊したあずまにお水とご飯だ。
「この暑さの中ご苦労様。蒸し鶏になっちゃう暑さよね。
さて、獪岳が手紙と共に花も一緒に送ってくるなんて珍し……どういう風の吹き回しかしらね」
同期である獪岳とはこうしてたまに文を交わしている。善逸にも送ってあげればいいのにね。
弟弟子にも送れば?と言ってもあの子は全然聞かないのよね。
どうして獪岳がそんなにも善逸を嫌うのか改めて思い浮かべながら、文を開いて中を読む。
ひまわりの枝葉に括られた文には、いつもの近状報告と共に、日輪草が咲いてたからお前にやる。種は炒って食べられる話が書いてあった。
「そういえば日輪草だなんて別名があったね」
ひまわりは太陽の化身。だから日輪草とも呼ばれる。
日輪刀を扱う鬼殺隊士にはぴったりなお花で、やはり同じく太陽の化身である杏寿郎さんにもお似合いの花なのだ。
それにしても、種は炒って食べられるから遠慮せず食えだなんて、まるで私が食い意地が張ってる人みたいじゃないか。
だいたい、どこでこんなにも大きなひまわりを手に入れたんだか。獪岳は手癖が悪い方だし、どこかで手折ってきたな……?
「……確か、一本のひまわりの花言葉は、一目惚れ。ひまわり自体の花言葉は憧れや、あなただけ見つめてる、だっけ」
なかなかにドキドキする花言葉。
まあ、獪岳が花言葉なんて知っているわけないし、そもそもこの時代に花言葉なんてあるかどうかも知らないけどね。
ひまわりを生ける私の呟きが杏寿郎さんに聞かれていたこと。その結果また、杏寿郎さんが激しく悋気の炎を燃やしていただなんて、その時の私には知る由もなかった。
杏寿郎さんの体調が崩れたのは、それからすぐのこと。
「あれ、師範もしかして調子悪い?大丈夫ですか?」
体幹ブレブレ。頭どころか体が不自然に左右に揺れている杏寿郎さんがそこにいた。心なしか呼吸法も乱れていて、常中が完全でないような……?
「いや、大丈夫だ。少しばかり疲れているだけだ」
「柱になって間もないし忙しいもんね」
「まぁそうだな。加えて、先日の任務で長時間雨に打たれたからな、それが効いているのだろう」
「ちゃんと拭かないからですよ」
杏寿郎さんが単身挑んだ任務。強力な血鬼術を使う鬼の討伐時、夜の間ずっと雨に晒されていたというのに、彼は体を拭かなかった。帰ってから風呂で温まることもしなかった。
冷えた体のまま床についたのだから、風邪をひいて当然だ。
そうでなくても疲れが溜まると風邪もひくってのにね。
「次の非番には鍛錬せずゆっくりお休みされては?」
「それは駄目だ!他の隊士に示しがつかん!俺は柱だ、常に強くあれるよう修行せねば!!」
気持ちはわかる。私も強さを求めて修行の日々だもの。でもお休みは大事。
「柱?柱だから何?って思います。柱だって人間だよ。強くあろうとするその気持ちは大事ですけど、時には休んでいいのでは?
非番の日に私と買い物行ったりするでしょ?それだって休んでる事になるじゃん。非番には修行を休んで寝る日だってあっていいと思う」
「それとこれとは話が別だ!!朝緋との逢引と一緒にするな!!」
「逢引なんて言わないで。別じゃないよ。
そんな顔色して……。無理はしないで欲しいの」
大声を出したからだろう。目に見えて顔色が悪くなった。
久しぶりに、私から手を握る。んー、やっぱりいつもより熱い。
「もっとご自分を大切にしてください。
私にも言ったように。私が風邪をひいた時、貴方に言われてしっかりと休んだように……」
目を見つめて言い聞かせるように話せば。
「……?俺はそんなことをいつ言った?君が風邪をひいた時に、言った?風邪などひいたことのない朝緋にか?」
「ぁ、だ、黙ってたけど軽く夏風邪ひいたことあるの!」
『今回』は風邪ひいてないじゃん。元気いっぱい、風邪ひかずだったわ。
「そうかそれは大変だったな。ならば尚更だ。俺は風邪のことは知らんし、君にそんな言葉を伝えていない。誰と勘違いをしている?千寿郎か?父上か?」
「父様ですね!?」
「……先程から声が若干上擦っている。目線がほんの少し右上に泳いだ。朝緋のそれは嘘だな」
あっやば、バレた。さすが杏寿郎さん。
「俺は狭量な男でな。君に近づく人間全てに嫉妬してしまう……。誰に言われたのかわからない言葉にすら、不快に思う。
朝緋が同期と必要以上に仲がいいのも不快だ」
「同期……、獪岳のこ、「名前まで出してくれるな」
ぎゅ……。
握っていた手を引かれ、またも閉じ込められる杏寿郎さんの腕の中。
頬と頬が触れる。私の少し冷えた肌に当たる、杏寿郎さんの肌は燃えるように熱く、そして朱に染まっていて。
「お顔、赤い……熱いよ。やっぱり風邪ひいてる。休も?お薬飲んでしっかり寝よう?師範が……杏寿郎兄さんが、お風邪で苦しい状態なのは妹として見過ごせません」
「はあ〜……そこで兄と呼ぶとはな。わかった、休むとしよう。妹の頼みだからな。
ん?薬とはよもや蝶屋敷の者が処方する薬では?」
「そうなりますね」
「苦いから飲みたくない」
杏寿郎さんは苦い物がそんなに得意な方ではない。ぷいとそっぽを向く仕草はかわいいけれど、そうはいかない。
「我慢してくださいよ。美味しいお粥をご用意しますから。お芋のポタージュ……汁物も」
「牛の乳と混ざったトロトロとあたたかい芋汁だな!?あれはうまい!鍋ごと飲みたい!!あれがあるのなら薬も飲むぞ!!」
「はいはい、たくさん作りますね」
さつまいものポタージュ、美味しいよね。
コンソメ顆粒なんて便利な物がないから、昆布や鰹節のお出汁、炒め玉ねぎでコクを出すしかないけど、なめらかに潰したお芋と牛乳で作られた温かいスープは、お腹の中からほこほこして温まるのよねえ……。杏寿郎さんじゃなくても好きだと思う。
「あ、寂しいので一人で眠りたくないのだが。共に寝てはくれまいか?」
「駄目。一人で眠ってください」
だって杏寿郎さん、一緒のお布団になんて入ったら風邪にかこつけて抱きしめる以上のことをしてくるでしょ。
私にはお見通しなんだからね!
夏真っ盛りに炎柱邸の庭で鍛錬に励んでいたら、東の空に向けた視界に、ふわふわ揺れる飛来物が映り込んだ。
どう見ても夏の花、ひまわりにしか見えないそれ。
え、何これ血鬼術?
私の中で、変なものは全て血鬼術に分類される。幽霊?心霊現象?知らない子ですねぇ。
飛来物は自分の鎹烏だった。あずまがその身の丈よりも巨大なひまわりを運んできたのだった。
「あずま!?どーしたのこれ」
「獪岳ガ、朝緋チャンニッテ……ゼェハァ、ソレヨリオ水チョーダイ……スゴク重カッタ!」
ひょろひょろひょろ〜と私の腕の中に落下してきた彼女を抱き留め、ひまわりを受け取る。まずは疲弊したあずまにお水とご飯だ。
「この暑さの中ご苦労様。蒸し鶏になっちゃう暑さよね。
さて、獪岳が手紙と共に花も一緒に送ってくるなんて珍し……どういう風の吹き回しかしらね」
同期である獪岳とはこうしてたまに文を交わしている。善逸にも送ってあげればいいのにね。
弟弟子にも送れば?と言ってもあの子は全然聞かないのよね。
どうして獪岳がそんなにも善逸を嫌うのか改めて思い浮かべながら、文を開いて中を読む。
ひまわりの枝葉に括られた文には、いつもの近状報告と共に、日輪草が咲いてたからお前にやる。種は炒って食べられる話が書いてあった。
「そういえば日輪草だなんて別名があったね」
ひまわりは太陽の化身。だから日輪草とも呼ばれる。
日輪刀を扱う鬼殺隊士にはぴったりなお花で、やはり同じく太陽の化身である杏寿郎さんにもお似合いの花なのだ。
それにしても、種は炒って食べられるから遠慮せず食えだなんて、まるで私が食い意地が張ってる人みたいじゃないか。
だいたい、どこでこんなにも大きなひまわりを手に入れたんだか。獪岳は手癖が悪い方だし、どこかで手折ってきたな……?
「……確か、一本のひまわりの花言葉は、一目惚れ。ひまわり自体の花言葉は憧れや、あなただけ見つめてる、だっけ」
なかなかにドキドキする花言葉。
まあ、獪岳が花言葉なんて知っているわけないし、そもそもこの時代に花言葉なんてあるかどうかも知らないけどね。
ひまわりを生ける私の呟きが杏寿郎さんに聞かれていたこと。その結果また、杏寿郎さんが激しく悋気の炎を燃やしていただなんて、その時の私には知る由もなかった。
杏寿郎さんの体調が崩れたのは、それからすぐのこと。
「あれ、師範もしかして調子悪い?大丈夫ですか?」
体幹ブレブレ。頭どころか体が不自然に左右に揺れている杏寿郎さんがそこにいた。心なしか呼吸法も乱れていて、常中が完全でないような……?
「いや、大丈夫だ。少しばかり疲れているだけだ」
「柱になって間もないし忙しいもんね」
「まぁそうだな。加えて、先日の任務で長時間雨に打たれたからな、それが効いているのだろう」
「ちゃんと拭かないからですよ」
杏寿郎さんが単身挑んだ任務。強力な血鬼術を使う鬼の討伐時、夜の間ずっと雨に晒されていたというのに、彼は体を拭かなかった。帰ってから風呂で温まることもしなかった。
冷えた体のまま床についたのだから、風邪をひいて当然だ。
そうでなくても疲れが溜まると風邪もひくってのにね。
「次の非番には鍛錬せずゆっくりお休みされては?」
「それは駄目だ!他の隊士に示しがつかん!俺は柱だ、常に強くあれるよう修行せねば!!」
気持ちはわかる。私も強さを求めて修行の日々だもの。でもお休みは大事。
「柱?柱だから何?って思います。柱だって人間だよ。強くあろうとするその気持ちは大事ですけど、時には休んでいいのでは?
非番の日に私と買い物行ったりするでしょ?それだって休んでる事になるじゃん。非番には修行を休んで寝る日だってあっていいと思う」
「それとこれとは話が別だ!!朝緋との逢引と一緒にするな!!」
「逢引なんて言わないで。別じゃないよ。
そんな顔色して……。無理はしないで欲しいの」
大声を出したからだろう。目に見えて顔色が悪くなった。
久しぶりに、私から手を握る。んー、やっぱりいつもより熱い。
「もっとご自分を大切にしてください。
私にも言ったように。私が風邪をひいた時、貴方に言われてしっかりと休んだように……」
目を見つめて言い聞かせるように話せば。
「……?俺はそんなことをいつ言った?君が風邪をひいた時に、言った?風邪などひいたことのない朝緋にか?」
「ぁ、だ、黙ってたけど軽く夏風邪ひいたことあるの!」
『今回』は風邪ひいてないじゃん。元気いっぱい、風邪ひかずだったわ。
「そうかそれは大変だったな。ならば尚更だ。俺は風邪のことは知らんし、君にそんな言葉を伝えていない。誰と勘違いをしている?千寿郎か?父上か?」
「父様ですね!?」
「……先程から声が若干上擦っている。目線がほんの少し右上に泳いだ。朝緋のそれは嘘だな」
あっやば、バレた。さすが杏寿郎さん。
「俺は狭量な男でな。君に近づく人間全てに嫉妬してしまう……。誰に言われたのかわからない言葉にすら、不快に思う。
朝緋が同期と必要以上に仲がいいのも不快だ」
「同期……、獪岳のこ、「名前まで出してくれるな」
ぎゅ……。
握っていた手を引かれ、またも閉じ込められる杏寿郎さんの腕の中。
頬と頬が触れる。私の少し冷えた肌に当たる、杏寿郎さんの肌は燃えるように熱く、そして朱に染まっていて。
「お顔、赤い……熱いよ。やっぱり風邪ひいてる。休も?お薬飲んでしっかり寝よう?師範が……杏寿郎兄さんが、お風邪で苦しい状態なのは妹として見過ごせません」
「はあ〜……そこで兄と呼ぶとはな。わかった、休むとしよう。妹の頼みだからな。
ん?薬とはよもや蝶屋敷の者が処方する薬では?」
「そうなりますね」
「苦いから飲みたくない」
杏寿郎さんは苦い物がそんなに得意な方ではない。ぷいとそっぽを向く仕草はかわいいけれど、そうはいかない。
「我慢してくださいよ。美味しいお粥をご用意しますから。お芋のポタージュ……汁物も」
「牛の乳と混ざったトロトロとあたたかい芋汁だな!?あれはうまい!鍋ごと飲みたい!!あれがあるのなら薬も飲むぞ!!」
「はいはい、たくさん作りますね」
さつまいものポタージュ、美味しいよね。
コンソメ顆粒なんて便利な物がないから、昆布や鰹節のお出汁、炒め玉ねぎでコクを出すしかないけど、なめらかに潰したお芋と牛乳で作られた温かいスープは、お腹の中からほこほこして温まるのよねえ……。杏寿郎さんじゃなくても好きだと思う。
「あ、寂しいので一人で眠りたくないのだが。共に寝てはくれまいか?」
「駄目。一人で眠ってください」
だって杏寿郎さん、一緒のお布団になんて入ったら風邪にかこつけて抱きしめる以上のことをしてくるでしょ。
私にはお見通しなんだからね!