五周目 参
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杏寿郎さんが正式に炎柱になった。
その赤い日輪刀の刃には、悪鬼滅殺の文字が彫られ、美しい輝きを帯びている。
炎柱となりその羽織を受け継いだ杏寿郎さんが、槇寿朗さんにその報告をしている。
美しい昼下がりの風景の中、淡々と。でもとても嬉しそうに言葉を紡ぐ杏寿郎さん。その声をずっと聞いていたくて、襖の外で静かに耳を傾ける。
けれどその声を遮るのはいつだって槇寿朗さんの言葉。
「柱になったからなんだ。くだらん、どうでもいい」
いつもそうだ。いつもこの人は、私達に対して怒っている。くだらない、どうでもいいと言いながら、その内側に怒りを内包している。
自分は柱を首になり、自分を差し置いて柱になった息子に怒っているわけではない。
ただただ、その根本には「死んでほしくない」「だから鬼殺隊をやめてほしい」「進む先には絶望しかない」というのがあって怒っているのはわかっている。だって、何回も見てきたもの。
でも、槇寿朗さんの口から飛び出す言葉はいつ聞いても腹立たしく思うのも変わらない。
本当は私も槇寿朗さんの血を引いた実子なのでは?と、思うほど感情的になりやすいところが似かよっているので、槇寿朗さんの言葉を拾った私は案の定激昂した。言葉の理由がわかっていようと、聞くと我慢がならない。
襖を蹴破る勢いで開け、柱になった報告をしている杏寿郎さんに割って入り、槇寿朗さんに食ってかかる私。
もう我慢ならなかった。
……これは毎回のことだから、許してね。
ここから出ていけと、最終的にそう言われた私は売り言葉に買い言葉。出て行きます!と言い残し、杏寿郎さんと共にそのまま炎柱邸へと向かうことになったのだけれど……。
「勢いで飛び出したようだが、生家を出てしまっていいのか?いや、俺は嬉しいが」
「いいんですーぅ。いつかこうなるって千寿郎には前々から言って聞かせてあります。荷物も用意しておりました。父様のお酒も没収ということで、包んで持ってきてあります!」
「酒は父上が困ると思う。やりすぎでは……?それに酒があっても、朝緋は飲まんだろうに」
「料理酒として使えるよ」
辿り着いた懐かしの。だけれど『今回』は初めましての炎柱邸。相変わらず、私が来ないと台所が汚いままである。
お掃除とお料理のし甲斐があるよね。
「それより師範。私を正式に継子にしてくださいませんか?貴方が柱になった時に、改めてお願いしようと元より思っておりました」
ついた炎柱邸の縁側に二人、腰掛けながら居住いを正してお願いをする。これ以上の強さは、正式な継子にでもならないと手に入らない。
「継子な……もちろん快く承諾する。他にも継子は居るのだしな!」
「あ、今は他にも継子いるんだね」
今までいたっけ?というくらい、すぐ辞めちゃうからいないと思い込んでいた。
「ああ、何名か継子を持っている。全員が女子だ。皆まだまだ弱く鍛え甲斐はあるのだが、すぐ辞めてしまうのが難点だな」
継子になりたいと申し出る者は全員ウェルカムなのが炎柱・煉獄杏寿郎だ。そして継子全員が女の子で。でもすぐやめちゃうとな?
……なるほどね、杏寿郎さんに惚れて継子にしてもらったは良いものの、その修行の辛さに耐えきれず逃げちゃってるってところか。
よく聞く話だよね。杏寿郎さんの修行は、ただでさえ継子がすぐ辞めてしまうことで有名だったのに、『今まで』よりもきついものにグレードアップしてるんだもの。
私ですらついていくのがやっとなくらいだ。
要が書を運んできたのはその時だ。読んでいた杏寿郎さんの額に、少しだけ皺が寄る。
「む?……朝緋、残念なお知らせだ」
「残念な?任務がなくなって非番になったとか?」
「君は任務の方が嬉しいのか!変わっているな!!違う違う、先ほどまでいた継子が朝緋一人になってしまったという知らせだ」
鬼を減らすことができるのなら、任務の方が嬉しい。戦いの中で成長も望める場合もあるし、任務にはなるべく多く行きたい。
それがまさか、継子がいなくなるという知らせとは……。
「辞めたってこと?はやっ!!まだ誰一人として顔見てないのに!」
「もはや継子は朝緋一人でいいかもなあ……」
どこか残念そうなのに、嬉しそうでもある杏寿郎さん。何その顔。
「朝緋には是非、継子としてだけでなく伴侶として隣にいてほしいからな。距離を詰めて攻めていくには二人きりの方が好都合。そうだろう?」
「師範たらまだそんなこと言ってるのね。諦め悪ぅい」
「当たり前だ!俺は決して諦めはしない。君がうんと頷くまで言い続けるぞ」
「なら耳栓しとく」
いつなん時、杏寿郎さんの初任務の時のような鬼が出ないとも限らない。それに来たる無限列車の任務時にも対魘夢戦で必要だ。だから蜜蝋は常に持ち歩いている。
その耳栓を詰める仕草で、私は耳を手で塞いだ。気分は聞か猿。
「耳栓とな!ならそれを上回る声で愛を叫んでみせよう!」
「近隣住民の迷惑考えて下さい」
あと愛を叫ぶだなんて、恥ずかしすぎるからやめて。
「ならば耳栓をしなければよかろう。大人しく俺の声を聞けばいい」
そっと、私の手を耳から外させてくる。取られた手が代わりとばかりに置かされたのは、杏寿郎さんの熱い頬。
熱い体温が伝わってくると共に、杏寿郎さんの想いがその熱視線に乗って伝わってきて。……ああもう、私の負けだ。
うん、と頷かなくとも、杏寿郎さんの言葉には耳を傾けよう。どんなに照れくさくても、彼のまっすぐな気持ち。言葉。その全てが私の活力になるのだから。
もっと強くなる。貴方を守ってみせる。
目の前の太陽が。ひまわりがキラキラと眩しくいつまでも輝く様をずっと見ていたい。この光は奪われてはならない。
だから、守れたとわかるその時までは私の気持ちには蓋を……。
「そういえば朝緋はよく、俺を太陽やひまわりの花に例えていたな」
「ぇ、ええまあ……似てますし」
驚いた、太陽とひまわりについて思い馳せていたら本人から同じことを言われるとは。
炎柱邸の、今は何もない広い庭に目を向ける杏寿郎さん。
光に照らされたまつ毛が光ってる。美しいその目の大きさばかりに視線が行きやすいけれど、横から見るとまつ毛の長さにときめきを覚える。
横顔も、その目も、まつ毛までもが、なんて綺麗な人だろう。
「なあ朝緋……ひまわりの種を、百粒ほど蒔いて歩こうか。夏には百本全てが咲いて、朝緋が俺に振り向いてくれるように」
嬉しい言葉だし『前』に似た話をされた。でも、その花は違う。
「なんか混ざってない?それって普通、芍薬だよね」
「そうかもしれんが朝緋の好きな花でやろうと思っ、……俺はいつ朝緋がひまわりを好きだと聞いたのだったか。全く思い出せんな」
「さてね、小さい頃かもよ。覚えてないなら今聞いたことにしとけば?実際、私の好きなお花の一つだもの」
大好きな貴方に例える程なのだから、私がその花を好きなのも当然だ。
「ひまわりもいいけど、どうせ植えるなら食べられる植物がいいな。お芋の苗とか」
「芋の苗……?
っははは!!芋の苗か!好きに植えるといい!まったく、仕方ない子だ。まあ朝緋は大喰らいだものな!!」
「だってお芋は師範の好物でしょ!?……私も好きだけどさ」
大喰らいも、お互い様だ。
その赤い日輪刀の刃には、悪鬼滅殺の文字が彫られ、美しい輝きを帯びている。
炎柱となりその羽織を受け継いだ杏寿郎さんが、槇寿朗さんにその報告をしている。
美しい昼下がりの風景の中、淡々と。でもとても嬉しそうに言葉を紡ぐ杏寿郎さん。その声をずっと聞いていたくて、襖の外で静かに耳を傾ける。
けれどその声を遮るのはいつだって槇寿朗さんの言葉。
「柱になったからなんだ。くだらん、どうでもいい」
いつもそうだ。いつもこの人は、私達に対して怒っている。くだらない、どうでもいいと言いながら、その内側に怒りを内包している。
自分は柱を首になり、自分を差し置いて柱になった息子に怒っているわけではない。
ただただ、その根本には「死んでほしくない」「だから鬼殺隊をやめてほしい」「進む先には絶望しかない」というのがあって怒っているのはわかっている。だって、何回も見てきたもの。
でも、槇寿朗さんの口から飛び出す言葉はいつ聞いても腹立たしく思うのも変わらない。
本当は私も槇寿朗さんの血を引いた実子なのでは?と、思うほど感情的になりやすいところが似かよっているので、槇寿朗さんの言葉を拾った私は案の定激昂した。言葉の理由がわかっていようと、聞くと我慢がならない。
襖を蹴破る勢いで開け、柱になった報告をしている杏寿郎さんに割って入り、槇寿朗さんに食ってかかる私。
もう我慢ならなかった。
……これは毎回のことだから、許してね。
ここから出ていけと、最終的にそう言われた私は売り言葉に買い言葉。出て行きます!と言い残し、杏寿郎さんと共にそのまま炎柱邸へと向かうことになったのだけれど……。
「勢いで飛び出したようだが、生家を出てしまっていいのか?いや、俺は嬉しいが」
「いいんですーぅ。いつかこうなるって千寿郎には前々から言って聞かせてあります。荷物も用意しておりました。父様のお酒も没収ということで、包んで持ってきてあります!」
「酒は父上が困ると思う。やりすぎでは……?それに酒があっても、朝緋は飲まんだろうに」
「料理酒として使えるよ」
辿り着いた懐かしの。だけれど『今回』は初めましての炎柱邸。相変わらず、私が来ないと台所が汚いままである。
お掃除とお料理のし甲斐があるよね。
「それより師範。私を正式に継子にしてくださいませんか?貴方が柱になった時に、改めてお願いしようと元より思っておりました」
ついた炎柱邸の縁側に二人、腰掛けながら居住いを正してお願いをする。これ以上の強さは、正式な継子にでもならないと手に入らない。
「継子な……もちろん快く承諾する。他にも継子は居るのだしな!」
「あ、今は他にも継子いるんだね」
今までいたっけ?というくらい、すぐ辞めちゃうからいないと思い込んでいた。
「ああ、何名か継子を持っている。全員が女子だ。皆まだまだ弱く鍛え甲斐はあるのだが、すぐ辞めてしまうのが難点だな」
継子になりたいと申し出る者は全員ウェルカムなのが炎柱・煉獄杏寿郎だ。そして継子全員が女の子で。でもすぐやめちゃうとな?
……なるほどね、杏寿郎さんに惚れて継子にしてもらったは良いものの、その修行の辛さに耐えきれず逃げちゃってるってところか。
よく聞く話だよね。杏寿郎さんの修行は、ただでさえ継子がすぐ辞めてしまうことで有名だったのに、『今まで』よりもきついものにグレードアップしてるんだもの。
私ですらついていくのがやっとなくらいだ。
要が書を運んできたのはその時だ。読んでいた杏寿郎さんの額に、少しだけ皺が寄る。
「む?……朝緋、残念なお知らせだ」
「残念な?任務がなくなって非番になったとか?」
「君は任務の方が嬉しいのか!変わっているな!!違う違う、先ほどまでいた継子が朝緋一人になってしまったという知らせだ」
鬼を減らすことができるのなら、任務の方が嬉しい。戦いの中で成長も望める場合もあるし、任務にはなるべく多く行きたい。
それがまさか、継子がいなくなるという知らせとは……。
「辞めたってこと?はやっ!!まだ誰一人として顔見てないのに!」
「もはや継子は朝緋一人でいいかもなあ……」
どこか残念そうなのに、嬉しそうでもある杏寿郎さん。何その顔。
「朝緋には是非、継子としてだけでなく伴侶として隣にいてほしいからな。距離を詰めて攻めていくには二人きりの方が好都合。そうだろう?」
「師範たらまだそんなこと言ってるのね。諦め悪ぅい」
「当たり前だ!俺は決して諦めはしない。君がうんと頷くまで言い続けるぞ」
「なら耳栓しとく」
いつなん時、杏寿郎さんの初任務の時のような鬼が出ないとも限らない。それに来たる無限列車の任務時にも対魘夢戦で必要だ。だから蜜蝋は常に持ち歩いている。
その耳栓を詰める仕草で、私は耳を手で塞いだ。気分は聞か猿。
「耳栓とな!ならそれを上回る声で愛を叫んでみせよう!」
「近隣住民の迷惑考えて下さい」
あと愛を叫ぶだなんて、恥ずかしすぎるからやめて。
「ならば耳栓をしなければよかろう。大人しく俺の声を聞けばいい」
そっと、私の手を耳から外させてくる。取られた手が代わりとばかりに置かされたのは、杏寿郎さんの熱い頬。
熱い体温が伝わってくると共に、杏寿郎さんの想いがその熱視線に乗って伝わってきて。……ああもう、私の負けだ。
うん、と頷かなくとも、杏寿郎さんの言葉には耳を傾けよう。どんなに照れくさくても、彼のまっすぐな気持ち。言葉。その全てが私の活力になるのだから。
もっと強くなる。貴方を守ってみせる。
目の前の太陽が。ひまわりがキラキラと眩しくいつまでも輝く様をずっと見ていたい。この光は奪われてはならない。
だから、守れたとわかるその時までは私の気持ちには蓋を……。
「そういえば朝緋はよく、俺を太陽やひまわりの花に例えていたな」
「ぇ、ええまあ……似てますし」
驚いた、太陽とひまわりについて思い馳せていたら本人から同じことを言われるとは。
炎柱邸の、今は何もない広い庭に目を向ける杏寿郎さん。
光に照らされたまつ毛が光ってる。美しいその目の大きさばかりに視線が行きやすいけれど、横から見るとまつ毛の長さにときめきを覚える。
横顔も、その目も、まつ毛までもが、なんて綺麗な人だろう。
「なあ朝緋……ひまわりの種を、百粒ほど蒔いて歩こうか。夏には百本全てが咲いて、朝緋が俺に振り向いてくれるように」
嬉しい言葉だし『前』に似た話をされた。でも、その花は違う。
「なんか混ざってない?それって普通、芍薬だよね」
「そうかもしれんが朝緋の好きな花でやろうと思っ、……俺はいつ朝緋がひまわりを好きだと聞いたのだったか。全く思い出せんな」
「さてね、小さい頃かもよ。覚えてないなら今聞いたことにしとけば?実際、私の好きなお花の一つだもの」
大好きな貴方に例える程なのだから、私がその花を好きなのも当然だ。
「ひまわりもいいけど、どうせ植えるなら食べられる植物がいいな。お芋の苗とか」
「芋の苗……?
っははは!!芋の苗か!好きに植えるといい!まったく、仕方ない子だ。まあ朝緋は大喰らいだものな!!」
「だってお芋は師範の好物でしょ!?……私も好きだけどさ」
大喰らいも、お互い様だ。