五周目 参
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任務が終わり、急いで帰る。
ちなみに隊服と羽織は洗った。まだ湿っぽいので、今の私は着物姿。歩きにくい……隊服の杏寿郎さんのあゆみについていくのは結構大変だ。
久しぶりに帰る我が家、久しぶりに会えた千寿郎を前に、杏寿郎さんが嬉しい思いを抑えきらんばかりに玄関の扉を開け放つ。
「大きくなったな、見違えるようだぞ」
そこまでずっと家を空けていたわけじゃないけど、杏寿郎さんが会わなかったこの短期間で千寿郎はまた背が伸びたもんね。杏寿郎さんもまだ背が伸びている感じするし、食事の欧米化はすごいな。
そのうち二人とも、私が見上げなくちゃいけなくなるのかも。
「本当、大きくなったねぇ……千寿郎」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか。姉上はほぼ毎日僕と会ってますでしょうに……」
「実際大きくなってるじゃん。というかかわいい弟を補給したくなったの!補給させてよー」
「今や僕の方が姉上より上背も高いのですからかわいいは禁句です」
ぎゅっと抱きしめてみるも、本人には白んだ目で言われて拒否され、後ろからは嫉妬混じりの目をした杏寿郎さんに首根っこ掴まれて戻される。つらい。
「朝緋、俺ならいつでも補給できるぞ?」
「大丈夫、隣にいるだけで色々補給できてます間に合ってます」
「色々!?色々とはなんだ!」
無視しながらお土産を渡す。文句のありそうな視線を感じながらも、槇寿朗さんに挨拶に行くという彼の背を押して促す。
私はそれを外から聞くのみ。顔合わせると喧嘩になることが多いから、私は挨拶をしない。
口調は怒声というほどではないものの、槇寿朗さんはいつになく気が立っている。杏寿郎さんが帰宅したから?
命日なんだからそんなにピリピリしないでほしいものだ。
鬼殺隊を辞めないならうちの敷居を跨がせない、ですって?言い方ってもんがあるでしょ!言い方ってもんが!!
任務から帰ってきたばかりの私と、久しぶりに生家に帰れた杏寿郎さんになんたる仕打ちだろうね?
あとから聞いた話では、心配して来て下さった和尚さんまで追い返したとか何とか。お酒はいい加減やめなさいよ……。
でも今ここで出ていくと、また喧嘩になって今度は杏寿郎さんにまで迷惑がかかる。被害がいく。
じっと耐えたけれど、続く暴言の中、私は拳をぷるぷると振るわせていた。
「右、左、右、左!」
「はぁぁぁぁ!!」
墓参りに行く前に、千寿郎の鍛錬が始まった。
杏寿郎さんが帰ってきたので、打ち稽古の相手をしてもらえることになったのだ。
千寿郎め、いつも私が相手してるのに、やっぱり杏寿郎さんのほうがいいのね。
彼は教えるのも上手だし、確固たる強さがあるし当然か。
私だって、杏寿郎さんにご教授お願いしている継子の立場だもんね。
わたしもまざりたぁい。
鍛錬を終わらせて水浴び。水に濡れてキラキラの杏寿郎さんの体、顔、黄金色の髪の毛が美しい。奥から出した風鈴の音も相まって、とても綺麗。
幸せな光景広がる最中、千寿郎の悩みがつぶやかれた。
思い詰めたような言葉を紡ぐ千寿郎に、杏寿郎さんが嘘偽りない言葉を真っ直ぐにぶつけている。
「千寿郎。杏寿郎兄さんの言う通り、一年前よりは強くなってるよ。毎回相手してる私も言うんだから、間違いない」
「姉上……」
「毎回!羨ましいな!!」
「はいそこ、杏寿郎兄さんはだまらっしゃい。弟に嫉妬禁止!
……千寿郎は鬼殺隊士になりたいのだろうけど、鬼殺隊士じゃなくても人を助けたり、守ったりすることはできるって、杏寿郎兄さんの言葉でもうわかったでしょ?」
「はい……」
私より少し背の高くなった千寿郎の顔に手を伸ばす。……もう少し前は目線を合わせるのにしゃがんでいたのになあ。
切羽詰まっているかのように眉間に寄った皺を、ぺちぺち。ぐりぐりと伸ばしてやる。
「ああもう、眉間に皺なんか寄せちゃって……杏寿郎兄さんと同じ険しいお顔になっちゃうよ?」
「ん?険しいか?俺の顔は険しいか?なあ朝緋、俺の顔はそんなに険しいか?」
全集中の呼吸まで使って、素晴らしい速度で左右を移動して視界に映らないでほしい。
全く、箸が挟めそうです、とでも返しておこうかしら。
「鍛錬もだけど、体に力が入りすぎてる。もっと適当に、軽い気持ちでゆる〜くやりなよ」
「姉上はいつもそう言いますね。気が抜けそうです……」
「ゆとり世代だからね」
「ゆとり……?」
おっといけない。この時代にはゆとり世代はいないんだった。通じるわけがない。
「うむ!朝緋の言葉には気が抜けてしまうな!
だが一理あるぞ。千寿郎、よく考えるんだ。視野を狭くしては行けない。人の役に立てるのは、剣の道だけではない」
ぽむ、千寿郎の頭に、杏寿郎さんの手が置かれる。
「何があっても、千寿郎が俺の大切な弟であることに変わりはない」
「兄上……」
ぎゅう、と千寿郎を抱き寄せて言う杏寿郎さんに、千寿郎の目が潤みを帯びる。
背が高くなろうと、千寿郎はまだまだ幼い。涙してもおかしくない歳だ。
「千寿郎は千寿郎の進む道を見つけてね。おねーちゃんは千寿郎を応援してるよ」
「姉上ぇぇ……」
そのさらに横から抱きしめて煉獄団子になれば、千寿郎の涙腺が決壊した。
それはそうと、どさくさに紛れて私のお尻を触る悪いおてては誰のものかな?悪鬼滅殺、つねり攻撃だ。
「っ……痛いぞ朝緋」
「ふん」
今一度、つねりあげた。
三人並び手を繋いで歩く、瑠火さんのお墓参りの帰り道。
「母上と何を話されていたのですか?」
「また来るねって、お話ししてたんでしょ」
杏寿郎さんは随分と長い間、墓前に手を合わせていた。久しぶりに帰ったのだから当然かもしれない。けれど、あまりにも熱心に静かに手を合わせているので、何か報告をしていたのだろう。
「ああ。今度は父上も入れて、みんなで来ますと。そうお話ししていた」
死んだ者は戻らないだなんて、槇寿朗さんはそう言ったけれど、この空の上で杏寿郎さんを、槇寿朗さんを、千寿郎を。そして私の事までも見守っていてくれている瑠火さん。
彼女には貴方の言葉がちゃんと届いてるよ。杏寿郎さん。
「うん、今度はそうしようね。絶対だよ」
手を握り、指を絡ませる強さを柔らかく、でも強いものに変えた。
ちなみに隊服と羽織は洗った。まだ湿っぽいので、今の私は着物姿。歩きにくい……隊服の杏寿郎さんのあゆみについていくのは結構大変だ。
久しぶりに帰る我が家、久しぶりに会えた千寿郎を前に、杏寿郎さんが嬉しい思いを抑えきらんばかりに玄関の扉を開け放つ。
「大きくなったな、見違えるようだぞ」
そこまでずっと家を空けていたわけじゃないけど、杏寿郎さんが会わなかったこの短期間で千寿郎はまた背が伸びたもんね。杏寿郎さんもまだ背が伸びている感じするし、食事の欧米化はすごいな。
そのうち二人とも、私が見上げなくちゃいけなくなるのかも。
「本当、大きくなったねぇ……千寿郎」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか。姉上はほぼ毎日僕と会ってますでしょうに……」
「実際大きくなってるじゃん。というかかわいい弟を補給したくなったの!補給させてよー」
「今や僕の方が姉上より上背も高いのですからかわいいは禁句です」
ぎゅっと抱きしめてみるも、本人には白んだ目で言われて拒否され、後ろからは嫉妬混じりの目をした杏寿郎さんに首根っこ掴まれて戻される。つらい。
「朝緋、俺ならいつでも補給できるぞ?」
「大丈夫、隣にいるだけで色々補給できてます間に合ってます」
「色々!?色々とはなんだ!」
無視しながらお土産を渡す。文句のありそうな視線を感じながらも、槇寿朗さんに挨拶に行くという彼の背を押して促す。
私はそれを外から聞くのみ。顔合わせると喧嘩になることが多いから、私は挨拶をしない。
口調は怒声というほどではないものの、槇寿朗さんはいつになく気が立っている。杏寿郎さんが帰宅したから?
命日なんだからそんなにピリピリしないでほしいものだ。
鬼殺隊を辞めないならうちの敷居を跨がせない、ですって?言い方ってもんがあるでしょ!言い方ってもんが!!
任務から帰ってきたばかりの私と、久しぶりに生家に帰れた杏寿郎さんになんたる仕打ちだろうね?
あとから聞いた話では、心配して来て下さった和尚さんまで追い返したとか何とか。お酒はいい加減やめなさいよ……。
でも今ここで出ていくと、また喧嘩になって今度は杏寿郎さんにまで迷惑がかかる。被害がいく。
じっと耐えたけれど、続く暴言の中、私は拳をぷるぷると振るわせていた。
「右、左、右、左!」
「はぁぁぁぁ!!」
墓参りに行く前に、千寿郎の鍛錬が始まった。
杏寿郎さんが帰ってきたので、打ち稽古の相手をしてもらえることになったのだ。
千寿郎め、いつも私が相手してるのに、やっぱり杏寿郎さんのほうがいいのね。
彼は教えるのも上手だし、確固たる強さがあるし当然か。
私だって、杏寿郎さんにご教授お願いしている継子の立場だもんね。
わたしもまざりたぁい。
鍛錬を終わらせて水浴び。水に濡れてキラキラの杏寿郎さんの体、顔、黄金色の髪の毛が美しい。奥から出した風鈴の音も相まって、とても綺麗。
幸せな光景広がる最中、千寿郎の悩みがつぶやかれた。
思い詰めたような言葉を紡ぐ千寿郎に、杏寿郎さんが嘘偽りない言葉を真っ直ぐにぶつけている。
「千寿郎。杏寿郎兄さんの言う通り、一年前よりは強くなってるよ。毎回相手してる私も言うんだから、間違いない」
「姉上……」
「毎回!羨ましいな!!」
「はいそこ、杏寿郎兄さんはだまらっしゃい。弟に嫉妬禁止!
……千寿郎は鬼殺隊士になりたいのだろうけど、鬼殺隊士じゃなくても人を助けたり、守ったりすることはできるって、杏寿郎兄さんの言葉でもうわかったでしょ?」
「はい……」
私より少し背の高くなった千寿郎の顔に手を伸ばす。……もう少し前は目線を合わせるのにしゃがんでいたのになあ。
切羽詰まっているかのように眉間に寄った皺を、ぺちぺち。ぐりぐりと伸ばしてやる。
「ああもう、眉間に皺なんか寄せちゃって……杏寿郎兄さんと同じ険しいお顔になっちゃうよ?」
「ん?険しいか?俺の顔は険しいか?なあ朝緋、俺の顔はそんなに険しいか?」
全集中の呼吸まで使って、素晴らしい速度で左右を移動して視界に映らないでほしい。
全く、箸が挟めそうです、とでも返しておこうかしら。
「鍛錬もだけど、体に力が入りすぎてる。もっと適当に、軽い気持ちでゆる〜くやりなよ」
「姉上はいつもそう言いますね。気が抜けそうです……」
「ゆとり世代だからね」
「ゆとり……?」
おっといけない。この時代にはゆとり世代はいないんだった。通じるわけがない。
「うむ!朝緋の言葉には気が抜けてしまうな!
だが一理あるぞ。千寿郎、よく考えるんだ。視野を狭くしては行けない。人の役に立てるのは、剣の道だけではない」
ぽむ、千寿郎の頭に、杏寿郎さんの手が置かれる。
「何があっても、千寿郎が俺の大切な弟であることに変わりはない」
「兄上……」
ぎゅう、と千寿郎を抱き寄せて言う杏寿郎さんに、千寿郎の目が潤みを帯びる。
背が高くなろうと、千寿郎はまだまだ幼い。涙してもおかしくない歳だ。
「千寿郎は千寿郎の進む道を見つけてね。おねーちゃんは千寿郎を応援してるよ」
「姉上ぇぇ……」
そのさらに横から抱きしめて煉獄団子になれば、千寿郎の涙腺が決壊した。
それはそうと、どさくさに紛れて私のお尻を触る悪いおてては誰のものかな?悪鬼滅殺、つねり攻撃だ。
「っ……痛いぞ朝緋」
「ふん」
今一度、つねりあげた。
三人並び手を繋いで歩く、瑠火さんのお墓参りの帰り道。
「母上と何を話されていたのですか?」
「また来るねって、お話ししてたんでしょ」
杏寿郎さんは随分と長い間、墓前に手を合わせていた。久しぶりに帰ったのだから当然かもしれない。けれど、あまりにも熱心に静かに手を合わせているので、何か報告をしていたのだろう。
「ああ。今度は父上も入れて、みんなで来ますと。そうお話ししていた」
死んだ者は戻らないだなんて、槇寿朗さんはそう言ったけれど、この空の上で杏寿郎さんを、槇寿朗さんを、千寿郎を。そして私の事までも見守っていてくれている瑠火さん。
彼女には貴方の言葉がちゃんと届いてるよ。杏寿郎さん。
「うん、今度はそうしようね。絶対だよ」
手を握り、指を絡ませる強さを柔らかく、でも強いものに変えた。