五周目 参
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「師範、……師範、着きましたよ。起きて……おーい、杏寿郎さん?」
いつもならすぐに起きる杏寿郎さんが、今回はなかなか目を覚まさなかった。何度目かの呼びかけで、ゆるりとその瞼が開く。
太陽のお目見えだ。起床すぐのお顔を最初に見られる幸せを噛み締める。
「……ン、朝緋か」
寝起きの掠れた声が色っぽくてドキドキする。どんな貴方も好きでたまらない。険しい顔をしているのが気になるけど。
「はい朝緋です。おそよう。……どうかしたんです?眉間にふっかい皺が寄ってますよ」
「いやなに、夢のせいだ。
ん!?待て待て待て。今俺を何と呼んだ?聞き間違いでなければ、杏寿郎さん、と……」
「気のせい!!」
やば、目が覚めぬ内から耳は起きてたのね!……地獄耳め!
件の鬼がおり、救援を頼んできた隊士が待つという湿原にたどり着いた。降りた先から、湿気で靄のようなものが立ち昇って視界を覆う。
ここまで我々を運んでくれた馬と御者は、書物がしけると困るので、鬼の被害がおよそ及ばぬであろう、遠く離れた場所へ待機を頼んだ。
「ほんと湿気っぽ!お肌にはいいだろうけど、ポケットのお煎餅がしけちゃう……」
「君はそんなところに煎餅を入れているのか」
「キャラメルも入ってます!でもアイスは入ってません!!」
「当たり前だろう!?芋にしておきなさい!」
……それもどうなの?
進めばそこには、疲弊した隊士の姿。草むらの中に散らばるようにして隠れており、黒い頭と服がちらほら。
「こんばんは、お疲れ様です」
「救援を要請したのは君達か!」
「っ!ご苦労様です!」
状況を聞けば、鬼の足は遅々としているものの、交差点から右の方角を町方面へと南下中。このままではいずれ町に到着、人間に被害が出るとのこと。
足止めすれば……いや、頸を落とせばいいのね。
一般隊士達より任務を託された私達は、鬼のいる方へと急いだ。そこに聳え立つのは。
「鬼らしき巨大な塊、はっけ……でっか!?」
「……もう町のそばだな」
「すでに壁よねこれ……ぬ●かべかな?」
ものすごい大きさだけど、足は確かに遅い。とはいえ、着実に町に近づいている。ここで止めなくちゃ。
「よし、斬り込むぞ!壱ノ型・不知火!!」
「はい!炎の呼吸。改・炎山渦!」
しかし、二人がかりでも刃は通らず、ぶにん!と押し戻されてしまった。
「説明にあった通り、刃が立ちませんね!」
「ああ、試し斬り程度の力では駄目なようだ!」
「……こんにゃくかな?やっぱりぬ●かべ確定!グニグニして……気持ち悪いの、よっ!!」
体勢を立て直すべく離れる杏寿郎さんに倣わず、攻撃を続ける私。
ザ・鈍感!!という称号が似合いそうな鬼だった。私達に気がついていないのでは、と思うほど鈍いから斬り続けていれば……!
その時、杏寿郎さんが鋭い声をあげた。
「朝緋離れるんだ!」
「離れる…?離れたら斬れないでしょっ!今コツが掴めそうなんだから!無理矢理にでも、断ち斬る!!盛炎の──」
「離れろと言っている!!」
「グエッ!な、にすんの!?」
再び斬り込もうとした瞬間、首根っこを掴まれて強制的に下がらされてしまった。ぐるじぃびどい……。
「離れねば体内に取り込まれていた。君では駄目だ。俺が行く。
この煉獄の刃で鬼の歩みを止めてみせよう」
体内に取り込まれる?でも、喰われる前に仕留めようと思ったのに!
……私じゃまだ、弱いっていうの?貴方ほどの力が私にないのなんてわかってる。わかってるけど、悔しい。
もっと力が欲しい!
唇を噛み締めて杏寿郎さんの戦いを見やる。強力な不知火が炎を闇夜にまっすぐ、まっすぐ走り抜け、鬼の胴体を斬っていた。
「ぐにぐにの体が斬れてる……」
「ああっ!だが、急所ではない!」
なんと強靭な。
杏寿郎さんの力でも断ち斬ることが出来ないだなんて。いつから日輪刀は斬鉄剣になったんだろう?
「どうしてこの鬼に鬼殺隊士はやられた?倒すことは困難でもやられることはそうあるまい。まさか全員が朝緋のように無闇矢鱈に突っ込んで行ったとでも?」
「イーー!!一言余計ですーっ!」
無闇矢鱈に突っ込んでなんてないもん。
どうしたものかと膠着状態が続く中、夜の闇をさらに分厚い雲が暗い世界に変えていく。全てではない、真上だけだ。
直後、鬼を中心として突然土砂降りの雨が降り注いだ。
「上空の雲が厚い……雨?」
「雨ってか土砂降り!うっわ、水も滴る濡れ鼠になっちゃう!?」
「言葉が混ざっているぞ……む!これは……!?雨に当たるな、朝緋ッ!!」
またも私を心配する鋭い声。だけど、雨にまで警戒?まさか雨が血鬼術だなんて言うの?
「……え?もう当たってるんですけ、……どっ!?」
……体が動かない!?
水に濡れた箇所は一つも動かなかった。金縛りにあったかのように麻痺している。
「師範!雨に当たったら体が動かなくなった!!」
「なんだって!?やはりか!!」
「何これ何これ、何こ……、ひいいいい!!」
そう言っている間に、じわじわとこちら側に近づいてくるぬりか……、ごほん、巨大な鬼の体。鳥肌ゾワッ!
やだやだ取り込まれて食べられちゃう!!
「全く、人の話を聞かんからだ!」
動かない中、杏寿郎さんが所謂お姫様抱っこで私をその場から救出してくださった。
いつもならこの状況に嬉しいなり恥ずかしいなり反応を返すところだけれど、そんな感情が吹き飛ぶほど今は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「だってだって、麻痺毒の雨だなんて聞いてない〜!普通あり得ないでしょ〜」
「あり得ん事をしでかしてくるのが鬼だ!
……雨のかからぬ橋の下にいるといい。その麻痺を呼吸で治しておきなさい!」
「うぇーい。あーあ、橋の下ちょっと泥んこ……。杏寿郎さんの降ろし方が雑で羽織と隊服に泥ついた」
「あとで洗えばよかろう!」
血や怪我よりも泥を気にしてすみませんね。でも泥って落ちにくいのよ。
「まったく、君という子は……。
あの鬼は雨で動けなくしてからゆっくりと人間を平らげるようだな。俺は行くから、朝緋はここで待機だ」
「はーい……」
杏寿郎さんが頭を撫でながら、橋の下より飛び出していく。その後ろ姿のかっこいい事と言ったら!
……それにしても、血鬼術なんて受けて動けなくなってるとか不甲斐なさすぎ。穴があったら入り……ん?そう言えば『泥んこ』?
『以前』までの記憶にひっかかる。
「あッ!!!?」
あーー!思い出した!思い出したーー!!
そういえば杏寿郎さん、泥んこのべしょべしょになって帰ってきてたーー!!
聞いた話によると、確か雨の血鬼術は、このぬ●かべくんじゃなくて……。
いつもならすぐに起きる杏寿郎さんが、今回はなかなか目を覚まさなかった。何度目かの呼びかけで、ゆるりとその瞼が開く。
太陽のお目見えだ。起床すぐのお顔を最初に見られる幸せを噛み締める。
「……ン、朝緋か」
寝起きの掠れた声が色っぽくてドキドキする。どんな貴方も好きでたまらない。険しい顔をしているのが気になるけど。
「はい朝緋です。おそよう。……どうかしたんです?眉間にふっかい皺が寄ってますよ」
「いやなに、夢のせいだ。
ん!?待て待て待て。今俺を何と呼んだ?聞き間違いでなければ、杏寿郎さん、と……」
「気のせい!!」
やば、目が覚めぬ内から耳は起きてたのね!……地獄耳め!
件の鬼がおり、救援を頼んできた隊士が待つという湿原にたどり着いた。降りた先から、湿気で靄のようなものが立ち昇って視界を覆う。
ここまで我々を運んでくれた馬と御者は、書物がしけると困るので、鬼の被害がおよそ及ばぬであろう、遠く離れた場所へ待機を頼んだ。
「ほんと湿気っぽ!お肌にはいいだろうけど、ポケットのお煎餅がしけちゃう……」
「君はそんなところに煎餅を入れているのか」
「キャラメルも入ってます!でもアイスは入ってません!!」
「当たり前だろう!?芋にしておきなさい!」
……それもどうなの?
進めばそこには、疲弊した隊士の姿。草むらの中に散らばるようにして隠れており、黒い頭と服がちらほら。
「こんばんは、お疲れ様です」
「救援を要請したのは君達か!」
「っ!ご苦労様です!」
状況を聞けば、鬼の足は遅々としているものの、交差点から右の方角を町方面へと南下中。このままではいずれ町に到着、人間に被害が出るとのこと。
足止めすれば……いや、頸を落とせばいいのね。
一般隊士達より任務を託された私達は、鬼のいる方へと急いだ。そこに聳え立つのは。
「鬼らしき巨大な塊、はっけ……でっか!?」
「……もう町のそばだな」
「すでに壁よねこれ……ぬ●かべかな?」
ものすごい大きさだけど、足は確かに遅い。とはいえ、着実に町に近づいている。ここで止めなくちゃ。
「よし、斬り込むぞ!壱ノ型・不知火!!」
「はい!炎の呼吸。改・炎山渦!」
しかし、二人がかりでも刃は通らず、ぶにん!と押し戻されてしまった。
「説明にあった通り、刃が立ちませんね!」
「ああ、試し斬り程度の力では駄目なようだ!」
「……こんにゃくかな?やっぱりぬ●かべ確定!グニグニして……気持ち悪いの、よっ!!」
体勢を立て直すべく離れる杏寿郎さんに倣わず、攻撃を続ける私。
ザ・鈍感!!という称号が似合いそうな鬼だった。私達に気がついていないのでは、と思うほど鈍いから斬り続けていれば……!
その時、杏寿郎さんが鋭い声をあげた。
「朝緋離れるんだ!」
「離れる…?離れたら斬れないでしょっ!今コツが掴めそうなんだから!無理矢理にでも、断ち斬る!!盛炎の──」
「離れろと言っている!!」
「グエッ!な、にすんの!?」
再び斬り込もうとした瞬間、首根っこを掴まれて強制的に下がらされてしまった。ぐるじぃびどい……。
「離れねば体内に取り込まれていた。君では駄目だ。俺が行く。
この煉獄の刃で鬼の歩みを止めてみせよう」
体内に取り込まれる?でも、喰われる前に仕留めようと思ったのに!
……私じゃまだ、弱いっていうの?貴方ほどの力が私にないのなんてわかってる。わかってるけど、悔しい。
もっと力が欲しい!
唇を噛み締めて杏寿郎さんの戦いを見やる。強力な不知火が炎を闇夜にまっすぐ、まっすぐ走り抜け、鬼の胴体を斬っていた。
「ぐにぐにの体が斬れてる……」
「ああっ!だが、急所ではない!」
なんと強靭な。
杏寿郎さんの力でも断ち斬ることが出来ないだなんて。いつから日輪刀は斬鉄剣になったんだろう?
「どうしてこの鬼に鬼殺隊士はやられた?倒すことは困難でもやられることはそうあるまい。まさか全員が朝緋のように無闇矢鱈に突っ込んで行ったとでも?」
「イーー!!一言余計ですーっ!」
無闇矢鱈に突っ込んでなんてないもん。
どうしたものかと膠着状態が続く中、夜の闇をさらに分厚い雲が暗い世界に変えていく。全てではない、真上だけだ。
直後、鬼を中心として突然土砂降りの雨が降り注いだ。
「上空の雲が厚い……雨?」
「雨ってか土砂降り!うっわ、水も滴る濡れ鼠になっちゃう!?」
「言葉が混ざっているぞ……む!これは……!?雨に当たるな、朝緋ッ!!」
またも私を心配する鋭い声。だけど、雨にまで警戒?まさか雨が血鬼術だなんて言うの?
「……え?もう当たってるんですけ、……どっ!?」
……体が動かない!?
水に濡れた箇所は一つも動かなかった。金縛りにあったかのように麻痺している。
「師範!雨に当たったら体が動かなくなった!!」
「なんだって!?やはりか!!」
「何これ何これ、何こ……、ひいいいい!!」
そう言っている間に、じわじわとこちら側に近づいてくるぬりか……、ごほん、巨大な鬼の体。鳥肌ゾワッ!
やだやだ取り込まれて食べられちゃう!!
「全く、人の話を聞かんからだ!」
動かない中、杏寿郎さんが所謂お姫様抱っこで私をその場から救出してくださった。
いつもならこの状況に嬉しいなり恥ずかしいなり反応を返すところだけれど、そんな感情が吹き飛ぶほど今は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「だってだって、麻痺毒の雨だなんて聞いてない〜!普通あり得ないでしょ〜」
「あり得ん事をしでかしてくるのが鬼だ!
……雨のかからぬ橋の下にいるといい。その麻痺を呼吸で治しておきなさい!」
「うぇーい。あーあ、橋の下ちょっと泥んこ……。杏寿郎さんの降ろし方が雑で羽織と隊服に泥ついた」
「あとで洗えばよかろう!」
血や怪我よりも泥を気にしてすみませんね。でも泥って落ちにくいのよ。
「まったく、君という子は……。
あの鬼は雨で動けなくしてからゆっくりと人間を平らげるようだな。俺は行くから、朝緋はここで待機だ」
「はーい……」
杏寿郎さんが頭を撫でながら、橋の下より飛び出していく。その後ろ姿のかっこいい事と言ったら!
……それにしても、血鬼術なんて受けて動けなくなってるとか不甲斐なさすぎ。穴があったら入り……ん?そう言えば『泥んこ』?
『以前』までの記憶にひっかかる。
「あッ!!!?」
あーー!思い出した!思い出したーー!!
そういえば杏寿郎さん、泥んこのべしょべしょになって帰ってきてたーー!!
聞いた話によると、確か雨の血鬼術は、このぬ●かべくんじゃなくて……。