二周目 弐
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久しぶりの休養期間は、兄姉弟で楽しく過ごせた。杏寿郎さんがまだ鬼殺隊に入る前、三人川の字で寝た事を思い出した。もう、何年も前の事なんだなあ。
「炎の呼吸、火加減調整ってね。すぅーーーー!ぶぉーーーー!!」
「!?朝緋!湯がいきなり高温になったぞ!このままでは俺が煮込まれてしまう!」
「わあ!ごめんなさい!」
嬉しさを呼吸に込めて、火吹き竹に思い切り息を吐く。湯浴みをしている杏寿郎さんのため、もう少し湯を熱くしてあげようと息巻いた結果だった。
笑い声が響いた。
「まったく、湯加減調整に呼吸を使うんじゃない。俺だからいいが他の者が火傷したらどうする。呼吸はせめて厨で使いなさい!」
厨ならいいのだろうか……。
私と千寿郎は不思議に思った。実際竃の火の調整に良かったけども。まさか炎の呼吸が、料理にも役立つとは。頭の中にメモしておこう。
ただ、料理に炎の呼吸が応用できると知ってからは、杏寿郎さんも何かと手伝いたがった。
だめだ、この人は厨に入らせてはいけない。火事にするし、メシマズ。貴方は食べる専門だ。
「俺にもさせてくれないか?だって楽しそ……俺の呼吸を役立てて欲しい」
ソワソワして眉根を下げている姿は非常にレアで、首を縦に振りたくなるがここはしっかりと断らなくては。
「あっいいです。呼吸以前に焼き芋作る時だってあわや大惨事。昔、火事になるところでしたよね。お忘れですか?」
あの時のことは忘れない。焚き火をしたら、杏寿郎さんが火を大きくしすぎてそばの木まで燃えた。ついでに芋も消し炭だった。
「そうだっただろうか?まあまあ、それでも火加減くらいは俺が」
「だめですー!厨房が火事になる!!私焼き芋で学んだ!火事寸前まで火を大きくしようとするから絶対にダメ!
んもうっ記憶まで炎の呼吸で燃やしたんですか?しっかりしてくださいよ」
「なんと。そこまで言われてしまうとは!」
「男子厨房に入るべからず!千寿郎!この人連れてって!!」
「はいっ!」
千寿郎も杏寿郎さんがメシマズなのはよーく知っている。
千寿郎に任せれば、杏寿郎さんはぐいぐい押されて厨を出て行った。
「千寿郎も男だが!?」
「千寿郎は料理が上手だからいいの!」
「よもや……!」
因みにこの日のさつまいもご飯は今までで一番美味しく炊けた。
そして任務から帰ってきた槇寿朗さんに、杏寿郎さんが重傷を負って家にいることがとうとう知られてしまった。隠してたわけでもないけども。
「杏寿郎……お前……」
咎めるような驚いたような視線を見た。
この日を境に、槇寿朗さんは任務に行かないことが増えた。
鬼殺を、剣士をやめようとしていた。
それについて杏寿郎さんが聞けば、お前こそやめろと強い口調で逆に言われた。
反発の意を返した杏寿郎さんは、槇寿朗さんに投げ飛ばされた。部屋の障子は破れ、庭まで一直線に叩きつけられた。
お酒が入っているから加減もできないのかもしれない。
だとしてもなんてことを。彼は怪我をしているのに!!
「兄上ッ!」
「重症の師範……杏寿郎兄さんに何するの。動けなくなったらどうするんですか!」
流石の私も黙っていられなかった。だけど、槇寿朗さんは私の言葉で笑った。
「動けなく……?はっ!そりゃいい。腕や足が動かせなくなれば、鬼殺隊をやめるしかなくなるな」
ゆらりと立ち上がった彼は、庭に伏す杏寿郎さんへと近づく。
千寿郎も父が言った言葉の恐怖に怯え、だが杏寿郎さんを守るように庇っている。
私はその足に縋り付いて止めた。
「そんなことさせません!やめて!」
「ふん、冗談だ。
……それよりなぜそいつを師範などと呼んでいる。お前も鬼殺隊に入るなどとまだ抜かすのではあるまいな」
「っ!」
「親に歯向かうようなそんな娘に育てた覚えはない!」
胸ぐらを掴まれ、頬を思い切り叩かれた。良い音だ。
口の端が切れて血が出たし物凄く痛いが、私は涙ぐみながらも、それでも半ば睨むようにして槇寿朗さんをまっすぐ見つめた。
「……ちっ。酒をもってこい」
私から視線を逸らした槇寿朗さんは、そのまま奥の座敷に引っ込んだ。
「お酒、用意しないとね……」
血を拭いながらそう呟く。痛いけど、うん。常中のおかげでそう腫れないはずだ。
「大丈夫か、朝緋」
「私は平気……師範こそ、痛かったよね。ごめんね…………ごめんなさい……」
「兄上、姉上ぇ……」
今私が泣けば、千寿郎も泣く。
わかっていたけれど、涙を止める術はなかった。
抱きしめてくる杏寿郎さんのあたたかい腕を前に、我慢できなかった。
「二人とも泣くな。俺は大丈夫だから」
ぽんぽんと背を叩かれてもだめだった。
ただただ悲しかった。家族間の空気が、あたたかいものから冷たくて寒いものへと、完全に変わったかのようだった。
そんな中で、私の最終選別の日は刻一刻と迫っていた。
「炎の呼吸、火加減調整ってね。すぅーーーー!ぶぉーーーー!!」
「!?朝緋!湯がいきなり高温になったぞ!このままでは俺が煮込まれてしまう!」
「わあ!ごめんなさい!」
嬉しさを呼吸に込めて、火吹き竹に思い切り息を吐く。湯浴みをしている杏寿郎さんのため、もう少し湯を熱くしてあげようと息巻いた結果だった。
笑い声が響いた。
「まったく、湯加減調整に呼吸を使うんじゃない。俺だからいいが他の者が火傷したらどうする。呼吸はせめて厨で使いなさい!」
厨ならいいのだろうか……。
私と千寿郎は不思議に思った。実際竃の火の調整に良かったけども。まさか炎の呼吸が、料理にも役立つとは。頭の中にメモしておこう。
ただ、料理に炎の呼吸が応用できると知ってからは、杏寿郎さんも何かと手伝いたがった。
だめだ、この人は厨に入らせてはいけない。火事にするし、メシマズ。貴方は食べる専門だ。
「俺にもさせてくれないか?だって楽しそ……俺の呼吸を役立てて欲しい」
ソワソワして眉根を下げている姿は非常にレアで、首を縦に振りたくなるがここはしっかりと断らなくては。
「あっいいです。呼吸以前に焼き芋作る時だってあわや大惨事。昔、火事になるところでしたよね。お忘れですか?」
あの時のことは忘れない。焚き火をしたら、杏寿郎さんが火を大きくしすぎてそばの木まで燃えた。ついでに芋も消し炭だった。
「そうだっただろうか?まあまあ、それでも火加減くらいは俺が」
「だめですー!厨房が火事になる!!私焼き芋で学んだ!火事寸前まで火を大きくしようとするから絶対にダメ!
んもうっ記憶まで炎の呼吸で燃やしたんですか?しっかりしてくださいよ」
「なんと。そこまで言われてしまうとは!」
「男子厨房に入るべからず!千寿郎!この人連れてって!!」
「はいっ!」
千寿郎も杏寿郎さんがメシマズなのはよーく知っている。
千寿郎に任せれば、杏寿郎さんはぐいぐい押されて厨を出て行った。
「千寿郎も男だが!?」
「千寿郎は料理が上手だからいいの!」
「よもや……!」
因みにこの日のさつまいもご飯は今までで一番美味しく炊けた。
そして任務から帰ってきた槇寿朗さんに、杏寿郎さんが重傷を負って家にいることがとうとう知られてしまった。隠してたわけでもないけども。
「杏寿郎……お前……」
咎めるような驚いたような視線を見た。
この日を境に、槇寿朗さんは任務に行かないことが増えた。
鬼殺を、剣士をやめようとしていた。
それについて杏寿郎さんが聞けば、お前こそやめろと強い口調で逆に言われた。
反発の意を返した杏寿郎さんは、槇寿朗さんに投げ飛ばされた。部屋の障子は破れ、庭まで一直線に叩きつけられた。
お酒が入っているから加減もできないのかもしれない。
だとしてもなんてことを。彼は怪我をしているのに!!
「兄上ッ!」
「重症の師範……杏寿郎兄さんに何するの。動けなくなったらどうするんですか!」
流石の私も黙っていられなかった。だけど、槇寿朗さんは私の言葉で笑った。
「動けなく……?はっ!そりゃいい。腕や足が動かせなくなれば、鬼殺隊をやめるしかなくなるな」
ゆらりと立ち上がった彼は、庭に伏す杏寿郎さんへと近づく。
千寿郎も父が言った言葉の恐怖に怯え、だが杏寿郎さんを守るように庇っている。
私はその足に縋り付いて止めた。
「そんなことさせません!やめて!」
「ふん、冗談だ。
……それよりなぜそいつを師範などと呼んでいる。お前も鬼殺隊に入るなどとまだ抜かすのではあるまいな」
「っ!」
「親に歯向かうようなそんな娘に育てた覚えはない!」
胸ぐらを掴まれ、頬を思い切り叩かれた。良い音だ。
口の端が切れて血が出たし物凄く痛いが、私は涙ぐみながらも、それでも半ば睨むようにして槇寿朗さんをまっすぐ見つめた。
「……ちっ。酒をもってこい」
私から視線を逸らした槇寿朗さんは、そのまま奥の座敷に引っ込んだ。
「お酒、用意しないとね……」
血を拭いながらそう呟く。痛いけど、うん。常中のおかげでそう腫れないはずだ。
「大丈夫か、朝緋」
「私は平気……師範こそ、痛かったよね。ごめんね…………ごめんなさい……」
「兄上、姉上ぇ……」
今私が泣けば、千寿郎も泣く。
わかっていたけれど、涙を止める術はなかった。
抱きしめてくる杏寿郎さんのあたたかい腕を前に、我慢できなかった。
「二人とも泣くな。俺は大丈夫だから」
ぽんぽんと背を叩かれてもだめだった。
ただただ悲しかった。家族間の空気が、あたたかいものから冷たくて寒いものへと、完全に変わったかのようだった。
そんな中で、私の最終選別の日は刻一刻と迫っていた。