五周目 参
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この度、私と違って各地を転々としていた杏寿郎さんが久しぶりに生家に帰還する。
明日が瑠火さんの命日だからだ。
土産物を選びたいからと、外で待ち合わせをして本屋を覗いたはいいけれど。
「童話の絵本なんていいかもしれんな!」
杏寿郎さんが千寿郎へのお土産にと、絵本を積み重ねている。それ全部買う気?多くない?両手塞がるよねそれ。
それにしても……。
「外国の童話の絵本なんて売ってるんだね。親指姫に……火打箱?マッチ売りの少女かな?」
「書店なのだから当然だろう。子供達の間では近頃、こういった本が流行しているようだぞ」
「知らなかった……」
私の頭は未だに、明治大正の書籍事情より平成令和の書籍事情を覚えている。あの時代はありとあらゆるジャンルの本が売っていたものね……。
「他にはどうだ?」
「まだ増やすんだ……。んー、絵本だけじゃなくて、ちょっと小難しい本も加えてみたらどうだろ?」
あの子も私と何度も繰り返し過ごすうち、最初の頃よりとっても頭が良くなった。なら、絵本より専門書とか興味ありそうなジャンルの本をプレゼントした方が喜ぶ気がする。
ま、大好きな兄上からのお土産なら、何をもらっても喜ぶだろうけども。
私だってそうだ。杏寿郎さんから貰えるものなら何でも嬉しい。
「うむ!学問の成績もすこぶる良いからな!」
「そーそー、私と似て頭いいからね」
「はははは!朝緋は自分で言うのか!!」
伊達に何度も繰り返してない。繰り返した分、私は学問の成績だけはいい。成績だけは。
「む。この本もどうだろう」
「どれどれ……、あー。そんなのあげても逆に気に病むと思うよ」
「……そうだな」
それは剣術についての教本だった。
千寿郎は自身の剣術が上達しないことを酷く気にしている。上手く隠しているつもりなのだろうけど、こちらに丸わかりな彼の焦る気持ち。
なのにそんな本あげたら、余計落ち込むよ。
それに理由は剣術じゃない。千寿郎は優しいから。優しすぎるから、いつだって日輪刀の色が変わらないのだ。現にその辺の物盗りや暴漢など、相手にならないほど強い。
「朝緋は何か欲しいものはないのか?」
「あ、私は特にないです」
杏寿郎さんからのお土産が欲しくなるほど、離れていた期間は長くない。なんならいつも一緒にいる気がする。
「欲がないなぁ。君くらいの年頃ならば、唇に紅をひいてみたくなったり、モダンな洋装を欲しがるだろうに」
「それは普通の女の子の話。私だったら美味しい食べ物の方がいいな」
「花より団子か。朝緋らしくて良い!腹も減ったことだし、蕎麦でも食べて帰ろう!!」
蕎麦の言葉にぎくりとする。
「蕎麦?二階のないところにしてね」
「二階……?ああ、そういう意味か。思い出させてくれてありがとう!よーし!二階のある蕎麦屋を探そう!お借りして明日まで一番のご馳走を食べるぞ!!ー
「ぎゃー!やだって言ってるじゃん!?」
「冗談だッ!!」
目がギラギラしてたよ。冗談に聞こえない……。
入った蕎麦屋はわんこ蕎麦が食べられるお店だ。私や杏寿郎さんのように、いっぱい食べる人にはいいかもね。
準備ができるのを待っていると、その軽やかな音で、吊るされている風鈴に気がつく。
「あ……風鈴だ。うちの物に音が似てるね」
「……懐かしいなぁ」
「母様も好きだった風鈴だよね。久しぶりに出そうかな」
音を聴くだけで瑠火さんの姿を思い出す。今も、お空の上で私達のこと見てくれていらっしゃるのかな?
私達はいいから、とにかく槇寿朗さんのことを何とかしてくださいお願いします。
「ああ、とてもいい音だったからな。母上にも聴かせてあげたい」
命日だし、たまには陽の下に出さないとね。
「どうします?このあとは用事も任務もなさそうだから、明日じゃなくて今日から帰っちゃえば?お世話になる予定だった藤の家紋の家には、要やあずまに言伝を頼んでさ」
「早く千寿郎の顔も見たいことだし、それもいいな」
「ほいじゃ、きーまり!帰ったら、早速風鈴出すね!」
パン!と手を叩いたところで、わんこ蕎麦が届いた。うわ多い。
「うまい、うまい、……うまい!!!」
「うん美味しい。ねぇ今何杯?」
「数えていないが百は超えているはずだ。まだまだ入るぞ」
「ははぁ、よく食べるねぇ」
わんこ蕎麦だからかもしれないけど、ほんっとよく食べること食べること。杏寿郎さん、胃袋がとっても大きいってわけでもない意外と細い体型してるのに、一体どこに入ってるんだろう?食べたそばから消化してるのかしら。
人のこと言えない?あはは、違いないや。
「俺より甘露寺の方が食べるが?」
「うん知ってる」
「主人!ここのわんこ蕎麦の最高記録はいくつだ?」
その瞬間、超えてると返ってきた。
本場である岩手と違い、この辺りではまだまだわんこ蕎麦は浸透していないだろうし、百超えなんてそう居ないよね。遠い目しちゃう。
すると私の箸が止まったことを指摘してきた。
「どうした!もう食べないのか?遠慮せず好きなだけ食べるといい!!」
「もういいです」
超えてるという言葉に加え、今日の分がなくなっちまいそうだと、小さくぼやく声が耳に届いてしまったからね。私もまだ入るけどやめようかな、という気持ちになる。
ご主人……食べ尽くして申し訳ないです。
え?杏寿郎さんが最終的に何杯食べたかって?それは想像してみてね!
「南南東、南南東ニ鬼ヲ目撃!至急現場ニ迎エ!!」
蕎麦屋を出ると鎹烏が上空を舞っていた。珍しく足に書面も括られていて、何か特殊な任務のようで。
「今すぐは帰れなさそうですねえ」
「ああ、行くぞ朝緋!」
徒歩でもよかったけれど荷物も多いことだし交通手段が近くにあったので、私達は馬車に揺られて任務地に向かっていた。速くもなくけれど遅くもないスピード。そして適度なこの揺れは電車に似たものを感じる。眠くなる……。
馬車の中、食休みだと訴える胃袋を休ませつつ、鎹烏からの書を囲んで読む。任務の内容は、と。
「一晩で十人も鬼殺隊士が……エグいなぁ。数字持ちか、それに準ずるような鬼かな?」
「あるいはそうかもしれん。行ってみない事にはわからんがな」
んー。多分この任務、本来は杏寿郎さんが蜜璃と行くやつよね?わんこ蕎麦食べてるし、瑠火さんの命日の前の日だし。
今回は私が行くのかあ。何だっけなぁ、どんな任務だったって言ってたっけ。
数字持ちって聞いたっけ……。あーもう!あの時、聞いたはずなのにぃ!!
こんな事なら聞いたメモしておけばよかっ……さすがにメモは持ち越せないっての。
「食べた分だけ大きく成長する鬼ねぇ……。三倍にも四倍にもなったってあるよ」
「何でも無尽蔵に喰らう鬼らしい」
何でもってその辺のゴミも食べるのかなあ。もしそうだとしたら、まるでスライムだ。すみませんが、環境の為にゴミを食べてもらっていいですか?
「食べた人間は鬼殺隊士だけじゃないだろうから、十人以上食べてることになるよね。煉獄家の敷地より大きかったりして……」
「こら、恐ろしい事は言うものでない」
「だって、ここに描かれてる絵がすでに巨大な塊にしか見えないじゃない?とりあえずでかい!!って感じの絵。ダイダラボッチかな」
絵だけ見ると、藤襲山の手鬼よりも大きい気がする。それに、どんな攻撃も吸収して刃が立たない、か。
「……頸を斬るのが大変そうだね」
「大丈夫だ、俺と君ならな。食休みがてら、着くまで少し眠っておこう。こちらに寄るといい」
「買った書物に埋もれてこれ以上は寄れないからこのままで結構でーす」
「俺の膝に乗るといいという意味に決まっているだろう!?」
「知らんがな!
って、わあっ!ちょっと引っ張らないで!?暴れないでくださーい!!」
中は狭いというのに杏寿郎さんが大きく動いたので、馬車は上下左右にと揺れに揺れた。
明日が瑠火さんの命日だからだ。
土産物を選びたいからと、外で待ち合わせをして本屋を覗いたはいいけれど。
「童話の絵本なんていいかもしれんな!」
杏寿郎さんが千寿郎へのお土産にと、絵本を積み重ねている。それ全部買う気?多くない?両手塞がるよねそれ。
それにしても……。
「外国の童話の絵本なんて売ってるんだね。親指姫に……火打箱?マッチ売りの少女かな?」
「書店なのだから当然だろう。子供達の間では近頃、こういった本が流行しているようだぞ」
「知らなかった……」
私の頭は未だに、明治大正の書籍事情より平成令和の書籍事情を覚えている。あの時代はありとあらゆるジャンルの本が売っていたものね……。
「他にはどうだ?」
「まだ増やすんだ……。んー、絵本だけじゃなくて、ちょっと小難しい本も加えてみたらどうだろ?」
あの子も私と何度も繰り返し過ごすうち、最初の頃よりとっても頭が良くなった。なら、絵本より専門書とか興味ありそうなジャンルの本をプレゼントした方が喜ぶ気がする。
ま、大好きな兄上からのお土産なら、何をもらっても喜ぶだろうけども。
私だってそうだ。杏寿郎さんから貰えるものなら何でも嬉しい。
「うむ!学問の成績もすこぶる良いからな!」
「そーそー、私と似て頭いいからね」
「はははは!朝緋は自分で言うのか!!」
伊達に何度も繰り返してない。繰り返した分、私は学問の成績だけはいい。成績だけは。
「む。この本もどうだろう」
「どれどれ……、あー。そんなのあげても逆に気に病むと思うよ」
「……そうだな」
それは剣術についての教本だった。
千寿郎は自身の剣術が上達しないことを酷く気にしている。上手く隠しているつもりなのだろうけど、こちらに丸わかりな彼の焦る気持ち。
なのにそんな本あげたら、余計落ち込むよ。
それに理由は剣術じゃない。千寿郎は優しいから。優しすぎるから、いつだって日輪刀の色が変わらないのだ。現にその辺の物盗りや暴漢など、相手にならないほど強い。
「朝緋は何か欲しいものはないのか?」
「あ、私は特にないです」
杏寿郎さんからのお土産が欲しくなるほど、離れていた期間は長くない。なんならいつも一緒にいる気がする。
「欲がないなぁ。君くらいの年頃ならば、唇に紅をひいてみたくなったり、モダンな洋装を欲しがるだろうに」
「それは普通の女の子の話。私だったら美味しい食べ物の方がいいな」
「花より団子か。朝緋らしくて良い!腹も減ったことだし、蕎麦でも食べて帰ろう!!」
蕎麦の言葉にぎくりとする。
「蕎麦?二階のないところにしてね」
「二階……?ああ、そういう意味か。思い出させてくれてありがとう!よーし!二階のある蕎麦屋を探そう!お借りして明日まで一番のご馳走を食べるぞ!!ー
「ぎゃー!やだって言ってるじゃん!?」
「冗談だッ!!」
目がギラギラしてたよ。冗談に聞こえない……。
入った蕎麦屋はわんこ蕎麦が食べられるお店だ。私や杏寿郎さんのように、いっぱい食べる人にはいいかもね。
準備ができるのを待っていると、その軽やかな音で、吊るされている風鈴に気がつく。
「あ……風鈴だ。うちの物に音が似てるね」
「……懐かしいなぁ」
「母様も好きだった風鈴だよね。久しぶりに出そうかな」
音を聴くだけで瑠火さんの姿を思い出す。今も、お空の上で私達のこと見てくれていらっしゃるのかな?
私達はいいから、とにかく槇寿朗さんのことを何とかしてくださいお願いします。
「ああ、とてもいい音だったからな。母上にも聴かせてあげたい」
命日だし、たまには陽の下に出さないとね。
「どうします?このあとは用事も任務もなさそうだから、明日じゃなくて今日から帰っちゃえば?お世話になる予定だった藤の家紋の家には、要やあずまに言伝を頼んでさ」
「早く千寿郎の顔も見たいことだし、それもいいな」
「ほいじゃ、きーまり!帰ったら、早速風鈴出すね!」
パン!と手を叩いたところで、わんこ蕎麦が届いた。うわ多い。
「うまい、うまい、……うまい!!!」
「うん美味しい。ねぇ今何杯?」
「数えていないが百は超えているはずだ。まだまだ入るぞ」
「ははぁ、よく食べるねぇ」
わんこ蕎麦だからかもしれないけど、ほんっとよく食べること食べること。杏寿郎さん、胃袋がとっても大きいってわけでもない意外と細い体型してるのに、一体どこに入ってるんだろう?食べたそばから消化してるのかしら。
人のこと言えない?あはは、違いないや。
「俺より甘露寺の方が食べるが?」
「うん知ってる」
「主人!ここのわんこ蕎麦の最高記録はいくつだ?」
その瞬間、超えてると返ってきた。
本場である岩手と違い、この辺りではまだまだわんこ蕎麦は浸透していないだろうし、百超えなんてそう居ないよね。遠い目しちゃう。
すると私の箸が止まったことを指摘してきた。
「どうした!もう食べないのか?遠慮せず好きなだけ食べるといい!!」
「もういいです」
超えてるという言葉に加え、今日の分がなくなっちまいそうだと、小さくぼやく声が耳に届いてしまったからね。私もまだ入るけどやめようかな、という気持ちになる。
ご主人……食べ尽くして申し訳ないです。
え?杏寿郎さんが最終的に何杯食べたかって?それは想像してみてね!
「南南東、南南東ニ鬼ヲ目撃!至急現場ニ迎エ!!」
蕎麦屋を出ると鎹烏が上空を舞っていた。珍しく足に書面も括られていて、何か特殊な任務のようで。
「今すぐは帰れなさそうですねえ」
「ああ、行くぞ朝緋!」
徒歩でもよかったけれど荷物も多いことだし交通手段が近くにあったので、私達は馬車に揺られて任務地に向かっていた。速くもなくけれど遅くもないスピード。そして適度なこの揺れは電車に似たものを感じる。眠くなる……。
馬車の中、食休みだと訴える胃袋を休ませつつ、鎹烏からの書を囲んで読む。任務の内容は、と。
「一晩で十人も鬼殺隊士が……エグいなぁ。数字持ちか、それに準ずるような鬼かな?」
「あるいはそうかもしれん。行ってみない事にはわからんがな」
んー。多分この任務、本来は杏寿郎さんが蜜璃と行くやつよね?わんこ蕎麦食べてるし、瑠火さんの命日の前の日だし。
今回は私が行くのかあ。何だっけなぁ、どんな任務だったって言ってたっけ。
数字持ちって聞いたっけ……。あーもう!あの時、聞いたはずなのにぃ!!
こんな事なら聞いたメモしておけばよかっ……さすがにメモは持ち越せないっての。
「食べた分だけ大きく成長する鬼ねぇ……。三倍にも四倍にもなったってあるよ」
「何でも無尽蔵に喰らう鬼らしい」
何でもってその辺のゴミも食べるのかなあ。もしそうだとしたら、まるでスライムだ。すみませんが、環境の為にゴミを食べてもらっていいですか?
「食べた人間は鬼殺隊士だけじゃないだろうから、十人以上食べてることになるよね。煉獄家の敷地より大きかったりして……」
「こら、恐ろしい事は言うものでない」
「だって、ここに描かれてる絵がすでに巨大な塊にしか見えないじゃない?とりあえずでかい!!って感じの絵。ダイダラボッチかな」
絵だけ見ると、藤襲山の手鬼よりも大きい気がする。それに、どんな攻撃も吸収して刃が立たない、か。
「……頸を斬るのが大変そうだね」
「大丈夫だ、俺と君ならな。食休みがてら、着くまで少し眠っておこう。こちらに寄るといい」
「買った書物に埋もれてこれ以上は寄れないからこのままで結構でーす」
「俺の膝に乗るといいという意味に決まっているだろう!?」
「知らんがな!
って、わあっ!ちょっと引っ張らないで!?暴れないでくださーい!!」
中は狭いというのに杏寿郎さんが大きく動いたので、馬車は上下左右にと揺れに揺れた。