五周目 参
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私が着地したことで剥がれ落ちた屋根の修復など、事後処理をしに来てくれた隠さんに全てをお任せし、夜道を駆ける。
腕に裂傷はあるけど、大した傷じゃない。まだそのまま他の任務に行けるくらい元気だ。
……任務失敗したばかりだけどね。いや、失敗したからこそ次で挽回しなければ、という気持ちが生まれるわけでして。
「あずま、杏寿郎さん達の任務ってどうなってるかな?」
他の任務が追加されていないならぜひ合流したいところだ。ここから遠いし、時間的に厳しいかもしれないけど。
せめて安否確認がしたい。
鴉同士は伝言ゲームのように、遠くからでもやり取りが出来ると聞いたような?
伝言ゲームだなんて、人間同士だと不正確さを楽しむのがウリの遊戯だけど、鴉同士ならきっと正確に伝わっていることだろう。
それを証拠にほら、
「任務ハ先程終ワッタミタイ!」
「ありがとう。お怪我の有無や程度はわかる?」
「ウン、杏寿郎様、怪我シタ足カラ芋ノ蔓ガ生エテ来テ自分ニナッタ芋ヲ収穫シテ煉獄ノ炎デ焼イタッテ!今ハ既ニ蝶屋敷へ向カッテルワ」
「なんて?」
前言撤回。鴉同士でも伝言ゲームはおかしなことになるようだ。
どうやったら、足からさつまいもの蔓が生えるの?血鬼術?それを玖ノ型・煉獄で焼いた?何それ美味しそうちょっと羨まし……違う。
怪我をしている事は変わりなさそうなので、私が急ぐべきは蝶屋敷のようだ。
そうして朝方にやっと辿り着いた蝶屋敷では、大怪我をなされた杏寿郎さんがベッドに横になり眠っていた。
蜜璃は軽症だそうで、治療してすでに退出したとの事。蜜璃からも話を聞きたかったけど……あとで聞こう。
差し込み始めた陽の光が柔く、そして青白く思うほどに白く杏寿郎さんの顔を照らしている。
暖かい色した肌も、光の加減で青白く染まって見える。
そんな青白く染まった顔のまま横たわるのはやめて。どうしても貴方の最期を思い出してしまうから。
息ができない……呼吸法が上手く扱えない。胸がぎゅっと詰まってしまって、張り裂けそうに痛む。
ちゃんと息してるよね。ちゃんと生きてるよね。
せめて手を顔の上に少しだけかざして、呼気を確かめたい。
パシッ!
「!?」
震えてしまう手をゆっくりと伸ばすと同時に、杏寿郎さんに手首を取られてしまった。その大きな太陽が目を開く。
「なんだ朝緋だったか。おはよう」
「お、おはようございます。……もしかして起きてたの?」
「気配で起きた」
怪我のせいで上体を起こしづらそうな彼の背に手を添え、起き上がらせてあげる。
そのまま手を再び取られ、手が繋がった。
「ああ、朝緋だ……。久しぶりに会えた気分だよ」
「最後に別れてから一日も経ってませ……わっ!?」
繋がる手を思い切り引かれ、一瞬にしてその腕、その胸の中に閉じ込められる私。
布団にくるまっていたその体はとてもあたたかくて、熱いくらいだった。
離れなくちゃ、そう思うのに気持ちよくて。
杏寿郎さんの胸元、好き……ぴったり収まる感じがする。ぎゅってされて、頭撫でられて。
そのまま眠ってしまいそう。
「こほん、朝緋さん煉獄さん。お気持ちはわかりますがここは蝶屋敷ですので、そういったことは退院してから違うところでやってくださいね」
「うわぁしのぶちゃん!?っごめん!!」
咳払いが聞こえ振り向くとそこには、少し前に蟲柱になった胡蝶しのぶが部屋の入り口に立っていた。
あわてて離れようとするけど、あれ?放してもらえない。杏寿郎さん、放して。
「申し訳ありません蟲柱殿!でも俺は今、朝緋のぬくもりを感じていたい!!」
そう言うと余計に抱きしめる力が強くなる。
正直にいうと私も同じ気持ち。駄目な考えだと分かっているけれど、叶うことならずっとこうしていたい。誰かとめて。しのぶ、とめて?
「はあ……仕方ありませんね。それ以上のことは他所でやってくれるなら何も言いません。どうぞごゆっくり」
「え、私放置?しのぶちゃん、師範の暴挙を止めてくれないの!?」
「放置です。離れたいならご自分で離れましょうね、朝緋さん」
まるで本心では嬉しいのだと、見透かされているような笑顔だった。
「あ、それとですね。煉獄さんは今回の任務で柱の就任が決まりましたので、敬語は必要ありませんよ。
怪我が治り次第本部に呼ばれると思います」
にっこりと笑顔を送り、退出していくしのぶ。
「俺が柱に……」
「おめでとう師範」
十二鬼月を倒したのだから、柱になる条件はクリア。その事実は知っていただろうに、現柱の口からあらためて聞くと違うのだろうか、言葉を放ってそれを噛み締めるように確かめていた。
「ありがとう、朝緋。……だが……」
「どうかしたの?険しい顔して」
険しい顔もそうだけど、まず私を抱きしめるのやめてほしい。指摘したらもっと強く抱きしめてくるから言わない。
「柱を目指していたが、よく考えてみれば現炎柱は父上だ。俺が炎柱になるなら、父上はどうなる?同じ襲名の柱が存在していいものなのか?」
「さあ?二人目なんてあまり聞かないけど、二人炎柱がいるー!とか、特例があってもいいと思う。御館様がお決めになる事だし、気にしなくていいんじゃないの?今はまだ柱に空きもあるんだし」
どちらにせよ、槇寿朗さんはもうこれを機に柱を降りてしまうのだろうから関係ない。
「そうだな!共に柱として、父上と肩を並べて任務に当たってみたいしな!」
……息子のその夢を、壊すことになるのね。槇寿朗さん、なんて罪深き人。
「そうとわかれば、だ」
ようやく解放された、と思いきや。手を差し出してくる。
「何この手。お手しろと?」
はい、お手ー。とばかりに、杏寿郎さんの飼い犬になる私。
ムッとされた……なんで?ワンって言おうか?
「違う。褒美が欲しい」
「ご褒美?干し芋でもあげようか」
「干し芋!……も、嬉しいが今は必要ない」
そう言ってさっきより優しく手を取られる。
する、するり。
意味深に、手の甲や平をゆるゆる少しずつ撫でる。くすぐったい。まるで情事の際の愛撫のよう。……うう、体が反応してしまう。
「ちょっと、変な動きで手を撫でてくるのやめてくださいませんかね……」
「ふぅん?これが変な動きか?ただ単に撫でるだけのこの動きがか?」
ちら、と伏せ気味の鋭い目が射抜いてくる。
見抜かれている。その目に全て見抜かれている。
「朝緋、褒美が欲しい。君からの褒美が」
今までもそう。杏寿郎さんは柱になった褒美として、私でしか返せないものを要求なされた。
腰にまで腕を回されて強く何かを要求される。
振り払いたいけれど、相手は怪我人でもある。そう思うと何もできなくて。
ゾワゾワと変な気分になってくる中、顎に手をやり顔を上へと強制的に向かされた。
「ン、なに……っ?」
「唇を重ねたい」
「そ、んなの……駄目に決まって、」
「もういいではないか。もう恋仲になろう。君の気持ちだって俺に向いているのはわかっている。ただ俺の気持ちに、はいと答えるだけで全て上手くいくのだぞ」
褒美として欲しいと言いつつ、勝手には口づけをして来ない。あくまで私からも求めろと、その目が訴えてくる。
大好きな太陽の瞳に見つめられ続ければ、流されてしまう。
口付けなんてしてしまえば、そのまま私は「はい」と答えてしまうだろう。
私の心も体ももう、楽になりたがっている。
そんな私の答えは。
腕に裂傷はあるけど、大した傷じゃない。まだそのまま他の任務に行けるくらい元気だ。
……任務失敗したばかりだけどね。いや、失敗したからこそ次で挽回しなければ、という気持ちが生まれるわけでして。
「あずま、杏寿郎さん達の任務ってどうなってるかな?」
他の任務が追加されていないならぜひ合流したいところだ。ここから遠いし、時間的に厳しいかもしれないけど。
せめて安否確認がしたい。
鴉同士は伝言ゲームのように、遠くからでもやり取りが出来ると聞いたような?
伝言ゲームだなんて、人間同士だと不正確さを楽しむのがウリの遊戯だけど、鴉同士ならきっと正確に伝わっていることだろう。
それを証拠にほら、
「任務ハ先程終ワッタミタイ!」
「ありがとう。お怪我の有無や程度はわかる?」
「ウン、杏寿郎様、怪我シタ足カラ芋ノ蔓ガ生エテ来テ自分ニナッタ芋ヲ収穫シテ煉獄ノ炎デ焼イタッテ!今ハ既ニ蝶屋敷へ向カッテルワ」
「なんて?」
前言撤回。鴉同士でも伝言ゲームはおかしなことになるようだ。
どうやったら、足からさつまいもの蔓が生えるの?血鬼術?それを玖ノ型・煉獄で焼いた?何それ美味しそうちょっと羨まし……違う。
怪我をしている事は変わりなさそうなので、私が急ぐべきは蝶屋敷のようだ。
そうして朝方にやっと辿り着いた蝶屋敷では、大怪我をなされた杏寿郎さんがベッドに横になり眠っていた。
蜜璃は軽症だそうで、治療してすでに退出したとの事。蜜璃からも話を聞きたかったけど……あとで聞こう。
差し込み始めた陽の光が柔く、そして青白く思うほどに白く杏寿郎さんの顔を照らしている。
暖かい色した肌も、光の加減で青白く染まって見える。
そんな青白く染まった顔のまま横たわるのはやめて。どうしても貴方の最期を思い出してしまうから。
息ができない……呼吸法が上手く扱えない。胸がぎゅっと詰まってしまって、張り裂けそうに痛む。
ちゃんと息してるよね。ちゃんと生きてるよね。
せめて手を顔の上に少しだけかざして、呼気を確かめたい。
パシッ!
「!?」
震えてしまう手をゆっくりと伸ばすと同時に、杏寿郎さんに手首を取られてしまった。その大きな太陽が目を開く。
「なんだ朝緋だったか。おはよう」
「お、おはようございます。……もしかして起きてたの?」
「気配で起きた」
怪我のせいで上体を起こしづらそうな彼の背に手を添え、起き上がらせてあげる。
そのまま手を再び取られ、手が繋がった。
「ああ、朝緋だ……。久しぶりに会えた気分だよ」
「最後に別れてから一日も経ってませ……わっ!?」
繋がる手を思い切り引かれ、一瞬にしてその腕、その胸の中に閉じ込められる私。
布団にくるまっていたその体はとてもあたたかくて、熱いくらいだった。
離れなくちゃ、そう思うのに気持ちよくて。
杏寿郎さんの胸元、好き……ぴったり収まる感じがする。ぎゅってされて、頭撫でられて。
そのまま眠ってしまいそう。
「こほん、朝緋さん煉獄さん。お気持ちはわかりますがここは蝶屋敷ですので、そういったことは退院してから違うところでやってくださいね」
「うわぁしのぶちゃん!?っごめん!!」
咳払いが聞こえ振り向くとそこには、少し前に蟲柱になった胡蝶しのぶが部屋の入り口に立っていた。
あわてて離れようとするけど、あれ?放してもらえない。杏寿郎さん、放して。
「申し訳ありません蟲柱殿!でも俺は今、朝緋のぬくもりを感じていたい!!」
そう言うと余計に抱きしめる力が強くなる。
正直にいうと私も同じ気持ち。駄目な考えだと分かっているけれど、叶うことならずっとこうしていたい。誰かとめて。しのぶ、とめて?
「はあ……仕方ありませんね。それ以上のことは他所でやってくれるなら何も言いません。どうぞごゆっくり」
「え、私放置?しのぶちゃん、師範の暴挙を止めてくれないの!?」
「放置です。離れたいならご自分で離れましょうね、朝緋さん」
まるで本心では嬉しいのだと、見透かされているような笑顔だった。
「あ、それとですね。煉獄さんは今回の任務で柱の就任が決まりましたので、敬語は必要ありませんよ。
怪我が治り次第本部に呼ばれると思います」
にっこりと笑顔を送り、退出していくしのぶ。
「俺が柱に……」
「おめでとう師範」
十二鬼月を倒したのだから、柱になる条件はクリア。その事実は知っていただろうに、現柱の口からあらためて聞くと違うのだろうか、言葉を放ってそれを噛み締めるように確かめていた。
「ありがとう、朝緋。……だが……」
「どうかしたの?険しい顔して」
険しい顔もそうだけど、まず私を抱きしめるのやめてほしい。指摘したらもっと強く抱きしめてくるから言わない。
「柱を目指していたが、よく考えてみれば現炎柱は父上だ。俺が炎柱になるなら、父上はどうなる?同じ襲名の柱が存在していいものなのか?」
「さあ?二人目なんてあまり聞かないけど、二人炎柱がいるー!とか、特例があってもいいと思う。御館様がお決めになる事だし、気にしなくていいんじゃないの?今はまだ柱に空きもあるんだし」
どちらにせよ、槇寿朗さんはもうこれを機に柱を降りてしまうのだろうから関係ない。
「そうだな!共に柱として、父上と肩を並べて任務に当たってみたいしな!」
……息子のその夢を、壊すことになるのね。槇寿朗さん、なんて罪深き人。
「そうとわかれば、だ」
ようやく解放された、と思いきや。手を差し出してくる。
「何この手。お手しろと?」
はい、お手ー。とばかりに、杏寿郎さんの飼い犬になる私。
ムッとされた……なんで?ワンって言おうか?
「違う。褒美が欲しい」
「ご褒美?干し芋でもあげようか」
「干し芋!……も、嬉しいが今は必要ない」
そう言ってさっきより優しく手を取られる。
する、するり。
意味深に、手の甲や平をゆるゆる少しずつ撫でる。くすぐったい。まるで情事の際の愛撫のよう。……うう、体が反応してしまう。
「ちょっと、変な動きで手を撫でてくるのやめてくださいませんかね……」
「ふぅん?これが変な動きか?ただ単に撫でるだけのこの動きがか?」
ちら、と伏せ気味の鋭い目が射抜いてくる。
見抜かれている。その目に全て見抜かれている。
「朝緋、褒美が欲しい。君からの褒美が」
今までもそう。杏寿郎さんは柱になった褒美として、私でしか返せないものを要求なされた。
腰にまで腕を回されて強く何かを要求される。
振り払いたいけれど、相手は怪我人でもある。そう思うと何もできなくて。
ゾワゾワと変な気分になってくる中、顎に手をやり顔を上へと強制的に向かされた。
「ン、なに……っ?」
「唇を重ねたい」
「そ、んなの……駄目に決まって、」
「もういいではないか。もう恋仲になろう。君の気持ちだって俺に向いているのはわかっている。ただ俺の気持ちに、はいと答えるだけで全て上手くいくのだぞ」
褒美として欲しいと言いつつ、勝手には口づけをして来ない。あくまで私からも求めろと、その目が訴えてくる。
大好きな太陽の瞳に見つめられ続ければ、流されてしまう。
口付けなんてしてしまえば、そのまま私は「はい」と答えてしまうだろう。
私の心も体ももう、楽になりたがっている。
そんな私の答えは。