五周目 弐
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
焼けた栗を分け合って食べながら焚き火を囲む。ただ栗ってさ、美味しいけど喉につまりそうだよね。お茶が欲しいや。
「んー、アチアチうまうま。でもさ、栗もいいけど海の栗も食べたいね」
喉が詰まりそうだから、よりいっそう水分のあるものが欲しくなる。
「食べたいものがあるなら買えばいいではないか。海の、ということは魚屋に売っているのだろう?」
「どうだろう?この時代に雲丹が魚屋に出回ってるかなあ……海に取りに行った方が早いかも」
「この時代というのが気になるが、海の栗とは雲丹のことだったか!!確かに、毬栗の状態は雲丹そっくりだものな!」
あっやば。でも流してもらえたからいいか。
雲丹かあ。伊豆とか行けばあるいは……なんて、考えが及ぶ。食いしん坊万歳!
あらかた食べ終えたところで、杏寿郎さんがぐんと距離を詰めてきた。
「ところで朝緋は、帝都によく行っているようだな?」
「…………っ」
キスできてしまいそうな距離で、そう言われる。でも、同時に手を掴まれて逃げられない。
「栗饅頭を食べたと言うのも、帝都だろう?誰と逢引しているのか、聞いてもいいだろうか」
「ねぇそれ、聞いてもいいだろうかって、強制的に吐かせようとしてるよね?言っておくけど、私は誰とも逢引なんてしてませんし、独自の鬼の調査に出掛けているだけです」
「調査なのに美味しいものを食べているとな!年頃のおなごが一人で食べるわけがない!!」
「えー」
考えが古い。おひとり様カフェだって、一人焼肉だって、一人遊園地だって行くような時代でしょ?
って、今は大正時代だった……もしかして、女一人で何か食べ歩く私がおかしい時代だったりする?確かに、町ゆく女の子は一人で歩くことが少なく思える。
「うーん、どう言ったら納得してくれるのかな……しいていうなら、鬼との逢瀬?ってことになるんだろうけれ、──ど!?」
思い切り引き倒されて、紅葉の絨毯の上に転がった。上には杏寿郎さんと垂れ下がる紅葉の木々。
暗闇の中、焚き火の炎に照らされて美しい様を魅せてくる。杏寿郎さんと紅葉、すごく合う。
「もういい。誰が相手だろうと、気分が悪いことに変わりはない」
押し倒されたその上。
カサカサの紅葉達が擦れ合う音が耳元で聞こえる。紅葉の葉ごと、杏寿郎さんが私の頭を。髪を愛おしげに撫でた。
髪にも服にも紅葉の葉がつくではないかと、そう思いながら杏寿郎さんの静かな声を聞く。
「俺の悋気と同じ色をした紅葉筵に埋もれる朝緋……なんとも、艶やかで美しいな。早く俺の手で乱したくてたまらんよ。ああ、誰の目にも触れさせぬように包み込んで隠してしまおうか?」
んん?杏寿郎さん、恐ろしいこと言ってない?綺麗な紅葉との対比を見ている場合じゃなかった。今にも襲われそうで怖いよ。その考え、かつて蔵の中に閉じ込めようとした槇寿朗さんと変わらないよ。
「わ……私としてはっ!紅葉は杏寿郎さんにこそ、似合うと思いますっ!!」
近づいてくる顔に焦り、指で摘んだ紅葉の葉の軸。綺麗なそれを杏寿郎さんと私の間に滑り込ませて壁にする。
くるくるり。黄色から赤に変わる途中で落葉したそれは、まるで煉獄家の髪の色。どう見ても燃えるような悋気を模した赤ではない色。
それを見た杏寿郎さんの動きがぴたりと止まる。
「紅葉の帳を背景にした杏寿郎さん、とても綺麗だよ?
言葉にして気持ちを返すことはまだしないけれど、私の視線の先にはいつも、杏寿郎さんしかいない……他の人なんて目に入らない」
「その呼び名を今使うのか……君はずるいな。悪い女だ」
私が師範と呼ばず、わざと杏寿郎さんと呼んだことがわかったのか、くしゃりと顔を歪めてため息を吐く。
「悪女じゃないけど今は悪女扱いでもいいです。上から下から私達を挟み、見守り囲ってくれる紅葉を、そろそろ貴方と並んで眺めたい。
だからどいて?」
「む……」
願いを口にすれば、ようやく退いてくれた杏寿郎さん。ご丁寧にも、髪や服についた葉を、一枚一枚取り払ってくれる。
お返しにと私も、杏寿郎さんについた紅葉を取ってあげた。
カサカサのこれなら、火に焼べても燃えてしまうだろう。
そう。嫉妬なんて火に焼べて燃やしてしまおう。
そんな感情に振り回されている時間は、強くなるために当てるべきだ。
杏寿郎さんも私も、もっともっと強くならなくてはならない。
杏寿郎さんが炎柱になるきっかけの任務は、すぐそこに迫っている。
負けは許されない。だってこちらが正義だから。
「んー、アチアチうまうま。でもさ、栗もいいけど海の栗も食べたいね」
喉が詰まりそうだから、よりいっそう水分のあるものが欲しくなる。
「食べたいものがあるなら買えばいいではないか。海の、ということは魚屋に売っているのだろう?」
「どうだろう?この時代に雲丹が魚屋に出回ってるかなあ……海に取りに行った方が早いかも」
「この時代というのが気になるが、海の栗とは雲丹のことだったか!!確かに、毬栗の状態は雲丹そっくりだものな!」
あっやば。でも流してもらえたからいいか。
雲丹かあ。伊豆とか行けばあるいは……なんて、考えが及ぶ。食いしん坊万歳!
あらかた食べ終えたところで、杏寿郎さんがぐんと距離を詰めてきた。
「ところで朝緋は、帝都によく行っているようだな?」
「…………っ」
キスできてしまいそうな距離で、そう言われる。でも、同時に手を掴まれて逃げられない。
「栗饅頭を食べたと言うのも、帝都だろう?誰と逢引しているのか、聞いてもいいだろうか」
「ねぇそれ、聞いてもいいだろうかって、強制的に吐かせようとしてるよね?言っておくけど、私は誰とも逢引なんてしてませんし、独自の鬼の調査に出掛けているだけです」
「調査なのに美味しいものを食べているとな!年頃のおなごが一人で食べるわけがない!!」
「えー」
考えが古い。おひとり様カフェだって、一人焼肉だって、一人遊園地だって行くような時代でしょ?
って、今は大正時代だった……もしかして、女一人で何か食べ歩く私がおかしい時代だったりする?確かに、町ゆく女の子は一人で歩くことが少なく思える。
「うーん、どう言ったら納得してくれるのかな……しいていうなら、鬼との逢瀬?ってことになるんだろうけれ、──ど!?」
思い切り引き倒されて、紅葉の絨毯の上に転がった。上には杏寿郎さんと垂れ下がる紅葉の木々。
暗闇の中、焚き火の炎に照らされて美しい様を魅せてくる。杏寿郎さんと紅葉、すごく合う。
「もういい。誰が相手だろうと、気分が悪いことに変わりはない」
押し倒されたその上。
カサカサの紅葉達が擦れ合う音が耳元で聞こえる。紅葉の葉ごと、杏寿郎さんが私の頭を。髪を愛おしげに撫でた。
髪にも服にも紅葉の葉がつくではないかと、そう思いながら杏寿郎さんの静かな声を聞く。
「俺の悋気と同じ色をした紅葉筵に埋もれる朝緋……なんとも、艶やかで美しいな。早く俺の手で乱したくてたまらんよ。ああ、誰の目にも触れさせぬように包み込んで隠してしまおうか?」
んん?杏寿郎さん、恐ろしいこと言ってない?綺麗な紅葉との対比を見ている場合じゃなかった。今にも襲われそうで怖いよ。その考え、かつて蔵の中に閉じ込めようとした槇寿朗さんと変わらないよ。
「わ……私としてはっ!紅葉は杏寿郎さんにこそ、似合うと思いますっ!!」
近づいてくる顔に焦り、指で摘んだ紅葉の葉の軸。綺麗なそれを杏寿郎さんと私の間に滑り込ませて壁にする。
くるくるり。黄色から赤に変わる途中で落葉したそれは、まるで煉獄家の髪の色。どう見ても燃えるような悋気を模した赤ではない色。
それを見た杏寿郎さんの動きがぴたりと止まる。
「紅葉の帳を背景にした杏寿郎さん、とても綺麗だよ?
言葉にして気持ちを返すことはまだしないけれど、私の視線の先にはいつも、杏寿郎さんしかいない……他の人なんて目に入らない」
「その呼び名を今使うのか……君はずるいな。悪い女だ」
私が師範と呼ばず、わざと杏寿郎さんと呼んだことがわかったのか、くしゃりと顔を歪めてため息を吐く。
「悪女じゃないけど今は悪女扱いでもいいです。上から下から私達を挟み、見守り囲ってくれる紅葉を、そろそろ貴方と並んで眺めたい。
だからどいて?」
「む……」
願いを口にすれば、ようやく退いてくれた杏寿郎さん。ご丁寧にも、髪や服についた葉を、一枚一枚取り払ってくれる。
お返しにと私も、杏寿郎さんについた紅葉を取ってあげた。
カサカサのこれなら、火に焼べても燃えてしまうだろう。
そう。嫉妬なんて火に焼べて燃やしてしまおう。
そんな感情に振り回されている時間は、強くなるために当てるべきだ。
杏寿郎さんも私も、もっともっと強くならなくてはならない。
杏寿郎さんが炎柱になるきっかけの任務は、すぐそこに迫っている。
負けは許されない。だってこちらが正義だから。