五周目 弐
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杏寿郎さんが帝都で下弦の弐となった、佩狼という名の鬼と対峙する時が迫りつつある。
何故わかるか?帝都で民間人が、そして民間人よりも派遣された隊士が多く消えているからだ。
帝都は槇寿朗さんの。炎柱の管轄。
まだ鬼殺隊に所属しているものの任務に行きたがらない現炎柱に代わり、私は単身帝都へと佩狼の調査に乗り出した。
ちなみに任務で、ではない。
隊士だとバレてしまえば、鬼殺隊……特に炎柱に恨みのあるあの鬼のことだ。徹底的に私を狙い、潰そうとしてくるだろう。炎柱そのものを引き摺り出し、仕返しするために。
だからあくまでも一般人としてだ。ま、この背には日輪刀を携えているから見つかれば隊士なのはバレバレだけども。
調査とはいえ奴を見つけたなら、繰り出してくる狼を退治し、戦力削ぎ落として弱らせるくらいはしたい。
あのかわいくない狼達は無尽蔵ではない。あれを減らすだけでも、かなり弱体化は望める。
そのあとに人を食べて回復したら意味ない?食わせなきゃ問題ないよね。
時間の許す限り、帝都を見張ってやる。
こうして、虎屋羊羹齧ったり、アイスクリームやシベリア食べながら。
あの時ととても似ているよね。『前』に、無限列車の任務前に魘夢を見つけようと奔走していた時と。あの時はいなり寿司のお弁当を食べたっけ……。あれは美味しかったなあ。
あの鬼……。んー。名前がわからないから、弁当を踏みつけた『食べ物粗末にする鬼』でいいや。長い。
私こそネーミングセンス皆無じゃん。もしかしたら未来に影響あったかもしれないのに、あの鬼を退治してしまったっけ。
そのことについて明槻からお咎めはなかった。
杏寿郎さんが炎柱になるきっかけである佩狼についても、聞いた時に何も言われていない。バタフライエフェクトは気にしなくていいのだと思っている。
ただ自己判断すると、私が下弦の弐である佩狼を討伐するのはやめておいた方がいい。そもそも奴は強い。私が簡単に頸を落とせるとは思えない。私一人で相手するには危険すぎるし、喰われたら相手が強くなるだけ。元も子もない。
でも、杏寿郎さんのために弱らせておきたいという気持ちだけはあって。
だからこうして、美味しいもの食べながら帝都を張っている。
もぐもぐ、うわこの栗饅頭めちゃ美味しい。栗の時期だもんねえ……。
世間は秋深まる!焼き栗茹で栗も食べたいし紅葉狩りにも行きたいな。
「炎の呼吸、壱ノ型 不知火」
「ギャンッ!!」
狼の体を真っ二つに斬り伏せる。一太刀でやらないと逆に刃を取り込んでくるから、強く素早い技で刈りとらねばならない。
「今回はこれくらいでいいかな……」
結果的に言うと、夕方や昼も暗い場所、路地裏などを徘徊して人間を取り込もうとしていた佩狼の使役狼を、十数匹駆除するのみで終わった。
佩狼自身と鉢合わせることは終ぞなかった。
私も任務と任務の間のわずかな時間や、非番の日にしか行けないから仕方ない。服装も隊服じゃなくて、町娘の格好だから目立たないし、佩狼の目に留まらない。
十数匹駆除できただけいい。空腹で逆に危険な鬼になっている可能性もあるけれど、確実に弱体化はできたはずだ。
ここいら一体での隊士の消え方、殺され方には特徴がある。そろそろ、下弦の弐である佩狼討伐の任務が炎柱へとよこされるだろう。
先日蜜璃も隊士になったばかりで、初任務を言い渡される時期が迫っている。杏寿郎さんの階級もつい先日、甲になった。
柱合会議の時期ももうすぐだ。炎柱である槇寿朗さんが会議に出席せず、今回も代わりに杏寿郎さんが行くことになるとすれば、杏寿郎さんの炎柱就任は秒読み同然。というか、多分杏寿郎さんが行くことになる。
は?炎柱になれるのは佩狼に勝てたらだろうって?勝つに決まってるでしょ。正義は必ず勝つのだ。
紅葉狩り、というわけではない。
だけれど、紅葉の下で任務遂行する機会がその直後に言い渡された。
当たり前のように杏寿郎さんが同じ任務についていたのには、もう何も突っ込まない。私の向かう任務の半分ほどが杏寿郎さんと一緒のものばかりだ。
「任務ではあったが、こうして朝緋と紅葉が見られるとはな……。
で、朝緋。君は一体何をしている?」
美しい紅葉の中、私の行動を目を点にして眺める杏寿郎さん。
「何って、焚き火ですが?」
紅葉の葉っぱは燃えにくいからと、少し離れたところからナラの木、クヌギの木。燃えやすく、長く燃えてくれる木を拝借して火をつけ、ぱちぱち爆ぜる炎をかき混ぜているところだ。
「なぜに焚き火?……いや、暖を取るにもいいのかもしれんが。藤の家紋の家に戻って暖を取ったほうがいいのでは?」
「鬼退治も終わりましたし暖を取るならそうですね。でも私が今、何やってるか見たらわかるでしょ?」
火が弱いところをツンツン、棒で突いて見せる。
たくさんの焦茶色のぷっくりころんとしたフォルムの、秋の味覚が火に当たっていた。
「栗か!?紅葉も見ずに何をやっていたのかと思えば……花より団子だな!」
「いつもは師範が色気より食い気でしょ?人のこと言えないよ」
何度も言うけど、炎の呼吸の使い手はよく食べる人が多いから、誰も彼も私もが人のことは言えない。
「闇夜の中の紅葉とはいえ、紅葉狩りは鬼殺の最中にも楽しめましたからね。今は焼き栗を楽しんでるとこ。しっかりと暖を取りたいなら、先に帰ってどぞっ」
鬼が赤く色づいた山中を逃げ惑ってくれたおかげで、紅葉のトンネルを潜り抜けたり、風に散りゆく美しい紅葉を堪能することができた。お礼にと、痛くないように水の呼吸の伍ノ型で頸を刎ねてあげた私って優しい。
「君を置いて帰るわけなかろうが!俺は朝緋という暖が取りたい!!」
「はぁい却下〜」
「うむむむむ……」
最近の杏寿郎さんは表情豊かだな……。私が引き出した不機嫌そうな顔ばかりだけど。
「いやしかし、せっかくの紅葉の帳なのになぁ。上から垂れ下がるこの光景を今見ないとは、なんと勿体無い」
「また後で見ます〜」
焚き火に照らされた私の顔を覗き込むように、杏寿郎さんが隣に座ってきた。あまりに近いのでちょっと移動。近すぎるとまた、ぎゅうぎゅうに抱き込まれたりするもんね……。
油断も隙もあったもんじゃない!
「この前、今年の栗を使った一粒栗まるごと栗饅頭っていうのを食べたんですよ。その時、栗って美味しいなあって思って。
だから焼き栗が自分でも作って食べたくて仕方なかったんです。それには焚き火が一番でしょ」
「ふむ、なるほどな。果たして自分で上手く焼けるものなのか、俺としては疑問だがな。焦げて終わりな気がする」
未来のような大粒の丹波栗や、中華街で売っている熱々の甘栗のような美味しさは皆無だけど、うまく焼けばめちゃくちゃ美味しいのよね。
「それはなんでも火力が強いまま焼こうとしたり、料理しようとする師範が悪い。
焼く時はこうやって栗のお尻に切れ込み入れて……炎が弱いところでじっくり焼いて……いい感じに焼けたら取り出して食べる。焼きすぎると固くなって食べられないからこのくらいかな」
一つ手拭いで摘んで取り出してみる。うん、焼き加減よさげ。切り込み入れたお尻から美味しそうな匂いのする湯気がほわほわ立ち昇っている。
けれど、どんなに美味しそうな栗でも少し不服なのがこの人。
「美味そうだな……芋も焼けばいいのに。芋食べたい、芋……」
「すみませんねえお芋なくて。栗だってさっき良さそうなの拾って、虫食いがないかつめたぁ〜い水の中で散々調べたんですからね。栗で我慢してよ」
「よも……芋ないのか……」
どれだけ芋が食べたいのだろう。いや、私だっていつでもいなり寿司食べたいの人だから好物については仕方な……うわ、真っ白に燃え尽きた人みたいな顔をしている!!表情だけシワシワの電気ネズミだ!?
かわいいけど、かわいいけどさあ!!
「また今度芋も焼きますよ!ねえその顔やめて?ねえやめて栗食べて?」
ほら、あーん。そう言って口を開かせて剥いた焼き栗を押し込む。しょぼくれていた顔が、一瞬で太陽のような明るいものに変わった。
「む、美味い。栗も美味いな」
「でしょ?」
「あーんまでしてくれて、俺は果報者だなぁ」
「うっ……つい流れでやっちゃっただけですから気にしないでください!千寿郎にやる感覚ね!」
「なんと!千寿郎にもこんなことをやるのか君は!」
弟に嫉妬するのやめて。
何故わかるか?帝都で民間人が、そして民間人よりも派遣された隊士が多く消えているからだ。
帝都は槇寿朗さんの。炎柱の管轄。
まだ鬼殺隊に所属しているものの任務に行きたがらない現炎柱に代わり、私は単身帝都へと佩狼の調査に乗り出した。
ちなみに任務で、ではない。
隊士だとバレてしまえば、鬼殺隊……特に炎柱に恨みのあるあの鬼のことだ。徹底的に私を狙い、潰そうとしてくるだろう。炎柱そのものを引き摺り出し、仕返しするために。
だからあくまでも一般人としてだ。ま、この背には日輪刀を携えているから見つかれば隊士なのはバレバレだけども。
調査とはいえ奴を見つけたなら、繰り出してくる狼を退治し、戦力削ぎ落として弱らせるくらいはしたい。
あのかわいくない狼達は無尽蔵ではない。あれを減らすだけでも、かなり弱体化は望める。
そのあとに人を食べて回復したら意味ない?食わせなきゃ問題ないよね。
時間の許す限り、帝都を見張ってやる。
こうして、虎屋羊羹齧ったり、アイスクリームやシベリア食べながら。
あの時ととても似ているよね。『前』に、無限列車の任務前に魘夢を見つけようと奔走していた時と。あの時はいなり寿司のお弁当を食べたっけ……。あれは美味しかったなあ。
あの鬼……。んー。名前がわからないから、弁当を踏みつけた『食べ物粗末にする鬼』でいいや。長い。
私こそネーミングセンス皆無じゃん。もしかしたら未来に影響あったかもしれないのに、あの鬼を退治してしまったっけ。
そのことについて明槻からお咎めはなかった。
杏寿郎さんが炎柱になるきっかけである佩狼についても、聞いた時に何も言われていない。バタフライエフェクトは気にしなくていいのだと思っている。
ただ自己判断すると、私が下弦の弐である佩狼を討伐するのはやめておいた方がいい。そもそも奴は強い。私が簡単に頸を落とせるとは思えない。私一人で相手するには危険すぎるし、喰われたら相手が強くなるだけ。元も子もない。
でも、杏寿郎さんのために弱らせておきたいという気持ちだけはあって。
だからこうして、美味しいもの食べながら帝都を張っている。
もぐもぐ、うわこの栗饅頭めちゃ美味しい。栗の時期だもんねえ……。
世間は秋深まる!焼き栗茹で栗も食べたいし紅葉狩りにも行きたいな。
「炎の呼吸、壱ノ型 不知火」
「ギャンッ!!」
狼の体を真っ二つに斬り伏せる。一太刀でやらないと逆に刃を取り込んでくるから、強く素早い技で刈りとらねばならない。
「今回はこれくらいでいいかな……」
結果的に言うと、夕方や昼も暗い場所、路地裏などを徘徊して人間を取り込もうとしていた佩狼の使役狼を、十数匹駆除するのみで終わった。
佩狼自身と鉢合わせることは終ぞなかった。
私も任務と任務の間のわずかな時間や、非番の日にしか行けないから仕方ない。服装も隊服じゃなくて、町娘の格好だから目立たないし、佩狼の目に留まらない。
十数匹駆除できただけいい。空腹で逆に危険な鬼になっている可能性もあるけれど、確実に弱体化はできたはずだ。
ここいら一体での隊士の消え方、殺され方には特徴がある。そろそろ、下弦の弐である佩狼討伐の任務が炎柱へとよこされるだろう。
先日蜜璃も隊士になったばかりで、初任務を言い渡される時期が迫っている。杏寿郎さんの階級もつい先日、甲になった。
柱合会議の時期ももうすぐだ。炎柱である槇寿朗さんが会議に出席せず、今回も代わりに杏寿郎さんが行くことになるとすれば、杏寿郎さんの炎柱就任は秒読み同然。というか、多分杏寿郎さんが行くことになる。
は?炎柱になれるのは佩狼に勝てたらだろうって?勝つに決まってるでしょ。正義は必ず勝つのだ。
紅葉狩り、というわけではない。
だけれど、紅葉の下で任務遂行する機会がその直後に言い渡された。
当たり前のように杏寿郎さんが同じ任務についていたのには、もう何も突っ込まない。私の向かう任務の半分ほどが杏寿郎さんと一緒のものばかりだ。
「任務ではあったが、こうして朝緋と紅葉が見られるとはな……。
で、朝緋。君は一体何をしている?」
美しい紅葉の中、私の行動を目を点にして眺める杏寿郎さん。
「何って、焚き火ですが?」
紅葉の葉っぱは燃えにくいからと、少し離れたところからナラの木、クヌギの木。燃えやすく、長く燃えてくれる木を拝借して火をつけ、ぱちぱち爆ぜる炎をかき混ぜているところだ。
「なぜに焚き火?……いや、暖を取るにもいいのかもしれんが。藤の家紋の家に戻って暖を取ったほうがいいのでは?」
「鬼退治も終わりましたし暖を取るならそうですね。でも私が今、何やってるか見たらわかるでしょ?」
火が弱いところをツンツン、棒で突いて見せる。
たくさんの焦茶色のぷっくりころんとしたフォルムの、秋の味覚が火に当たっていた。
「栗か!?紅葉も見ずに何をやっていたのかと思えば……花より団子だな!」
「いつもは師範が色気より食い気でしょ?人のこと言えないよ」
何度も言うけど、炎の呼吸の使い手はよく食べる人が多いから、誰も彼も私もが人のことは言えない。
「闇夜の中の紅葉とはいえ、紅葉狩りは鬼殺の最中にも楽しめましたからね。今は焼き栗を楽しんでるとこ。しっかりと暖を取りたいなら、先に帰ってどぞっ」
鬼が赤く色づいた山中を逃げ惑ってくれたおかげで、紅葉のトンネルを潜り抜けたり、風に散りゆく美しい紅葉を堪能することができた。お礼にと、痛くないように水の呼吸の伍ノ型で頸を刎ねてあげた私って優しい。
「君を置いて帰るわけなかろうが!俺は朝緋という暖が取りたい!!」
「はぁい却下〜」
「うむむむむ……」
最近の杏寿郎さんは表情豊かだな……。私が引き出した不機嫌そうな顔ばかりだけど。
「いやしかし、せっかくの紅葉の帳なのになぁ。上から垂れ下がるこの光景を今見ないとは、なんと勿体無い」
「また後で見ます〜」
焚き火に照らされた私の顔を覗き込むように、杏寿郎さんが隣に座ってきた。あまりに近いのでちょっと移動。近すぎるとまた、ぎゅうぎゅうに抱き込まれたりするもんね……。
油断も隙もあったもんじゃない!
「この前、今年の栗を使った一粒栗まるごと栗饅頭っていうのを食べたんですよ。その時、栗って美味しいなあって思って。
だから焼き栗が自分でも作って食べたくて仕方なかったんです。それには焚き火が一番でしょ」
「ふむ、なるほどな。果たして自分で上手く焼けるものなのか、俺としては疑問だがな。焦げて終わりな気がする」
未来のような大粒の丹波栗や、中華街で売っている熱々の甘栗のような美味しさは皆無だけど、うまく焼けばめちゃくちゃ美味しいのよね。
「それはなんでも火力が強いまま焼こうとしたり、料理しようとする師範が悪い。
焼く時はこうやって栗のお尻に切れ込み入れて……炎が弱いところでじっくり焼いて……いい感じに焼けたら取り出して食べる。焼きすぎると固くなって食べられないからこのくらいかな」
一つ手拭いで摘んで取り出してみる。うん、焼き加減よさげ。切り込み入れたお尻から美味しそうな匂いのする湯気がほわほわ立ち昇っている。
けれど、どんなに美味しそうな栗でも少し不服なのがこの人。
「美味そうだな……芋も焼けばいいのに。芋食べたい、芋……」
「すみませんねえお芋なくて。栗だってさっき良さそうなの拾って、虫食いがないかつめたぁ〜い水の中で散々調べたんですからね。栗で我慢してよ」
「よも……芋ないのか……」
どれだけ芋が食べたいのだろう。いや、私だっていつでもいなり寿司食べたいの人だから好物については仕方な……うわ、真っ白に燃え尽きた人みたいな顔をしている!!表情だけシワシワの電気ネズミだ!?
かわいいけど、かわいいけどさあ!!
「また今度芋も焼きますよ!ねえその顔やめて?ねえやめて栗食べて?」
ほら、あーん。そう言って口を開かせて剥いた焼き栗を押し込む。しょぼくれていた顔が、一瞬で太陽のような明るいものに変わった。
「む、美味い。栗も美味いな」
「でしょ?」
「あーんまでしてくれて、俺は果報者だなぁ」
「うっ……つい流れでやっちゃっただけですから気にしないでください!千寿郎にやる感覚ね!」
「なんと!千寿郎にもこんなことをやるのか君は!」
弟に嫉妬するのやめて。