五周目 弐
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生家へと帰る道すがら、杏寿郎さんがうーーん!と伸びをしながら寄りかかってきた。
「いやしかし、今回は少しばかり疲れてしまった!」
「私も疲れてるんだから寄りかからないでよ」
全体重をかけるのやめて欲しい。重い!
「肉体的にではなく精神的にだ。知らぬ人間相手に気を遣ったのが大きかろう」
「へー、師範も気疲れとかするんだね。誰とでも分け隔てなく接してるし、社交的だからそういうのないと思ってた」
「失敬な!俺とて気疲れくらいする!
あああせめてこんな時に朝緋が癒してくれたらなぁあああ!」
「やだ」
押し返して普通に立たせ、歩かせる。べしべしべしと、その背を強く叩いて。
「イタ!?……はあ……朝緋は相変わらずいけずな子だ。
まあ、衣服も首元が締まりきつかったからだろう。慣れぬ物は着るべきじゃないな!」
「隊服も首回り詰まってるよね。詰襟だもの。
……私はスーツ姿の師範が見られて嬉しかったよ。とってもかっこよかった」
タイを結ぶ杏寿郎さんの仕草といったら。最初は慣れずにいたのに、二回目からは手際も良く完璧な結び目で色っぽくて……。私の心臓を止める気かと思ったもの。
「!?朝緋が喜ぶのなら頑張ってまた着るとしようかな……!」
「あ、無理して着なくていいです」
心臓が止まるので。
そういえば『今回』の幼少期にメイド服を買ってもらったっけ……。スーツの話で思い出しちゃった。
任務の時のメイド服とは違い、メイドカフェみたいな短さだけど今のこの体型なら着れる大きさだな〜。きっとサイズもぴったりだ。や、絶対着たくないけどね!!
ただでさえ隊服のスカートだって短いっていうのに、短すぎて下着が見えちゃう長さの衣装だなんて。見苦しいったらありゃしないよねえ。
煉獄家に辿り着き、自分の部屋の箪笥……。その奥底に眠るメイド服を思い出しながら自重気味な笑みを浮かべる。
ついでに『前』に着た、蜜璃からもらったカフェエプロンのことまで思い出してしまった。結果的に杏寿郎さんに破かれてしまったけれど、あれこそ穴があったら入りたい思い出だ。
なんてったって、自分から杏寿郎さんを誘うべく裸エプロンなるものを実践して悩殺アタック仕掛けたもんなぁ。
「俺の衣服はともかくとして」
わっ!杏寿郎さん貴方私の部屋にいたの!!あまりにも自然体すぎて気が付かなかった。
「あれはまだ持っているか?」
「あれ?」
「今回の任務で朝緋が来ていた衣服。あれによく似た衣装を持っていたろう。昔、祭りで父上が朝緋に買ったふりふりした洋装だ」
「!?」
ぎぇー!この人もほぼ同じタイミングで同じこと考えてたの?というか覚えていたの……?
本人でもないのに、記憶力よすぎじゃない?
「そっ、……そんなの知りませんねぇ……」
まずい、声が上擦った。
「ふぅん?覚えてないのか?君がまだこーーんなにも小さかった頃の話だったのだが」
そう言って杏寿郎さんが示したのは、米粒みたいな大きさ。
「なにそのお米一粒の小ささ!そこまで小さくありませんでしたよ!当時は六つです!!」
「そうだったな!あとあれは美味かったな!いや、俺は何を食べていたかなぁ?」
「えーと、焼きもろこしとお団子を食べてたのは覚えてるよ」
色んなものを私も杏寿郎さんも食べていたから碌に答えられない。かろうじて覚えているのが、焼きとうもろこしとお団子というだけであって。
「そうだな、十分に覚えているではないか」
「あ」
「箪笥の奥に取ってあるのだろう?目がそちらを向いたのを俺は見逃していない。
成長した今なら着れるはずだ。着て見せてくれ。俺はそのために今ここにいると言っても過言ではない!」
「やだよ着たくない」
あんな恥ずかしい格好、誰が好き好んで着るもんですか。まあ、杏寿郎さんともしも恋仲にでもなれたとして?それで杏寿郎さんが望むなら?着るのもやぶさかではない。
「俺が勝手に拝借してもいいが、その際朝緋の下穿きも拝借するやもしれん。いいか?」
「いいわけない!!」
パンツもらうぞってことだよね!?そんなのやだー!この時代の下着はあまりかわいくないのに!いや、そうじゃない!!
力の差は歴然。それを防ぐ手立ては考えつかないし、ここは大人しく差し出そう……。
「全くもう……はいどうぞ。これがその給仕の服です」
「おお、保存状態もいい……!」
杏寿郎さんが感嘆の声を出す通り虫喰いもなく、着ていないから当然だけど汗染みもない。糊も利いていてしわもなく綺麗だった。
そして改めて見るとすごくかわいい。私ではない、もっと可愛い子に着せたくなる感じ。
……禰󠄀豆子ちゃんあたり似合いそう。でも炭治郎が「丈が短いです!」と阻止してきそうだね。
杏寿郎さんが立ち上がり、外や廊下に繋がる障子戸をスパンと閉める。何事?と思った瞬間。
「ふんっ!どっせい!!」
「ぎゃー!?」
いきなり投げ飛ばされて、視界がぐるりと回った。畳に打ち付けられた背中。
痛い、だなんて考える暇はない。
杏寿郎さんは流れるような動きで私の隊服に手をかけると。
パーン!
「ぇっ」
隊服と中のシャツの釦が一気に弾け飛んだ。そのままあれよあれよの間にぐるんと回され、上を脱がせられる。
え、隊服って鬼の攻撃でもびくともしないはずじゃ……!
サラシを巻いた胸が見え放題である。さすがにサラシまで破ける事態にはなっていないようでそこは少し安心し……そういう問題じゃないでしょうに!!
「おお、朝緋は着痩せしているのだな!しなやかな筋肉がついた体に、なかなか豊満な胸部!うむ!素晴らしい絶景だ!!
まだ幼いとばかり思っていたが、よくよく成長している!食べ頃だ!!」
ぎゃわー!?隠せ隠せー!!傍に畳んであった自分の羽織を引き寄せ、体に巻き付ける。
「た、食べ頃っ!?いきなり何するんですか!!」
「何とは?こうすれば着てくれると思ってな。
ほら、ひらひらとしたその衣服を着た可愛い姿を俺に見せてくれ!」
「それより釦が弾けた隊服!どーしてくれんのよ!!」
「縫い付ければ良かろう?朝緋は縫い物が得意だ!」
「得意というより趣味なだけ!
縫い付けられるからって無理やり弾き飛ばして脱がせるだなんて乱暴すぎるよね!?父様に言いつけてやる!!」
さすがにこういうことされた!と泣き付けば槇寿朗さんも話を聞いてくれると思う。顔を合わせれば喧嘩ばかりの人だけど、なんだかんだで娘は可愛い!の人だもの。
「残念だったな朝緋!父上は今不在だ!」
ふははは、と腕を組んで高笑いする様は、どこの魔王状態。隊服も人質……ううん、もの質に取られているし、なんて強敵。
「俺の気持ちに応えてくれない君が悪い!」
「はあ……いいから私の隊服を返して。さっさと釦を縫い付けて着ますから」
「返さない」
おいおーい、隊服がないと任務に出られませんよ。
なかなか長期に渡った調査が終わったばかりだから、そうすぐには次の任務が来ることはないと思うけど……鬼殺隊は万年人手不足だからなあ。
「じゃあいいです、とりあえず今は箪笥の中の他の着物を着ま……、
ぎゃあ!?」
ズシャ、ずべっっ!!
足首掴まれて引きずり倒された!顔面強打!!
鬼からの攻撃より、こういうのが地味に一番痛い。
「ぁいった!痛すぎる!!師範がそうやって引き倒すからお鼻打ったーー!!うぉあ私の高いお鼻が潰れちゃったよ!ひどい!!」
「朝緋の鼻はそんなに高くない!」
「え、ひど」
「そして潰れてもいない!大丈夫だ!!」
起き上がるのを手伝ってくれた杏寿郎さんがずずいと渡してきたメイド服。渡すというより、ぐいぐい頬に押し付けてきてる……。
「あああもうわかりましたよ!着ます、着ればいいんでしょ!?」
「ああ、父上もかつて見たがっていたからな!父上がご帰宅なされたらあとで見せに行こう!!」
「今の父様に見せても何も反応ないと思いまーす!恥ずかしい思いするのやだよ!
……って、あっち向くか部屋から出てって!!」
着替えの間居座って眺める気満々の杏寿郎さんを、部屋の外に閉め出す。ものすごく不服そうにブーイングが飛んできたがまるっと無視。
どうせサラシ状態だからいいだろうって?駄目に決まってるでしょ。
メイド服を着た私への感想?とてもとても好評でした。スカートをぺらぺら捲ってくるのは御愛嬌。
杏寿郎さんが喜ぶなら、この一回くらいは目を瞑ろう。
けれどこの時の私は、杏寿郎さんが今後事あるごとにメイド服をご所望し、何度も何度も強引に着させられるとは思いもしなかった。
「いやしかし、今回は少しばかり疲れてしまった!」
「私も疲れてるんだから寄りかからないでよ」
全体重をかけるのやめて欲しい。重い!
「肉体的にではなく精神的にだ。知らぬ人間相手に気を遣ったのが大きかろう」
「へー、師範も気疲れとかするんだね。誰とでも分け隔てなく接してるし、社交的だからそういうのないと思ってた」
「失敬な!俺とて気疲れくらいする!
あああせめてこんな時に朝緋が癒してくれたらなぁあああ!」
「やだ」
押し返して普通に立たせ、歩かせる。べしべしべしと、その背を強く叩いて。
「イタ!?……はあ……朝緋は相変わらずいけずな子だ。
まあ、衣服も首元が締まりきつかったからだろう。慣れぬ物は着るべきじゃないな!」
「隊服も首回り詰まってるよね。詰襟だもの。
……私はスーツ姿の師範が見られて嬉しかったよ。とってもかっこよかった」
タイを結ぶ杏寿郎さんの仕草といったら。最初は慣れずにいたのに、二回目からは手際も良く完璧な結び目で色っぽくて……。私の心臓を止める気かと思ったもの。
「!?朝緋が喜ぶのなら頑張ってまた着るとしようかな……!」
「あ、無理して着なくていいです」
心臓が止まるので。
そういえば『今回』の幼少期にメイド服を買ってもらったっけ……。スーツの話で思い出しちゃった。
任務の時のメイド服とは違い、メイドカフェみたいな短さだけど今のこの体型なら着れる大きさだな〜。きっとサイズもぴったりだ。や、絶対着たくないけどね!!
ただでさえ隊服のスカートだって短いっていうのに、短すぎて下着が見えちゃう長さの衣装だなんて。見苦しいったらありゃしないよねえ。
煉獄家に辿り着き、自分の部屋の箪笥……。その奥底に眠るメイド服を思い出しながら自重気味な笑みを浮かべる。
ついでに『前』に着た、蜜璃からもらったカフェエプロンのことまで思い出してしまった。結果的に杏寿郎さんに破かれてしまったけれど、あれこそ穴があったら入りたい思い出だ。
なんてったって、自分から杏寿郎さんを誘うべく裸エプロンなるものを実践して悩殺アタック仕掛けたもんなぁ。
「俺の衣服はともかくとして」
わっ!杏寿郎さん貴方私の部屋にいたの!!あまりにも自然体すぎて気が付かなかった。
「あれはまだ持っているか?」
「あれ?」
「今回の任務で朝緋が来ていた衣服。あれによく似た衣装を持っていたろう。昔、祭りで父上が朝緋に買ったふりふりした洋装だ」
「!?」
ぎぇー!この人もほぼ同じタイミングで同じこと考えてたの?というか覚えていたの……?
本人でもないのに、記憶力よすぎじゃない?
「そっ、……そんなの知りませんねぇ……」
まずい、声が上擦った。
「ふぅん?覚えてないのか?君がまだこーーんなにも小さかった頃の話だったのだが」
そう言って杏寿郎さんが示したのは、米粒みたいな大きさ。
「なにそのお米一粒の小ささ!そこまで小さくありませんでしたよ!当時は六つです!!」
「そうだったな!あとあれは美味かったな!いや、俺は何を食べていたかなぁ?」
「えーと、焼きもろこしとお団子を食べてたのは覚えてるよ」
色んなものを私も杏寿郎さんも食べていたから碌に答えられない。かろうじて覚えているのが、焼きとうもろこしとお団子というだけであって。
「そうだな、十分に覚えているではないか」
「あ」
「箪笥の奥に取ってあるのだろう?目がそちらを向いたのを俺は見逃していない。
成長した今なら着れるはずだ。着て見せてくれ。俺はそのために今ここにいると言っても過言ではない!」
「やだよ着たくない」
あんな恥ずかしい格好、誰が好き好んで着るもんですか。まあ、杏寿郎さんともしも恋仲にでもなれたとして?それで杏寿郎さんが望むなら?着るのもやぶさかではない。
「俺が勝手に拝借してもいいが、その際朝緋の下穿きも拝借するやもしれん。いいか?」
「いいわけない!!」
パンツもらうぞってことだよね!?そんなのやだー!この時代の下着はあまりかわいくないのに!いや、そうじゃない!!
力の差は歴然。それを防ぐ手立ては考えつかないし、ここは大人しく差し出そう……。
「全くもう……はいどうぞ。これがその給仕の服です」
「おお、保存状態もいい……!」
杏寿郎さんが感嘆の声を出す通り虫喰いもなく、着ていないから当然だけど汗染みもない。糊も利いていてしわもなく綺麗だった。
そして改めて見るとすごくかわいい。私ではない、もっと可愛い子に着せたくなる感じ。
……禰󠄀豆子ちゃんあたり似合いそう。でも炭治郎が「丈が短いです!」と阻止してきそうだね。
杏寿郎さんが立ち上がり、外や廊下に繋がる障子戸をスパンと閉める。何事?と思った瞬間。
「ふんっ!どっせい!!」
「ぎゃー!?」
いきなり投げ飛ばされて、視界がぐるりと回った。畳に打ち付けられた背中。
痛い、だなんて考える暇はない。
杏寿郎さんは流れるような動きで私の隊服に手をかけると。
パーン!
「ぇっ」
隊服と中のシャツの釦が一気に弾け飛んだ。そのままあれよあれよの間にぐるんと回され、上を脱がせられる。
え、隊服って鬼の攻撃でもびくともしないはずじゃ……!
サラシを巻いた胸が見え放題である。さすがにサラシまで破ける事態にはなっていないようでそこは少し安心し……そういう問題じゃないでしょうに!!
「おお、朝緋は着痩せしているのだな!しなやかな筋肉がついた体に、なかなか豊満な胸部!うむ!素晴らしい絶景だ!!
まだ幼いとばかり思っていたが、よくよく成長している!食べ頃だ!!」
ぎゃわー!?隠せ隠せー!!傍に畳んであった自分の羽織を引き寄せ、体に巻き付ける。
「た、食べ頃っ!?いきなり何するんですか!!」
「何とは?こうすれば着てくれると思ってな。
ほら、ひらひらとしたその衣服を着た可愛い姿を俺に見せてくれ!」
「それより釦が弾けた隊服!どーしてくれんのよ!!」
「縫い付ければ良かろう?朝緋は縫い物が得意だ!」
「得意というより趣味なだけ!
縫い付けられるからって無理やり弾き飛ばして脱がせるだなんて乱暴すぎるよね!?父様に言いつけてやる!!」
さすがにこういうことされた!と泣き付けば槇寿朗さんも話を聞いてくれると思う。顔を合わせれば喧嘩ばかりの人だけど、なんだかんだで娘は可愛い!の人だもの。
「残念だったな朝緋!父上は今不在だ!」
ふははは、と腕を組んで高笑いする様は、どこの魔王状態。隊服も人質……ううん、もの質に取られているし、なんて強敵。
「俺の気持ちに応えてくれない君が悪い!」
「はあ……いいから私の隊服を返して。さっさと釦を縫い付けて着ますから」
「返さない」
おいおーい、隊服がないと任務に出られませんよ。
なかなか長期に渡った調査が終わったばかりだから、そうすぐには次の任務が来ることはないと思うけど……鬼殺隊は万年人手不足だからなあ。
「じゃあいいです、とりあえず今は箪笥の中の他の着物を着ま……、
ぎゃあ!?」
ズシャ、ずべっっ!!
足首掴まれて引きずり倒された!顔面強打!!
鬼からの攻撃より、こういうのが地味に一番痛い。
「ぁいった!痛すぎる!!師範がそうやって引き倒すからお鼻打ったーー!!うぉあ私の高いお鼻が潰れちゃったよ!ひどい!!」
「朝緋の鼻はそんなに高くない!」
「え、ひど」
「そして潰れてもいない!大丈夫だ!!」
起き上がるのを手伝ってくれた杏寿郎さんがずずいと渡してきたメイド服。渡すというより、ぐいぐい頬に押し付けてきてる……。
「あああもうわかりましたよ!着ます、着ればいいんでしょ!?」
「ああ、父上もかつて見たがっていたからな!父上がご帰宅なされたらあとで見せに行こう!!」
「今の父様に見せても何も反応ないと思いまーす!恥ずかしい思いするのやだよ!
……って、あっち向くか部屋から出てって!!」
着替えの間居座って眺める気満々の杏寿郎さんを、部屋の外に閉め出す。ものすごく不服そうにブーイングが飛んできたがまるっと無視。
どうせサラシ状態だからいいだろうって?駄目に決まってるでしょ。
メイド服を着た私への感想?とてもとても好評でした。スカートをぺらぺら捲ってくるのは御愛嬌。
杏寿郎さんが喜ぶなら、この一回くらいは目を瞑ろう。
けれどこの時の私は、杏寿郎さんが今後事あるごとにメイド服をご所望し、何度も何度も強引に着させられるとは思いもしなかった。