二周目 弐
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「久しぶりに帰ってみれば、この茶はどうした!朝緋の茶はこんなにも美味くないものだったか」
「すみません、僕が淹れました」
「せ、千寿郎!?」
私がいない時は、千寿郎がお茶を淹れる。
と言っても、最近教え始めたばかりだったので、まだまだ淹れ方は上手じゃない。
お茶には味も香りも温度も……全部大切だからね。
でもまさか、そのお茶をしばらくぶりに帰ってきた杏寿郎さんが飲むとは思わなかった。
「よもや、美味くないなどと……申し訳ない!」
「いいんです、本当の事だから。
まだ数回しか淹れた事がないので仕方ありません。次はもっと美味しく淹れますね」
「うむ……。
ところで朝緋はどうした?鍛錬しているわけではないな。卒業後にその先の学校に通っているとは聞いてもいない。買い物か?」
「姉上は床に伏せってらっしゃいます」
「なんと!?病いか!そんな事俺はひとつも……!文は?要に持たせなかったのか!?」
「あ、いえ、そもそも病いではなく……!兄上っ!?」
はあーー。杏寿郎さんって本当に声が大きい。私の部屋まで届いてきてるよ。この時代は襖も障子も壁も本当に薄すぎる。
これは、突撃してくるな……。
「朝緋っ!」
「開けるなら開けると言ってから開けてくださいよ。一応花も恥じらう乙女の、」
「朝緋は病気なのか!?」
聞けよおい。と思いつつ言葉は堪えた。鬼相手なら暴言も吐けるというものの、相手は杏寿郎さんだ。でもだめだ、どうにもイライラして仕方がない。
「病気ではありません。それより兄さん、いえ師範。貴方こそ怪我を負っているではありませんか」
「ああ!怪我を負ったので、療養のため帰った!」
久しぶりに帰ってきたのはそのためか。重症というほどではなさそうだけれど、次の任務を任せるにはちょっと難しそうなそれ。
「して、どうした?病いでないならなんだ。仮病でもあるまい」
私はそれになる時は、前日から気分も機嫌も下降する。始まってから五日間ほども同じで、体調も悪いしあまり動けないし藤の香りをふんだんに焚かなくてはいけなくなる。
それに食欲も低下する。
始まったのはちょうど、尋常小学校を卒業したばかりの頃だ。
『前』の時は、初めての時もその後も一度も遭遇しなかったから杏寿郎さんは知らないだろう。私も結構気をつけてた所はあるし。
別段誰かに言う話でもないし、ましてや瑠火さん以外はみんな男。ただ、千寿郎には話はしてある。だって、看病してくれてるのは彼だ。
うーん。なんて説明しよっかな。
「姉上、昼餉を作ってまいりました。入ります」
「あらありがとう千寿郎」
そう言って届けられたのは、ほかほかと湯気が立つ卵のお粥一杯分。
杏寿郎さんにお茶がまずい、なんて言われていたみたいだけど、千寿郎のお粥や料理はうまいんだい!
私の分なので食べさせてあげられないのが残念ではあるが、後でたーんと味わうがいい。
すぐに席を立った千寿郎を見送り、粥と私とを何度も見比べ、杏寿郎さんが信じられないものを見るような顔になる。
「粥がたった一杯!?どうした!いつももりもり食べる君らしくない!!」
「師範の食べる量よりは元々少ないはずですが……今はちょっと腹痛がありまして」
「腹痛!?母上も時折腹や胸が痛むと言っていた!大丈夫か!!」
「大丈夫ですよ。ほんと頼むから気にしないでください」
「いや気になる!!
それにわずかだが血の匂いがする。陽の光も浴びず、床の間に伏せる……。……よもや朝緋は鬼に……?」
腰に差したままの日輪刀に手が伸びる。えっちょっと待って?
というか、こんなちょっとの血の匂いもわかるとか、現役で凄惨な現場見たり鬼と戦っている人はいうことが違うなあ。鼻が慣れてるんだろうけど、慣れたくない嫌な現実。
「鬼じゃないんで。自分の血なんで。ほら、藤の花の匂いも焚いてるでしょう?鬼なら藤の花の匂いなんて手元に置きません」
「む、たしかに……」
「ご心配なく。明日にはある程度治ってます。ある程度ね。
それより師範こそ、きちんと療養しててください。怪我の療養でしょ」
ほらほら出てった。しっしっ。
あしらうようにしたけれど。
「理由を聞くまでは絶対に動かん!なんなのだ!なんの病いだ!」
うっそでしょおい。なんでそんな恥ずかしいことを教えなくちゃいけないんだ。いや、令和の時代よりは、抵抗なさそうだけど。
槇寿朗さんでさえ、慌てたのは一瞬ですぐ察したぞ。
体は冷やすな、藤の香りをたくさん焚きなさい。なーんて珍しく優しく言葉添えて。
なんとか説明し終えると「よもや……」と赤い顔をして部屋を出て行ってくれた。存在は知ってたわけだ。
ただそれでも、私のことが心配だからと、その期間が終わるまでは任務を休みにしていただいたらしい。
「此処最近ゆっくり休んでいなかった!ちょうどよい!」
とのこと。本人の怪我はすぐに治ったのにね。
でもその後に会った杏寿郎さんは、今度は重症患者として煉獄家に戻ってきた。
階級が上がった事で、その分難しい任務に回された矢先の出来事だった。
私が鬼殺隊に入った頃と違い、蝶屋敷はまだできたばかりのよう。軌道にも乗っておらず、隠の診療所じゃ心許なかったそうだ。何より、なんだか寂しく感じたとの事。
なので生家である煉獄家に身を寄せた、と。
顔を見せてくれるのは嬉しいし、私の稽古を見てもらえるのは嬉しい。
けれど怪我は見たくなかったな。
「全集中の呼吸・常中ができるようになっていたとは。感心感心」
腕を吊った杏寿郎さんが私の鍛錬の様子を見にきた。隊服ではなく着流しを着た彼は久しぶりで、かっこよくて。怪我さえなければもっと良いのにとため息を吐きたくなる。
「ええ、やっとできるようになりました。眠っている時も使えているようです」
「なら次の最終選別に参加するのか?」
次の選別……。その時を思うと、恐怖と期待に胸が震える。
「その予定です。師範同様にとうさまには内緒にしていこうと思います」
「朝緋の場合はそういうわけにはいかんだろう。だが、許可されないのは火を見るより明らか。女子で稀血……心配しているのだから当然だな」
ここでも性別や血の違いが足を引っ張る。私はこの血でよかったと思ったことがない。
「俺に任せろ。朝緋が出立してから、俺が父上に言っておく」
「いいのですか?師範が怒られるのでは」
「多分な!まあ気にするな、鬼よりは痛くないはずだ!」
殴られるのは確定なんだね。
「すみません、僕が淹れました」
「せ、千寿郎!?」
私がいない時は、千寿郎がお茶を淹れる。
と言っても、最近教え始めたばかりだったので、まだまだ淹れ方は上手じゃない。
お茶には味も香りも温度も……全部大切だからね。
でもまさか、そのお茶をしばらくぶりに帰ってきた杏寿郎さんが飲むとは思わなかった。
「よもや、美味くないなどと……申し訳ない!」
「いいんです、本当の事だから。
まだ数回しか淹れた事がないので仕方ありません。次はもっと美味しく淹れますね」
「うむ……。
ところで朝緋はどうした?鍛錬しているわけではないな。卒業後にその先の学校に通っているとは聞いてもいない。買い物か?」
「姉上は床に伏せってらっしゃいます」
「なんと!?病いか!そんな事俺はひとつも……!文は?要に持たせなかったのか!?」
「あ、いえ、そもそも病いではなく……!兄上っ!?」
はあーー。杏寿郎さんって本当に声が大きい。私の部屋まで届いてきてるよ。この時代は襖も障子も壁も本当に薄すぎる。
これは、突撃してくるな……。
「朝緋っ!」
「開けるなら開けると言ってから開けてくださいよ。一応花も恥じらう乙女の、」
「朝緋は病気なのか!?」
聞けよおい。と思いつつ言葉は堪えた。鬼相手なら暴言も吐けるというものの、相手は杏寿郎さんだ。でもだめだ、どうにもイライラして仕方がない。
「病気ではありません。それより兄さん、いえ師範。貴方こそ怪我を負っているではありませんか」
「ああ!怪我を負ったので、療養のため帰った!」
久しぶりに帰ってきたのはそのためか。重症というほどではなさそうだけれど、次の任務を任せるにはちょっと難しそうなそれ。
「して、どうした?病いでないならなんだ。仮病でもあるまい」
私はそれになる時は、前日から気分も機嫌も下降する。始まってから五日間ほども同じで、体調も悪いしあまり動けないし藤の香りをふんだんに焚かなくてはいけなくなる。
それに食欲も低下する。
始まったのはちょうど、尋常小学校を卒業したばかりの頃だ。
『前』の時は、初めての時もその後も一度も遭遇しなかったから杏寿郎さんは知らないだろう。私も結構気をつけてた所はあるし。
別段誰かに言う話でもないし、ましてや瑠火さん以外はみんな男。ただ、千寿郎には話はしてある。だって、看病してくれてるのは彼だ。
うーん。なんて説明しよっかな。
「姉上、昼餉を作ってまいりました。入ります」
「あらありがとう千寿郎」
そう言って届けられたのは、ほかほかと湯気が立つ卵のお粥一杯分。
杏寿郎さんにお茶がまずい、なんて言われていたみたいだけど、千寿郎のお粥や料理はうまいんだい!
私の分なので食べさせてあげられないのが残念ではあるが、後でたーんと味わうがいい。
すぐに席を立った千寿郎を見送り、粥と私とを何度も見比べ、杏寿郎さんが信じられないものを見るような顔になる。
「粥がたった一杯!?どうした!いつももりもり食べる君らしくない!!」
「師範の食べる量よりは元々少ないはずですが……今はちょっと腹痛がありまして」
「腹痛!?母上も時折腹や胸が痛むと言っていた!大丈夫か!!」
「大丈夫ですよ。ほんと頼むから気にしないでください」
「いや気になる!!
それにわずかだが血の匂いがする。陽の光も浴びず、床の間に伏せる……。……よもや朝緋は鬼に……?」
腰に差したままの日輪刀に手が伸びる。えっちょっと待って?
というか、こんなちょっとの血の匂いもわかるとか、現役で凄惨な現場見たり鬼と戦っている人はいうことが違うなあ。鼻が慣れてるんだろうけど、慣れたくない嫌な現実。
「鬼じゃないんで。自分の血なんで。ほら、藤の花の匂いも焚いてるでしょう?鬼なら藤の花の匂いなんて手元に置きません」
「む、たしかに……」
「ご心配なく。明日にはある程度治ってます。ある程度ね。
それより師範こそ、きちんと療養しててください。怪我の療養でしょ」
ほらほら出てった。しっしっ。
あしらうようにしたけれど。
「理由を聞くまでは絶対に動かん!なんなのだ!なんの病いだ!」
うっそでしょおい。なんでそんな恥ずかしいことを教えなくちゃいけないんだ。いや、令和の時代よりは、抵抗なさそうだけど。
槇寿朗さんでさえ、慌てたのは一瞬ですぐ察したぞ。
体は冷やすな、藤の香りをたくさん焚きなさい。なーんて珍しく優しく言葉添えて。
なんとか説明し終えると「よもや……」と赤い顔をして部屋を出て行ってくれた。存在は知ってたわけだ。
ただそれでも、私のことが心配だからと、その期間が終わるまでは任務を休みにしていただいたらしい。
「此処最近ゆっくり休んでいなかった!ちょうどよい!」
とのこと。本人の怪我はすぐに治ったのにね。
でもその後に会った杏寿郎さんは、今度は重症患者として煉獄家に戻ってきた。
階級が上がった事で、その分難しい任務に回された矢先の出来事だった。
私が鬼殺隊に入った頃と違い、蝶屋敷はまだできたばかりのよう。軌道にも乗っておらず、隠の診療所じゃ心許なかったそうだ。何より、なんだか寂しく感じたとの事。
なので生家である煉獄家に身を寄せた、と。
顔を見せてくれるのは嬉しいし、私の稽古を見てもらえるのは嬉しい。
けれど怪我は見たくなかったな。
「全集中の呼吸・常中ができるようになっていたとは。感心感心」
腕を吊った杏寿郎さんが私の鍛錬の様子を見にきた。隊服ではなく着流しを着た彼は久しぶりで、かっこよくて。怪我さえなければもっと良いのにとため息を吐きたくなる。
「ええ、やっとできるようになりました。眠っている時も使えているようです」
「なら次の最終選別に参加するのか?」
次の選別……。その時を思うと、恐怖と期待に胸が震える。
「その予定です。師範同様にとうさまには内緒にしていこうと思います」
「朝緋の場合はそういうわけにはいかんだろう。だが、許可されないのは火を見るより明らか。女子で稀血……心配しているのだから当然だな」
ここでも性別や血の違いが足を引っ張る。私はこの血でよかったと思ったことがない。
「俺に任せろ。朝緋が出立してから、俺が父上に言っておく」
「いいのですか?師範が怒られるのでは」
「多分な!まあ気にするな、鬼よりは痛くないはずだ!」
殴られるのは確定なんだね。