一周目 壱
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「ここに座るといい」
とんとん、煉獄さんが自分の隣、空いた座席に誘導してくれている。
「お話ですか?なら私は他の座席に移りますね」
俺が座りやすいようにだろう。朝緋さんが立ち上がり、通路側へとスッと退いてくれた。
「いや、君はここにいろ。他が空いていても君の席はここだ。聞かれて困る会話など何もない」
「え、でもちょっと狭くもなりますし、私は席を外した方が」
「ここにいろ」
「アッハイ」
退いた瞬間に羽織を掴まれた朝緋さんは、煉獄さんと押し問答している。
結局、朝緋さんは座席に逆戻りした。
朝緋さんは給仕がわりにと、お茶を煉獄さんと、俺にも差し出してきた。
列車では駅弁を購入すると土瓶ごと茶が配られるらしい。煉獄さんは駅弁を大量に購入したからか、お茶の量も多かった。
おかげで、朝緋さんから受け取ったお茶はまだほかほかと温かかった。
無言で受け取る煉獄さんと朝緋さんは、何も言わずとも通じているようで、まるで夫婦みたいで。
さっきの、煉獄さんからした焼け焦げたような匂いからも、二人が柱とその継子という関係以上に仲がいいのだとよくわかる。
ちょっと羨ましいな。
「君達はどうしてここにいる。任務か?」
「鎹烏からの伝達で、無限列車の被害が拡大した。現地にいる煉獄さんと合流するようにと命じられました」
「うむ!そういうことか!承知した!!」
「はい!!」
「なんだ。やっぱり追加の隊員だったんですね。よろしくね」
「は、はい!!」
にこりと笑った朝緋さんは、お話はそれまでと、文庫本を懐から取り出して読み始めた。
煉獄さんと思う存分に会話せよ、ということらしい。
俺は俺の本題に入ることにした。
「それともうひとつ。
煉獄さんに聞きたいことがあって」
「何だ?言ってみろ」
「俺の父のことですが」
「君の父がどうした?」
「病弱だったんですけど」
「病弱か!」
ちゃんと聞いてくれているのは感じるが、山彦のように繰り返される言葉は不安になる。
それに語尾が少しずつ強くなっていっている気がする。
「それでも、肺が凍るような雪の中で神楽を踊れて……」
「それはよかった!」
「その!」
「何だ!」
なんだか緊張してきた。やはり語尾は強くなっているし。
どんどん語尾が強くなるのは、もしや煉獄さんにつられている……?
「ヒノカミ神楽 円舞。
咄嗟に出たのが!子供の頃に見た神楽でした。もし煉獄さんが知っている何かがあれば、教えてもらいたいと思って……」
どんどん声が大きくなってきてうるさかったのだろう、朝緋さんから「声が大きい」。
そう思われている匂いを感じた。
あー。やっぱりうるさかったよな。
気づいた時には遅く、俺は心の中でごめんなさいと朝緋さんに謝った。
「うむ!だが知らん!!」
「えっ」
しばしの無音ののち、煉獄さんがきっぱりと言い切った。
「ヒノカミ神楽という言葉も初耳だ。
君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいが。
この話はこれでおしまいだな!」
清々しいほど綺麗に言い切られてしまった!
「あの、ちょっと、もう少し……!?」
もう少し考えて答えてくれてもいいのではないでしょうか。と、言おうとしたが。
「俺の継子になるといい!!面倒を見てやろう!!」
「待ってください!!そしてどこを見ているんですか!!」
「目の前だな!!」
逆にそう言われて話が終わってしまった。
って、目の前っていうと、朝緋さん見てる!?
「煩いですよ、師範」
「む!すまん!!」
「もう少しちゃんと考えてから教えてあげたらいいのに」
文庫本を仕舞い、眉間をぐりぐりと解しながら朝緋さんがため息を吐いた。なんだかんだで、朝緋さんも俺の話を聞いてくれていたようだ。
「考えた結果、俺の継子になるのが一番と判断した!!」
「判断が早いのはいいですが、答えを早く出しすぎなんですって。竈門君は師範が考えてくれた過程が知りたかったはず」
「それを知るにも継子としてともに鍛錬だ!!」
「あっこれもうだめだ。ごめんね竈門君」
「いえ……」
「こほん。ここはひとつ、呼吸についての話をしよう」
「は、はい!」
「炎の呼吸は歴史が古い。
炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた」
流れを変えるようにされた話。そういえば、呼吸のことはあまり知らなかったな。
「炎、水、風、岩、雷が基本の呼吸だ。
他の呼吸は、それらから枝分かれして出来たもの。
霞は風から派生している」
「炎の呼吸からは、恋の呼吸も派生しているんだよ」
朝緋さんが懐紙に万年筆で各呼吸をわかりやすく絵にして渡してくれた。
花や蟲も派生なのか……。
「溝口少年!君の刀は何色だ」
「えっ俺は竈門ですよ」
「師範は人の名前を覚えるのがちょっとだけ下手なの。
師範、溝口くんじゃなくて、竈門くんです。か、ま、ど!」
「よもやっ!?」
続けて。そう言われている気がして、自分の刀の色を思い出す。
黒刀に変わった時は刀匠の鋼鐵塚さんに散々暴言を吐かれ、刀を折ってしまった時には包丁を持って追い回されたっけ。
ひょっとこの面をかぶっていたのに、その形相は鬼より鬼だった。もう折らないようにしないと……。
薄ら寒い思いをしながら、自身の刀の色を語る。
「刀の色は黒です」
「黒刀か!それはきついな!ハハハハハハッ」
「きついんですかね……」
「黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない。さらにどの系統を極めればいいのかもわからないと聞く。
俺のところで鍛えてあげよう!もう安心だ!!」
「いや、いや!そしてどこを見てるんですか!」
目を合わせないのは彼なりの気遣いでもあるんだよ、とこっそり朝緋さんが耳打ちしてくれた。確かに眼力は強いけど怖がるほどのものじゃないのに。
というか、朝緋さんの事を見ているだけじゃなかったのか。
「じゃあ竈門君は、初の黒刀を持つ柱を目指せばいいんじゃない?
どの系統を極めればいいかわからないなら、合いそうな呼吸の習得にどんどん挑戦してみるといいよ。なんならこの任務が終わったあとのお休みに、竈門君が使える呼吸と私の炎の呼吸で打ち稽古しよっか。少しくらい竈門君の糧になるかもしれないよ」
「えっ!いいんですか……?」
柱やその継子は忙しいのではなかろうか。なのに貴重な休みに稽古をつけてくれるって……。
正直、嬉しさしかない。
「うむ!それはいい考えだ!
朝緋と打ち合うならなおさら俺のところに来て鍛えろ!他の隊士も連れて来るといい、俺も加勢する!全員対朝緋だな!!」
「ええー!なんで全員対竈門君じゃなくて全員対私なんです!?
他の隊士に師範まで竈門君に加勢したら、私負けちゃうじゃないですか!」
「それくらいで根を上げてどうする!群れる鬼が今後出ないとも限らない!複数の鬼との戦闘を意識した訓練だ!もっと励め!!」
「そんな御無体な〜!」
ふう、少し変わってるけど、二人とも面倒見はいい人達だな。
煉獄さんは匂いからも正義感の強さを感じるし、朝緋さんからも同じような匂いや優しさを感じた。
とんとん、煉獄さんが自分の隣、空いた座席に誘導してくれている。
「お話ですか?なら私は他の座席に移りますね」
俺が座りやすいようにだろう。朝緋さんが立ち上がり、通路側へとスッと退いてくれた。
「いや、君はここにいろ。他が空いていても君の席はここだ。聞かれて困る会話など何もない」
「え、でもちょっと狭くもなりますし、私は席を外した方が」
「ここにいろ」
「アッハイ」
退いた瞬間に羽織を掴まれた朝緋さんは、煉獄さんと押し問答している。
結局、朝緋さんは座席に逆戻りした。
朝緋さんは給仕がわりにと、お茶を煉獄さんと、俺にも差し出してきた。
列車では駅弁を購入すると土瓶ごと茶が配られるらしい。煉獄さんは駅弁を大量に購入したからか、お茶の量も多かった。
おかげで、朝緋さんから受け取ったお茶はまだほかほかと温かかった。
無言で受け取る煉獄さんと朝緋さんは、何も言わずとも通じているようで、まるで夫婦みたいで。
さっきの、煉獄さんからした焼け焦げたような匂いからも、二人が柱とその継子という関係以上に仲がいいのだとよくわかる。
ちょっと羨ましいな。
「君達はどうしてここにいる。任務か?」
「鎹烏からの伝達で、無限列車の被害が拡大した。現地にいる煉獄さんと合流するようにと命じられました」
「うむ!そういうことか!承知した!!」
「はい!!」
「なんだ。やっぱり追加の隊員だったんですね。よろしくね」
「は、はい!!」
にこりと笑った朝緋さんは、お話はそれまでと、文庫本を懐から取り出して読み始めた。
煉獄さんと思う存分に会話せよ、ということらしい。
俺は俺の本題に入ることにした。
「それともうひとつ。
煉獄さんに聞きたいことがあって」
「何だ?言ってみろ」
「俺の父のことですが」
「君の父がどうした?」
「病弱だったんですけど」
「病弱か!」
ちゃんと聞いてくれているのは感じるが、山彦のように繰り返される言葉は不安になる。
それに語尾が少しずつ強くなっていっている気がする。
「それでも、肺が凍るような雪の中で神楽を踊れて……」
「それはよかった!」
「その!」
「何だ!」
なんだか緊張してきた。やはり語尾は強くなっているし。
どんどん語尾が強くなるのは、もしや煉獄さんにつられている……?
「ヒノカミ神楽 円舞。
咄嗟に出たのが!子供の頃に見た神楽でした。もし煉獄さんが知っている何かがあれば、教えてもらいたいと思って……」
どんどん声が大きくなってきてうるさかったのだろう、朝緋さんから「声が大きい」。
そう思われている匂いを感じた。
あー。やっぱりうるさかったよな。
気づいた時には遅く、俺は心の中でごめんなさいと朝緋さんに謝った。
「うむ!だが知らん!!」
「えっ」
しばしの無音ののち、煉獄さんがきっぱりと言い切った。
「ヒノカミ神楽という言葉も初耳だ。
君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいが。
この話はこれでおしまいだな!」
清々しいほど綺麗に言い切られてしまった!
「あの、ちょっと、もう少し……!?」
もう少し考えて答えてくれてもいいのではないでしょうか。と、言おうとしたが。
「俺の継子になるといい!!面倒を見てやろう!!」
「待ってください!!そしてどこを見ているんですか!!」
「目の前だな!!」
逆にそう言われて話が終わってしまった。
って、目の前っていうと、朝緋さん見てる!?
「煩いですよ、師範」
「む!すまん!!」
「もう少しちゃんと考えてから教えてあげたらいいのに」
文庫本を仕舞い、眉間をぐりぐりと解しながら朝緋さんがため息を吐いた。なんだかんだで、朝緋さんも俺の話を聞いてくれていたようだ。
「考えた結果、俺の継子になるのが一番と判断した!!」
「判断が早いのはいいですが、答えを早く出しすぎなんですって。竈門君は師範が考えてくれた過程が知りたかったはず」
「それを知るにも継子としてともに鍛錬だ!!」
「あっこれもうだめだ。ごめんね竈門君」
「いえ……」
「こほん。ここはひとつ、呼吸についての話をしよう」
「は、はい!」
「炎の呼吸は歴史が古い。
炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた」
流れを変えるようにされた話。そういえば、呼吸のことはあまり知らなかったな。
「炎、水、風、岩、雷が基本の呼吸だ。
他の呼吸は、それらから枝分かれして出来たもの。
霞は風から派生している」
「炎の呼吸からは、恋の呼吸も派生しているんだよ」
朝緋さんが懐紙に万年筆で各呼吸をわかりやすく絵にして渡してくれた。
花や蟲も派生なのか……。
「溝口少年!君の刀は何色だ」
「えっ俺は竈門ですよ」
「師範は人の名前を覚えるのがちょっとだけ下手なの。
師範、溝口くんじゃなくて、竈門くんです。か、ま、ど!」
「よもやっ!?」
続けて。そう言われている気がして、自分の刀の色を思い出す。
黒刀に変わった時は刀匠の鋼鐵塚さんに散々暴言を吐かれ、刀を折ってしまった時には包丁を持って追い回されたっけ。
ひょっとこの面をかぶっていたのに、その形相は鬼より鬼だった。もう折らないようにしないと……。
薄ら寒い思いをしながら、自身の刀の色を語る。
「刀の色は黒です」
「黒刀か!それはきついな!ハハハハハハッ」
「きついんですかね……」
「黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない。さらにどの系統を極めればいいのかもわからないと聞く。
俺のところで鍛えてあげよう!もう安心だ!!」
「いや、いや!そしてどこを見てるんですか!」
目を合わせないのは彼なりの気遣いでもあるんだよ、とこっそり朝緋さんが耳打ちしてくれた。確かに眼力は強いけど怖がるほどのものじゃないのに。
というか、朝緋さんの事を見ているだけじゃなかったのか。
「じゃあ竈門君は、初の黒刀を持つ柱を目指せばいいんじゃない?
どの系統を極めればいいかわからないなら、合いそうな呼吸の習得にどんどん挑戦してみるといいよ。なんならこの任務が終わったあとのお休みに、竈門君が使える呼吸と私の炎の呼吸で打ち稽古しよっか。少しくらい竈門君の糧になるかもしれないよ」
「えっ!いいんですか……?」
柱やその継子は忙しいのではなかろうか。なのに貴重な休みに稽古をつけてくれるって……。
正直、嬉しさしかない。
「うむ!それはいい考えだ!
朝緋と打ち合うならなおさら俺のところに来て鍛えろ!他の隊士も連れて来るといい、俺も加勢する!全員対朝緋だな!!」
「ええー!なんで全員対竈門君じゃなくて全員対私なんです!?
他の隊士に師範まで竈門君に加勢したら、私負けちゃうじゃないですか!」
「それくらいで根を上げてどうする!群れる鬼が今後出ないとも限らない!複数の鬼との戦闘を意識した訓練だ!もっと励め!!」
「そんな御無体な〜!」
ふう、少し変わってるけど、二人とも面倒見はいい人達だな。
煉獄さんは匂いからも正義感の強さを感じるし、朝緋さんからも同じような匂いや優しさを感じた。