五周目 弐
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その時はすぐにやってきた。
主人がどこぞから買って連れてきた女性や子供とは違うものの、私は「消えても問題のない女中」として雇われた形を取っている。杏寿郎さんも同じ雇用形態だけど、彼は男性だから消すのは難しいと考えたんだろうね。
主人の部屋に呼ばれお茶をいただいた。んー、眠り薬の美味しい味がするね。でも残念、こんなもので倒れるような私じゃない。……けれど頃合いを見て気を失ったふりでその場に倒れ込む。
運ばれた先は、やはりあの地下だった。
私の勘は鋭い。
臭いが酷すぎる。目をそっと開けてみれば、そこに広がるのは夥しい血。食い散らかした人間の亡骸、肉、骨。そして少年少女、女性もののビリビリに破れた血濡れ服。
こんな光景は久しぶりに見た。うぇ、吐きそう……。
炎の赤は好きだけど、血の赤は好きじゃないんだよね。どうやっても血に濡れた杏寿郎さんの姿を思い出しちゃうし。
で、部屋の中央に居座るのが鬼か。
まるで肉塊、汚泥色のスライムの塊だ。
でろでろの巨体の中、大きな口と目玉だけがぽこんと嵌め込まれたようにお目見えしている。口が動く。くちゃくちゃ、ゴリゴリ、ぺっ!人を喰らい、咀嚼し、要らない部分を吐き出している……。
そして突き出た手のひらからじゃらじゃらと金の砂粒?砂金かな?キラキラしたものが放出されていた。
主人がそれに群がり、嬉々として回収している。
あー、なるほどね。お金になるようなものを生み出す鬼か。そりゃ一部の人間には大人気だわ。でも鬼は鬼、そしてそれに協力する人間も鬼と同じ。
こうして、罪なき人々を鬼に献上し、己の私利私欲に利用しているのだから。
「鬼との取引現場確認、現行犯で逮捕する!なんちゃって」
抜いた刀を一瞬で突きつけ、主人の後ろを取る。うわ、鬼の目がこっち向いた。口もモゴモゴ動いて言葉を放ってくる。気持ち悪いなぁ……。
「なっ、貴様起きていたのか!!」
「その刀、鬼狩りかあ。女の鬼狩り、美味そうだ……」
随分と動きの悪い鬼だ。これならちょっとくらいおしゃべりしてても平気そう。
「悪いけどあんなので気を失う私じゃありませんので」
私を縛り上げなかったのが運の尽き。まあ縛られたとしてもそんじょそこらの縄じゃ簡単に引き千切っちゃうんだけどもね。私達は呼吸法で肉体が強化されている!むん!
ただし下弦の壱・魘夢の縄で縛られた場合は引き千切らず、教わった縄抜けの方法で抜け出さねばならない。
「主人、尻尾を出したな?」
「あ、師範。来たんだね」
私に引き続き、杏寿郎さんが入ってきた。あーあ、主人さんたら、鍵閉めなかったのね。
「そりゃあ、君の一大事だからな!」
「えー、私一人でもどうにかできるのに」
「気を失った朝緋が連れて行かれるのを見たぞ。何か変なことされてはたまらんからな」
「寝たふりだよ、寝たふり。変なことしてくるのって師範だけだと思う」
「むぅ、失礼な」
のんびりと私達のペースで会話していれば、主人と鬼が割り込んできた。
「お前……そうか、お前ら二人とも共犯者だったのか!」
「鬼狩りが二人……喰えばかなりの力になる……喰いたい、喰わせろ……」
鬼の方は肉食べたい、食べたいとそればかりだ。スライム状の大きな肉塊ボディは、燃費悪そうだものね。
「んまー、共犯者だなんて人聞きの悪い言い方!悪者はそっちなのにねー?」
「なー?」
顔を見合わせて頷き合う。
「ぐぬぅ……」
悔しそうに唸る主人。
「はぁ……ただの人身売買だと思っていたけれど、やっぱり鬼が潜んでいたんだね。しかも主人が鬼と結託してただなんて。人間の闇と薄汚い欲の部分を久しぶりに見た気分だよ。気分悪い」
「ああ、その通りだな。こういった人身売買にも似た光景は久しぶりに見る!気持ちの良いものではない!!」
お互い『久しぶり』だなんて言ってしまっている。何回目か『前』のこの人生のやり直しの際にも、結果的に人身売買だった調査任務があった。それのことを言っているのだけど、言葉を振り返る余裕はない。
今は目の前のこの鬼を退治する、主人は捕縛する。それが先だ。
「欲に目が眩んで何が悪い!!」
主人が怒りながら鬼を前に繰り出すように声を上げた。
「やってください!砂金鬼!!」
「ブフォア!砂金鬼だって、そのまんまじゃんプププ」
ネーミングセンスなさすぎでしょ。吹き出してしまったではないか。
その後、空気を震わす雄叫びを上げた鬼が、口から緑色の液体を飛ばしてきた。
わっ!溶解液かな?なんでも溶かすっていう、あれ。
動きが遅すぎるし、主人が自分で攻撃してきた方が早いと思う。人を襲ったり脅したりするのなら、包丁やらナイフくらいあるでしょうに。
付着した床をじゅわじゅわ溶かすそれをかわしながら、鬼への攻撃のタイミングを探る。
横では、逃げようとした主人を杏寿郎さんがとっ捕まえていた。
「朝緋、今の俺の手元には日輪刀がない。取りに行く時間もない。俺は主人を捕縛しておくから君が鬼を倒せ」
「わかりました」
離せ離せと暴れる主人を動けないよう捕まえ、鬼の処理を私に丸投げてよこす杏寿郎さん。
動きは鈍いし私が倒すのはいい。
けどこの鬼は一体どこに頸があるの?それが知りたい。だってスライムじゃん。半分溶けたみたいな肉塊じゃん。頸なんて影も形もないよね?
……いや待て、杏寿郎さんはかつて炭治郎にこう言っていた。
『どのような形になろうとも鬼である限り急所 はある』と。
わからないなら、全部まるごと叩きのめせばいい。そうだよ、おあつらえ向きに今握っている日輪刀は炎以外の他の呼吸も扱える代物。
「水の呼吸、肆ノ……雷の呼吸、弐ノ型・稲魂!!」
水の呼吸、肆ノ型では足りない。もっと激しく、広範囲を刻む技で!
そう思った私は、雷があちこちに及ぶような範囲の広い型を使い、鬼の頸斬りに挑む。
これでどこに頸があろうと刻める……!!
「ギャッ!!」
「!」
思った通りだ。どろり、スライムの一部が崩れ落ち、頸の骨のようなものが露出された。
ふーん、魘夢と同じような状態で隠していたわけね。
あとは簡単。型なんかではない、ただの刃の振り下ろしで頸をスパンと落として悪鬼滅殺した。
「あ、ぁぁ、そんな……私の金ヅルが……」
「諦めろ。そして貴方は今までの罪を償うんだ」
刀を鞘に収め、鬼の残骸が消えていくのを見届けながら杏寿郎さんの声を聞く。
そこには憎しみも同情も乗っていない。
でも鬼のような心を持つ人間がいることに、侮蔑の念を抱いているように見えてしまった。
隠により連行されていく主人を眺めてほっと一息。
「あー、終わったー」
「お疲れ様、朝緋」
「師範もお疲れ様ー」
まあ、隠の皆さんはこれからが仕事だろうけど。
地下の血みどろな殺戮現場の処理、ホントお疲れ様です……私ですら吐きそうになったあれの事後処理を嫌な顔ひとつせず行うだなんて、隠の皆さんには頭が上がらない。
「んー、一応上流階級の一族だけど、こんなことをしてたんじゃもうお終いだねぇ」
「ああ、このあとは警察の方々に任せることになるからな。最後は監獄行きだろうし、二度と悪さはできんよ」
この時代の監獄かあ。体罰が凄そうだし獄中死もあり得そうで怖い。
「そういえば、朝緋は水の呼吸だけでなく雷の呼吸も使うのだな。美しい剣捌きと見応えある技だった」
「威力は本家本元の雷の呼吸使いの隊士には到底及びませんけどね」
しかも、まだ弐ノ型参ノ型しか覚えてないという……だって、獪岳がまだ二つしか教えてくれないんだもの。
主人がどこぞから買って連れてきた女性や子供とは違うものの、私は「消えても問題のない女中」として雇われた形を取っている。杏寿郎さんも同じ雇用形態だけど、彼は男性だから消すのは難しいと考えたんだろうね。
主人の部屋に呼ばれお茶をいただいた。んー、眠り薬の美味しい味がするね。でも残念、こんなもので倒れるような私じゃない。……けれど頃合いを見て気を失ったふりでその場に倒れ込む。
運ばれた先は、やはりあの地下だった。
私の勘は鋭い。
臭いが酷すぎる。目をそっと開けてみれば、そこに広がるのは夥しい血。食い散らかした人間の亡骸、肉、骨。そして少年少女、女性もののビリビリに破れた血濡れ服。
こんな光景は久しぶりに見た。うぇ、吐きそう……。
炎の赤は好きだけど、血の赤は好きじゃないんだよね。どうやっても血に濡れた杏寿郎さんの姿を思い出しちゃうし。
で、部屋の中央に居座るのが鬼か。
まるで肉塊、汚泥色のスライムの塊だ。
でろでろの巨体の中、大きな口と目玉だけがぽこんと嵌め込まれたようにお目見えしている。口が動く。くちゃくちゃ、ゴリゴリ、ぺっ!人を喰らい、咀嚼し、要らない部分を吐き出している……。
そして突き出た手のひらからじゃらじゃらと金の砂粒?砂金かな?キラキラしたものが放出されていた。
主人がそれに群がり、嬉々として回収している。
あー、なるほどね。お金になるようなものを生み出す鬼か。そりゃ一部の人間には大人気だわ。でも鬼は鬼、そしてそれに協力する人間も鬼と同じ。
こうして、罪なき人々を鬼に献上し、己の私利私欲に利用しているのだから。
「鬼との取引現場確認、現行犯で逮捕する!なんちゃって」
抜いた刀を一瞬で突きつけ、主人の後ろを取る。うわ、鬼の目がこっち向いた。口もモゴモゴ動いて言葉を放ってくる。気持ち悪いなぁ……。
「なっ、貴様起きていたのか!!」
「その刀、鬼狩りかあ。女の鬼狩り、美味そうだ……」
随分と動きの悪い鬼だ。これならちょっとくらいおしゃべりしてても平気そう。
「悪いけどあんなので気を失う私じゃありませんので」
私を縛り上げなかったのが運の尽き。まあ縛られたとしてもそんじょそこらの縄じゃ簡単に引き千切っちゃうんだけどもね。私達は呼吸法で肉体が強化されている!むん!
ただし下弦の壱・魘夢の縄で縛られた場合は引き千切らず、教わった縄抜けの方法で抜け出さねばならない。
「主人、尻尾を出したな?」
「あ、師範。来たんだね」
私に引き続き、杏寿郎さんが入ってきた。あーあ、主人さんたら、鍵閉めなかったのね。
「そりゃあ、君の一大事だからな!」
「えー、私一人でもどうにかできるのに」
「気を失った朝緋が連れて行かれるのを見たぞ。何か変なことされてはたまらんからな」
「寝たふりだよ、寝たふり。変なことしてくるのって師範だけだと思う」
「むぅ、失礼な」
のんびりと私達のペースで会話していれば、主人と鬼が割り込んできた。
「お前……そうか、お前ら二人とも共犯者だったのか!」
「鬼狩りが二人……喰えばかなりの力になる……喰いたい、喰わせろ……」
鬼の方は肉食べたい、食べたいとそればかりだ。スライム状の大きな肉塊ボディは、燃費悪そうだものね。
「んまー、共犯者だなんて人聞きの悪い言い方!悪者はそっちなのにねー?」
「なー?」
顔を見合わせて頷き合う。
「ぐぬぅ……」
悔しそうに唸る主人。
「はぁ……ただの人身売買だと思っていたけれど、やっぱり鬼が潜んでいたんだね。しかも主人が鬼と結託してただなんて。人間の闇と薄汚い欲の部分を久しぶりに見た気分だよ。気分悪い」
「ああ、その通りだな。こういった人身売買にも似た光景は久しぶりに見る!気持ちの良いものではない!!」
お互い『久しぶり』だなんて言ってしまっている。何回目か『前』のこの人生のやり直しの際にも、結果的に人身売買だった調査任務があった。それのことを言っているのだけど、言葉を振り返る余裕はない。
今は目の前のこの鬼を退治する、主人は捕縛する。それが先だ。
「欲に目が眩んで何が悪い!!」
主人が怒りながら鬼を前に繰り出すように声を上げた。
「やってください!砂金鬼!!」
「ブフォア!砂金鬼だって、そのまんまじゃんプププ」
ネーミングセンスなさすぎでしょ。吹き出してしまったではないか。
その後、空気を震わす雄叫びを上げた鬼が、口から緑色の液体を飛ばしてきた。
わっ!溶解液かな?なんでも溶かすっていう、あれ。
動きが遅すぎるし、主人が自分で攻撃してきた方が早いと思う。人を襲ったり脅したりするのなら、包丁やらナイフくらいあるでしょうに。
付着した床をじゅわじゅわ溶かすそれをかわしながら、鬼への攻撃のタイミングを探る。
横では、逃げようとした主人を杏寿郎さんがとっ捕まえていた。
「朝緋、今の俺の手元には日輪刀がない。取りに行く時間もない。俺は主人を捕縛しておくから君が鬼を倒せ」
「わかりました」
離せ離せと暴れる主人を動けないよう捕まえ、鬼の処理を私に丸投げてよこす杏寿郎さん。
動きは鈍いし私が倒すのはいい。
けどこの鬼は一体どこに頸があるの?それが知りたい。だってスライムじゃん。半分溶けたみたいな肉塊じゃん。頸なんて影も形もないよね?
……いや待て、杏寿郎さんはかつて炭治郎にこう言っていた。
『どのような形になろうとも鬼である限り
わからないなら、全部まるごと叩きのめせばいい。そうだよ、おあつらえ向きに今握っている日輪刀は炎以外の他の呼吸も扱える代物。
「水の呼吸、肆ノ……雷の呼吸、弐ノ型・稲魂!!」
水の呼吸、肆ノ型では足りない。もっと激しく、広範囲を刻む技で!
そう思った私は、雷があちこちに及ぶような範囲の広い型を使い、鬼の頸斬りに挑む。
これでどこに頸があろうと刻める……!!
「ギャッ!!」
「!」
思った通りだ。どろり、スライムの一部が崩れ落ち、頸の骨のようなものが露出された。
ふーん、魘夢と同じような状態で隠していたわけね。
あとは簡単。型なんかではない、ただの刃の振り下ろしで頸をスパンと落として悪鬼滅殺した。
「あ、ぁぁ、そんな……私の金ヅルが……」
「諦めろ。そして貴方は今までの罪を償うんだ」
刀を鞘に収め、鬼の残骸が消えていくのを見届けながら杏寿郎さんの声を聞く。
そこには憎しみも同情も乗っていない。
でも鬼のような心を持つ人間がいることに、侮蔑の念を抱いているように見えてしまった。
隠により連行されていく主人を眺めてほっと一息。
「あー、終わったー」
「お疲れ様、朝緋」
「師範もお疲れ様ー」
まあ、隠の皆さんはこれからが仕事だろうけど。
地下の血みどろな殺戮現場の処理、ホントお疲れ様です……私ですら吐きそうになったあれの事後処理を嫌な顔ひとつせず行うだなんて、隠の皆さんには頭が上がらない。
「んー、一応上流階級の一族だけど、こんなことをしてたんじゃもうお終いだねぇ」
「ああ、このあとは警察の方々に任せることになるからな。最後は監獄行きだろうし、二度と悪さはできんよ」
この時代の監獄かあ。体罰が凄そうだし獄中死もあり得そうで怖い。
「そういえば、朝緋は水の呼吸だけでなく雷の呼吸も使うのだな。美しい剣捌きと見応えある技だった」
「威力は本家本元の雷の呼吸使いの隊士には到底及びませんけどね」
しかも、まだ弐ノ型参ノ型しか覚えてないという……だって、獪岳がまだ二つしか教えてくれないんだもの。