五周目 弐
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非番である翌日は、朝から激しい打ち込み稽古に励んだ。
任務より熱が入った……炎の呼吸だけに熱がって、私ったらギャグセンスなさすぎる。
熱が入りすぎたせいか、それともこのぽかぽかと久しぶりに差した陽光や暖かい気温のせいか、杏寿郎さんがご自身のお部屋で眠っている。
ああもう、何も掛けないで。障子戸も開けっぱなしで。もうすぐ冬到来なんだから、いくら呼吸を極めた隊士さんでも風邪ひいちゃうよ。
先ほど焼いたばかりの焼き芋を置き、眠りに落ちている杏寿郎さんに布を掛ける。
あー、よく寝てるなあ。普段ならこれだけで起きるのに。ここが安全だって、わかってるのかな?
……そのおでこにキスしたい。煉獄家の額は全人類の宝だ。目が離せない。こんなに綺麗な額、キスしたくないって人のがおかしいよね?……とまで思ってしまうほどで。
いや、まあ……その瞬間に起きたら困るし勝手にキスなんてしないけど。
でもお八つに焼き芋焼いたんだけどな。きっと、糖分を摂取したいだろうなって思って。
私は既に補給した。焼きたては格別ね。
つんつん、ほっぺたを突いてみる。まだお髭ひとつ生えてない、若くてすべすべの綺麗なお肌だ。正直にいうとずっと触っていたい。だって、大好きな人だもの。
「杏寿郎兄さん、おーい。…………起きないや」
いつもはすぐ起きるのになぁ。きっと疲れてるのね。でもちょっとだけでも起きてもらわないと困る。お芋あるよって、伝えておきたいのに。え?紙に書いて置いとけ?それだと焼き芋が冷めちゃうじゃない!
私は食べ物は温かい内に提供したい。たまにさ、せっかく温かいものを作ったのに冷めた頃に食べる人いるよね。あれ、作り手としてはとても残念な気持ちになる。
だから杏寿郎さんにも早く食べてって言っておきたい。
そもそも私これから出かけちゃうし……。
あ、お芋の匂いで起きるかな?
焼き芋を顔の近くに近づけてみた。ほらほらほら、香ばしくてホクホクの甘ーい匂いがしてきましたよ〜?
けれど、杏寿郎さんの鼻は数回ヒクついただけで、うんともすんとも言わなかった。
「さすがにお口に近づけたら起きるかも?」
ぴと、近づけるどころか唇にくっつけてみた。するとどうだろう、固く閉じられていたその門が開き、芋という客人を迎え入れたではないか。
もぐもぐごっくん、いつもの言葉。
「わっしょいわっしょい、んん、……、美味い〜……」
「うわ、眠ったまま食べてる……杏寿郎さん、寝たまま食べて大丈夫なのかな?ちゃんと飲み込めてる?いや、それより本当に眠ってる?」
起きているのではないだろうかと、じっくり確認すべく顔を近づける。
「もっとくれ……」
ぼそり、その言葉が呟かれたと同時、手が伸びて頭をガシリと固定された。
「びゃっ!?」
キス、できてしまいそう。だけれど、唇と唇のキスではなかった。
代わりに私の頬が犠牲となる。ちゅううううう、頬が杏寿郎さんに吸引されている!
痛くはないけどなんだコレ!?吸引力の変わらないただ一つの煉獄杏寿郎だ!
「わーー!?き、杏寿郎さん!私お芋じゃな、ひいいいい頬っぺた吸わないで!?っん、!?お、起きてるでしょ!?これは起きてる!確定ッ!!」
「よもや、バレてしまったか!芋の香りが飛んできたところまでは寝ていたが、それに加えて朝緋の柔らかい匂いがしてきて起きてしまった!あと咄嗟のことで兄さんが抜けてくれたなありがとうっ!!」
「柔らかい匂い!なにそれ、どんな匂い!?いやそれよりちょっとどいて!?私達そんな関係じゃないのに近すぎる!!」
ちゅうちゅう吸われた姿勢そのままに、抱きしめられて拘束されている。まっっったく動けません。私は抱き枕か何かですか?
あああ杏寿郎さんの体の形がよくわかる……。しなやかで均一についた固い筋肉。ごつごつとした骨格。私を覆い隠せるほど成長した上背。かぁっこいい……。
私からさまざまな杏寿郎さんの形がわかるということは、私の体の形も杏寿郎さんに全て伝わっているということで。ついでに『前』よりも更に大きく感じる杏寿郎さんの杏寿郎さんが凶器のようにそこに存在していた。怖い。
「言ったはずだ。俺はそんな関係になりたい!だからいやだ!!離れない!!」
「ぬがぐぎぎぎ!はーなーれーてーよー!私これから用事がががが!!」
より一層密着して鯖折りしそうなほど抱きしめてくる。押してみても隙間すらできないってどういうこと。力強すぎ……中身出ちゃう口から芋出ちゃう!
逃げないから、逃げないから!と魂が抜けて昇天しそうな様を晒して初めて、杏寿郎さんは解放してくれた。瑠火さんが見えた気がする。
「用事!どこへいく!!買い物か!俺も行くぞ!!」
「買い物じゃないやい!友達と会う予定があるの!着いてきたら怒りますよ」
「……友人?朝緋に友人なんていたのか」
「当たり前でしょ友達くらいいます。失礼しちゃうな〜。
それよりはい、まだあったかいからお食べください。杏寿郎兄さんの大好きな焼き芋ですよ」
「うまいわっしょいまた呼び名が兄に戻っている!!」
「師範に戻らないだけいいでしょ。お外では師範になりますよ」
ほかほかの芋を受け取り頬張り、いつもの言葉を言いながら指摘してくる杏寿郎さん。
私的にも、杏寿郎さん呼びすると、気持ちが恋愛モードになるからなぁ。避けたいところ。
「では私はこれで。行ってきますね」
「うむ!行ってらっしゃい!!」
芋も預けたことだし、荷物を取ってさっさと行ってしまおう。自分の部屋からがま口やら日輪刀やらを持って出ると、杏寿郎さんの部屋の前を通る時に足首を掴まれた。
わぁ、転んだらどうするの。
「待て。日輪刀を二本とも持って、一体どこへ行く」
つい先日届いた二本目の黒に近い炎の日輪刀。どちらも入る刀袋がパンパンに膨れていて、二本持っていくというのが杏寿郎さんにバレてしまった。いやそもそも刀を持ち歩く時点で呼び止められるのは必須だったか。
でも出かけるには杏寿郎さんの部屋の前を通らないとだし……そりゃ呼び止められるわな。
「友人というのは、学校でのではないな。……同期の者だろう?」
「……そうですがそれが何か?」
「ちょっと来なさい」
そのままずるずるとまたも杏寿郎さんの部屋の中へ連行される。芋の匂いが充満してるなぁ。
時間は……うん、遅れたりはしなさそうだから別にい、!?
「ぎゃん!」
えええ放り投げられた!さっき杏寿郎さんに掛けてあげた布の上だから痛くないけどでも、ひどい!
振り返れば杏寿郎さんが後ろ手に障子戸を閉めている……少なくとも話すまで出さない気だ。
そのまま、羽交締めのような形で後ろから抱っこされてしまった。
わあ今度の私はぬいぐるみかな?押し倒されたりしてるわけじゃないからまだマシ……ううん、ちょっと私の感覚麻痺してきてる。これ以上杏寿郎さんの行動がエスカレートしてきても、これくらいなら。ここまでなら、と寛容になってしまう。これはまずい傾向!
「俺にこんなにも悋気ばかり覚えさせて、朝緋はなんと酷い子だ」
「酷い子って……それは杏寿郎兄さんが勝手に嫉妬してるだけだと思うよ」
ヨヨヨ、と泣き真似のような声が上から降ってくる。私の頭をぐーりぐーり撫でくりまわしながら。撫で方を見ると意外に楽しそうにしてるね?
「君はどこまで自分の気持ちを隠す気なのだ?もう、朝緋が俺のことをたった一人の大事な者の枠に入れているのは知っている。なのにそれを無視するのか?俺の気持ちだけでなく自分の気持ちを無視するのか?
俺は嫉妬のしすぎで身体中から炎の呼吸が溢れ出てしまいそうだ……」
黙って聞いていた私の一言。
「火だるまじゃん」
で、ムッとしたのか撫でていた手が私の頭をぐりりと鷲掴みにした。
痛い。
しばらくグリグリ攻撃が加えられたことで頭痛に苛まれたが、それも落ち着いた頃。
「それに、言おう言おうと思っていたが、君の周り……最近やたらと男の隊士が多くはないだろうか?一部女の隊士もいるようだが」
周りに隊士がいることに気がついて当然か。それだけ杏寿郎さんとの任務は多いもんね。杏寿郎さんに向かう、羨むような視線だってあるのだから。……反対に、私に向かう羨む視線も私は気になるところだけれど。
杏寿郎さん年を追うごとにモテ方がおかしくなってきてるもんね。まず色気がすごい。
で、私の話だ。
私を一人の女の子として好きになってくれた人も中にはいるだろうけれど、あれは違う。獪岳に聞いた話、最年少かと思われる歳なのに向上心が高く、強いのに鼻にかけない。一見冷たく見えるところもあるけれど、けれど決して下の階級の隊士を見捨てない。柱は怖がられているけれど、怖くもないし優しいと。
だからみんなついてくるのだそうだ。
ちょっと待て、良く言い過ぎ。柱じゃないんだから怖くなくて当然。ただ単に『お若いのに頑張ってるねぇ』の人だよ私。年上の隊士さん達が、男女共に微笑ましく思ってみてるだけじゃないのかな?
でもそれ、どう考えても私のファンの言い分だと、聞いた時は思ったね!
……たぶん杏寿郎さんにもファンクラブはあると思う。あればこっそり入りたい。会費いくら?言い値で払う。
「いつの間にかできていた私のファンクラブの人達、だそうです」
「ナヌ!?ふぁんくらぶとはなんだ!なんだかわからんが腹立たしい!朝緋は俺のものだ!」
「貴方のものじゃないでーす。んー、応援団みたいなものかな……」
「おうえんだん……?」
何その理解に苦しむ顔は。なんだっけか、宇宙を背景にした真顔の猫の顔ってやつ?
「抜け駆け禁止、お相手には基本触らず眺めるのみ。いえすろりーたのーたっちだっけ?それと似てるって、知り合いが言ってました」
かつて明槻が言っていたことだけど、合ってるよね?……合ってるんだよね!?まあニュアンスが伝わればいいか。ただし私はもうロリータという歳ではない。十二でもない、立派なレデェ〜だ!!
「だから心配する必要なし!よしこの話はこれで終い、だよねっ!!待ち合わせの時間があるのでこれで失礼します!!……ね?ね!?」
杏寿郎さんの胡座の中に座らされていた自分の体をひねり、杏寿郎さんの太ももを思い切りつねりあげる。これ絶対痛いやつ。
「ぅぐ、む……うぅ、…………気をつけて、行ってらっしゃい」
渋々だけどやっと体を解放してくれた。
任務より熱が入った……炎の呼吸だけに熱がって、私ったらギャグセンスなさすぎる。
熱が入りすぎたせいか、それともこのぽかぽかと久しぶりに差した陽光や暖かい気温のせいか、杏寿郎さんがご自身のお部屋で眠っている。
ああもう、何も掛けないで。障子戸も開けっぱなしで。もうすぐ冬到来なんだから、いくら呼吸を極めた隊士さんでも風邪ひいちゃうよ。
先ほど焼いたばかりの焼き芋を置き、眠りに落ちている杏寿郎さんに布を掛ける。
あー、よく寝てるなあ。普段ならこれだけで起きるのに。ここが安全だって、わかってるのかな?
……そのおでこにキスしたい。煉獄家の額は全人類の宝だ。目が離せない。こんなに綺麗な額、キスしたくないって人のがおかしいよね?……とまで思ってしまうほどで。
いや、まあ……その瞬間に起きたら困るし勝手にキスなんてしないけど。
でもお八つに焼き芋焼いたんだけどな。きっと、糖分を摂取したいだろうなって思って。
私は既に補給した。焼きたては格別ね。
つんつん、ほっぺたを突いてみる。まだお髭ひとつ生えてない、若くてすべすべの綺麗なお肌だ。正直にいうとずっと触っていたい。だって、大好きな人だもの。
「杏寿郎兄さん、おーい。…………起きないや」
いつもはすぐ起きるのになぁ。きっと疲れてるのね。でもちょっとだけでも起きてもらわないと困る。お芋あるよって、伝えておきたいのに。え?紙に書いて置いとけ?それだと焼き芋が冷めちゃうじゃない!
私は食べ物は温かい内に提供したい。たまにさ、せっかく温かいものを作ったのに冷めた頃に食べる人いるよね。あれ、作り手としてはとても残念な気持ちになる。
だから杏寿郎さんにも早く食べてって言っておきたい。
そもそも私これから出かけちゃうし……。
あ、お芋の匂いで起きるかな?
焼き芋を顔の近くに近づけてみた。ほらほらほら、香ばしくてホクホクの甘ーい匂いがしてきましたよ〜?
けれど、杏寿郎さんの鼻は数回ヒクついただけで、うんともすんとも言わなかった。
「さすがにお口に近づけたら起きるかも?」
ぴと、近づけるどころか唇にくっつけてみた。するとどうだろう、固く閉じられていたその門が開き、芋という客人を迎え入れたではないか。
もぐもぐごっくん、いつもの言葉。
「わっしょいわっしょい、んん、……、美味い〜……」
「うわ、眠ったまま食べてる……杏寿郎さん、寝たまま食べて大丈夫なのかな?ちゃんと飲み込めてる?いや、それより本当に眠ってる?」
起きているのではないだろうかと、じっくり確認すべく顔を近づける。
「もっとくれ……」
ぼそり、その言葉が呟かれたと同時、手が伸びて頭をガシリと固定された。
「びゃっ!?」
キス、できてしまいそう。だけれど、唇と唇のキスではなかった。
代わりに私の頬が犠牲となる。ちゅううううう、頬が杏寿郎さんに吸引されている!
痛くはないけどなんだコレ!?吸引力の変わらないただ一つの煉獄杏寿郎だ!
「わーー!?き、杏寿郎さん!私お芋じゃな、ひいいいい頬っぺた吸わないで!?っん、!?お、起きてるでしょ!?これは起きてる!確定ッ!!」
「よもや、バレてしまったか!芋の香りが飛んできたところまでは寝ていたが、それに加えて朝緋の柔らかい匂いがしてきて起きてしまった!あと咄嗟のことで兄さんが抜けてくれたなありがとうっ!!」
「柔らかい匂い!なにそれ、どんな匂い!?いやそれよりちょっとどいて!?私達そんな関係じゃないのに近すぎる!!」
ちゅうちゅう吸われた姿勢そのままに、抱きしめられて拘束されている。まっっったく動けません。私は抱き枕か何かですか?
あああ杏寿郎さんの体の形がよくわかる……。しなやかで均一についた固い筋肉。ごつごつとした骨格。私を覆い隠せるほど成長した上背。かぁっこいい……。
私からさまざまな杏寿郎さんの形がわかるということは、私の体の形も杏寿郎さんに全て伝わっているということで。ついでに『前』よりも更に大きく感じる杏寿郎さんの杏寿郎さんが凶器のようにそこに存在していた。怖い。
「言ったはずだ。俺はそんな関係になりたい!だからいやだ!!離れない!!」
「ぬがぐぎぎぎ!はーなーれーてーよー!私これから用事がががが!!」
より一層密着して鯖折りしそうなほど抱きしめてくる。押してみても隙間すらできないってどういうこと。力強すぎ……中身出ちゃう口から芋出ちゃう!
逃げないから、逃げないから!と魂が抜けて昇天しそうな様を晒して初めて、杏寿郎さんは解放してくれた。瑠火さんが見えた気がする。
「用事!どこへいく!!買い物か!俺も行くぞ!!」
「買い物じゃないやい!友達と会う予定があるの!着いてきたら怒りますよ」
「……友人?朝緋に友人なんていたのか」
「当たり前でしょ友達くらいいます。失礼しちゃうな〜。
それよりはい、まだあったかいからお食べください。杏寿郎兄さんの大好きな焼き芋ですよ」
「うまいわっしょいまた呼び名が兄に戻っている!!」
「師範に戻らないだけいいでしょ。お外では師範になりますよ」
ほかほかの芋を受け取り頬張り、いつもの言葉を言いながら指摘してくる杏寿郎さん。
私的にも、杏寿郎さん呼びすると、気持ちが恋愛モードになるからなぁ。避けたいところ。
「では私はこれで。行ってきますね」
「うむ!行ってらっしゃい!!」
芋も預けたことだし、荷物を取ってさっさと行ってしまおう。自分の部屋からがま口やら日輪刀やらを持って出ると、杏寿郎さんの部屋の前を通る時に足首を掴まれた。
わぁ、転んだらどうするの。
「待て。日輪刀を二本とも持って、一体どこへ行く」
つい先日届いた二本目の黒に近い炎の日輪刀。どちらも入る刀袋がパンパンに膨れていて、二本持っていくというのが杏寿郎さんにバレてしまった。いやそもそも刀を持ち歩く時点で呼び止められるのは必須だったか。
でも出かけるには杏寿郎さんの部屋の前を通らないとだし……そりゃ呼び止められるわな。
「友人というのは、学校でのではないな。……同期の者だろう?」
「……そうですがそれが何か?」
「ちょっと来なさい」
そのままずるずるとまたも杏寿郎さんの部屋の中へ連行される。芋の匂いが充満してるなぁ。
時間は……うん、遅れたりはしなさそうだから別にい、!?
「ぎゃん!」
えええ放り投げられた!さっき杏寿郎さんに掛けてあげた布の上だから痛くないけどでも、ひどい!
振り返れば杏寿郎さんが後ろ手に障子戸を閉めている……少なくとも話すまで出さない気だ。
そのまま、羽交締めのような形で後ろから抱っこされてしまった。
わあ今度の私はぬいぐるみかな?押し倒されたりしてるわけじゃないからまだマシ……ううん、ちょっと私の感覚麻痺してきてる。これ以上杏寿郎さんの行動がエスカレートしてきても、これくらいなら。ここまでなら、と寛容になってしまう。これはまずい傾向!
「俺にこんなにも悋気ばかり覚えさせて、朝緋はなんと酷い子だ」
「酷い子って……それは杏寿郎兄さんが勝手に嫉妬してるだけだと思うよ」
ヨヨヨ、と泣き真似のような声が上から降ってくる。私の頭をぐーりぐーり撫でくりまわしながら。撫で方を見ると意外に楽しそうにしてるね?
「君はどこまで自分の気持ちを隠す気なのだ?もう、朝緋が俺のことをたった一人の大事な者の枠に入れているのは知っている。なのにそれを無視するのか?俺の気持ちだけでなく自分の気持ちを無視するのか?
俺は嫉妬のしすぎで身体中から炎の呼吸が溢れ出てしまいそうだ……」
黙って聞いていた私の一言。
「火だるまじゃん」
で、ムッとしたのか撫でていた手が私の頭をぐりりと鷲掴みにした。
痛い。
しばらくグリグリ攻撃が加えられたことで頭痛に苛まれたが、それも落ち着いた頃。
「それに、言おう言おうと思っていたが、君の周り……最近やたらと男の隊士が多くはないだろうか?一部女の隊士もいるようだが」
周りに隊士がいることに気がついて当然か。それだけ杏寿郎さんとの任務は多いもんね。杏寿郎さんに向かう、羨むような視線だってあるのだから。……反対に、私に向かう羨む視線も私は気になるところだけれど。
杏寿郎さん年を追うごとにモテ方がおかしくなってきてるもんね。まず色気がすごい。
で、私の話だ。
私を一人の女の子として好きになってくれた人も中にはいるだろうけれど、あれは違う。獪岳に聞いた話、最年少かと思われる歳なのに向上心が高く、強いのに鼻にかけない。一見冷たく見えるところもあるけれど、けれど決して下の階級の隊士を見捨てない。柱は怖がられているけれど、怖くもないし優しいと。
だからみんなついてくるのだそうだ。
ちょっと待て、良く言い過ぎ。柱じゃないんだから怖くなくて当然。ただ単に『お若いのに頑張ってるねぇ』の人だよ私。年上の隊士さん達が、男女共に微笑ましく思ってみてるだけじゃないのかな?
でもそれ、どう考えても私のファンの言い分だと、聞いた時は思ったね!
……たぶん杏寿郎さんにもファンクラブはあると思う。あればこっそり入りたい。会費いくら?言い値で払う。
「いつの間にかできていた私のファンクラブの人達、だそうです」
「ナヌ!?ふぁんくらぶとはなんだ!なんだかわからんが腹立たしい!朝緋は俺のものだ!」
「貴方のものじゃないでーす。んー、応援団みたいなものかな……」
「おうえんだん……?」
何その理解に苦しむ顔は。なんだっけか、宇宙を背景にした真顔の猫の顔ってやつ?
「抜け駆け禁止、お相手には基本触らず眺めるのみ。いえすろりーたのーたっちだっけ?それと似てるって、知り合いが言ってました」
かつて明槻が言っていたことだけど、合ってるよね?……合ってるんだよね!?まあニュアンスが伝わればいいか。ただし私はもうロリータという歳ではない。十二でもない、立派なレデェ〜だ!!
「だから心配する必要なし!よしこの話はこれで終い、だよねっ!!待ち合わせの時間があるのでこれで失礼します!!……ね?ね!?」
杏寿郎さんの胡座の中に座らされていた自分の体をひねり、杏寿郎さんの太ももを思い切りつねりあげる。これ絶対痛いやつ。
「ぅぐ、む……うぅ、…………気をつけて、行ってらっしゃい」
渋々だけどやっと体を解放してくれた。