五周目 弐
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任務任務任務、鍛錬鍛錬鍛錬、任務任務任務、非番、任務任務……みるみる内に私の階級は上がっていった。今は庚に上がったばかりだ。
獪岳の階級も同じようなスピードで上がっているけども『今回』は私が一歩リード。いや別に競ってるわけじゃないよ?
私が階級を着々と上げているように、杏寿郎さんもまた、かなりの速度で階級を上げている。今は丁かあ。速すぎる……。
他にも同期の方々もぞくぞくと階級を上げているし、私の周りったら超優秀ね!
「奇遇だな」
「奇遇だ!」
「やっ!朝緋また奇遇だな!」
そんな階級が庚に上がった頃からだろうか。
任務地に赴くたび、そこには杏寿郎さんが待ち構えていることが増えた。
柱と継子という枠組みにはまだなっていないのに、合同任務だ。
「ねえなんで私の任務に高確率で師範がいるの!」
毎回のように顔を見てる気がする。
嬉しくないわけじゃないけれど、最初に合同任務に就いてからというものもう片手じゃ足りない数を共にこなしている。
今夜もまた、鬼を倒した勢いそのままに、詰め寄ってついキレ気味になってしまった。
「当たり前だろう!君は俺の継子扱いの子で妹だし、そして俺の想い人だ。御館様には正式に申請してあるぞ?共に任務をこなしたいと!」
御館様ぁぁぁぁ!またか!またですか!!また贔屓してるー!他の隊士に示しがつかないよ!
にこにこ笑顔で「いいよ」と杏寿郎さんの我儘を聞く御館様の姿が頭の中に浮かんだ……。
「階級上がってきたからって職権濫用!贔屓!贔屓反対!!鬼殺は遊びじゃないの!逢引じゃないの!わかってます!?命の取り合いだよ!!」
今の私は『今まで』の私のように、油断したり鬼殺の最中に色恋沙汰に惑わされたりしない。公私混同しない。その予定で無視してきたのに。
なのに任務で杏寿郎さんと顔を合わせてばかりいたら、いつか恋愛感情に流されてしまいそう。気持ちを抑え込むにも限界はあるのに。
「逢引!そうか、朝緋も逢引と思っていてくれたのか!!」
「ああああもぉぉぉぉ!思ってないっ!!
そういうの良くないからやめてもらうよう、御館様に言います!力は分散させなくちゃ!こんな私でも一戦力だと思われてるなら、他の任務地に派遣していただかなくちゃ!!」
そうして杏寿郎さんから離れなくては。もちろん、あの列車の任務には同行できるよう、杏寿郎さんが柱になったら正式に継子にしてくださいと頼み直すつもりだ。
継子は一人でも多い方がいい、そう常日頃から漏らしている杏寿郎さんだ。私がやって来ることは願ったり叶ったりだろう。違う意味でいつだって手をこまねいていることだし。
それまでは、私はなるべく杏寿郎さんの近くにいたくない。他のことは考えずただひたすらに鍛錬し任務に励み、強くなりたいのだ。
弱き者も強き者も、周り全てを守るための力が欲しい。
「無理だな」
一瞬、強くなるのが無理と言われたのかと思った。いや違う、杏寿郎さんは御館様への話が通らないと言ったのだ。
ああ、もやもやする。
「俺が申請した時には、御館様も俺と君との任務を、なるべく共にしたいと仰っていた。まず双方の担当の任務地が近いことが一つだ。君の特殊な稀血や生家からの通いでの任務遂行など、理由は他にも多岐にわたるようだぞ」
「えええええ」
「さ!もう今夜はこうして早くに任務が終わった。朝緋は生家に帰るのだろう。明日は共に非番だし久々に俺も帰ろうと思う。一緒に行こうではないか!」
言い終えて私の肩と腰を抱き、煉獄家方面へとぐいぐい進む杏寿郎さん。いきなり歩き出して、つんのめりそうだ。
「あ、ちょっと……!
なんで私の非番の日まで知って……いや、そういうのも把握してるのか。個人情報も何もあったもんじゃないなぁ」
個人情報保護法仕事してー!え?この時代ない?あ、そっかぁ。そして私に合わせて杏寿郎さんも非番にしたと。そういうことかもね。
私を歩かせる杏寿郎さんをじとりと睨みつける。
「む……俺とて千寿郎達の顔が見たい。朝緋の作る食事をゆっくり味わいたいのだ。それと、家では師範と呼ぶのはやめてほしい。杏寿郎さんと……」
「じゃあ杏寿郎兄さんですねっ!にーぃーさん!!」
「むう!?あいっかわらず朝緋はけちんぼだ!」
「けちで結構です」
「むむむぅ!ならせめて手くらい繋がせてくれ!!」
いきなりの恋人繋ぎで手を取られた。ま、手繋ぎくらいなら許してもいいか……。どうせ離してはもらえない。
「やだもうほんと強引。ん……?杏寿郎、兄さん?」
手を繋いだ瞬間、杏寿郎さんの歩みがぴたりと止まる。そして私の顔をじっと見つめながら、ぼそりと呟きを漏らした。
「前にもこんなことがあったような気がする。鬼殺のあと、朝緋と夜道を歩きながら、藤の家紋の家に……なんだ、この記憶は……」
「杏寿郎兄さん……」
「そんなわけないのに、なぜだろう。なあ朝緋、君にはこんな記憶……いや、思い出はあっただろうか?
嬉しくて幸せなものなのに、同時にとても不安な気持ちになる」
縋るような視線が注がれる。
不安だよね、わかるよ。自分なのに違う自分が経験した記憶の欠片が断片だけ脳裏にちらつくのだもの。
私も最初の頃はひどく困惑して、そして不安で仕方なかったよ。きっと誰でもそうなる。
でももうこれで確定した。明槻の血鬼術は完璧ではない。記憶が残り始めている。力もやはり多少引き継がれている。
それがいいことなのかどうかはわからない。少なくとも、力の引き継ぎは悪いことではないのはわかる。
ただ、記憶があるのがどう転ぶかわからない今は、どこか不安げな表情の杏寿郎さんの手前、全力ですっとぼけるしかない。
「私にはそのような記憶も思い出もありません。杏寿郎兄さんは夢でも見たんじゃないの」
と。
否定してごめんね。
獪岳の階級も同じようなスピードで上がっているけども『今回』は私が一歩リード。いや別に競ってるわけじゃないよ?
私が階級を着々と上げているように、杏寿郎さんもまた、かなりの速度で階級を上げている。今は丁かあ。速すぎる……。
他にも同期の方々もぞくぞくと階級を上げているし、私の周りったら超優秀ね!
「奇遇だな」
「奇遇だ!」
「やっ!朝緋また奇遇だな!」
そんな階級が庚に上がった頃からだろうか。
任務地に赴くたび、そこには杏寿郎さんが待ち構えていることが増えた。
柱と継子という枠組みにはまだなっていないのに、合同任務だ。
「ねえなんで私の任務に高確率で師範がいるの!」
毎回のように顔を見てる気がする。
嬉しくないわけじゃないけれど、最初に合同任務に就いてからというものもう片手じゃ足りない数を共にこなしている。
今夜もまた、鬼を倒した勢いそのままに、詰め寄ってついキレ気味になってしまった。
「当たり前だろう!君は俺の継子扱いの子で妹だし、そして俺の想い人だ。御館様には正式に申請してあるぞ?共に任務をこなしたいと!」
御館様ぁぁぁぁ!またか!またですか!!また贔屓してるー!他の隊士に示しがつかないよ!
にこにこ笑顔で「いいよ」と杏寿郎さんの我儘を聞く御館様の姿が頭の中に浮かんだ……。
「階級上がってきたからって職権濫用!贔屓!贔屓反対!!鬼殺は遊びじゃないの!逢引じゃないの!わかってます!?命の取り合いだよ!!」
今の私は『今まで』の私のように、油断したり鬼殺の最中に色恋沙汰に惑わされたりしない。公私混同しない。その予定で無視してきたのに。
なのに任務で杏寿郎さんと顔を合わせてばかりいたら、いつか恋愛感情に流されてしまいそう。気持ちを抑え込むにも限界はあるのに。
「逢引!そうか、朝緋も逢引と思っていてくれたのか!!」
「ああああもぉぉぉぉ!思ってないっ!!
そういうの良くないからやめてもらうよう、御館様に言います!力は分散させなくちゃ!こんな私でも一戦力だと思われてるなら、他の任務地に派遣していただかなくちゃ!!」
そうして杏寿郎さんから離れなくては。もちろん、あの列車の任務には同行できるよう、杏寿郎さんが柱になったら正式に継子にしてくださいと頼み直すつもりだ。
継子は一人でも多い方がいい、そう常日頃から漏らしている杏寿郎さんだ。私がやって来ることは願ったり叶ったりだろう。違う意味でいつだって手をこまねいていることだし。
それまでは、私はなるべく杏寿郎さんの近くにいたくない。他のことは考えずただひたすらに鍛錬し任務に励み、強くなりたいのだ。
弱き者も強き者も、周り全てを守るための力が欲しい。
「無理だな」
一瞬、強くなるのが無理と言われたのかと思った。いや違う、杏寿郎さんは御館様への話が通らないと言ったのだ。
ああ、もやもやする。
「俺が申請した時には、御館様も俺と君との任務を、なるべく共にしたいと仰っていた。まず双方の担当の任務地が近いことが一つだ。君の特殊な稀血や生家からの通いでの任務遂行など、理由は他にも多岐にわたるようだぞ」
「えええええ」
「さ!もう今夜はこうして早くに任務が終わった。朝緋は生家に帰るのだろう。明日は共に非番だし久々に俺も帰ろうと思う。一緒に行こうではないか!」
言い終えて私の肩と腰を抱き、煉獄家方面へとぐいぐい進む杏寿郎さん。いきなり歩き出して、つんのめりそうだ。
「あ、ちょっと……!
なんで私の非番の日まで知って……いや、そういうのも把握してるのか。個人情報も何もあったもんじゃないなぁ」
個人情報保護法仕事してー!え?この時代ない?あ、そっかぁ。そして私に合わせて杏寿郎さんも非番にしたと。そういうことかもね。
私を歩かせる杏寿郎さんをじとりと睨みつける。
「む……俺とて千寿郎達の顔が見たい。朝緋の作る食事をゆっくり味わいたいのだ。それと、家では師範と呼ぶのはやめてほしい。杏寿郎さんと……」
「じゃあ杏寿郎兄さんですねっ!にーぃーさん!!」
「むう!?あいっかわらず朝緋はけちんぼだ!」
「けちで結構です」
「むむむぅ!ならせめて手くらい繋がせてくれ!!」
いきなりの恋人繋ぎで手を取られた。ま、手繋ぎくらいなら許してもいいか……。どうせ離してはもらえない。
「やだもうほんと強引。ん……?杏寿郎、兄さん?」
手を繋いだ瞬間、杏寿郎さんの歩みがぴたりと止まる。そして私の顔をじっと見つめながら、ぼそりと呟きを漏らした。
「前にもこんなことがあったような気がする。鬼殺のあと、朝緋と夜道を歩きながら、藤の家紋の家に……なんだ、この記憶は……」
「杏寿郎兄さん……」
「そんなわけないのに、なぜだろう。なあ朝緋、君にはこんな記憶……いや、思い出はあっただろうか?
嬉しくて幸せなものなのに、同時にとても不安な気持ちになる」
縋るような視線が注がれる。
不安だよね、わかるよ。自分なのに違う自分が経験した記憶の欠片が断片だけ脳裏にちらつくのだもの。
私も最初の頃はひどく困惑して、そして不安で仕方なかったよ。きっと誰でもそうなる。
でももうこれで確定した。明槻の血鬼術は完璧ではない。記憶が残り始めている。力もやはり多少引き継がれている。
それがいいことなのかどうかはわからない。少なくとも、力の引き継ぎは悪いことではないのはわかる。
ただ、記憶があるのがどう転ぶかわからない今は、どこか不安げな表情の杏寿郎さんの手前、全力ですっとぼけるしかない。
「私にはそのような記憶も思い出もありません。杏寿郎兄さんは夢でも見たんじゃないの」
と。
否定してごめんね。