五周目 弐
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「朝緋おかえり!」
「ウワアアアアア!!」
部屋に入った私の第一声はつんざくような叫び声。
やっと帰れた。二つの呼吸を無理やり使いこなそうとした弊害でクタクタな体を、早く甘やかしたい。
そう思いながら帰宅して千寿郎と言葉をかわし自分の部屋に入ると、そこには杏寿郎さんが待ち構えていて、私をぎゅうぎゅうといきなり抱きしめてきたのだ!
荷物という荷物がボトボトガシャンバラバラバラ、手元から落ちる。ああ〜折れた水の日輪刀の欠片が散らばっていく〜〜。
いやそれより杏寿郎さんの抱擁の苦しすぎることと言ったら!疲れて無抵抗な体に何をする!?
「ただいま杏寿郎兄さん……とりあえず離してくださいませんか?すっごく苦しい!うぐぇー」
「ややっ!?うむ!すまないな!!」
ぺしぺしとその背を叩いて反応すれば、惜しむように今一度抱きしめる強さをぎゅぎゅぎゅっ!と強くし、それから私の体を解放した。
ああ、やっと満足に息が吸える。
「はぁ……なんで私の部屋に?新手のどっきりですか?」
「どっきり?別にドキドキさせようとは思っていないな!朝緋の帰還を祝おうと思い、先に煉獄家へ帰って君の部屋で待たせてもらっただけだ!!」
乙女の部屋に入り込んでおいて、悪びれもしない!なんという眩しい笑顔。見られて困るものは今のところ何一つないからいいけど。最終選別前だと、日記もデフォルメされた杏寿郎さん座布団もその辺にぽんっ!と置いてあったのよね。危ない危ない。
「祝うって……私が最終選別で死ぬ可能性は考えていなかったの?」
「一つも考えていない!朝緋は強い子だ!絶対に俺の元に帰ってくると思っていた!!」
私はそんな強くないよ買い被りすぎ……とは言えぬ、太陽のように曇りなき笑顔と目だった。
「そして君は俺が思った通り、疲労はあろうがほとんど怪我もなく無事に帰ってきた」
手のひらが合わされ、ゆっくりと繋がれる。まただ、また恋人のような繋ぎ方。私の手のひらから熱を確かめ、そして放したその手で髪をひと掬い取られる。
七日間の激闘で汚れているだろうから、あまり弄られたくないのに。
「いつも高く括られている髪だが、今は下ろしているのだな。いや、こちらとしては好都合か」
「髪紐を鎹烏の首へ巻いてあげたんです。女の子なので、少しでも可愛らしくしてあげたくて。あずま、ご挨拶を!」
庭の木に止まっていた彼女が、滑空し空いた隙間から私の部屋へ入ってきた。私の肩へとふぅわり降り立ち杏寿郎さんを見上げる。
「オ芋ガ好キナ、鎹烏ノアズマデス!ヨロシクネ!」
「これはどうもご丁寧に。芋が好きだとは、俺と同じだな。俺の鎹烏は要という。見かけたら仲良くしてやってくれ」
「ハァイ!!」
うちのあずまは要とまた恋仲になれるかな。なれるといいね。そんな思いをひと撫でに込め、飛んでいくあずまを見送る。
頭を振り杏寿郎さんの方を向き直すと、髪が結ばれていた。高い位置で括られている。シャラリという綺麗な音も聞こえているような……?
「うん、似合っている!」
「なになに?結んだ?」
「俺からの贈り物だ。鏡で見てごらん」
机の上の手鏡を取られ、握らされた。覗き込めば疲れきった私の顔と、杏寿郎さんのかっこいいかんばせが映っている。うわ、早く元気出して元の顔に戻りたい。
っていうか杏寿郎さん近い。
首を傾けて髪の毛を確認する。そこにあったのは、赤い紙紐で綺麗に結われた結び目。そして垂れた飾りが揺れる赤い蜻蛉玉の簪だった。
「わあ、綺麗!ありがとうございます!…………でもこれ、髪紐だけじゃなくて、簪?あの、妹に贈るにしては、ちょっといきすぎではありません……?髪紐だけでいいのでは」
簪を目にした瞬間、鏡を置きそっとそこから離れた。杏寿郎さんから距離を取るために。
「俺は朝緋が好きなのだからいきすぎではない」
離れたのに近づいてきた。一歩分下がれば一歩半近寄られる。
「男が女性に簪や櫛、髪留めを贈るのは、その髪をほどき乱したいから。このようにな」
簪を抜きしゅるりと髪紐も解き、せっかく結えていた全てを取ってきた。
置かれた簪の蜻蛉玉が太陽の光の下、きらきらと輝いている。杏寿郎さんの瞳の色だ。
「簪には求婚の意味もある。……それを朝緋は知っているようだな?だからそうやって俺から離れようとしている。
朝緋はまだ、俺の気持ちに応えてくれないのか?」
「えっと、その……」
じりじりと寄ってくる杏寿郎さん。私の後退りする先は、すぐ休めるようにと千寿郎が敷いてくれた布団。
私はそこに、体が引っかかって倒れ込んでしまった。乱されたあとのように布団へ広がる私の髪の毛。
「ぁっ」
「上手い具合いに布団が敷いてあってよかったよ」
その更に上に杏寿郎さんが覆い被さる。腕の檻に閉じ込められて、杏寿郎さんの顔しか見えない。何度も経験してきた光景だけど、何度見ても慣れない。恥ずかしくて顔が熱くなる。
「わ……私、まだ十二なんですが?何をする気?」
「何とは?君が俺の気持ちに応えてくれるよう、俺がどれほど朝緋を愛おしく思っているのか行動で示そうと思ってな。何、別に接吻やその先を求めようというわけじゃない。
流石にそれは君と想いを一つにしてから。君がもう少し大人になってからと決めている。……まあ、許可してくれるのであれば、あえかな接吻くらいは君と交わしてみたいものだがな」
行動で示されるのも困るけど結果的にキスしたいって言われてる!?駄目駄目、今は駄目!早く離れなくては。
「そういう問題じゃない!近い、近すぎるの!離れてくださいませ!!」
「意地悪を言わないでくれ……」
ああ駄目だ、目の前の熱い瞳に吸い込まれてしまいそう。杏寿郎さんの分厚い唇に目が釘付けになる。このままだと私から望んでしまう。
私がどれだけ貴方を好きか、貴方はわかっていない。
体をぐいぐいと押して拒絶を繰り返していた私の手はそっと握られ、杏寿郎さんの胸元へと押し当てられた。
トクトクトク、杏寿郎さんの生きている証が。あたたかな命の鼓動が伝わってくる。その動きはとても速くて、私が杏寿郎さんの目を見つめた瞬間が一番速かった。
「俺の心の臓の音が感じられるか?朝緋を想って、こんなにも早鐘を打っている。
この速さだけで、俺がどれほど君を想っているのか伝わらないか?」
「……全集中の呼吸のせいだと思います」
「確かに常中でも鼓動は速くなることがある!それを自分で制御することもある……!けれどこれは違うと朝緋ならわかるだろう。俺の胸も体も顔も……君を想ってこんなに熱い」
胸に当てていた手を、今度は頬へと運ばれる。熱い、燃えるように熱い。
「そ、それも炎の呼吸のせいで熱いのだと思、」
「ウワアアアアア!!」
部屋に入った私の第一声はつんざくような叫び声。
やっと帰れた。二つの呼吸を無理やり使いこなそうとした弊害でクタクタな体を、早く甘やかしたい。
そう思いながら帰宅して千寿郎と言葉をかわし自分の部屋に入ると、そこには杏寿郎さんが待ち構えていて、私をぎゅうぎゅうといきなり抱きしめてきたのだ!
荷物という荷物がボトボトガシャンバラバラバラ、手元から落ちる。ああ〜折れた水の日輪刀の欠片が散らばっていく〜〜。
いやそれより杏寿郎さんの抱擁の苦しすぎることと言ったら!疲れて無抵抗な体に何をする!?
「ただいま杏寿郎兄さん……とりあえず離してくださいませんか?すっごく苦しい!うぐぇー」
「ややっ!?うむ!すまないな!!」
ぺしぺしとその背を叩いて反応すれば、惜しむように今一度抱きしめる強さをぎゅぎゅぎゅっ!と強くし、それから私の体を解放した。
ああ、やっと満足に息が吸える。
「はぁ……なんで私の部屋に?新手のどっきりですか?」
「どっきり?別にドキドキさせようとは思っていないな!朝緋の帰還を祝おうと思い、先に煉獄家へ帰って君の部屋で待たせてもらっただけだ!!」
乙女の部屋に入り込んでおいて、悪びれもしない!なんという眩しい笑顔。見られて困るものは今のところ何一つないからいいけど。最終選別前だと、日記もデフォルメされた杏寿郎さん座布団もその辺にぽんっ!と置いてあったのよね。危ない危ない。
「祝うって……私が最終選別で死ぬ可能性は考えていなかったの?」
「一つも考えていない!朝緋は強い子だ!絶対に俺の元に帰ってくると思っていた!!」
私はそんな強くないよ買い被りすぎ……とは言えぬ、太陽のように曇りなき笑顔と目だった。
「そして君は俺が思った通り、疲労はあろうがほとんど怪我もなく無事に帰ってきた」
手のひらが合わされ、ゆっくりと繋がれる。まただ、また恋人のような繋ぎ方。私の手のひらから熱を確かめ、そして放したその手で髪をひと掬い取られる。
七日間の激闘で汚れているだろうから、あまり弄られたくないのに。
「いつも高く括られている髪だが、今は下ろしているのだな。いや、こちらとしては好都合か」
「髪紐を鎹烏の首へ巻いてあげたんです。女の子なので、少しでも可愛らしくしてあげたくて。あずま、ご挨拶を!」
庭の木に止まっていた彼女が、滑空し空いた隙間から私の部屋へ入ってきた。私の肩へとふぅわり降り立ち杏寿郎さんを見上げる。
「オ芋ガ好キナ、鎹烏ノアズマデス!ヨロシクネ!」
「これはどうもご丁寧に。芋が好きだとは、俺と同じだな。俺の鎹烏は要という。見かけたら仲良くしてやってくれ」
「ハァイ!!」
うちのあずまは要とまた恋仲になれるかな。なれるといいね。そんな思いをひと撫でに込め、飛んでいくあずまを見送る。
頭を振り杏寿郎さんの方を向き直すと、髪が結ばれていた。高い位置で括られている。シャラリという綺麗な音も聞こえているような……?
「うん、似合っている!」
「なになに?結んだ?」
「俺からの贈り物だ。鏡で見てごらん」
机の上の手鏡を取られ、握らされた。覗き込めば疲れきった私の顔と、杏寿郎さんのかっこいいかんばせが映っている。うわ、早く元気出して元の顔に戻りたい。
っていうか杏寿郎さん近い。
首を傾けて髪の毛を確認する。そこにあったのは、赤い紙紐で綺麗に結われた結び目。そして垂れた飾りが揺れる赤い蜻蛉玉の簪だった。
「わあ、綺麗!ありがとうございます!…………でもこれ、髪紐だけじゃなくて、簪?あの、妹に贈るにしては、ちょっといきすぎではありません……?髪紐だけでいいのでは」
簪を目にした瞬間、鏡を置きそっとそこから離れた。杏寿郎さんから距離を取るために。
「俺は朝緋が好きなのだからいきすぎではない」
離れたのに近づいてきた。一歩分下がれば一歩半近寄られる。
「男が女性に簪や櫛、髪留めを贈るのは、その髪をほどき乱したいから。このようにな」
簪を抜きしゅるりと髪紐も解き、せっかく結えていた全てを取ってきた。
置かれた簪の蜻蛉玉が太陽の光の下、きらきらと輝いている。杏寿郎さんの瞳の色だ。
「簪には求婚の意味もある。……それを朝緋は知っているようだな?だからそうやって俺から離れようとしている。
朝緋はまだ、俺の気持ちに応えてくれないのか?」
「えっと、その……」
じりじりと寄ってくる杏寿郎さん。私の後退りする先は、すぐ休めるようにと千寿郎が敷いてくれた布団。
私はそこに、体が引っかかって倒れ込んでしまった。乱されたあとのように布団へ広がる私の髪の毛。
「ぁっ」
「上手い具合いに布団が敷いてあってよかったよ」
その更に上に杏寿郎さんが覆い被さる。腕の檻に閉じ込められて、杏寿郎さんの顔しか見えない。何度も経験してきた光景だけど、何度見ても慣れない。恥ずかしくて顔が熱くなる。
「わ……私、まだ十二なんですが?何をする気?」
「何とは?君が俺の気持ちに応えてくれるよう、俺がどれほど朝緋を愛おしく思っているのか行動で示そうと思ってな。何、別に接吻やその先を求めようというわけじゃない。
流石にそれは君と想いを一つにしてから。君がもう少し大人になってからと決めている。……まあ、許可してくれるのであれば、あえかな接吻くらいは君と交わしてみたいものだがな」
行動で示されるのも困るけど結果的にキスしたいって言われてる!?駄目駄目、今は駄目!早く離れなくては。
「そういう問題じゃない!近い、近すぎるの!離れてくださいませ!!」
「意地悪を言わないでくれ……」
ああ駄目だ、目の前の熱い瞳に吸い込まれてしまいそう。杏寿郎さんの分厚い唇に目が釘付けになる。このままだと私から望んでしまう。
私がどれだけ貴方を好きか、貴方はわかっていない。
体をぐいぐいと押して拒絶を繰り返していた私の手はそっと握られ、杏寿郎さんの胸元へと押し当てられた。
トクトクトク、杏寿郎さんの生きている証が。あたたかな命の鼓動が伝わってくる。その動きはとても速くて、私が杏寿郎さんの目を見つめた瞬間が一番速かった。
「俺の心の臓の音が感じられるか?朝緋を想って、こんなにも早鐘を打っている。
この速さだけで、俺がどれほど君を想っているのか伝わらないか?」
「……全集中の呼吸のせいだと思います」
「確かに常中でも鼓動は速くなることがある!それを自分で制御することもある……!けれどこれは違うと朝緋ならわかるだろう。俺の胸も体も顔も……君を想ってこんなに熱い」
胸に当てていた手を、今度は頬へと運ばれる。熱い、燃えるように熱い。
「そ、それも炎の呼吸のせいで熱いのだと思、」