五周目 弐
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でも叶うならこの鬼には一太刀いれたい。一矢報いたい。仇を取りたい。
大事な大事な兄弟子、姉弟子の命を奪った鬼を、私は絶対に許さない。
「あ゛ぁぁぁぁぁ!!水の呼吸、壱ノ型 水面斬り!!」
全力を出す!最速のこの壱ノ型で、鬼の頸を刎ね……パ、キ……、
「ぁ」
鱗滝さんからもらった水の日輪刀が……刃の中腹から真っ二つに折れた……!?
「あーあ、残念だったなぁ?宍色の髪のガキと同じ、頭を潰してそれからぜーんぶ喰ってやるよ!なんてったって、お前は稀血だからなぁぁぁ!!!?」
手鬼の腕が飛んでくる。もう避けられない。頭を潰される。喰われる。
錆兎……真菰……ごめん、仇は取れそうにない。
私もまた、この鬼にやられてしまうのだ。せっかく隊士になるのが早まったと思ったのに。
杏寿郎さん、会いたいよ……。
その時、心の中に熱い炎が燃え広がるのを感じた。熱い、熱い私の炎が。
そうだ、私にはもう一本炎の日輪刀があるではないか。なぜ忘れていた?口からも炎の呼吸を怒りと共に吐いていただろうに。
私は誰だ?私の使う呼吸はなんだ?
私は煉獄朝緋!炎の呼吸の使い手だ!!
「炎の呼吸、肆ノ型 盛炎のうねり!炎の呼吸、改・炎山渦!!」
「二本目の刀!?さっきの技より強い……!くそぉ!!」
盛炎のうねりを使い向かってくる腕を斬りつけつつ絡めとり、壱ノ型不知火の回転斬り版で頸を狙う。
攻撃を防ぐこともできた。その頸に刃を走らせることもできた。けれど頸を落とすまでには至らず、体を遠くまで弾き飛ばされてしまった。
「うっ、痛……っ」
木に強かにぶつかり止まる私の体。
クラクラする頭を振り立ち上がる。遠くまで飛ばされたおかげで、手鬼からは逃れられた。見えないところまで走り切れば、私も逃げられるだろう。
さすがにこれ以上の深追いは禁物。この辺で諦めなくちゃ……。そもそも手鬼の頸はめちゃくちゃ硬い。今の私には斬れない。
逃げるが勝ちだ……悔しいけどね。
その後、他の子や獪岳と無事に合流することができた。水の呼吸の刀も、無事に欠片ごと回収できた。
夜になると、手鬼が私を探して動き回る気配がそこかしこからして恐怖心を煽りに煽ってくる。その声の恐ろしいことと言ったら!
……こんなホラーゲームは絶対にプレイしたくないや。
「あいつ、私のこと執拗に探してるね」
「そうだな。けどもうほとんど朝緋は血の匂いを纏っていない。こうして隠れていれば、そうそう見つかりはしない。他の鬼もあらかた駆除し終えてるしな」
「次の選別までに参加者用の鬼の補充ができるといいけどね……」
「そこは俺達が心配するべきじゃない」
ああ、あの頸をとれたらなあ。頸を落とせたらなあ。
草むらの影からそっと覗き見る手鬼の姿。
頑張れば刃先が届きそう。頑張れば斬り落とせそう。仇取れそう。
「おい出るのはやめろよ。もうその炎の日輪刀は限界が近い」
「ん……」
そうだった。度重なる鬼への攻撃で、この刀は折れる寸前まで追い込まれていたのだった。手鬼の頸を取るどころじゃない。他の鬼だって相手取るのは厳しい。
でもそれも致し方ないこと。だって、この刀の元の持ち主は隊士としてずっと振るい続けていたんだもの。摩耗していて当然ね。
いつも私に力を貸してくださってありがとう、名も知らぬ炎の呼吸の隊士様。
七日目の朝、最終選別が終わりを迎えた。
今回もまたかなりの数が生き残り、そして隊士になった。
私や獪岳にありがとうと笑顔で手を振り、生家や修行をつけてもらっていた育手の元へと帰っていく彼ら。
たくさんの同期に恵まれて。大して何もしていないのに感謝までされて。私は果報者だ。
それでも私は素直に喜べなかった。
悔しくて悔しくてたまらなくなる。どうしたら錆兎と真菰を助けられたのだろうか、そればかり考える。
その場にいることの叶わぬ私にはどうすることもできないのにね。
せめてあいつの頸をとって、墓前に報告したかった。仇を取ったよ、って。
ううん、やっぱり助けたい。隊士になった姿が見たい。一緒に任務に行くことだってあったかもしれない。二人に会いたい。冨岡さんもきっとそう思ってる。
だから何度だって、明槻に戻してもらう気でいる。戻る気はいくらでもある。
でもいつだってこれを最後にしたいと思う気持ちの方が強い。ごめん、錆兎……真菰……。
杏寿郎さんの未来が今回で得られるならば私は……。
「強くなりたいなぁ」
朝の日差し差し込む藤襲山の麓、同期達に手を振りながらぼそりとそう漏らす。
隣に並んだ獪岳が同じく太陽を眺めながら、言葉を返してきた。
「お前は強いだろ」
「……どこをどう見て強いと?私は強くないよ。結果的にあの鬼から逃げちゃったもの」
「あれは今の俺達には対処しようのない、異形の鬼だ。だがそれだけ強くなろうとする意志があるんだ、朝緋はすぐに朝緋の望む強さになれる。朝緋は今、十二だっけか?その歳で常中だって出来てるくらいなんだからな」
参加者の中では一番幼い十二だ。まだまだ筋力が出来上がっていない、成長途中のこの体。
仕方ないけど、弱くて弱くて……嫌になる。
早く、周りの強い人に追いつきたい。
「常中が出来ているのは獪岳もでしょ」
獪岳もまた、私よりもっともっと強い人だ。
疲労で倒れそうな状態の中、帰路を進む。肩に乗っている鎹烏のあずまが重い。もともと持っていた荷物も重い。
相変わらず隊服は私の分……というか、女性の分はまだ持たされていないけれど、獪岳によると隊服すら重く感じるとのこと。
私なんて折れているといっても、持ち帰ってきた水の呼吸の日輪刀と、折れる寸前まで追い込まれた炎の呼吸の日輪刀二本もあるんだよ。重くて重くて、ちょっとキレ散らかしそう。
……生まれた家では双子の妹だし、今は杏寿郎さんの妹だけど、それでも長女なので我慢します。
「今回の選別の中で一番強かったのは俺とお前だろうな」
「そうかもね」
「二十と少し居た奴らも、棄権する以外はあまり死んでない。俺達のおかげだと言ってくる奴も多数いた。それでいいじゃねぇか。
何くっだらねぇことを悩んでるのかしらねぇが、自分を誇りに思っておけばいいんじゃねぇ?」
「くだらなくなんかないやい!でも、まあ……そうだね」
分かれ道に差し掛かった。ここで獪岳は右の道へ、私は左の道へ行く。列車にも乗らなくては。
「せっかく隊士になれたんだ、任務で早速くたばるようなことになるんじゃねぇぞ。
……次は文を寄越せ。こちとら、朝緋の呼吸を盗む予定もあるんだからな!」
「いたっ!この乱暴者ー!!」
背中をバシバシと叩かれ、そしてその勢いのまま右へと駆けていく獪岳。超元気じゃん。
こっちはつんのめってそのまま倒れ、起き上がりが困難なほど疲れてるってのに。
大事な大事な兄弟子、姉弟子の命を奪った鬼を、私は絶対に許さない。
「あ゛ぁぁぁぁぁ!!水の呼吸、壱ノ型 水面斬り!!」
全力を出す!最速のこの壱ノ型で、鬼の頸を刎ね……パ、キ……、
「ぁ」
鱗滝さんからもらった水の日輪刀が……刃の中腹から真っ二つに折れた……!?
「あーあ、残念だったなぁ?宍色の髪のガキと同じ、頭を潰してそれからぜーんぶ喰ってやるよ!なんてったって、お前は稀血だからなぁぁぁ!!!?」
手鬼の腕が飛んでくる。もう避けられない。頭を潰される。喰われる。
錆兎……真菰……ごめん、仇は取れそうにない。
私もまた、この鬼にやられてしまうのだ。せっかく隊士になるのが早まったと思ったのに。
杏寿郎さん、会いたいよ……。
その時、心の中に熱い炎が燃え広がるのを感じた。熱い、熱い私の炎が。
そうだ、私にはもう一本炎の日輪刀があるではないか。なぜ忘れていた?口からも炎の呼吸を怒りと共に吐いていただろうに。
私は誰だ?私の使う呼吸はなんだ?
私は煉獄朝緋!炎の呼吸の使い手だ!!
「炎の呼吸、肆ノ型 盛炎のうねり!炎の呼吸、改・炎山渦!!」
「二本目の刀!?さっきの技より強い……!くそぉ!!」
盛炎のうねりを使い向かってくる腕を斬りつけつつ絡めとり、壱ノ型不知火の回転斬り版で頸を狙う。
攻撃を防ぐこともできた。その頸に刃を走らせることもできた。けれど頸を落とすまでには至らず、体を遠くまで弾き飛ばされてしまった。
「うっ、痛……っ」
木に強かにぶつかり止まる私の体。
クラクラする頭を振り立ち上がる。遠くまで飛ばされたおかげで、手鬼からは逃れられた。見えないところまで走り切れば、私も逃げられるだろう。
さすがにこれ以上の深追いは禁物。この辺で諦めなくちゃ……。そもそも手鬼の頸はめちゃくちゃ硬い。今の私には斬れない。
逃げるが勝ちだ……悔しいけどね。
その後、他の子や獪岳と無事に合流することができた。水の呼吸の刀も、無事に欠片ごと回収できた。
夜になると、手鬼が私を探して動き回る気配がそこかしこからして恐怖心を煽りに煽ってくる。その声の恐ろしいことと言ったら!
……こんなホラーゲームは絶対にプレイしたくないや。
「あいつ、私のこと執拗に探してるね」
「そうだな。けどもうほとんど朝緋は血の匂いを纏っていない。こうして隠れていれば、そうそう見つかりはしない。他の鬼もあらかた駆除し終えてるしな」
「次の選別までに参加者用の鬼の補充ができるといいけどね……」
「そこは俺達が心配するべきじゃない」
ああ、あの頸をとれたらなあ。頸を落とせたらなあ。
草むらの影からそっと覗き見る手鬼の姿。
頑張れば刃先が届きそう。頑張れば斬り落とせそう。仇取れそう。
「おい出るのはやめろよ。もうその炎の日輪刀は限界が近い」
「ん……」
そうだった。度重なる鬼への攻撃で、この刀は折れる寸前まで追い込まれていたのだった。手鬼の頸を取るどころじゃない。他の鬼だって相手取るのは厳しい。
でもそれも致し方ないこと。だって、この刀の元の持ち主は隊士としてずっと振るい続けていたんだもの。摩耗していて当然ね。
いつも私に力を貸してくださってありがとう、名も知らぬ炎の呼吸の隊士様。
七日目の朝、最終選別が終わりを迎えた。
今回もまたかなりの数が生き残り、そして隊士になった。
私や獪岳にありがとうと笑顔で手を振り、生家や修行をつけてもらっていた育手の元へと帰っていく彼ら。
たくさんの同期に恵まれて。大して何もしていないのに感謝までされて。私は果報者だ。
それでも私は素直に喜べなかった。
悔しくて悔しくてたまらなくなる。どうしたら錆兎と真菰を助けられたのだろうか、そればかり考える。
その場にいることの叶わぬ私にはどうすることもできないのにね。
せめてあいつの頸をとって、墓前に報告したかった。仇を取ったよ、って。
ううん、やっぱり助けたい。隊士になった姿が見たい。一緒に任務に行くことだってあったかもしれない。二人に会いたい。冨岡さんもきっとそう思ってる。
だから何度だって、明槻に戻してもらう気でいる。戻る気はいくらでもある。
でもいつだってこれを最後にしたいと思う気持ちの方が強い。ごめん、錆兎……真菰……。
杏寿郎さんの未来が今回で得られるならば私は……。
「強くなりたいなぁ」
朝の日差し差し込む藤襲山の麓、同期達に手を振りながらぼそりとそう漏らす。
隣に並んだ獪岳が同じく太陽を眺めながら、言葉を返してきた。
「お前は強いだろ」
「……どこをどう見て強いと?私は強くないよ。結果的にあの鬼から逃げちゃったもの」
「あれは今の俺達には対処しようのない、異形の鬼だ。だがそれだけ強くなろうとする意志があるんだ、朝緋はすぐに朝緋の望む強さになれる。朝緋は今、十二だっけか?その歳で常中だって出来てるくらいなんだからな」
参加者の中では一番幼い十二だ。まだまだ筋力が出来上がっていない、成長途中のこの体。
仕方ないけど、弱くて弱くて……嫌になる。
早く、周りの強い人に追いつきたい。
「常中が出来ているのは獪岳もでしょ」
獪岳もまた、私よりもっともっと強い人だ。
疲労で倒れそうな状態の中、帰路を進む。肩に乗っている鎹烏のあずまが重い。もともと持っていた荷物も重い。
相変わらず隊服は私の分……というか、女性の分はまだ持たされていないけれど、獪岳によると隊服すら重く感じるとのこと。
私なんて折れているといっても、持ち帰ってきた水の呼吸の日輪刀と、折れる寸前まで追い込まれた炎の呼吸の日輪刀二本もあるんだよ。重くて重くて、ちょっとキレ散らかしそう。
……生まれた家では双子の妹だし、今は杏寿郎さんの妹だけど、それでも長女なので我慢します。
「今回の選別の中で一番強かったのは俺とお前だろうな」
「そうかもね」
「二十と少し居た奴らも、棄権する以外はあまり死んでない。俺達のおかげだと言ってくる奴も多数いた。それでいいじゃねぇか。
何くっだらねぇことを悩んでるのかしらねぇが、自分を誇りに思っておけばいいんじゃねぇ?」
「くだらなくなんかないやい!でも、まあ……そうだね」
分かれ道に差し掛かった。ここで獪岳は右の道へ、私は左の道へ行く。列車にも乗らなくては。
「せっかく隊士になれたんだ、任務で早速くたばるようなことになるんじゃねぇぞ。
……次は文を寄越せ。こちとら、朝緋の呼吸を盗む予定もあるんだからな!」
「いたっ!この乱暴者ー!!」
背中をバシバシと叩かれ、そしてその勢いのまま右へと駆けていく獪岳。超元気じゃん。
こっちはつんのめってそのまま倒れ、起き上がりが困難なほど疲れてるってのに。