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五周目 弐

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それが来たのは、四日目の夜だった。

夜に鳴く動物の声が一つとして聞こえない。風もなく、しんと静まり返っていた。まるで嵐の前の静けさそのもの。
おかしい、おかしい……何か来る。私のカンと周りの空気がそれを伝えて来る。
……鬼だね。また私の稀血に誘われて、鬼がやってきたんだ。

この選別中は自分の流れ続く稀血が、どうあっても鬼を呼び寄せてしまうことを私はわかっている。だから、夜は眠らない。夜はこうしてみんなが交代で眠る外で、番をしながらあたりを警戒している。鬼が出たら私だけを追うように仕向けて、私が走り出せばいいだけ。
そうしてこの場から離れたところで鬼の頸を一つ一つ、丁寧に落とす。
なかなかいい考えでしょ?

けれどこの考えはイレギュラーには適用されない。いくら稀血だろうと、特殊な鬼にまでこの作戦は通用しないと思う。
例えば、この山の奥に潜む、手鬼──あいつに私の稀血の催淫効果は効かな……、

「やっぱり選別の最中だぁ。ガキ共みぃつけた」

木々の向こうから件の手鬼が巨体を揺らしながらやってきて、ニタリと笑って覗き込んでいた。
目があった瞬間、全身の毛がブワリと逆立った。手鬼のことを考えたから、まさか本物が来た……!?

「て、手鬼っ!?異形の鬼よ……!敵襲!敵襲!!みんな起きて!!」

鋭く叫び、眠っているみんなを起こす私。一瞬にして飛び起きた者達が刀を取り、そして異形の鬼を前に絶句し青くなる。

「ぎゃーーっ!!」
「な、なんだこの化け物は!?」
「こんなの、選別にいていい鬼じゃない!」

獪岳までも冷や汗を垂らしている。

「なるほどな、こいつが朝緋が言っていた異形の鬼か……!」

口頭ではこういう鬼がいるよ、と伝えてあるものの、その実ほとんどの者は聞き流していたのだろう。腰を抜かす者までいた。けれどそうしていては、ただ死ぬのを待つだけだ。

「こいつを相手にしちゃ駄目!全員逃げろ!散り散りになって逃げるのっ!
手は四方八方、地面からも伸びてくる!とにかく体力の続く限り走り抜け!行けーー!!」

力の限り叫び急かせば、皆が蜘蛛の子でも散らすかのようにあちこちへと全力疾走で逃げていく。よし、速い速い!
全集中の呼吸も常中とそうでないのとでは、素早さすら全然違う。全員ができているわけじゃないけれど、常中のやり方を教えておいて良かった!!

朝緋、お前も逃げろ!」
「逃げるよ!けど、私の血の匂いを隠すことはできない!引きつけて引きつけて、皆から離れたところで引き離す!!獪岳も!行って!!」
「……ちっ!死んだら殺す!」

はい死んだら殺すまたいただきました!ほんと口悪いんだから!!

それにしてもまさか、手鬼が自分のテリトリーから、こちら方面に降りてくるとは。
誰かが、今が最終選別真っ最中だということを手鬼に知られるような行動をしたのだ。見つかったかちょっかいを出したか……なんにせよ余計なことをしてくれたわけだ。

日輪刀を抜いて手鬼に突きつけながら、その動向を探る。その目があちこちに逃げた子達をギョロリと追いかけ、そして私に向いてくる。

「俺の獲物達をよくも逃し……、あーー!!俺のかわいい狐、発見んん〜!!」

歓喜の声。鬼の目が限界まで見開いた。
狐……?今、この手鬼、狐って言った?私のこの、厄除の面のことだよね?

「スンスン、ん?稀血の匂い?俺はなんて幸運なんだ!狐の面をつけているガキがまさか稀血でもあるとは!!ああ喰いたい!早く喰わねば!!」

そういえばこの手鬼……『前』から狐面をやたら気にしていた。狐の面をつけた子を探していた。……なぜ?

「喰う前に聞いておきたい。今は一体明治何年だ?」
「は……?
鬼が年号なんて気にしたって仕方ないでしょ!それよりなんで……っ、狐の面を持つ者ばかりに固執しているのよっ!!」

変なことを聞いてくる鬼だ。そんなことに答えてやる筋合いは一つもない!なので、この隙にと水の呼吸で頸を斬り落とそうと手鬼の邪魔な腕、そして体を斬り裂く。

「俺をこの藤の牢獄に入れたのがその面を作った鱗滝だからだ!奴が彫った面の木目は全て覚えている!目印なんだよその狐面はァ!!」

今やっとわかった。この鬼が探していた狐面、その意味が。ただの復讐じゃん!
でも、お守りだけど目印、か……災厄から守ってくれるはずのお面が、まさか鬼側からすれば目印になっているだなんて。なんと皮肉なことか。

「アイツの弟子は全員殺して喰ってやるって決めているのさ!女!お前で十四人目だ!大人しく腹に収まれ!!」

無数の手が飛んできた。避ける、避ける、そして避ける。腕を斬りつけいなしながら避けて跳んでを繰り返す。

「やーーなこった!十四人目になんてなるわけないでしょ。お前はもうおしまいよ!」
「ぐぅぬぬぬぬ、強い上に速い……!
いや、宍色の髪のガキよりは弱いな!速さは花柄の着物のガキと同等だ!!」
「……え」

その言葉が耳に届いたのは、肆ノ型打ち潮で防いだその時だ。
亡くなった錆兎と真菰……?宍色の髪は錆兎の特徴だ。花柄の着物で素早いのも、真菰の……いやそんなまさか。でも……。

「貴様!その二人はどうした!?」
「ああ?それはもちろん、喰ってやったさ!
その目印をつけたガキはみぃんな、俺の腹の中よ!男は俺の頸を斬り損ねたところを頭を潰してやった!女のほうは手足を引きちぎってな、それから……」
「……ッ!うるさいもういい喋るな!聞きたくないっ!水の呼吸、弐ノ型 水車!うあああああ!!」

刃に怒りを乗せ、思い切り振るう。ああもう畜生、避けられた!!
けど、私の体は決して掴ませやしない!潰させやしない!!お前なんかに負けない!!

「怒ったか!動きがガッタガタだなぁ!花の着物のガキと同じだァ!!」

口から怒りの呼吸がぶおぶおと吐き出されている。水の呼吸には合わぬ、炎混じりの怒りの呼吸。
いや、怒ってはいけない。相手の思うツボだ。引き際だけは見極めろ!私がすべきはなんだ!?


ここで生き残り隊士になること!全ては愛する彼のために!!
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