五周目 弐
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選別が始まった。
開始と共に散り散りになる参加者達。ある者は山の上へ、ある者は茂みの中へ。川のほとりへ。木の上へ。
まるで大規模隠れ鬼だ。そんなことをしても、鬼側が先に人間目当てにそこかしこに潜んでいるからあまり無意味なのに。でも自分で気がついて対処するくらいじゃないと、隊士になってからキツいかもしれない。グッドラック!!
私はまず拠点作りへ。
日輪刀二本の他に武器にも見える鋸が私の荷物には入っている。これが何のためか?そう、拓けた場所を見つけて、そこをさらに過ごしやすい拠点とすべく、木々を倒しちゃう作戦のためだ。
倒した木は、雨風しのぐテント代わりや薪としてありがたく利用させてもらう。
自然破壊反対とかそんなこと言ってられない。だって、鬼が隠れられる場所作ったらやばいじゃん。太陽を遮るものはないほうがいいじゃん。木を倒してはいけない、なんて言われてないもーん。
鋸に炎の呼吸を纏わせて──、倒す、倒す、薙ぎ倒す!!ホワチャァァァァ!!
「炎の呼吸、伍ノ型 炎虎!!」
んーー!ひどくこざっぱりしたーー!!
あ、木々に潜んでいたらしい鬼が飛び出して向かってきた。第一村鬼発見、ねぇねぇ私に貴方の頸ちょーだい?
「血の匂いがすると思ったらやっぱりニンゲンだぁぁ!お前稀血だなぁ!肉喰わせろぉー!!」
「肉はあげないけど刃ならあげる。水の呼吸、壱ノ型 水面斬り!炎の呼吸、壱ノ型 不知火!」
右手には炎刀、左手に水刀。逆手持ちにして素早く駆け抜けながら、鬼の頸へと交差させて斬り伏せる。
スパン、鬼の頭と胴体が真っ二つに分かれて言葉もなく消える。
「すご……私かっこいい。でも片手持ちは重い
、重すぎる」
ザ!二刀流!!厨二病っぽいけれど、一度やってみたかったんだよね。
でも刀を片手で振るのが重くて難しすぎて、二度目はやらないことにする。この振り抜きの甘さ、命のやり取りでやっちゃ駄目なやつだ。
鬼との遊びは遊びじゃない。
それにしても、やっぱりこの体の状態での最終選別は厄介すぎる。常に血の匂いを纏っているのと変わらないんだものね。それも、私の血は鬼がだーいすきな稀血である。
今の鬼もすぐに気がついた。稀血に酔われる前に仕留められたから、あまり騒がれずに済んだけど……。
選別の七日間とぴったりかぶるとか、タイミング悪すぎるよ。ちょっとくらいズレていてもいいのになあ。
拠点が出来上がったあとは、食料かな。起こした火で沸かした湯を飲みながら、かつて何度も恐怖の七日間を過ごしてきた藤襲山のエリアマップについて、うんうん考え込む。頭の中におおよその地図が入っているはずなんだけど〜〜大雑把すぎてわからない!獲物の生息地と、鬼がどの地形のどのあたりに巣食っているか思い出したいんだけどな。
だって、こんな何が起こるかわからない場所では、千寿郎に持たされた食料だけじゃ最終的に足りない事態に『また』陥ってしまうもの。見つけた獲物は仕留め、きのこや山菜を採取し食料は早めに確保しておかないと。
ここに全ての食料を置いておくのも却下だ。
性善説を唱えたいよ?でも、命が奪う奪われるのギリギリの中では、自分優先になってしまうのは当然のこと。
ここを紹介したり案内した他の参加者に根こそぎ盗まれる可能性がある。だから食料は最低限、自分の手荷物の中に持っていく。重い!こんなに食べるのか私は!?うん食べてるね!!
けど私の分まで持ち逃げでもされたら何にもならないから、これが正解。兵糧攻めが一番困る。
「まあ、まだ誰も私の拠点に来てないけどね」
私や獪岳含め、参加者の皆さんが無事に合格できるように祈っておこう。
二日目の昼だ。
まだ昼間とはいえ、拠点から一歩出ればそこは木々が鬱蒼と茂る仄暗い山の中。陰っている中では鬼は昼間でも飛び出してくる。血の香り纏いし今の私に群がるのは当然のことで、少し歩くだけで現れるって何さ。流れるように頸を刎ねればそれでいいのかもしれないけど、このエンカウント率の高さは正直うざったい。
どうせ狩るなら今は動物や山菜の方がいいんだけどな。頼むから食糧となる獲物を仕留めさせて。
昼間もこれだから、夜はもっと酷い。
最初の晩……つまり昨日の夜は本当に酷かった。
鬼達との鬼ごっこはとても疲れた。一睡もできないどころか、私の血のせいで一晩中追いかけっこだった。まさに鬼ホイホイ。
隊士になったら夜に出かけるのだから今から慣れておくにこしたことはないのだけど、それでも初っ端から大量の鬼に次々追いかけられるというのはかなりキツい。足もくたくただし、眠くてたまらない。
今夜も鬼ホイホイになったらどうしよう……ううん、多分今夜も同じだろうな。
そして二日目の夜も鬼ごっこの時間が無事に終わり朝、そして昼過ぎ。気がついたら獪岳や他の参加者が私の拠点を利用するようになっていた。
獪岳は初日の時から見ていたみたい。私が一人、自然破壊をしているところも、鬼の頸をサクッと斬り落としているところも、鬼に群がられているところも見ていたとのこと。おい見てたなら助けろし。
そう思いつつ、獪岳とは今回も仲良く?なってしまった。獪岳は強い人に付いてその力の極意を知ることが好きだし、自分を評価し認めてくれる人も好きだもんね。つまり、切磋琢磨しあえる仲間が欲しい、と。私はその相手としてちょうどいいと思われたのだろう。彼のお眼鏡に適ったようで何よりだ。
私の方も強い同期には近くにいてもらいたいし、それにまだちっとも会得できていなかった雷の呼吸も教えてもらいたいもんね。
杏寿郎さんの未来のため、利用できるものはなんでも利用する。……お互いね。
そんなわけで、空いた時間には修行も行った。はー、私達ったら隊士の鑑ね。
で、今はこうして、獪岳から雷の呼吸を教わっているわけだけど。
「いいか見とけ!雷の呼吸、参ノ型 聚蚊成雷!!ほら、やってみろ!!」
獪岳が放つ型によって、大きな切り株が四方八方からの斬りつけで粉々に弾け飛んだ。鬼に放ったら一瞬で頸どころか体も細切れで吹っ飛びそうなすごい攻撃……!ぱちぱちぱち、拍手喝采!
よし、私も……と思ったところで、ああぁぁ、眠気と欠伸が〜。
「ふぁぁぁかみにゃりのこきゅー、しゃんのかたふぁぁ聚蚊成雷ぃ!
……あ、失敗!アィタタァ……」
私が担当していた切り株から狙いは外れに外れ、フラフラとした足運びの私は切り株に額をゴチン!とぶつけて終わった。本当に痛い。
「あぁ゛!?覚える気あんのかよ朝緋テメェ!!」
「覚える気満々ですとも!でも、夜はずっと舞踏会の華として鬼と踊り狂ってたもんで眠くてたまらないのよ」
鬼にモテモテなんて、ほんと嬉しくもなんともない。今のところ私は誰からもモテたくない。……杏寿郎さんからもね。
恋愛の矢印は私から杏寿郎さんに向いているだけでいい。片思いで十分。それもこれも、杏寿郎さんのためなのだ。
「ふん、鬼に群がられたくなかったら、なんの心配もない元気な状態で次の選別に参加すりゃよかっただろ。そうすりゃテメェは俺の後輩、下っ端だ。先輩としてたっぷり使ってやるよ」
「まあやだよこの人は!そんな先輩風吹かせて、私に何を要求する気なんだか!」
獪岳は確実に無事、隊士になるだろう。力強い目がそう断言してるからいいとして。なんでみるみるうちに顔を赤くさせたんだろう。
先輩が後輩に求めるものって普通はあんぱんだよね。だってこの時代、焼きそばパンないだろうし。
「バッ……!何も要求しねぇよ!」
「あんぱんのパシリさせるのかと思ったんだけど、なんでそんな真っ赤になって怒るのさ。それに次もこの状態にぶち当たるから無理」
「あっそ。とりあえずあんぱんは要らね」
あんぱん美味しいのに。やっぱり甘いのよりしょっぱいのの方がいいのかな?私も実は焼きそばパンの方が食べたい。
「ほら、次は朝緋の使う炎の型も教えろや。すぐさまモノにしてやるぜ」
「んーーー、今度じゃ駄目?隊士になってからお休みの日に教えに行く感じ」
今の私、実は睡魔の限界が近い!少しでも眠っておかないと、夜に鬼が来ても起きられなくなると思う。それの意味するところは死。
「非番に俺と朝緋が会うのか?…………ふーん、別にいいぜ」
何かを考え込み、どこか含みある答えだった。
「けど、お前はもう隊士になった気でいるんだな」
「杏寿郎さ……兄にもそれ言われた。気が早いのっておかしい?」
「隊士になるのは確定だからおかしくない。だろ?」
自信たっぷりに言われて元気が湧いてきた。獪岳に言われると、死亡フラグすらメキョ!って潰れちゃいそうだよね。
開始と共に散り散りになる参加者達。ある者は山の上へ、ある者は茂みの中へ。川のほとりへ。木の上へ。
まるで大規模隠れ鬼だ。そんなことをしても、鬼側が先に人間目当てにそこかしこに潜んでいるからあまり無意味なのに。でも自分で気がついて対処するくらいじゃないと、隊士になってからキツいかもしれない。グッドラック!!
私はまず拠点作りへ。
日輪刀二本の他に武器にも見える鋸が私の荷物には入っている。これが何のためか?そう、拓けた場所を見つけて、そこをさらに過ごしやすい拠点とすべく、木々を倒しちゃう作戦のためだ。
倒した木は、雨風しのぐテント代わりや薪としてありがたく利用させてもらう。
自然破壊反対とかそんなこと言ってられない。だって、鬼が隠れられる場所作ったらやばいじゃん。太陽を遮るものはないほうがいいじゃん。木を倒してはいけない、なんて言われてないもーん。
鋸に炎の呼吸を纏わせて──、倒す、倒す、薙ぎ倒す!!ホワチャァァァァ!!
「炎の呼吸、伍ノ型 炎虎!!」
んーー!ひどくこざっぱりしたーー!!
あ、木々に潜んでいたらしい鬼が飛び出して向かってきた。第一村鬼発見、ねぇねぇ私に貴方の頸ちょーだい?
「血の匂いがすると思ったらやっぱりニンゲンだぁぁ!お前稀血だなぁ!肉喰わせろぉー!!」
「肉はあげないけど刃ならあげる。水の呼吸、壱ノ型 水面斬り!炎の呼吸、壱ノ型 不知火!」
右手には炎刀、左手に水刀。逆手持ちにして素早く駆け抜けながら、鬼の頸へと交差させて斬り伏せる。
スパン、鬼の頭と胴体が真っ二つに分かれて言葉もなく消える。
「すご……私かっこいい。でも片手持ちは重い
、重すぎる」
ザ!二刀流!!厨二病っぽいけれど、一度やってみたかったんだよね。
でも刀を片手で振るのが重くて難しすぎて、二度目はやらないことにする。この振り抜きの甘さ、命のやり取りでやっちゃ駄目なやつだ。
鬼との遊びは遊びじゃない。
それにしても、やっぱりこの体の状態での最終選別は厄介すぎる。常に血の匂いを纏っているのと変わらないんだものね。それも、私の血は鬼がだーいすきな稀血である。
今の鬼もすぐに気がついた。稀血に酔われる前に仕留められたから、あまり騒がれずに済んだけど……。
選別の七日間とぴったりかぶるとか、タイミング悪すぎるよ。ちょっとくらいズレていてもいいのになあ。
拠点が出来上がったあとは、食料かな。起こした火で沸かした湯を飲みながら、かつて何度も恐怖の七日間を過ごしてきた藤襲山のエリアマップについて、うんうん考え込む。頭の中におおよその地図が入っているはずなんだけど〜〜大雑把すぎてわからない!獲物の生息地と、鬼がどの地形のどのあたりに巣食っているか思い出したいんだけどな。
だって、こんな何が起こるかわからない場所では、千寿郎に持たされた食料だけじゃ最終的に足りない事態に『また』陥ってしまうもの。見つけた獲物は仕留め、きのこや山菜を採取し食料は早めに確保しておかないと。
ここに全ての食料を置いておくのも却下だ。
性善説を唱えたいよ?でも、命が奪う奪われるのギリギリの中では、自分優先になってしまうのは当然のこと。
ここを紹介したり案内した他の参加者に根こそぎ盗まれる可能性がある。だから食料は最低限、自分の手荷物の中に持っていく。重い!こんなに食べるのか私は!?うん食べてるね!!
けど私の分まで持ち逃げでもされたら何にもならないから、これが正解。兵糧攻めが一番困る。
「まあ、まだ誰も私の拠点に来てないけどね」
私や獪岳含め、参加者の皆さんが無事に合格できるように祈っておこう。
二日目の昼だ。
まだ昼間とはいえ、拠点から一歩出ればそこは木々が鬱蒼と茂る仄暗い山の中。陰っている中では鬼は昼間でも飛び出してくる。血の香り纏いし今の私に群がるのは当然のことで、少し歩くだけで現れるって何さ。流れるように頸を刎ねればそれでいいのかもしれないけど、このエンカウント率の高さは正直うざったい。
どうせ狩るなら今は動物や山菜の方がいいんだけどな。頼むから食糧となる獲物を仕留めさせて。
昼間もこれだから、夜はもっと酷い。
最初の晩……つまり昨日の夜は本当に酷かった。
鬼達との鬼ごっこはとても疲れた。一睡もできないどころか、私の血のせいで一晩中追いかけっこだった。まさに鬼ホイホイ。
隊士になったら夜に出かけるのだから今から慣れておくにこしたことはないのだけど、それでも初っ端から大量の鬼に次々追いかけられるというのはかなりキツい。足もくたくただし、眠くてたまらない。
今夜も鬼ホイホイになったらどうしよう……ううん、多分今夜も同じだろうな。
そして二日目の夜も鬼ごっこの時間が無事に終わり朝、そして昼過ぎ。気がついたら獪岳や他の参加者が私の拠点を利用するようになっていた。
獪岳は初日の時から見ていたみたい。私が一人、自然破壊をしているところも、鬼の頸をサクッと斬り落としているところも、鬼に群がられているところも見ていたとのこと。おい見てたなら助けろし。
そう思いつつ、獪岳とは今回も仲良く?なってしまった。獪岳は強い人に付いてその力の極意を知ることが好きだし、自分を評価し認めてくれる人も好きだもんね。つまり、切磋琢磨しあえる仲間が欲しい、と。私はその相手としてちょうどいいと思われたのだろう。彼のお眼鏡に適ったようで何よりだ。
私の方も強い同期には近くにいてもらいたいし、それにまだちっとも会得できていなかった雷の呼吸も教えてもらいたいもんね。
杏寿郎さんの未来のため、利用できるものはなんでも利用する。……お互いね。
そんなわけで、空いた時間には修行も行った。はー、私達ったら隊士の鑑ね。
で、今はこうして、獪岳から雷の呼吸を教わっているわけだけど。
「いいか見とけ!雷の呼吸、参ノ型 聚蚊成雷!!ほら、やってみろ!!」
獪岳が放つ型によって、大きな切り株が四方八方からの斬りつけで粉々に弾け飛んだ。鬼に放ったら一瞬で頸どころか体も細切れで吹っ飛びそうなすごい攻撃……!ぱちぱちぱち、拍手喝采!
よし、私も……と思ったところで、ああぁぁ、眠気と欠伸が〜。
「ふぁぁぁかみにゃりのこきゅー、しゃんのかたふぁぁ聚蚊成雷ぃ!
……あ、失敗!アィタタァ……」
私が担当していた切り株から狙いは外れに外れ、フラフラとした足運びの私は切り株に額をゴチン!とぶつけて終わった。本当に痛い。
「あぁ゛!?覚える気あんのかよ朝緋テメェ!!」
「覚える気満々ですとも!でも、夜はずっと舞踏会の華として鬼と踊り狂ってたもんで眠くてたまらないのよ」
鬼にモテモテなんて、ほんと嬉しくもなんともない。今のところ私は誰からもモテたくない。……杏寿郎さんからもね。
恋愛の矢印は私から杏寿郎さんに向いているだけでいい。片思いで十分。それもこれも、杏寿郎さんのためなのだ。
「ふん、鬼に群がられたくなかったら、なんの心配もない元気な状態で次の選別に参加すりゃよかっただろ。そうすりゃテメェは俺の後輩、下っ端だ。先輩としてたっぷり使ってやるよ」
「まあやだよこの人は!そんな先輩風吹かせて、私に何を要求する気なんだか!」
獪岳は確実に無事、隊士になるだろう。力強い目がそう断言してるからいいとして。なんでみるみるうちに顔を赤くさせたんだろう。
先輩が後輩に求めるものって普通はあんぱんだよね。だってこの時代、焼きそばパンないだろうし。
「バッ……!何も要求しねぇよ!」
「あんぱんのパシリさせるのかと思ったんだけど、なんでそんな真っ赤になって怒るのさ。それに次もこの状態にぶち当たるから無理」
「あっそ。とりあえずあんぱんは要らね」
あんぱん美味しいのに。やっぱり甘いのよりしょっぱいのの方がいいのかな?私も実は焼きそばパンの方が食べたい。
「ほら、次は朝緋の使う炎の型も教えろや。すぐさまモノにしてやるぜ」
「んーーー、今度じゃ駄目?隊士になってからお休みの日に教えに行く感じ」
今の私、実は睡魔の限界が近い!少しでも眠っておかないと、夜に鬼が来ても起きられなくなると思う。それの意味するところは死。
「非番に俺と朝緋が会うのか?…………ふーん、別にいいぜ」
何かを考え込み、どこか含みある答えだった。
「けど、お前はもう隊士になった気でいるんだな」
「杏寿郎さ……兄にもそれ言われた。気が早いのっておかしい?」
「隊士になるのは確定だからおかしくない。だろ?」
自信たっぷりに言われて元気が湧いてきた。獪岳に言われると、死亡フラグすらメキョ!って潰れちゃいそうだよね。