二周目 弐
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杏寿郎さんに鬼殺の任が与えられた。
同じ日に槇寿朗さんも任務があったようで、家の廊下ですれ違いざま、また酷いことを言われた。
炎柱は俺の代で終わり。お前は炎柱になれない。くだらない夢を見るな、と。
杏寿郎さんはその言葉に何も言わなかったけれど、背中はすこし悲しそうで。後ろで聞いていた私はその場で怒り出しそうなほど悲しくて、後で泣いた。
だって言い返すことは杏寿郎さんが何も言わない手前もあったし、どちらも任務前だったしで憚られたんだもの。
死んでほしくない、傷ついてほしくない。その気持ちはわかるけれど、槇寿朗さんも言い方というものがあると思う。
その後千寿郎が家のことは任せてと、自分も兄上のように頑張ると、自分と杏寿郎さんを励ますかのように言って、送り出していた。
私はただにこにこと笑って、初任務に向かう杏寿郎さんを送り出した。
鬼殺の任には、常に死の危険が伴う。
それは柱も新人も同じ。
わかっているけど、自分が行くわけでもない私が不安になっては杏寿郎さんに。そして槇寿朗さんに失礼だから。
「ただいま!」
朝になり帰ってきた杏寿郎さんは、耳から血を垂らして帰ってきた。
「ええー!耳が聞こえないのですか!?だ、大丈夫なんです??」
「そんな……治るんですよね?今すぐお医者様をお呼びした方がよろしいのでは……?」
「?すまん、なんと言っているかわからん!!」
「あ。えーと……じゃあ筆談かあ」
「紙と筆をお持ちします」
しばらく筆談になった。
理由を説明して貰えば、なんと。鼓膜を自分の叩く圧で破ったらしい。
は?鬼の攻撃じゃなくて、自分で?耳を疑った。
おかげでしばらくは音がよく聞こえない状態だとのことだ。自分の声すら、ちゃんと発声できているのかよくわからなくて不安だとのこと。安心してください。言葉はちゃんと言えています。
まあ、鼓膜って二、三週間で再生するからの大丈夫かも。
鬼殺隊士は呼吸で治りを早くするから、うーむ。一週間以内には治りそうな気がする。いや、相手は杏寿郎さんだし、それよりも早かったりして?
とりあえず治るまで、少しの辛抱ですね。
今日は何が食べたいか、何をするか、何をしてもらいたいか。色んなことを筆談で会話した。
作業中に障子の隙間から差し込まれたり、台の上にいつのまにが置いてある紙は、まるで平安時代の和歌のやりとりのようで、少しだけ心が弾んだのを覚えている。
なんの気無しに恋歌を詠んでみようかと思って……恥ずかしいのでやめた。
その代わり、違う悪戯心が芽生えた。
「好きですよ、杏寿郎さん。
あなたと共に任務に行けるよう、早く鬼殺隊に入りたいです。全ての憎き鬼を討ち滅ぼし、未来を勝ち取りたい。そして叶うなら貴方と一緒の未来を…………。
なんてね」
庭で鍛錬する杏寿郎さんの様子を眺めながら、縁側で洗濯物を畳み、そう言葉にする。
普段なら聞こえてしまう声も、今は杏寿郎さんの耳が治っていないから聞こえない。
それでもドキドキした。悪戯というか、自分の心臓に悪い遊びだなあ。スリルがある。
スリルがありすぎて、流石に続きは素面じゃ言えなかった。
畳み終わった私が衣類をしまうために席を外した時、杏寿郎さんは鍛錬の手を止めたらしい。
赤い顔で自分の顔を手で覆い、ぼそりとつぶやく言葉はなんだったか。
「 」
耳がもうほとんど治っていたなんて、私は知らない。
しかし初任務で鬼を狩ったせいか、杏寿郎さんはまたひとつ覚悟を決めた顔になった。いい顔だ。いや元からかっこいいし良い顔してるけどね!
どこぞの音柱の方がかっこいいって?私の中では杏寿郎さんが一番かっこいいし強いし逞しいし賢くて美しくて綺麗で素敵なんで。素敵なんで。
こほん。
杏寿郎さんの顔を見て私もまたひとつ、覚悟した。
耳が完治して、次の任務に出立が決まった頃。私は居住まいを正して、杏寿郎さんに向き直った。
「杏寿郎兄さん」
「急に改まってどうした?」
いつになく真剣な顔の私に、刀を手入れしていた手を止めこちらに向く。ああ、別に作業しながらでいいのに。
「これからは師範と呼びます。たった今から貴方は兄ではありません」
「なっ……よもや。兄扱いはやめると?」
「はい。これは、私のけじめです。
私は今後槇寿朗さんに剣術を教わることは望めないでしょう。
ならば私の師はこれをもって貴方です。これから、貴方を師とあおぎたいと思います」
貴方の剣術を、残りの型を教えてくださいと、そう頼んでいるのだ。杏寿郎さんでさえ未だ修得中の奥義をだ。
「そういうことか。うむ!わかった!
だが、師範呼びはあまり嬉しくないな!響きは良いが俺と朝緋の仲なのに、他人行儀に感じる!!」
許可しない!と言われているわけではないので、私が強引に「師範」と呼べば、多少むずかしい顔はするが何も言わないだろう。
これから先、私が鬼殺隊に入ったとして、周りに二人が何か言われないための私なりの措置なのだ。
呼び名一つで神経質だと思うかもしれない。けれど、人はそういうところでも判断する。あっこいつ、妹だから贔屓されてるな、と。
「呼び名が変わったとしても、あなたが家族であることに変わりはありません」
「家族か……うーむ。違う意味の家族になれるような呼び名でも、俺はそろそろいいと思うのだがな」
「なんですかそれ」
「気にするな、こちらの話だ!」
なんのこっちゃ。わからないけれど、杏寿郎さんが焦るから突っ込むのはやめた。
「これからはこの煉獄家に帰ることも少なくなるのでしょう」
「階級が低いうちは各地を渡り歩くからな!」
「ええ。ですが稽古をつけて欲しいので、たまには帰ってきてくださると嬉しいです。『師範』でもあるのですからね。貴方の剣を私に見せて欲しい。
ただ、決して無茶な事はなさらずにいてほしいので、無理やり時間を作って帰ってくるのだけはやめてください」
「ああ、わかった。任務を優先しよう。
朝緋も息災でな」
息災で。
そう言われたのに、私はそのあと早々に床に伏すことになった。
ただし病気ではない。
同じ日に槇寿朗さんも任務があったようで、家の廊下ですれ違いざま、また酷いことを言われた。
炎柱は俺の代で終わり。お前は炎柱になれない。くだらない夢を見るな、と。
杏寿郎さんはその言葉に何も言わなかったけれど、背中はすこし悲しそうで。後ろで聞いていた私はその場で怒り出しそうなほど悲しくて、後で泣いた。
だって言い返すことは杏寿郎さんが何も言わない手前もあったし、どちらも任務前だったしで憚られたんだもの。
死んでほしくない、傷ついてほしくない。その気持ちはわかるけれど、槇寿朗さんも言い方というものがあると思う。
その後千寿郎が家のことは任せてと、自分も兄上のように頑張ると、自分と杏寿郎さんを励ますかのように言って、送り出していた。
私はただにこにこと笑って、初任務に向かう杏寿郎さんを送り出した。
鬼殺の任には、常に死の危険が伴う。
それは柱も新人も同じ。
わかっているけど、自分が行くわけでもない私が不安になっては杏寿郎さんに。そして槇寿朗さんに失礼だから。
「ただいま!」
朝になり帰ってきた杏寿郎さんは、耳から血を垂らして帰ってきた。
「ええー!耳が聞こえないのですか!?だ、大丈夫なんです??」
「そんな……治るんですよね?今すぐお医者様をお呼びした方がよろしいのでは……?」
「?すまん、なんと言っているかわからん!!」
「あ。えーと……じゃあ筆談かあ」
「紙と筆をお持ちします」
しばらく筆談になった。
理由を説明して貰えば、なんと。鼓膜を自分の叩く圧で破ったらしい。
は?鬼の攻撃じゃなくて、自分で?耳を疑った。
おかげでしばらくは音がよく聞こえない状態だとのことだ。自分の声すら、ちゃんと発声できているのかよくわからなくて不安だとのこと。安心してください。言葉はちゃんと言えています。
まあ、鼓膜って二、三週間で再生するからの大丈夫かも。
鬼殺隊士は呼吸で治りを早くするから、うーむ。一週間以内には治りそうな気がする。いや、相手は杏寿郎さんだし、それよりも早かったりして?
とりあえず治るまで、少しの辛抱ですね。
今日は何が食べたいか、何をするか、何をしてもらいたいか。色んなことを筆談で会話した。
作業中に障子の隙間から差し込まれたり、台の上にいつのまにが置いてある紙は、まるで平安時代の和歌のやりとりのようで、少しだけ心が弾んだのを覚えている。
なんの気無しに恋歌を詠んでみようかと思って……恥ずかしいのでやめた。
その代わり、違う悪戯心が芽生えた。
「好きですよ、杏寿郎さん。
あなたと共に任務に行けるよう、早く鬼殺隊に入りたいです。全ての憎き鬼を討ち滅ぼし、未来を勝ち取りたい。そして叶うなら貴方と一緒の未来を…………。
なんてね」
庭で鍛錬する杏寿郎さんの様子を眺めながら、縁側で洗濯物を畳み、そう言葉にする。
普段なら聞こえてしまう声も、今は杏寿郎さんの耳が治っていないから聞こえない。
それでもドキドキした。悪戯というか、自分の心臓に悪い遊びだなあ。スリルがある。
スリルがありすぎて、流石に続きは素面じゃ言えなかった。
畳み終わった私が衣類をしまうために席を外した時、杏寿郎さんは鍛錬の手を止めたらしい。
赤い顔で自分の顔を手で覆い、ぼそりとつぶやく言葉はなんだったか。
「 」
耳がもうほとんど治っていたなんて、私は知らない。
しかし初任務で鬼を狩ったせいか、杏寿郎さんはまたひとつ覚悟を決めた顔になった。いい顔だ。いや元からかっこいいし良い顔してるけどね!
どこぞの音柱の方がかっこいいって?私の中では杏寿郎さんが一番かっこいいし強いし逞しいし賢くて美しくて綺麗で素敵なんで。素敵なんで。
こほん。
杏寿郎さんの顔を見て私もまたひとつ、覚悟した。
耳が完治して、次の任務に出立が決まった頃。私は居住まいを正して、杏寿郎さんに向き直った。
「杏寿郎兄さん」
「急に改まってどうした?」
いつになく真剣な顔の私に、刀を手入れしていた手を止めこちらに向く。ああ、別に作業しながらでいいのに。
「これからは師範と呼びます。たった今から貴方は兄ではありません」
「なっ……よもや。兄扱いはやめると?」
「はい。これは、私のけじめです。
私は今後槇寿朗さんに剣術を教わることは望めないでしょう。
ならば私の師はこれをもって貴方です。これから、貴方を師とあおぎたいと思います」
貴方の剣術を、残りの型を教えてくださいと、そう頼んでいるのだ。杏寿郎さんでさえ未だ修得中の奥義をだ。
「そういうことか。うむ!わかった!
だが、師範呼びはあまり嬉しくないな!響きは良いが俺と朝緋の仲なのに、他人行儀に感じる!!」
許可しない!と言われているわけではないので、私が強引に「師範」と呼べば、多少むずかしい顔はするが何も言わないだろう。
これから先、私が鬼殺隊に入ったとして、周りに二人が何か言われないための私なりの措置なのだ。
呼び名一つで神経質だと思うかもしれない。けれど、人はそういうところでも判断する。あっこいつ、妹だから贔屓されてるな、と。
「呼び名が変わったとしても、あなたが家族であることに変わりはありません」
「家族か……うーむ。違う意味の家族になれるような呼び名でも、俺はそろそろいいと思うのだがな」
「なんですかそれ」
「気にするな、こちらの話だ!」
なんのこっちゃ。わからないけれど、杏寿郎さんが焦るから突っ込むのはやめた。
「これからはこの煉獄家に帰ることも少なくなるのでしょう」
「階級が低いうちは各地を渡り歩くからな!」
「ええ。ですが稽古をつけて欲しいので、たまには帰ってきてくださると嬉しいです。『師範』でもあるのですからね。貴方の剣を私に見せて欲しい。
ただ、決して無茶な事はなさらずにいてほしいので、無理やり時間を作って帰ってくるのだけはやめてください」
「ああ、わかった。任務を優先しよう。
朝緋も息災でな」
息災で。
そう言われたのに、私はそのあと早々に床に伏すことになった。
ただし病気ではない。