五周目 弐
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私が最終選別に参加する日がきた。
かなり早い朝の時間だから起きていないということもあるけれど、槇寿朗さんは今日がその日と気がついていてなお声はかけてこない。
お互い喧嘩ばかりしているし、今顔を合わせれば槇寿朗さんは私が最終選別に行くことを止めてくるだろうからこれでいい。
「姉上、本当に行くのですか?」
まだ日の昇らぬ門の外、千寿郎が心配そうに私を見てくる。
不安そうな顔はいつも一緒。だけど千寿郎の上背や筋肉は『前』とまたも違う。大きくなったもんだ。『今まで』は見上げられていたのに、今やほぼ同じ背丈だわ。
回数を重ねるごとに、家族全員がムキムキと屈強な男達になっていく……。煉獄家の進化は止まらない。
私を急かす風がザァザァと吹いた。荷物を一度その場に置いて、千寿郎にしっかりと向き直り返事する。
「行くよ。行くに決まってるでしょ。そのためにここまで頑張ってきたんだもの」
「ですが姉上は今……。次の選別では駄目なのですか?」
「半年後ねー。多分、半年後も時期的にあれとぶつかると思うのよね」
『前』よりさらに早い時期に最終選別に参加できるな、というレベルにギリ到達している今回。今このタイミングで私は少女から女性になっていることもあり、正直に言うと半年後の参加でも十分に間に合うのだ。
でもどちらにせよ、半年後にも私の体は今と同じ状態に陥る。いつ参加しようと変わらない。変なタイミングでなっちゃったなあ。おかげで千寿郎にまで心配されている。
そういうわけで昨日は、一人お赤飯を炊いて一合ぺろりと平らげた。ふっくら大角豆たっぷりの炊き立てもちもち餅米お赤飯。黒胡麻とお塩ぱらぱらり。うんまぁい。
「そもそも、送り出してくれるつもりで朝早く暗い内からおむすび握ってくれたんでしょ?千寿郎ったら何を今更〜」
「そうですが……。わかりました、もう言いません!ところで忘れ物はございませんか?」
その瞬間、千寿郎に向かってサムズアップ!苦笑されつつ、確認の言葉が送られた。
「おむすびの風呂敷は二つ持たれましたか?」
「この通りおかずまでしっかりたっぷり持ってるよ」
「日輪刀は?」
「炎のと水のと、二本とも持った!重い!」
「薬や傷薬と包帯は?」
「大丈夫、ばっちり入ってる!」
「手拭いや替えの下着などは?」
「やだもう下着のことまで聞いてくるのやめてよ恥ずかしい!持ってるってば!千寿郎は心配性だなぁ……お母さんみたい!」
「母親ではありません弟です。心配するのは当然でしょうに。
なら姉上、藤襲山までの路面列車に乗るためのお金は?」
「持っ……てなかった!!」
「ほら忘れ物あったじゃないですかっ」
「あぅぅ……面目ない。お財布とってくる〜」
狸寝入りしてるか爆睡しているかわからない槇寿朗さんを起こさないよう気を付けつつ、財布をとってきた私。弟の前でしょーもない忘れ物をした恥ずかしさで、もうすでに息まで切れそうだった。穴があったら入りたい。しかしさつまいも保存用の穴しかないから入るならあとで。
「忘れ物はもうないようですね」
「うぃ」
「……ところでそのお面は何ですか?お祭りに行くわけじゃないでしょうに」
あー、やっぱり指摘されたかー。忘れ物確認の最中も、ずっと頭の横につけられたお面に視線がいっていたものね。
私の側頭部にあるのは、鱗滝さんにいただいた炎模様が美しくてかわいい狐の面。これ私のイメージだって。とっても嬉しいプレゼントだよね。
「前に水の呼吸を学びに、私が数ヶ月修行に出ていたことがあったのを覚えている?」
「幼かったですが覚えております」
「これは厄除の面といって、厄除けのものなんだけど、あちらのお師様にいただいたものなの。お弟子さん達はこれをつけて最終選別に参加しているそうよ」
「そうですか。僕としては逆に目立って狙われてしまわないか心配ですね……。戦いの際に視界も悪くなりそうです」
「そう心配しないの。視界が少し不明瞭になる程度で私の速さは変わらないし、狙ってきた鬼は頸を片っ端から落とすのみ!」
着物の袖を捲って豪快に力瘤を作り、その勢いで千寿郎の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「わ、髪がぐちゃぐちゃになります〜!」
「あはは、また直せばいいでしょ。髪の毛がぐちゃぐちゃでも千寿郎はかわいいよ」
「子供扱いしないでください!男にかわいいは嬉しくないです!!」
「うぉ、ごめんごめん。千寿郎はもう男の子じゃなくて男だったね!」
今一度千寿郎の頭を、今度は優しく撫で、そしてそっと一度だけ抱き寄せる。補給完了。
「よし!では行ってきます!!」
「ええ、姉上……どうかお気をつけて……!」
無事に帰ってきてください。
遠くから叫ぶようにそう追加されて、私は再びサムズアップと共に笑顔を返した。
今回は杏寿郎さんの見送りはない。多分、任務が立て込んでいるのだろう。怪我することもなく元気でいてくれるならそれでいいや。次に会う時は、立派に隊士になった私を見せればいいのだ。
でも今までは『毎回』のようにお見送りされていたので、ちょっぴり寂しい〜〜!
そう思いながら、参加者の溢れかえる藤襲山へと入山する。
少し早く参加してしまったから、獪岳はいないだろうな。それもまたちょっぴり寂し……えええええ!?いたーー!?
参加者の中に、不機嫌そうな黒髪を見つけてしまった。
獪岳も私と同じで強くなれたのがいつもより早かったのかな?つまり力の持ち越しが私と同じで発生しているの??なんてね。
わあ獪岳偶然ね!運命かな!?
そう話かけたいと思ったけれど、よく考えたら初対面になるのよね。軽々しく声をかけたりなんかしたら、警戒されるだろうし嫌われるだろうし、そもそもはっ倒されそう。何だテメェ、って口悪い言葉と共に。
選別の最中に知り合えればめっけもん、程度に考えておこう。私は遊びに来たわけじゃない。
それに私は今回、他の参加者とそこまで馴れ合う気はない。
もちろん、求められたら助けるし食料も分けるよ?最初に作る予定の拠点も開放する。だけれど、今回は必要以上に慣れあったりはしない。そんな暇は私にはない。
途中で棄権したい人は棄権すればいいし、私のあとに着いてくる他の人のことも、基本は放っておく。自分の身はなるべく自分で守れ、というスタンスだ。
自分の身だけで手一杯。『前』みたいに他人を守る余裕はない。私だってそんなには強くないもの。ただ単に、隊士になれるであろう時期が早まった、それだけ。
鬼の頸を刎ねることに関してもまた、無理に行ったりしない。
向かってきた鬼の頸は遠慮なく刎ねるけどね。私の別名は妖怪頸オイテケだ。
あ、ただし手鬼には会いたくないな。思い出すだけで怪我をしていない真っ新なはずの脇腹の傷跡が痛む……!
かなり早い朝の時間だから起きていないということもあるけれど、槇寿朗さんは今日がその日と気がついていてなお声はかけてこない。
お互い喧嘩ばかりしているし、今顔を合わせれば槇寿朗さんは私が最終選別に行くことを止めてくるだろうからこれでいい。
「姉上、本当に行くのですか?」
まだ日の昇らぬ門の外、千寿郎が心配そうに私を見てくる。
不安そうな顔はいつも一緒。だけど千寿郎の上背や筋肉は『前』とまたも違う。大きくなったもんだ。『今まで』は見上げられていたのに、今やほぼ同じ背丈だわ。
回数を重ねるごとに、家族全員がムキムキと屈強な男達になっていく……。煉獄家の進化は止まらない。
私を急かす風がザァザァと吹いた。荷物を一度その場に置いて、千寿郎にしっかりと向き直り返事する。
「行くよ。行くに決まってるでしょ。そのためにここまで頑張ってきたんだもの」
「ですが姉上は今……。次の選別では駄目なのですか?」
「半年後ねー。多分、半年後も時期的にあれとぶつかると思うのよね」
『前』よりさらに早い時期に最終選別に参加できるな、というレベルにギリ到達している今回。今このタイミングで私は少女から女性になっていることもあり、正直に言うと半年後の参加でも十分に間に合うのだ。
でもどちらにせよ、半年後にも私の体は今と同じ状態に陥る。いつ参加しようと変わらない。変なタイミングでなっちゃったなあ。おかげで千寿郎にまで心配されている。
そういうわけで昨日は、一人お赤飯を炊いて一合ぺろりと平らげた。ふっくら大角豆たっぷりの炊き立てもちもち餅米お赤飯。黒胡麻とお塩ぱらぱらり。うんまぁい。
「そもそも、送り出してくれるつもりで朝早く暗い内からおむすび握ってくれたんでしょ?千寿郎ったら何を今更〜」
「そうですが……。わかりました、もう言いません!ところで忘れ物はございませんか?」
その瞬間、千寿郎に向かってサムズアップ!苦笑されつつ、確認の言葉が送られた。
「おむすびの風呂敷は二つ持たれましたか?」
「この通りおかずまでしっかりたっぷり持ってるよ」
「日輪刀は?」
「炎のと水のと、二本とも持った!重い!」
「薬や傷薬と包帯は?」
「大丈夫、ばっちり入ってる!」
「手拭いや替えの下着などは?」
「やだもう下着のことまで聞いてくるのやめてよ恥ずかしい!持ってるってば!千寿郎は心配性だなぁ……お母さんみたい!」
「母親ではありません弟です。心配するのは当然でしょうに。
なら姉上、藤襲山までの路面列車に乗るためのお金は?」
「持っ……てなかった!!」
「ほら忘れ物あったじゃないですかっ」
「あぅぅ……面目ない。お財布とってくる〜」
狸寝入りしてるか爆睡しているかわからない槇寿朗さんを起こさないよう気を付けつつ、財布をとってきた私。弟の前でしょーもない忘れ物をした恥ずかしさで、もうすでに息まで切れそうだった。穴があったら入りたい。しかしさつまいも保存用の穴しかないから入るならあとで。
「忘れ物はもうないようですね」
「うぃ」
「……ところでそのお面は何ですか?お祭りに行くわけじゃないでしょうに」
あー、やっぱり指摘されたかー。忘れ物確認の最中も、ずっと頭の横につけられたお面に視線がいっていたものね。
私の側頭部にあるのは、鱗滝さんにいただいた炎模様が美しくてかわいい狐の面。これ私のイメージだって。とっても嬉しいプレゼントだよね。
「前に水の呼吸を学びに、私が数ヶ月修行に出ていたことがあったのを覚えている?」
「幼かったですが覚えております」
「これは厄除の面といって、厄除けのものなんだけど、あちらのお師様にいただいたものなの。お弟子さん達はこれをつけて最終選別に参加しているそうよ」
「そうですか。僕としては逆に目立って狙われてしまわないか心配ですね……。戦いの際に視界も悪くなりそうです」
「そう心配しないの。視界が少し不明瞭になる程度で私の速さは変わらないし、狙ってきた鬼は頸を片っ端から落とすのみ!」
着物の袖を捲って豪快に力瘤を作り、その勢いで千寿郎の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「わ、髪がぐちゃぐちゃになります〜!」
「あはは、また直せばいいでしょ。髪の毛がぐちゃぐちゃでも千寿郎はかわいいよ」
「子供扱いしないでください!男にかわいいは嬉しくないです!!」
「うぉ、ごめんごめん。千寿郎はもう男の子じゃなくて男だったね!」
今一度千寿郎の頭を、今度は優しく撫で、そしてそっと一度だけ抱き寄せる。補給完了。
「よし!では行ってきます!!」
「ええ、姉上……どうかお気をつけて……!」
無事に帰ってきてください。
遠くから叫ぶようにそう追加されて、私は再びサムズアップと共に笑顔を返した。
今回は杏寿郎さんの見送りはない。多分、任務が立て込んでいるのだろう。怪我することもなく元気でいてくれるならそれでいいや。次に会う時は、立派に隊士になった私を見せればいいのだ。
でも今までは『毎回』のようにお見送りされていたので、ちょっぴり寂しい〜〜!
そう思いながら、参加者の溢れかえる藤襲山へと入山する。
少し早く参加してしまったから、獪岳はいないだろうな。それもまたちょっぴり寂し……えええええ!?いたーー!?
参加者の中に、不機嫌そうな黒髪を見つけてしまった。
獪岳も私と同じで強くなれたのがいつもより早かったのかな?つまり力の持ち越しが私と同じで発生しているの??なんてね。
わあ獪岳偶然ね!運命かな!?
そう話かけたいと思ったけれど、よく考えたら初対面になるのよね。軽々しく声をかけたりなんかしたら、警戒されるだろうし嫌われるだろうし、そもそもはっ倒されそう。何だテメェ、って口悪い言葉と共に。
選別の最中に知り合えればめっけもん、程度に考えておこう。私は遊びに来たわけじゃない。
それに私は今回、他の参加者とそこまで馴れ合う気はない。
もちろん、求められたら助けるし食料も分けるよ?最初に作る予定の拠点も開放する。だけれど、今回は必要以上に慣れあったりはしない。そんな暇は私にはない。
途中で棄権したい人は棄権すればいいし、私のあとに着いてくる他の人のことも、基本は放っておく。自分の身はなるべく自分で守れ、というスタンスだ。
自分の身だけで手一杯。『前』みたいに他人を守る余裕はない。私だってそんなには強くないもの。ただ単に、隊士になれるであろう時期が早まった、それだけ。
鬼の頸を刎ねることに関してもまた、無理に行ったりしない。
向かってきた鬼の頸は遠慮なく刎ねるけどね。私の別名は妖怪頸オイテケだ。
あ、ただし手鬼には会いたくないな。思い出すだけで怪我をしていない真っ新なはずの脇腹の傷跡が痛む……!