五周目 壱
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私は杏寿郎さんが私に向ける感情以上に、杏寿郎さんのことが好きだ。
だけどあと一歩が踏み出せない。踏み出す事を、私は禁止した。
だって貴方の命が最優先だから。貴方の未来が得られないなら、私の気持ちなんて……。
熱のこもった視線を向けながら杏寿郎さんが言葉を紡ぐ。
「俺は最終選別で、死を覚悟した瞬間があった。その時、思い描いたのは朝緋、君のことだった。こんなところで死ねない、朝緋に会いたい。好きだと伝えたいと思った。
俺は自分の気持ちに素直でいたい」
頭を髪を、そして頬を滑り降りるように撫でて、撫でて、指を這わせて今ここにいる私という温もりを求め、確かめている。
指が絡められた。恋人のような繋ぎ方の熱い手のひら。
「だから朝緋が師や兄と思っていようと、聞きたくなかろうと、俺の気持ちは変わらないし絶対に聞いてもらう」
「やだってば……」
ふるふると首を振って拒否するも、杏寿郎さんは強硬してきた。
「いいや聞いてもらうぞ!いーまーすーぐーにー!!」
「聞かないって言ってるのに……ぁいだだだだだ!?」
耳を手で覆おうとしたけれど、それも防がれる。腕を変な方向に捻りあげられ、動きも封じられてしまった。
「折れるー!腕折れるー!!」
「む、すまん!」
捻られた腕は解放されたけれど、なぜか代わりに後ろから拘束するように抱きしめられてしまった。
「これで痛くはなかろう」
「痛くはない、けど……こんな風に抱きしめる必要なくない?」
「こうでもしないと朝緋は逃げてしまいそうだからな」
う、図星すぎる……。相変わらず杏寿郎さんは、私の事をよく知っている。
「俺は君のことを好いている。
俺にとっての、かけがえのない大切な人だ。愛しい人だ。
朝緋にはそれを理解してもらいたい」
耳元で囁かれ、杏寿郎さんが放った言葉の一つ一つが、じんわり染み込んできた。
それに、後ろから回された手のひらが頭やお腹を撫でる動きがあまりにも温かくて、気持ちよくて。流されてしまいそう……。
気がついた時には至近距離にあった唇を、あわてて手で防いだ。
「その先は駄目ですよ。……ほんっと強引だなあ、拒否権皆無じゃないですか」
「ああ、拒否する暇なんて与えんよ」
「貴方の気持ちはわかりました。ありがとう、嬉しいです。でも、私は師や兄としてしか見ません」
少なくとも、今は。
「…………わかった。
だが!いつか君からも好きと言わせるぞ!!朝緋の異性としての好意の矢印は、明らかに俺に向いている!それは知っているのだからな!」
バレている……隠していたつもりなんだけど、杏寿郎さん本人にしっかりと私の気持ちはバレている。私、そんなに顔に出やすいかしら。
「まー!諦めの悪いお兄ちゃんだことっ!」
「俺は手に入れたいと思ったもの目掛けて、まっすぐ突き進む男だからな!」
真っ直ぐ突き進む……。猪突猛進?伊之助かな?あの三人に早く会って、ビシバシ鍛えたい。少しでも目の前の大切な人の未来を勝ち取る為に……。
「だが継子にはする!鬼殺での鍛錬と、私事の恋路はまた別の話だからな!俺の修行も厳しいぞ」
ようやく解放された体。肩をぽむち、と叩かれて我に返る。修行が厳しいだって?杏寿郎さんの修行内容なら、この体はすべて記憶している。
「望むところです」
他の継子が逃げ出すキツいその内容も、私にとっては望ましく思うものばかり。それに、鱗滝さんのところでのハードな修行に耐えた私に死角はない。
鱗滝さんのところでのブートキャンプ内容を教えれば、杏寿郎さんの顔が曇った。軽く手紙で伝えたことしか知らないもんね。
杏寿郎さんは、自分の考えていた修行内容も見直すのは当然のこと、かつて槇寿朗さんがつけてくれた修行はまだまだ甘いものだったとわかったようだった。
「ああそうだ。日輪刀はどうする?朝緋の持っているものは水の呼吸のものだろう」
「あ、忘れてました」
「そんな大事なことは忘れては駄目だろう!
君もいずれは最終選別へと挑む。その時に炎の呼吸の刀がないと困るぞ。朝緋は水の呼吸でなく、炎の呼吸を主力に使う隊士なのだからな!!」
炎の呼吸を主力に使う、というのをしっかり強調している。杏寿郎さんも、私がら水の呼吸を使う事をいい加減認めてはいるが、炎の呼吸の使い手として、まだまだ対抗心があるようだ。
「どこかに炎の呼吸の日輪刀は余っていないかな?」
「うむ!そうだな、朝緋の最終選別までには探しておこう!!」
ああ、きっとまたあの日輪刀が届くんだろうな……。持ち主の死という未来も防いであげたいところだけれど、こればっかりは私にはどうもできない。
今の私の小さくて弱い手のひらでは、そんなにたくさんの命を掬い取れない。全てを掬い上げようとすれば、手のひらに包み込んだ一番大切なものを失ってしまうかもしれない……。
その後、槇寿朗さんの任務放棄が増えてきた。暴力や暴言が増える事を見越し、先手必勝で煉獄家で雇い入れていた奉公人の方々を、私の方で解雇させてもらった。
ごめんね……こうしないと傷つくのは奉公人の方々なんだ。
ぶつけられなくなった怒りはほとんど私に向かい。小さな喧嘩が絶えなくなった煉獄家。
そんな折、杏寿郎さんが私に渡すための炎の呼吸の日輪刀を持ってきた。
やはり、いつもと同じ日輪刀だ。
「朝緋、せっかく炎の呼吸の日輪刀があるのだから、最終選別前に俺と稽古しよう!」
「ええ。私からもぜひお願いします」
真剣の日輪刀同士でね。
確かにこの肉体でたくさんの鬼に囲まれるのは恐ろしいし脅威だし、あの場所には手がたくさんある異形の鬼もいる。
けれど最終選別は私が歩む道の、一つの通過点に過ぎない。
杏寿郎さんの未来のため、そして錆兎や真菰の意志を継ぐため、先へと繋ぐため、私は刃を振るう。いつかあの上弦の鬼の頸に……ううん、全ての鬼の頂点に立つ、鬼の首領の頸にも届くように。
そう思えばこそ、最後になるだろう打ち稽古にも身が入った。
だけどあと一歩が踏み出せない。踏み出す事を、私は禁止した。
だって貴方の命が最優先だから。貴方の未来が得られないなら、私の気持ちなんて……。
熱のこもった視線を向けながら杏寿郎さんが言葉を紡ぐ。
「俺は最終選別で、死を覚悟した瞬間があった。その時、思い描いたのは朝緋、君のことだった。こんなところで死ねない、朝緋に会いたい。好きだと伝えたいと思った。
俺は自分の気持ちに素直でいたい」
頭を髪を、そして頬を滑り降りるように撫でて、撫でて、指を這わせて今ここにいる私という温もりを求め、確かめている。
指が絡められた。恋人のような繋ぎ方の熱い手のひら。
「だから朝緋が師や兄と思っていようと、聞きたくなかろうと、俺の気持ちは変わらないし絶対に聞いてもらう」
「やだってば……」
ふるふると首を振って拒否するも、杏寿郎さんは強硬してきた。
「いいや聞いてもらうぞ!いーまーすーぐーにー!!」
「聞かないって言ってるのに……ぁいだだだだだ!?」
耳を手で覆おうとしたけれど、それも防がれる。腕を変な方向に捻りあげられ、動きも封じられてしまった。
「折れるー!腕折れるー!!」
「む、すまん!」
捻られた腕は解放されたけれど、なぜか代わりに後ろから拘束するように抱きしめられてしまった。
「これで痛くはなかろう」
「痛くはない、けど……こんな風に抱きしめる必要なくない?」
「こうでもしないと朝緋は逃げてしまいそうだからな」
う、図星すぎる……。相変わらず杏寿郎さんは、私の事をよく知っている。
「俺は君のことを好いている。
俺にとっての、かけがえのない大切な人だ。愛しい人だ。
朝緋にはそれを理解してもらいたい」
耳元で囁かれ、杏寿郎さんが放った言葉の一つ一つが、じんわり染み込んできた。
それに、後ろから回された手のひらが頭やお腹を撫でる動きがあまりにも温かくて、気持ちよくて。流されてしまいそう……。
気がついた時には至近距離にあった唇を、あわてて手で防いだ。
「その先は駄目ですよ。……ほんっと強引だなあ、拒否権皆無じゃないですか」
「ああ、拒否する暇なんて与えんよ」
「貴方の気持ちはわかりました。ありがとう、嬉しいです。でも、私は師や兄としてしか見ません」
少なくとも、今は。
「…………わかった。
だが!いつか君からも好きと言わせるぞ!!朝緋の異性としての好意の矢印は、明らかに俺に向いている!それは知っているのだからな!」
バレている……隠していたつもりなんだけど、杏寿郎さん本人にしっかりと私の気持ちはバレている。私、そんなに顔に出やすいかしら。
「まー!諦めの悪いお兄ちゃんだことっ!」
「俺は手に入れたいと思ったもの目掛けて、まっすぐ突き進む男だからな!」
真っ直ぐ突き進む……。猪突猛進?伊之助かな?あの三人に早く会って、ビシバシ鍛えたい。少しでも目の前の大切な人の未来を勝ち取る為に……。
「だが継子にはする!鬼殺での鍛錬と、私事の恋路はまた別の話だからな!俺の修行も厳しいぞ」
ようやく解放された体。肩をぽむち、と叩かれて我に返る。修行が厳しいだって?杏寿郎さんの修行内容なら、この体はすべて記憶している。
「望むところです」
他の継子が逃げ出すキツいその内容も、私にとっては望ましく思うものばかり。それに、鱗滝さんのところでのハードな修行に耐えた私に死角はない。
鱗滝さんのところでのブートキャンプ内容を教えれば、杏寿郎さんの顔が曇った。軽く手紙で伝えたことしか知らないもんね。
杏寿郎さんは、自分の考えていた修行内容も見直すのは当然のこと、かつて槇寿朗さんがつけてくれた修行はまだまだ甘いものだったとわかったようだった。
「ああそうだ。日輪刀はどうする?朝緋の持っているものは水の呼吸のものだろう」
「あ、忘れてました」
「そんな大事なことは忘れては駄目だろう!
君もいずれは最終選別へと挑む。その時に炎の呼吸の刀がないと困るぞ。朝緋は水の呼吸でなく、炎の呼吸を主力に使う隊士なのだからな!!」
炎の呼吸を主力に使う、というのをしっかり強調している。杏寿郎さんも、私がら水の呼吸を使う事をいい加減認めてはいるが、炎の呼吸の使い手として、まだまだ対抗心があるようだ。
「どこかに炎の呼吸の日輪刀は余っていないかな?」
「うむ!そうだな、朝緋の最終選別までには探しておこう!!」
ああ、きっとまたあの日輪刀が届くんだろうな……。持ち主の死という未来も防いであげたいところだけれど、こればっかりは私にはどうもできない。
今の私の小さくて弱い手のひらでは、そんなにたくさんの命を掬い取れない。全てを掬い上げようとすれば、手のひらに包み込んだ一番大切なものを失ってしまうかもしれない……。
その後、槇寿朗さんの任務放棄が増えてきた。暴力や暴言が増える事を見越し、先手必勝で煉獄家で雇い入れていた奉公人の方々を、私の方で解雇させてもらった。
ごめんね……こうしないと傷つくのは奉公人の方々なんだ。
ぶつけられなくなった怒りはほとんど私に向かい。小さな喧嘩が絶えなくなった煉獄家。
そんな折、杏寿郎さんが私に渡すための炎の呼吸の日輪刀を持ってきた。
やはり、いつもと同じ日輪刀だ。
「朝緋、せっかく炎の呼吸の日輪刀があるのだから、最終選別前に俺と稽古しよう!」
「ええ。私からもぜひお願いします」
真剣の日輪刀同士でね。
確かにこの肉体でたくさんの鬼に囲まれるのは恐ろしいし脅威だし、あの場所には手がたくさんある異形の鬼もいる。
けれど最終選別は私が歩む道の、一つの通過点に過ぎない。
杏寿郎さんの未来のため、そして錆兎や真菰の意志を継ぐため、先へと繋ぐため、私は刃を振るう。いつかあの上弦の鬼の頸に……ううん、全ての鬼の頂点に立つ、鬼の首領の頸にも届くように。
そう思えばこそ、最後になるだろう打ち稽古にも身が入った。