五周目 壱
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「朝緋!君の作るさつまいもの味噌汁が飲みたい!!」
隊士として活躍する杏寿郎さんが、久しぶりに帰ってきた。いつもよりもかなり早い時期に声変わりした、低くてかっこいい声と共に。
「おかえりなさい、杏寿郎兄さん」
私は匂いフェチでもあるが、声フェチでもある。杏寿郎さんの声は大好きだ。
君の味噌汁が飲みたいだなんて、まるでプロポーズだし、心臓に悪いからその声でいきなり背後から言うのはやめてほしい……。なので言葉では普通に返しているが、内心では大騒ぎ。
好きすぎて赤面は免れなかった。
「ああただいま!……朝緋はなぜ、顔を赤くしているのだ?」
「う、あの……その、お声が大人の男性になったんだなぁ……って。ちょっと、いやかなり、かっこよくって」
「ん?声が小さいぞ」
「ヒィ!頼むから私の顔覗き込むのやめて〜」
この確信犯〜!
声もさることながら、ずずいと覗き込まれて心臓やら魂やらがまろびでそうである。
お顔が大変よろしい。これでは恋文が届くのも納得ね。
杏寿郎さん宛てにと煉獄家に届く恋文を渡さなくてはならない、私のもやもやする気持ちを考えてよ女性隊士のみなさん。
頼むから妹の私経由でなく、本人に直接届くようにしてください。私これでも杏寿郎さんのことこっそりお慕いしてるんだけど?
そうなの。杏寿郎さんたら男性隊士からの信頼が厚いだけでなく、女性隊士からも好かれてるのよね。わかるー。
でも『前』まではそんなにたくさんの女性から言い寄られてなんて……、ううん、結構人気あったな。だってあの性格だもの。柱の中でも話しかけやすい人よね。
さらには『今回』の杏寿郎さんたら、さらに上背も高くなってて筋肉もしっかりついていてかっこいいもの。んー、肉と魚と牛乳様々かな。
「声変わりした俺の声がそんなにいいのか?朝緋は変わっているなぁ。よし、ならば至近距離から聞いてもらおう!!
味噌汁だけでなく焼き芋を焼いてほしい!!!!」
うるさっ!!こんなにかっこよくなったのに、求めるのは芋!花より団子とは、ブレないな杏寿郎さん!
「それだとただうるさいだけ」
色気のない、食い気しか感じない声だった。一瞬にして真顔に戻る私。
しかし食べたいと言われた通り、かなりのさつまいも料理をこしらえたのは言うまでもなく。
さて、声変わりの時期がきたとなれば、呼び方も早めに師範にしておかなくては。
公私混同してしまわないよう、心の中に切り替えのためのレバーの役割を担うキーワードである『呼び名』。きちんと設定しておかねばならない。
「いっぱい食べてね、師範」
揚げたてほやほやの乱切りさつまいもを、飴色した水飴の中に投入。しっかり絡めて黒胡麻パラリ。ホクホクカリカリの食感の大学芋をどどんと大皿で提供する。
ツヤツヤ輝くそれに負けないくらい、杏寿郎さんの目も喜びに輝いていた。
「おおお、美味そうな飴芋だな!いただきま……、ん?師範とな?朝緋は何故いきなり師範などと呼んだ?」
「まあまあ、食べながらで」
「む、むう……。んん、んんん!?うまいっ!わっしょい!!なんだこれは、いつもより美味いな!?」
「飴の中に蜂蜜使ってるからじゃない?」
欲を言うなら蜜璃印の蜂蜜がいいんだけど、それにはまだ早いもんね。
「なるほど……わっしょいな味なわけだ!」
「わっしょいな味って……ふふふ」
はいうまいわっしょいいただきました〜。色気ない言葉だけれど、これはこれで特別感があって好き。これぞ煉獄杏寿郎という感じがする。
好きな人には、好きなものをいっぱい食べて笑顔でいてほしいよね。
「それで、先ほどの話だが」
「えっとですね、師範と呼んだのは隊士になった時に継子にしていただきたいという理由からなんです。駄目でしたか?外でお会いした際に、兄であると明確にわかる呼び方をすれば、私が隊士になった時に妹だから贔屓されていると勘違いをされてしまうと思いまして」
「隊士になった時か。朝緋はすでに最終選別を突破した気でいるのだな」
「弱いくせにごめん。気を悪くした?」
私は錆兎と真菰の意志を継がなくてはならない。隊士にならねばならない。だから、最終選別如きで躓いているわけにいかないのだ。
すでに、杏寿郎さんの未来のためだけではなく、私には他の目的ができている。
色んな人と過ごして来たことで、私には杏寿郎さん以外にも守りたい大切なものがたくさんできてしまった。
「いいや。悪いことではなかろう!隊士になりたくば、それくらいの気概がなければな!
だがすまん!どちらにせよ俺は朝緋を妹と思っていないし、あまり弟子として扱いたくもない!」
「え……」
断られた!?妹でもない!?家族だと、ずっと認めてくださっていなかった?そんな……。『今回』の出会いの時に、私は何か杏寿郎さんの気に食わないことをしでかしてしまったのだろうか。
「ああいや、妹であることは間違いない。家族だと思っている。それに鬼殺の場などでは弟子であろうな。だがそうではないのだ」
「妹で家族で弟子なことは変わりない?でも、そうではない?」
他に何か、私が置かれるべき立ち位置があっただろうか。まさかライバル?いずれ柱となる杏寿郎さんのライバル的な立ち位置?何それかっこいい!けれど恐れ多くて辞退したい……。
「俺は君を……」
高い位置に括られていた髪の毛を、杏寿郎さんの指がするりと解いていく。
咲いたばかりの花でも慈しむように細められたその瞳には、私の顔が閉じ込められている。
……まさか。ううん、これはそのまさかだ。だって、今まで私が何度、杏寿郎さんのこの顔を見て来たと思ってるの?
杏寿郎さんはいつから私のことを……。そうならないようにと気をつけて来たのに。
人の気持ちというのは、管理できないものなのね。
続きが紡がれるその前に、私はその唇に待ったをかけた。
「お願い、それは言わないでください。聞きたくないの」
「…………朝緋は俺のことが嫌いなのか?」
好きか嫌いか。中間の曖昧な答えはなく、杏寿郎さんにはそのどちらかしかない。
「嫌いじゃないよ。私は貴方を師として、兄として慕っております」
「師に、兄……あくまでも俺は、朝緋にとってそういう存在でしかないのだな」
違うよ。本当は違う。
そんな悲しい表情、本当は見たくない。
ごめんなさい。
隊士として活躍する杏寿郎さんが、久しぶりに帰ってきた。いつもよりもかなり早い時期に声変わりした、低くてかっこいい声と共に。
「おかえりなさい、杏寿郎兄さん」
私は匂いフェチでもあるが、声フェチでもある。杏寿郎さんの声は大好きだ。
君の味噌汁が飲みたいだなんて、まるでプロポーズだし、心臓に悪いからその声でいきなり背後から言うのはやめてほしい……。なので言葉では普通に返しているが、内心では大騒ぎ。
好きすぎて赤面は免れなかった。
「ああただいま!……朝緋はなぜ、顔を赤くしているのだ?」
「う、あの……その、お声が大人の男性になったんだなぁ……って。ちょっと、いやかなり、かっこよくって」
「ん?声が小さいぞ」
「ヒィ!頼むから私の顔覗き込むのやめて〜」
この確信犯〜!
声もさることながら、ずずいと覗き込まれて心臓やら魂やらがまろびでそうである。
お顔が大変よろしい。これでは恋文が届くのも納得ね。
杏寿郎さん宛てにと煉獄家に届く恋文を渡さなくてはならない、私のもやもやする気持ちを考えてよ女性隊士のみなさん。
頼むから妹の私経由でなく、本人に直接届くようにしてください。私これでも杏寿郎さんのことこっそりお慕いしてるんだけど?
そうなの。杏寿郎さんたら男性隊士からの信頼が厚いだけでなく、女性隊士からも好かれてるのよね。わかるー。
でも『前』まではそんなにたくさんの女性から言い寄られてなんて……、ううん、結構人気あったな。だってあの性格だもの。柱の中でも話しかけやすい人よね。
さらには『今回』の杏寿郎さんたら、さらに上背も高くなってて筋肉もしっかりついていてかっこいいもの。んー、肉と魚と牛乳様々かな。
「声変わりした俺の声がそんなにいいのか?朝緋は変わっているなぁ。よし、ならば至近距離から聞いてもらおう!!
味噌汁だけでなく焼き芋を焼いてほしい!!!!」
うるさっ!!こんなにかっこよくなったのに、求めるのは芋!花より団子とは、ブレないな杏寿郎さん!
「それだとただうるさいだけ」
色気のない、食い気しか感じない声だった。一瞬にして真顔に戻る私。
しかし食べたいと言われた通り、かなりのさつまいも料理をこしらえたのは言うまでもなく。
さて、声変わりの時期がきたとなれば、呼び方も早めに師範にしておかなくては。
公私混同してしまわないよう、心の中に切り替えのためのレバーの役割を担うキーワードである『呼び名』。きちんと設定しておかねばならない。
「いっぱい食べてね、師範」
揚げたてほやほやの乱切りさつまいもを、飴色した水飴の中に投入。しっかり絡めて黒胡麻パラリ。ホクホクカリカリの食感の大学芋をどどんと大皿で提供する。
ツヤツヤ輝くそれに負けないくらい、杏寿郎さんの目も喜びに輝いていた。
「おおお、美味そうな飴芋だな!いただきま……、ん?師範とな?朝緋は何故いきなり師範などと呼んだ?」
「まあまあ、食べながらで」
「む、むう……。んん、んんん!?うまいっ!わっしょい!!なんだこれは、いつもより美味いな!?」
「飴の中に蜂蜜使ってるからじゃない?」
欲を言うなら蜜璃印の蜂蜜がいいんだけど、それにはまだ早いもんね。
「なるほど……わっしょいな味なわけだ!」
「わっしょいな味って……ふふふ」
はいうまいわっしょいいただきました〜。色気ない言葉だけれど、これはこれで特別感があって好き。これぞ煉獄杏寿郎という感じがする。
好きな人には、好きなものをいっぱい食べて笑顔でいてほしいよね。
「それで、先ほどの話だが」
「えっとですね、師範と呼んだのは隊士になった時に継子にしていただきたいという理由からなんです。駄目でしたか?外でお会いした際に、兄であると明確にわかる呼び方をすれば、私が隊士になった時に妹だから贔屓されていると勘違いをされてしまうと思いまして」
「隊士になった時か。朝緋はすでに最終選別を突破した気でいるのだな」
「弱いくせにごめん。気を悪くした?」
私は錆兎と真菰の意志を継がなくてはならない。隊士にならねばならない。だから、最終選別如きで躓いているわけにいかないのだ。
すでに、杏寿郎さんの未来のためだけではなく、私には他の目的ができている。
色んな人と過ごして来たことで、私には杏寿郎さん以外にも守りたい大切なものがたくさんできてしまった。
「いいや。悪いことではなかろう!隊士になりたくば、それくらいの気概がなければな!
だがすまん!どちらにせよ俺は朝緋を妹と思っていないし、あまり弟子として扱いたくもない!」
「え……」
断られた!?妹でもない!?家族だと、ずっと認めてくださっていなかった?そんな……。『今回』の出会いの時に、私は何か杏寿郎さんの気に食わないことをしでかしてしまったのだろうか。
「ああいや、妹であることは間違いない。家族だと思っている。それに鬼殺の場などでは弟子であろうな。だがそうではないのだ」
「妹で家族で弟子なことは変わりない?でも、そうではない?」
他に何か、私が置かれるべき立ち位置があっただろうか。まさかライバル?いずれ柱となる杏寿郎さんのライバル的な立ち位置?何それかっこいい!けれど恐れ多くて辞退したい……。
「俺は君を……」
高い位置に括られていた髪の毛を、杏寿郎さんの指がするりと解いていく。
咲いたばかりの花でも慈しむように細められたその瞳には、私の顔が閉じ込められている。
……まさか。ううん、これはそのまさかだ。だって、今まで私が何度、杏寿郎さんのこの顔を見て来たと思ってるの?
杏寿郎さんはいつから私のことを……。そうならないようにと気をつけて来たのに。
人の気持ちというのは、管理できないものなのね。
続きが紡がれるその前に、私はその唇に待ったをかけた。
「お願い、それは言わないでください。聞きたくないの」
「…………朝緋は俺のことが嫌いなのか?」
好きか嫌いか。中間の曖昧な答えはなく、杏寿郎さんにはそのどちらかしかない。
「嫌いじゃないよ。私は貴方を師として、兄として慕っております」
「師に、兄……あくまでも俺は、朝緋にとってそういう存在でしかないのだな」
違うよ。本当は違う。
そんな悲しい表情、本当は見たくない。
ごめんなさい。