五周目 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼が完全に消滅するのを待って私は耳栓を抜いた。杏寿郎さんもまた、耳栓を取っていた。
「杏寿郎兄さん、耳は大丈夫?強打していたけど音は聞こえて……、ひゃっ!?」
「出立の挨拶をしようと思った時にいないと思ったら、朝緋はこんなところで何をしているんだ!何故俺の任務地にいる!?
俺は君を失うかと思ったぞ!!」
抱きしめるというより逃げられないよう拘束するかのように、腕の中に閉じ込められた。大きな声音が震え、そして怒っている。
同期の亡骸を一瞥し、また私に視線を戻す。
「君まで失ったら俺は、俺は……」
「……ごめん、なさい」
杏寿郎さんの言葉はもっともだ。
終わったから言えるけれど、まさかこんなに恐ろしい能力を持つ鬼だとは思わなかった。放ってくる犬がまた、強敵だった。囲まれて歯が立たなかった。私は体力も技も弱くて、まだまだ遅くて。結局、杏寿郎さんの同期も誰一人救えなくって、何にもならなかった。
生き残ったのは隊士以外の一般人……幼な子が三人のみ。それだって、私が守ったんじゃない。隊士達が守ってくれたから助かった。
何が、私が救ってみせる、だ。私なんかがここにいて、場違いにも程がある。
不甲斐ない。穴があったら入りたい。
「こんな怪我までして!死んだら許さんぞ!!」
死んだら許すも何もない、そう言いたいけれど言ったらもっと怒られそうなので黙っておいた。
子供達の怪我や私の怪我の応急処置をしていれば、隠が来て事後処理をしてくれた。子供達を家まで送り届けてもくれるそうだ。
隠はそのほとんどが隊士になれなかった者や怪我で引退した者で構成されている。だから一般人よりは強い。鬼の討伐が終わった今、彼らに任せれば子供達も安全に帰れるというわけだ。
「お姉ちゃん、守ってくれてありがとう。お姉ちゃんがいなかったら、わたし死んでた」
その中の一人の少女がそう声をかけてくれた。
守ったのは私じゃない。けれど、その言葉だけで救われた気がした。
鬼殺隊は政府非公認の組織だ。後ろ指を差されることも少なくない。だからこそこういった感謝を伝えられると嬉しくてたまらない。
私だけでなく杏寿郎さんも隠も、少女の言葉を前に嬉しそうな顔をしていた。
一人の隠に連れられ帰っていく子供達に手を振る中、杏寿郎さんから言葉が降ってきた。
「ところで稀血とは何なのだ。鬼が朝緋のことを稀血と呼んでいたが」
「え、そこ聞いちゃう感じ?」
『今回』はまだ、槇寿朗さんにも杏寿郎さんにも私が稀血であることは伝えていない。なんなら、教えないでおこうと思っている。
「その返答……朝緋は意味を知っているようだな?あったことは報告書にも書かねばならない。包み隠さず話せ」
「……話したくない。おくちチャック」
言わ猿モード発動。口に手を当てて断固拒否。
「ほーーー?話す気はないということだな。
隠の方々は稀血という言葉を知っているだろうか!!」
「稀血ですか?稀血というのはですね……」
私が教える気ゼロだからか、事後処理に当たっている隠達に大声で呼びかける。優しい隠は嫌な顔ひとつせず、その質問に答えていた。
聞いちゃうんかい。隠も教えちゃうんかい。
うっ、稀血を理解した杏寿郎さんが睨んでくる。その表情、槇寿朗さんとそっくりよ。
「なるほど。そんな重要なことを朝緋は今まで隠していたわけか」
「お、怒ってる……?」
「ああ!怒っているとも!こればかりは父上と共有しておこう!!」
「えー!?やだ、やめてよ!」
「そういうわけにいかんだろう!稀血を喰らえば、鬼が強化されるのだろう!?
これだけ怖い思いをしたのだ。隊士になった後、君が負けるような任務に駆り出されたり、喰われるようなことになったりはそうないと思うが、その可能性がないとも言い切れん!常に危険や死と隣り合わせだからな!!」
「常に危険なのは知ってるけど縁起でもないこと言わないで!?」
「そうだ、縁起でもない話だ!だが、こんな大事な情報は柱でもある父上に共有しなくては!これは君のためでもある!!」
今すぐにでも言いに帰りそうな杏寿郎さんにへばりつき止める私。うわあ。ちからつよぉい!ずるずる引きずられる……。
「ア゛ーーーッ!私の鬼殺隊入りがなくなっちゃう!ただでさえ最終選別に行きにくい状態で、父様は常に目を光らせてるのに!やーめーてー!!」
槇寿朗さんにだなんてとんでもない。杏寿郎さんより厳しいのに。今の状態に陥ってなくても、知られたら鬼殺隊入りは禁止にされる。
「君ならお得意の口撃でなんとでもできる!…………はずだ」
「今の間ぁ!ねえ何よ今の間っ!?」
しかもそこまで口達者じゃないし。ただ、言われたら嫌だろうな〜っていう、痛いところをチクチク突いた会話をしていただけで。
案の定、私が稀血だと知った槇寿朗さんに軟禁されそうになった。杏寿郎さんが言う通り、口撃で全て論破し回避できたけど、そういう問題じゃない。
一番の難関は、最終選別に行く日だ。
「杏寿郎兄さん、耳は大丈夫?強打していたけど音は聞こえて……、ひゃっ!?」
「出立の挨拶をしようと思った時にいないと思ったら、朝緋はこんなところで何をしているんだ!何故俺の任務地にいる!?
俺は君を失うかと思ったぞ!!」
抱きしめるというより逃げられないよう拘束するかのように、腕の中に閉じ込められた。大きな声音が震え、そして怒っている。
同期の亡骸を一瞥し、また私に視線を戻す。
「君まで失ったら俺は、俺は……」
「……ごめん、なさい」
杏寿郎さんの言葉はもっともだ。
終わったから言えるけれど、まさかこんなに恐ろしい能力を持つ鬼だとは思わなかった。放ってくる犬がまた、強敵だった。囲まれて歯が立たなかった。私は体力も技も弱くて、まだまだ遅くて。結局、杏寿郎さんの同期も誰一人救えなくって、何にもならなかった。
生き残ったのは隊士以外の一般人……幼な子が三人のみ。それだって、私が守ったんじゃない。隊士達が守ってくれたから助かった。
何が、私が救ってみせる、だ。私なんかがここにいて、場違いにも程がある。
不甲斐ない。穴があったら入りたい。
「こんな怪我までして!死んだら許さんぞ!!」
死んだら許すも何もない、そう言いたいけれど言ったらもっと怒られそうなので黙っておいた。
子供達の怪我や私の怪我の応急処置をしていれば、隠が来て事後処理をしてくれた。子供達を家まで送り届けてもくれるそうだ。
隠はそのほとんどが隊士になれなかった者や怪我で引退した者で構成されている。だから一般人よりは強い。鬼の討伐が終わった今、彼らに任せれば子供達も安全に帰れるというわけだ。
「お姉ちゃん、守ってくれてありがとう。お姉ちゃんがいなかったら、わたし死んでた」
その中の一人の少女がそう声をかけてくれた。
守ったのは私じゃない。けれど、その言葉だけで救われた気がした。
鬼殺隊は政府非公認の組織だ。後ろ指を差されることも少なくない。だからこそこういった感謝を伝えられると嬉しくてたまらない。
私だけでなく杏寿郎さんも隠も、少女の言葉を前に嬉しそうな顔をしていた。
一人の隠に連れられ帰っていく子供達に手を振る中、杏寿郎さんから言葉が降ってきた。
「ところで稀血とは何なのだ。鬼が朝緋のことを稀血と呼んでいたが」
「え、そこ聞いちゃう感じ?」
『今回』はまだ、槇寿朗さんにも杏寿郎さんにも私が稀血であることは伝えていない。なんなら、教えないでおこうと思っている。
「その返答……朝緋は意味を知っているようだな?あったことは報告書にも書かねばならない。包み隠さず話せ」
「……話したくない。おくちチャック」
言わ猿モード発動。口に手を当てて断固拒否。
「ほーーー?話す気はないということだな。
隠の方々は稀血という言葉を知っているだろうか!!」
「稀血ですか?稀血というのはですね……」
私が教える気ゼロだからか、事後処理に当たっている隠達に大声で呼びかける。優しい隠は嫌な顔ひとつせず、その質問に答えていた。
聞いちゃうんかい。隠も教えちゃうんかい。
うっ、稀血を理解した杏寿郎さんが睨んでくる。その表情、槇寿朗さんとそっくりよ。
「なるほど。そんな重要なことを朝緋は今まで隠していたわけか」
「お、怒ってる……?」
「ああ!怒っているとも!こればかりは父上と共有しておこう!!」
「えー!?やだ、やめてよ!」
「そういうわけにいかんだろう!稀血を喰らえば、鬼が強化されるのだろう!?
これだけ怖い思いをしたのだ。隊士になった後、君が負けるような任務に駆り出されたり、喰われるようなことになったりはそうないと思うが、その可能性がないとも言い切れん!常に危険や死と隣り合わせだからな!!」
「常に危険なのは知ってるけど縁起でもないこと言わないで!?」
「そうだ、縁起でもない話だ!だが、こんな大事な情報は柱でもある父上に共有しなくては!これは君のためでもある!!」
今すぐにでも言いに帰りそうな杏寿郎さんにへばりつき止める私。うわあ。ちからつよぉい!ずるずる引きずられる……。
「ア゛ーーーッ!私の鬼殺隊入りがなくなっちゃう!ただでさえ最終選別に行きにくい状態で、父様は常に目を光らせてるのに!やーめーてー!!」
槇寿朗さんにだなんてとんでもない。杏寿郎さんより厳しいのに。今の状態に陥ってなくても、知られたら鬼殺隊入りは禁止にされる。
「君ならお得意の口撃でなんとでもできる!…………はずだ」
「今の間ぁ!ねえ何よ今の間っ!?」
しかもそこまで口達者じゃないし。ただ、言われたら嫌だろうな〜っていう、痛いところをチクチク突いた会話をしていただけで。
案の定、私が稀血だと知った槇寿朗さんに軟禁されそうになった。杏寿郎さんが言う通り、口撃で全て論破し回避できたけど、そういう問題じゃない。
一番の難関は、最終選別に行く日だ。