五周目 壱
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選別で持っていってもらう食事の話をしたり、選別で気をつける点をしっかり教え込みつつ、緩やかに。でも動きの速い真剣同士の打ち合いを続ける。
初めのうちは楽しみながら軽くやっていたそれも、半刻がすぎる頃には徐々に力が入ってきてしまい本気の打ち込みになってきた。
額に青筋を立て血走った目をかっぴらいて、高速で打ち合うことの激しいこと、激しいこと!二人とも斬り傷がないのが不思議なくらいだった。
「杏寿郎兄さん……やりますね」
「君こそ、読めぬ戦法をとって俺を翻弄し、そこに避けにくい強い一太刀を振るってくるとは……なかなかにやりおるな」
流れ出る汗。荒くなり始めた呼吸。目の前の杏寿郎さんも珍しく息を弾ませていた。
「だって鬼は型に則った戦法なんて使ってこないもの。こっちも正攻法なんて使うことないよ。蹴りでも拳でもその辺にあるものや地形すら利用してかないとやられちゃうでしょ。
……こんなふうに、ね!!」
「むう!刀を投げ捨てて下段から足技を!?そう簡単に転ばされてなるもの、かっ!」
「避けるとはさすが未来の炎柱様ですね!炎の呼吸、参ノ型!気炎万象っ!!」
杏寿郎さんを地へと這わすべく、低い位置から足を回すけれど、それは後退飛びでかわされてしまう。追うように上からの斬り込みを放った。それもうまく避けられてしまったが。
激しい打ち合いが続く。選別前に刀が折れないか少し心配だ。
「未来も何も俺は炎柱ではないぞ!?炎柱は父上だっ」
「いずれ杏寿郎兄さんが炎柱になりますので表現としてはあってまーす!!」
「今から名乗るのは恐れ多い!!それと水の呼吸に適した刀だからか炎の呼吸が弱い、弱すぎるぞ朝緋!!」
「弱くてすみませんね!!でも今はこれでじゅうぶ、ぎゃっ!?」
炎のエフェクトが薄くなってしまうのはもうしかたないこと。実戦で斬れればいいのよ、斬れれば。そう思い、薙ぎ払うように振るうも、杏寿郎さんのもっともっと強力な薙ぎ払いに押し負けてしまった。力でゴリ押されるときつい。
「それで俺に勝てると思うな!何を遠慮している!いいから水の呼吸の技を使ってこい、朝緋!全力で相手をしろ!!」
「え、ええっ、は、はいっ!!」
杏寿郎さんからの怒涛の攻撃。捌き切るのがやっとなスパルタで連続のそれを、右に左に受けながら返事をする。
未だに咄嗟の時は炎の呼吸ばかり出てしまう私の呼吸を、集中して水の呼吸へと変える。
「全集中……水の呼吸……っ!壱ノ型弐ノ型参ノ型豪華三点盛り名前は略式っ!!」
「よしきた!全部受け切ってみせるぞ!うぉあああああ!!炎の呼吸、肆ノ型!盛炎のうねりっ!!……ふんっ!どっっせぇいっ!!」
「ふぎゃあ!あぃたぁっ!?」
壱ノ型も弐ノ型も、参ノ型までもが盛炎のうねりに絡め取られ、打ち消されてしまった。
まあね?いくら水の呼吸に合う刀だろうとも、結局のところ私に一番合う呼吸は炎の呼吸だものね?水の呼吸の技も、ちょっと威力が弱いというかなんというかなのよね!
言い訳じみててごめんなさい。あと地面の上からの説明もごめんなさい。
実は技を打ち消されて、そのあと片手で投げ飛ばされました……。
でもその程度で終わらないのが私達の打ち稽古。私はすぐさま立ち上がって刀を構え、その刃を向ける。
「杏寿郎兄さんっ!」
「なんだっ!」
「父様に向けたままのその怒り、私への剣にぶつけるだけじゃなくっ!実際に言葉にして父様にっ!!放ってみてはどうですかっ!!」
言いながらの鍔迫り合い。刃を交えているからわかった。未だ杏寿郎さんの刃にこもる怒りと勢いが、槇寿朗さんへ向けたものだと。
「断……るっ!炎の呼吸、伍ノ型・炎虎!」
「ああそうですか!もいちど水の呼吸、参ノ型っ!流流舞!!」
「く、なんと軽やかで避けにくい動き!技を使うごとに精度も徐々に上がってきているみたいだな!」
「私達は戦いの中で成長してますからねっ」
読みにくいであろう足運びで杏寿郎さんを翻弄し、刀を振るう。今だ!横から叩きつけるようにすれば私の勝ちだ!!もちろん、その際は杏寿郎さんに峰部分を向ける。
けれどそれさえも直前で防がれて逆に横っ腹を打ち抜かれ、吹っ飛ばされて終わった。
水の呼吸の使いすぎで、疲弊して立ち上がれなくなってしまったし、これで私の負けが確定した。私はまだまだ弱い、弱すぎた。悔しい。
そして、杏寿郎さんがニヤリと浮かべている笑みも腹立たしい。
「あーん!一本取れそうだったのに、負けたー!」
「ふふふ、そう簡単に取らせるものか。年長者たる兄であり君を導いてやる立場でもある俺が、朝緋に負けるわけにいかんだろう」
「兄だとか立場だとかそんなの関係なーい!より速く、より強いものが勝つ……つまり、私がまだ杏寿郎兄さんより弱いってだけでしょ。
でも、次は負けない。貴方が隊士になろうと柱になろうと、次こそ勝ってみせる。だから、もっともっと鍛錬して強くなるからね!」
「うんうん、いい心がけだ!」
差し出された手を取り立ち上がれば、先ほどの笑みではなくいつものにっこり笑顔を返され、頭を撫でられる。
あったかいこの手をもう失わせない。守らなくては。だから、勝ってみせるというのは何も杏寿郎さんにだけではない。あの鬼からも、自分の心からも全ての脅威からも勝ちを得る。今度こそ、今度こそ……。
「また無意味なことを」
「父様……」
その時、槇寿朗さんがぼそりとそうこぼした。うわ、刀を持っているのがバレた!でもお咎めなしか、よかった。
しかし途中から見ていたようで、でも気配は感じなかった。さすがは現柱……気配を消すのは容易いってわけね。
「どんなに強くなろうとも無駄だ。刀なんぞ捨ててしまえ。杏寿郎、朝緋もだ。鬼殺隊士になんてなろうとするな。弱いお前らでは無駄死にして終わりだ!」
「!?無駄死にだなんて……!」
「朝緋、いい」
食ってかかろうとする私を、しかし杏寿郎さんが止めた。まだ言いたいことなにも言えていないのになんで止めるの……!
杏寿郎さんの顔を見て、私はそれ以上言うのをやめ指示に従った。
感情を乗せていないその表情の奥で、杏寿郎さんが怒っているのがわかったからだ。
彼が我慢しているのに、私が我慢しないわけにいかない。
そうして、槇寿朗さんに向けて憤りをつのらせる杏寿郎さんが、その怒りを解消しないままに最終選別へ向かってしまった。
あーあ。盛大に喧嘩しとけば?言いたいこと言えば?って言ったのに。
その憤りの矛先は最終戦別で相対する鬼に全て向かうだろう。鬼の皆様、ご愁傷様です。
初めのうちは楽しみながら軽くやっていたそれも、半刻がすぎる頃には徐々に力が入ってきてしまい本気の打ち込みになってきた。
額に青筋を立て血走った目をかっぴらいて、高速で打ち合うことの激しいこと、激しいこと!二人とも斬り傷がないのが不思議なくらいだった。
「杏寿郎兄さん……やりますね」
「君こそ、読めぬ戦法をとって俺を翻弄し、そこに避けにくい強い一太刀を振るってくるとは……なかなかにやりおるな」
流れ出る汗。荒くなり始めた呼吸。目の前の杏寿郎さんも珍しく息を弾ませていた。
「だって鬼は型に則った戦法なんて使ってこないもの。こっちも正攻法なんて使うことないよ。蹴りでも拳でもその辺にあるものや地形すら利用してかないとやられちゃうでしょ。
……こんなふうに、ね!!」
「むう!刀を投げ捨てて下段から足技を!?そう簡単に転ばされてなるもの、かっ!」
「避けるとはさすが未来の炎柱様ですね!炎の呼吸、参ノ型!気炎万象っ!!」
杏寿郎さんを地へと這わすべく、低い位置から足を回すけれど、それは後退飛びでかわされてしまう。追うように上からの斬り込みを放った。それもうまく避けられてしまったが。
激しい打ち合いが続く。選別前に刀が折れないか少し心配だ。
「未来も何も俺は炎柱ではないぞ!?炎柱は父上だっ」
「いずれ杏寿郎兄さんが炎柱になりますので表現としてはあってまーす!!」
「今から名乗るのは恐れ多い!!それと水の呼吸に適した刀だからか炎の呼吸が弱い、弱すぎるぞ朝緋!!」
「弱くてすみませんね!!でも今はこれでじゅうぶ、ぎゃっ!?」
炎のエフェクトが薄くなってしまうのはもうしかたないこと。実戦で斬れればいいのよ、斬れれば。そう思い、薙ぎ払うように振るうも、杏寿郎さんのもっともっと強力な薙ぎ払いに押し負けてしまった。力でゴリ押されるときつい。
「それで俺に勝てると思うな!何を遠慮している!いいから水の呼吸の技を使ってこい、朝緋!全力で相手をしろ!!」
「え、ええっ、は、はいっ!!」
杏寿郎さんからの怒涛の攻撃。捌き切るのがやっとなスパルタで連続のそれを、右に左に受けながら返事をする。
未だに咄嗟の時は炎の呼吸ばかり出てしまう私の呼吸を、集中して水の呼吸へと変える。
「全集中……水の呼吸……っ!壱ノ型弐ノ型参ノ型豪華三点盛り名前は略式っ!!」
「よしきた!全部受け切ってみせるぞ!うぉあああああ!!炎の呼吸、肆ノ型!盛炎のうねりっ!!……ふんっ!どっっせぇいっ!!」
「ふぎゃあ!あぃたぁっ!?」
壱ノ型も弐ノ型も、参ノ型までもが盛炎のうねりに絡め取られ、打ち消されてしまった。
まあね?いくら水の呼吸に合う刀だろうとも、結局のところ私に一番合う呼吸は炎の呼吸だものね?水の呼吸の技も、ちょっと威力が弱いというかなんというかなのよね!
言い訳じみててごめんなさい。あと地面の上からの説明もごめんなさい。
実は技を打ち消されて、そのあと片手で投げ飛ばされました……。
でもその程度で終わらないのが私達の打ち稽古。私はすぐさま立ち上がって刀を構え、その刃を向ける。
「杏寿郎兄さんっ!」
「なんだっ!」
「父様に向けたままのその怒り、私への剣にぶつけるだけじゃなくっ!実際に言葉にして父様にっ!!放ってみてはどうですかっ!!」
言いながらの鍔迫り合い。刃を交えているからわかった。未だ杏寿郎さんの刃にこもる怒りと勢いが、槇寿朗さんへ向けたものだと。
「断……るっ!炎の呼吸、伍ノ型・炎虎!」
「ああそうですか!もいちど水の呼吸、参ノ型っ!流流舞!!」
「く、なんと軽やかで避けにくい動き!技を使うごとに精度も徐々に上がってきているみたいだな!」
「私達は戦いの中で成長してますからねっ」
読みにくいであろう足運びで杏寿郎さんを翻弄し、刀を振るう。今だ!横から叩きつけるようにすれば私の勝ちだ!!もちろん、その際は杏寿郎さんに峰部分を向ける。
けれどそれさえも直前で防がれて逆に横っ腹を打ち抜かれ、吹っ飛ばされて終わった。
水の呼吸の使いすぎで、疲弊して立ち上がれなくなってしまったし、これで私の負けが確定した。私はまだまだ弱い、弱すぎた。悔しい。
そして、杏寿郎さんがニヤリと浮かべている笑みも腹立たしい。
「あーん!一本取れそうだったのに、負けたー!」
「ふふふ、そう簡単に取らせるものか。年長者たる兄であり君を導いてやる立場でもある俺が、朝緋に負けるわけにいかんだろう」
「兄だとか立場だとかそんなの関係なーい!より速く、より強いものが勝つ……つまり、私がまだ杏寿郎兄さんより弱いってだけでしょ。
でも、次は負けない。貴方が隊士になろうと柱になろうと、次こそ勝ってみせる。だから、もっともっと鍛錬して強くなるからね!」
「うんうん、いい心がけだ!」
差し出された手を取り立ち上がれば、先ほどの笑みではなくいつものにっこり笑顔を返され、頭を撫でられる。
あったかいこの手をもう失わせない。守らなくては。だから、勝ってみせるというのは何も杏寿郎さんにだけではない。あの鬼からも、自分の心からも全ての脅威からも勝ちを得る。今度こそ、今度こそ……。
「また無意味なことを」
「父様……」
その時、槇寿朗さんがぼそりとそうこぼした。うわ、刀を持っているのがバレた!でもお咎めなしか、よかった。
しかし途中から見ていたようで、でも気配は感じなかった。さすがは現柱……気配を消すのは容易いってわけね。
「どんなに強くなろうとも無駄だ。刀なんぞ捨ててしまえ。杏寿郎、朝緋もだ。鬼殺隊士になんてなろうとするな。弱いお前らでは無駄死にして終わりだ!」
「!?無駄死にだなんて……!」
「朝緋、いい」
食ってかかろうとする私を、しかし杏寿郎さんが止めた。まだ言いたいことなにも言えていないのになんで止めるの……!
杏寿郎さんの顔を見て、私はそれ以上言うのをやめ指示に従った。
感情を乗せていないその表情の奥で、杏寿郎さんが怒っているのがわかったからだ。
彼が我慢しているのに、私が我慢しないわけにいかない。
そうして、槇寿朗さんに向けて憤りをつのらせる杏寿郎さんが、その怒りを解消しないままに最終選別へ向かってしまった。
あーあ。盛大に喧嘩しとけば?言いたいこと言えば?って言ったのに。
その憤りの矛先は最終戦別で相対する鬼に全て向かうだろう。鬼の皆様、ご愁傷様です。