五周目 壱
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杏寿郎さんが隊士になり、刀も隊服も手元にあり、そして選別後の数日の休息日はすでに終わった。
つまり、もうすぐ初任務が言い渡されるはず。
山の上の墓地。笛を使う鬼。
……杏寿郎さんの同期がまた死ぬ。
せっかく隊士になれたのに、その人達がまた死んでしまう。杏寿郎さんが任務を言い渡されて現場にたどり着いたその時には、すでに事切れていたという話だったではないか。
この任務でもし、同期の皆さんが死ななかったら?ふとよぎる考え。ううん、ずっと考えていた。
ごめん、暁月。私……杏寿郎さんの同期の隊士を助けに行きたい。助けにも力にもならなくとも、私は稀血。何かしらの役に立つと思うの。少なくとも囮にはなれる。
これが直接無限列車や杏寿郎さんの生と死に、物語としての未来に作用するとは私には思えないの。
だって、杏寿郎さんには共に切磋琢磨し合える、笑い合える人が必要だと思うから。
同期という名の仲間がいれば、妬み嫉みからくる先輩からのいじめもきっと少なくなるはずなの。
炭治郎に善逸と伊之助という友達がついているように、杏寿郎さんにも少しでいい……心休まり笑顔でいられる場所を持っていてほしい。
と!いうわけで、杏寿郎さんに任務が言い渡されるその前に私は単身、水の日輪刀を片手にその山へと向かった。
私が死ぬ可能性もあるけれど、絶対に無理はしないから大丈夫だ。
ああでも、鬼が使う笛の能力くらいは前の時に聞いておけばよかった。
私も耳に栓として蜜蝋を詰めているけれど、杏寿郎さんにも使うよう、文と蜜蝋を残してきてある。私が倒すことまではできなくても、杏寿郎さんが倒してくれる……。目指せ、同期生還ルート!
そう、思ったのに。
なのに。
「うわぁぁぁん!!」
「こわいよぉ!」
「おかぁちゃーーん!」
隊士達に守られてしまった。
ここにいるのは守られた私、二人は鬼に喰われてしまったが、助かったのは幼い子供が三名。そして亡くなった隊士、その数は九名……。
私は耳栓をしていて助かったけれど、隊士達は奮闘の末、全員が鬼に敗れてしまった。
彼らは最後の力で指文字を描き、鬼の血鬼術について伝えてくれた。次に来た隊士がこの鬼を屠れるように。頸を落とせるように。
隊士の鑑だ。私はこの隊士達を誇りに思う。
断片的ではあったが、指文字のおかげで血鬼術がどういったものか知ることができた。
なるほど、この鬼の笛の音を聴くと神経を狂わされて体の動きがちぐはぐのバラバラになるわけか。
なんて厄介な血鬼術!これは鍛えた隊士でも一筋縄では行かない気がする。音色を奏でるその前に頸を落とすか、私のように音が耳に入らぬよう対策をするしかない。
初見殺しもいいところじゃないの。
子供達を一ヶ所に集めてかばいながら、日輪刀の切先を翁の姿をした鬼に向ける。
「刀は持っているようだが鬼狩りではないのじゃろ?なのにようやるおなごだのぅ……儂の血鬼術が効かんとはな」
鬼が何か言っている。けれど蜜蝋の耳栓をしっかりと詰めている私には何も聞こえない。
「……犬に喰わせるとするかの」
笛を口にし、鬼が眷属である犬の化け物を召喚した。鋭く凶悪な牙、真っ黒で痩せっぽち、骨が皮膚の表面を覆う巨大な犬だ。
まあ、かわいくないわんちゃんだこと。
犬が一斉に向かってくる。
「水の呼吸、陸ノ型 ねじれ渦!!」
こんな犬共、かつて相手した下弦の弐の犬共に比べたら雑魚……、って速い!この犬の動きは速すぎる!それに三人を守りながらなんて多勢に無勢すぎた!!
うぁっ!いったぁ……
二匹の内一匹はいなしたけれど、二匹目の牙が防げず私の肩は浅く裂けて血が飛び散る。雑魚に負ける私こそが、雑魚だった。
「ほう、おぬし稀血か。それもとびきり上等な獲物のようじゃな。儂は内臓を啜るのが好きだが、稀血なら別じゃ。全て喰ろうてやろう」
「?相変わらずなーに言ってるか知らないけれど!どうせ私の血に気がついたとかそんなでしょ!悪いけど、私の血も肉も一口たりとも、この子達も!お前なんかに食べさせてやるものですか!!」
「これならどうじゃ?」
ドロロン、追加の犬が放たれる。先の犬だって倒せてはいないのに、数が増えるだなんて。
嘘でしょこんなの捌ききれない。私はまだ隊士でもないのに。炎柱の継子を名乗っても許されるほど強くない、足元にも及ばないのに。
刀を振るっても犬の牙は防ぎきれず、喰われるのを待つばかりとなったその時。
「させない!炎の呼吸、壱ノ型 不知火っ!!」
耳栓をしていてもなお、鼓膜の底を震えさせるようなこの気配と声。そして見慣れた赤の炎。
それが目の前を舞い、犬の頸を刎ね飛ばす。
「君!大丈夫か!……って朝緋!?」
「杏寿郎さ、兄さん……!」
「なぜここに、いやいい。この惨状は……、」
さっと周りを見渡し、杏寿郎さんが状況を見る。多くの隊士の亡骸、助かった子供達と私、鬼とその眷属の犬。
チャキ。赤い炎の化身が、鬼の方を向いた。
「おや、増援か。それもたった一人とは。ご苦労なことよの。
寂しくはないから安心せい。今ならまだ仲間達が三途の川で待っておる。鬼狩りの死骸は九つ、儂が内臓を啜り喰うてやった童の死骸は二つ。これから喰う予定の肉は四つ……そのうち稀血のおなごを喰うのが特に楽しみでならんよ。
おぬしも喰ろうてやろう。皆仲良く手でも繋いで三途の川を渡るが良い」
何を言われたのだろう、杏寿郎さんの顔には激しい怒りが表れていた。
飛び出した杏寿郎さんが最速の壱ノ型で頸を取ろうと刀を薙ぐ。
その瞬間、鬼が飛び上がりながら口に笛をつけた。
まずい、笛を使われる!
「兄さん、渡してある蜜蝋を耳に……っ!」
「今詰めた!!」
パァン!!
ん?間一髪間に合った……?詰めながらも、さらに耳を強打していた。もしかしたら杏寿郎さんは鼓膜を『また』破ってしまったかもしれない。
その状態で立ったまま、犬が向かってくるのを傍観する杏寿郎さん。動かないってことはまさか、実は耳栓も耳の強打も間に合わなかった?すでに神経を狂わされている!?
「杏寿郎兄さん!!」
私の水の呼吸は間に合わない、犬の牙が彼に届く……思われた瞬間。
伍ノ型 炎虎。
炎の虎が犬の頸に。鬼の頸に抉るように喰らいついた。
「……は?」
ボトッ、鬼の頸が落ちる。一瞬ののち、自分が負けたことを理解した鬼が悪態をつきだす。
「糞ッ糞ッ!儂はこれから十二鬼月に……!せめてそのおなごを、稀血を喰らっていれば儂は、」
ぼろ、ぼろぼろ……鬼の頸と体が炎で燃え尽き消えていった。
つまり、もうすぐ初任務が言い渡されるはず。
山の上の墓地。笛を使う鬼。
……杏寿郎さんの同期がまた死ぬ。
せっかく隊士になれたのに、その人達がまた死んでしまう。杏寿郎さんが任務を言い渡されて現場にたどり着いたその時には、すでに事切れていたという話だったではないか。
この任務でもし、同期の皆さんが死ななかったら?ふとよぎる考え。ううん、ずっと考えていた。
ごめん、暁月。私……杏寿郎さんの同期の隊士を助けに行きたい。助けにも力にもならなくとも、私は稀血。何かしらの役に立つと思うの。少なくとも囮にはなれる。
これが直接無限列車や杏寿郎さんの生と死に、物語としての未来に作用するとは私には思えないの。
だって、杏寿郎さんには共に切磋琢磨し合える、笑い合える人が必要だと思うから。
同期という名の仲間がいれば、妬み嫉みからくる先輩からのいじめもきっと少なくなるはずなの。
炭治郎に善逸と伊之助という友達がついているように、杏寿郎さんにも少しでいい……心休まり笑顔でいられる場所を持っていてほしい。
と!いうわけで、杏寿郎さんに任務が言い渡されるその前に私は単身、水の日輪刀を片手にその山へと向かった。
私が死ぬ可能性もあるけれど、絶対に無理はしないから大丈夫だ。
ああでも、鬼が使う笛の能力くらいは前の時に聞いておけばよかった。
私も耳に栓として蜜蝋を詰めているけれど、杏寿郎さんにも使うよう、文と蜜蝋を残してきてある。私が倒すことまではできなくても、杏寿郎さんが倒してくれる……。目指せ、同期生還ルート!
そう、思ったのに。
なのに。
「うわぁぁぁん!!」
「こわいよぉ!」
「おかぁちゃーーん!」
隊士達に守られてしまった。
ここにいるのは守られた私、二人は鬼に喰われてしまったが、助かったのは幼い子供が三名。そして亡くなった隊士、その数は九名……。
私は耳栓をしていて助かったけれど、隊士達は奮闘の末、全員が鬼に敗れてしまった。
彼らは最後の力で指文字を描き、鬼の血鬼術について伝えてくれた。次に来た隊士がこの鬼を屠れるように。頸を落とせるように。
隊士の鑑だ。私はこの隊士達を誇りに思う。
断片的ではあったが、指文字のおかげで血鬼術がどういったものか知ることができた。
なるほど、この鬼の笛の音を聴くと神経を狂わされて体の動きがちぐはぐのバラバラになるわけか。
なんて厄介な血鬼術!これは鍛えた隊士でも一筋縄では行かない気がする。音色を奏でるその前に頸を落とすか、私のように音が耳に入らぬよう対策をするしかない。
初見殺しもいいところじゃないの。
子供達を一ヶ所に集めてかばいながら、日輪刀の切先を翁の姿をした鬼に向ける。
「刀は持っているようだが鬼狩りではないのじゃろ?なのにようやるおなごだのぅ……儂の血鬼術が効かんとはな」
鬼が何か言っている。けれど蜜蝋の耳栓をしっかりと詰めている私には何も聞こえない。
「……犬に喰わせるとするかの」
笛を口にし、鬼が眷属である犬の化け物を召喚した。鋭く凶悪な牙、真っ黒で痩せっぽち、骨が皮膚の表面を覆う巨大な犬だ。
まあ、かわいくないわんちゃんだこと。
犬が一斉に向かってくる。
「水の呼吸、陸ノ型 ねじれ渦!!」
こんな犬共、かつて相手した下弦の弐の犬共に比べたら雑魚……、って速い!この犬の動きは速すぎる!それに三人を守りながらなんて多勢に無勢すぎた!!
うぁっ!いったぁ……
二匹の内一匹はいなしたけれど、二匹目の牙が防げず私の肩は浅く裂けて血が飛び散る。雑魚に負ける私こそが、雑魚だった。
「ほう、おぬし稀血か。それもとびきり上等な獲物のようじゃな。儂は内臓を啜るのが好きだが、稀血なら別じゃ。全て喰ろうてやろう」
「?相変わらずなーに言ってるか知らないけれど!どうせ私の血に気がついたとかそんなでしょ!悪いけど、私の血も肉も一口たりとも、この子達も!お前なんかに食べさせてやるものですか!!」
「これならどうじゃ?」
ドロロン、追加の犬が放たれる。先の犬だって倒せてはいないのに、数が増えるだなんて。
嘘でしょこんなの捌ききれない。私はまだ隊士でもないのに。炎柱の継子を名乗っても許されるほど強くない、足元にも及ばないのに。
刀を振るっても犬の牙は防ぎきれず、喰われるのを待つばかりとなったその時。
「させない!炎の呼吸、壱ノ型 不知火っ!!」
耳栓をしていてもなお、鼓膜の底を震えさせるようなこの気配と声。そして見慣れた赤の炎。
それが目の前を舞い、犬の頸を刎ね飛ばす。
「君!大丈夫か!……って朝緋!?」
「杏寿郎さ、兄さん……!」
「なぜここに、いやいい。この惨状は……、」
さっと周りを見渡し、杏寿郎さんが状況を見る。多くの隊士の亡骸、助かった子供達と私、鬼とその眷属の犬。
チャキ。赤い炎の化身が、鬼の方を向いた。
「おや、増援か。それもたった一人とは。ご苦労なことよの。
寂しくはないから安心せい。今ならまだ仲間達が三途の川で待っておる。鬼狩りの死骸は九つ、儂が内臓を啜り喰うてやった童の死骸は二つ。これから喰う予定の肉は四つ……そのうち稀血のおなごを喰うのが特に楽しみでならんよ。
おぬしも喰ろうてやろう。皆仲良く手でも繋いで三途の川を渡るが良い」
何を言われたのだろう、杏寿郎さんの顔には激しい怒りが表れていた。
飛び出した杏寿郎さんが最速の壱ノ型で頸を取ろうと刀を薙ぐ。
その瞬間、鬼が飛び上がりながら口に笛をつけた。
まずい、笛を使われる!
「兄さん、渡してある蜜蝋を耳に……っ!」
「今詰めた!!」
パァン!!
ん?間一髪間に合った……?詰めながらも、さらに耳を強打していた。もしかしたら杏寿郎さんは鼓膜を『また』破ってしまったかもしれない。
その状態で立ったまま、犬が向かってくるのを傍観する杏寿郎さん。動かないってことはまさか、実は耳栓も耳の強打も間に合わなかった?すでに神経を狂わされている!?
「杏寿郎兄さん!!」
私の水の呼吸は間に合わない、犬の牙が彼に届く……思われた瞬間。
伍ノ型 炎虎。
炎の虎が犬の頸に。鬼の頸に抉るように喰らいついた。
「……は?」
ボトッ、鬼の頸が落ちる。一瞬ののち、自分が負けたことを理解した鬼が悪態をつきだす。
「糞ッ糞ッ!儂はこれから十二鬼月に……!せめてそのおなごを、稀血を喰らっていれば儂は、」
ぼろ、ぼろぼろ……鬼の頸と体が炎で燃え尽き消えていった。