五周目 壱
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時期的には『前回』より早いけれど、帝都で羽衣の能楽が行われているらしい。瑠火さんが好きだった演目だ。
槇寿朗さんは任務で誘えない、杏寿郎さんも珍しく行かないと言ってきた。それでも見に行きたい私は、学校の友達を誘って行くことにした。
まだ学校に通っていたのかって?そりゃあ通っているに決まっている。私がどんなに優秀だろうと、狭霧山では通学を免除されていようと、まだまだ学校に通う歳であることに変わりないのだから。
だから普通の友達だっているに決まってるでしょ。長きに渡る学校生活の中で一人も友達がいないまま過ごすなんて寂しすぎるじゃない?
殺伐とした生活を送る鬼殺隊士になったら疎遠になってしまうだろうけれど、私はその時その時の出会いも大切にしている。別にコミュ障というわけでもなし、自分から声をかけに行く方だ。
……おかげさまでエスのような関係を求むる子も何人かいたっけ。私、お姉様みたいな呼び方されるような人じゃないよ。
あ、少女画報のような書籍を読むのは好き。まだ刊行されてないけれど、花物語とか先駆けって感じがしていいよね。宝塚も好きだ。
路面電車や汽車にちんたら乗って一緒に観劇してきた友達を、一人一人ご自宅へと送り届ける。そのうちにとっぷりと日が暮れ、あたりは夜の闇に包まれた。
私は夜に慣れているから大丈夫。幽霊は怖いけれど、他のものは怖いと思わない。物盗りも、変態さんも、そして鬼も怖いとは思わな……うそ、強い鬼は今出会ったら確実に殺されてしまうので弱い鬼でよろしく。
だから夜に出歩くのなんて、槇寿朗さんにさえ見つからなければそれでいい。『前回』は観劇の帰りに遅くなってめちゃくちゃ怒られたのよね。槇寿朗さん怖い柱怖い。
特に門限を決めていなかったのだからいいと思うけどそういう問題ではないらしい。納得いかない。
「随分と禍々しい月だな〜」
今日は満月だ。だから夜道は暗いようでいて、でも街灯がないこの道でもとても明るい。ただその月はやけに赤く見えて、恐ろしく見えてしまう。
こんな夜には鬼が出る。
「美味そうな子供だ」
そう、こんな風にね。
「近道すると碌なことがないなあ、だってこうやって鬼に出会っちゃうんだもの」
「この道を使ったのが運の尽きだ。呪うなら俺の腹の中で、不幸な自分を呪うがいい!」
巨大な鳥でも模しているのか、腕にはびっしりと羽毛が生え、それがそのまま翼になっていて空を飛べる鬼のようだ。鴉天狗……?違うな、なんて言ったっけ。ギリシア神話に出て来る人の頭に鳥の体を持つ怪物とか、そんな類いの見た目をしている。
珍しく触手系じゃないのが嬉しい。
まるで某風柱が起こす暴風のよう。だけどそれよりは明らかに弱い風を起こしながら、鬼は鋭い刃と化した羽根を飛ばしてきた。んー、止まって見えるね。
「運の尽き、ねぇ。それは普通の女の子の考えでしょうね。でも私の場合は鬼に出会えてこれ幸いと言えるんだよねー。
炎の呼吸、壱ノ型・不知火!」
それを着物の背の中に隠していた日輪刀、お決まりの炎の呼吸で一刀両断する。
わー!背中からスラリと刀出す仕草とかかっこ良すぎない?厨二病かな?何かに目覚めそう!!内心ウッキウキだ。
「刀に呼吸!……鬼狩りかっ!」
実を言うと私は、鱗滝さんのところで水の呼吸の日輪刀を一振りいただいている。今回はそれを隠し持っていた。
しかし水の呼吸に特化した青い刃の日輪刀は炎の呼吸と反発し、その威力は半分以下に落ちる。しかもこの幼い体で繰り出したせいで炎の勢いは一つもなく、強さはマッチの火レベル。
飛ばされた羽根を落とせただけで、そのまま鬼を攻撃!はできなかった。
「しかし俺には技が届かなかったようだなぁ?」
「そのようだね。まさかかすり傷ひとつ負わせられないなんて思わなかったよ」
もともと技術も経験も足りてないのよね。鬼の頸を、隊士でもない私が落とすなんて絶対無理な話だ。今、唯一誇れそうなことがあるとすれば、磨きに磨き続けてきた素早さくらいじゃないかな。
「残念だったな!さぁて、嘴で肉を啄み目玉を抉り出し、爪でズタズタに引き裂いて全て喰ろうてやろう!!」
「わあそれは怖い、助けて鬼殺隊の偉い人〜」
ものすごく棒読み。
鬼が向かってくる中、呼吸を換えていく。体内に燃え盛っていた熱き炎が、激しく流れる水へと取って代わる。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り」
スパーーン!!その脚を勢いよく斬り落とす。
ひと通りの型は使えても、技の精度も何もかも、まだまだ発展途上。炎の呼吸よりは威力も高く出たけれど、やっぱり頸までは届かないか。
早く隊士になりたーい!
「なにぃいいい!?お前、炎の呼吸の使い手ではなかったのか!!」
「ごめんね、私は水の呼吸も使えるんだぁ。炎の呼吸を使おうとすると言うこと聞いてくれない刀だけれど、水の呼吸の伝導率は高いので、ねっ!!
水の呼吸、参ノ型・流流舞いっ!!」
壱ノ型よりも素早く繰り出せる技で追撃する。しかし、鬼は自らの翼を羽ばたかせ、私の届かぬ上空へと飛んだ。
そして「お前なんか食わねえ!」と捨て台詞を吐き捨てて、逃げていった。
「あっ……!ちっ、逃した……!」
あーあ、逃げちゃったよ。これでは他の人間に被害が出てしまうではないか。
いくら私がまだ隊士ではないにしろ、あんな大した強さでもない鬼を逃してしまうなんて。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい。
んー、水の呼吸が駄目なのかな。違うな、呼吸のせいじゃない。私がまだまだ弱いせいだ。
隊士にも向かない年齢と上背なのに刀を無理に振り、鬼殺隊に任せるべき鬼の対処を自分でなんとかしようとしたからだ。
これは鬼殺隊の人に報告を入れなくては。
ああでも、下手なことを言えば槇寿朗さんにバレちゃうな……。鬼から守ろうとして、部屋に軟禁状態にさせられるかも。
他に知り合いの隊士というと。
「そうだ、未来の水柱がいる!」
今はどのくらいの階級なのかわからないけれど、いずれ水柱になるくらいだ。活躍して順調に階級を上げているに違いない。先ほど私が相手した鬼程度なら、簡単に首を刎ねられるはず!
そう思い、冨岡さんへと手紙を出した。
けれど返事は来なかった。
冨岡さんか、誰かが倒してくれることを期待したいけれど、過度な期待はするだけ無駄だ。だって鬼殺隊の隊士は日々言い渡される任務だけでも相当に忙しい。
もし誰も倒していないなら、私が仕留めてみせる。相手は私が逃した獲物なんだもの。
あの羽根をむしり取って、羽毛布団にしてやりたい。
槇寿朗さんは任務で誘えない、杏寿郎さんも珍しく行かないと言ってきた。それでも見に行きたい私は、学校の友達を誘って行くことにした。
まだ学校に通っていたのかって?そりゃあ通っているに決まっている。私がどんなに優秀だろうと、狭霧山では通学を免除されていようと、まだまだ学校に通う歳であることに変わりないのだから。
だから普通の友達だっているに決まってるでしょ。長きに渡る学校生活の中で一人も友達がいないまま過ごすなんて寂しすぎるじゃない?
殺伐とした生活を送る鬼殺隊士になったら疎遠になってしまうだろうけれど、私はその時その時の出会いも大切にしている。別にコミュ障というわけでもなし、自分から声をかけに行く方だ。
……おかげさまでエスのような関係を求むる子も何人かいたっけ。私、お姉様みたいな呼び方されるような人じゃないよ。
あ、少女画報のような書籍を読むのは好き。まだ刊行されてないけれど、花物語とか先駆けって感じがしていいよね。宝塚も好きだ。
路面電車や汽車にちんたら乗って一緒に観劇してきた友達を、一人一人ご自宅へと送り届ける。そのうちにとっぷりと日が暮れ、あたりは夜の闇に包まれた。
私は夜に慣れているから大丈夫。幽霊は怖いけれど、他のものは怖いと思わない。物盗りも、変態さんも、そして鬼も怖いとは思わな……うそ、強い鬼は今出会ったら確実に殺されてしまうので弱い鬼でよろしく。
だから夜に出歩くのなんて、槇寿朗さんにさえ見つからなければそれでいい。『前回』は観劇の帰りに遅くなってめちゃくちゃ怒られたのよね。槇寿朗さん怖い柱怖い。
特に門限を決めていなかったのだからいいと思うけどそういう問題ではないらしい。納得いかない。
「随分と禍々しい月だな〜」
今日は満月だ。だから夜道は暗いようでいて、でも街灯がないこの道でもとても明るい。ただその月はやけに赤く見えて、恐ろしく見えてしまう。
こんな夜には鬼が出る。
「美味そうな子供だ」
そう、こんな風にね。
「近道すると碌なことがないなあ、だってこうやって鬼に出会っちゃうんだもの」
「この道を使ったのが運の尽きだ。呪うなら俺の腹の中で、不幸な自分を呪うがいい!」
巨大な鳥でも模しているのか、腕にはびっしりと羽毛が生え、それがそのまま翼になっていて空を飛べる鬼のようだ。鴉天狗……?違うな、なんて言ったっけ。ギリシア神話に出て来る人の頭に鳥の体を持つ怪物とか、そんな類いの見た目をしている。
珍しく触手系じゃないのが嬉しい。
まるで某風柱が起こす暴風のよう。だけどそれよりは明らかに弱い風を起こしながら、鬼は鋭い刃と化した羽根を飛ばしてきた。んー、止まって見えるね。
「運の尽き、ねぇ。それは普通の女の子の考えでしょうね。でも私の場合は鬼に出会えてこれ幸いと言えるんだよねー。
炎の呼吸、壱ノ型・不知火!」
それを着物の背の中に隠していた日輪刀、お決まりの炎の呼吸で一刀両断する。
わー!背中からスラリと刀出す仕草とかかっこ良すぎない?厨二病かな?何かに目覚めそう!!内心ウッキウキだ。
「刀に呼吸!……鬼狩りかっ!」
実を言うと私は、鱗滝さんのところで水の呼吸の日輪刀を一振りいただいている。今回はそれを隠し持っていた。
しかし水の呼吸に特化した青い刃の日輪刀は炎の呼吸と反発し、その威力は半分以下に落ちる。しかもこの幼い体で繰り出したせいで炎の勢いは一つもなく、強さはマッチの火レベル。
飛ばされた羽根を落とせただけで、そのまま鬼を攻撃!はできなかった。
「しかし俺には技が届かなかったようだなぁ?」
「そのようだね。まさかかすり傷ひとつ負わせられないなんて思わなかったよ」
もともと技術も経験も足りてないのよね。鬼の頸を、隊士でもない私が落とすなんて絶対無理な話だ。今、唯一誇れそうなことがあるとすれば、磨きに磨き続けてきた素早さくらいじゃないかな。
「残念だったな!さぁて、嘴で肉を啄み目玉を抉り出し、爪でズタズタに引き裂いて全て喰ろうてやろう!!」
「わあそれは怖い、助けて鬼殺隊の偉い人〜」
ものすごく棒読み。
鬼が向かってくる中、呼吸を換えていく。体内に燃え盛っていた熱き炎が、激しく流れる水へと取って代わる。
「水の呼吸、壱ノ型・水面斬り」
スパーーン!!その脚を勢いよく斬り落とす。
ひと通りの型は使えても、技の精度も何もかも、まだまだ発展途上。炎の呼吸よりは威力も高く出たけれど、やっぱり頸までは届かないか。
早く隊士になりたーい!
「なにぃいいい!?お前、炎の呼吸の使い手ではなかったのか!!」
「ごめんね、私は水の呼吸も使えるんだぁ。炎の呼吸を使おうとすると言うこと聞いてくれない刀だけれど、水の呼吸の伝導率は高いので、ねっ!!
水の呼吸、参ノ型・流流舞いっ!!」
壱ノ型よりも素早く繰り出せる技で追撃する。しかし、鬼は自らの翼を羽ばたかせ、私の届かぬ上空へと飛んだ。
そして「お前なんか食わねえ!」と捨て台詞を吐き捨てて、逃げていった。
「あっ……!ちっ、逃した……!」
あーあ、逃げちゃったよ。これでは他の人間に被害が出てしまうではないか。
いくら私がまだ隊士ではないにしろ、あんな大した強さでもない鬼を逃してしまうなんて。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい。
んー、水の呼吸が駄目なのかな。違うな、呼吸のせいじゃない。私がまだまだ弱いせいだ。
隊士にも向かない年齢と上背なのに刀を無理に振り、鬼殺隊に任せるべき鬼の対処を自分でなんとかしようとしたからだ。
これは鬼殺隊の人に報告を入れなくては。
ああでも、下手なことを言えば槇寿朗さんにバレちゃうな……。鬼から守ろうとして、部屋に軟禁状態にさせられるかも。
他に知り合いの隊士というと。
「そうだ、未来の水柱がいる!」
今はどのくらいの階級なのかわからないけれど、いずれ水柱になるくらいだ。活躍して順調に階級を上げているに違いない。先ほど私が相手した鬼程度なら、簡単に首を刎ねられるはず!
そう思い、冨岡さんへと手紙を出した。
けれど返事は来なかった。
冨岡さんか、誰かが倒してくれることを期待したいけれど、過度な期待はするだけ無駄だ。だって鬼殺隊の隊士は日々言い渡される任務だけでも相当に忙しい。
もし誰も倒していないなら、私が仕留めてみせる。相手は私が逃した獲物なんだもの。
あの羽根をむしり取って、羽毛布団にしてやりたい。