二周目 弐
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夕餉は予告通り、いつもより豪勢にした。御赤飯、お頭つき鯛の塩焼き、天ぷら、そして杏寿郎さんの好物でもあるさつまいもの入った具沢山のお味噌汁などだ。
食卓にわっしょいの声が響き渡る中、家長の席は空いている。
「父上も共に食事を囲んで欲しかったなあ」
「僕もです……」
「同じものをお出ししてるから大丈夫ですよ!食べる部屋は違っても、同じ物を食べるのですから、それは杏寿郎兄さんの無事をお祝いしているのと変わりはありません。
それに、お膳を下げに行った時にお酒ばかりかっくらってお食事を残しているようでしたら、食べ物を粗末にするなーって怒ります!
杏寿郎兄さんはお疲れなんですから、今日はゆっくりお休みください。ね?」
「ああ……ありがとう」
しんみりする空気を打ち破るように、私は食後の果物をお出しした。
それから幾日かして。
杏寿郎さんの隊服が届いた。
家で用意しておいた炎の意匠が施された脚絆とともに隊服を着た杏寿郎さんは、とても凛々しく勇ましく見えた。
隊服とはいえ、シャツや洋物の服を着る杏寿郎さんの姿は久しぶりだ。いつも和服だから『前』の時の隊服以来かもしれない。
……惚れ直しちゃう。
「水や火にも強く、下位の鬼の攻撃くらいならば通らないそうだ」
「どんな素材を使ってるんでしょうね」
そして懐かしい。真新しい隊服に初めて身を包んだ時の感覚は、いつまでも記憶に鮮明にある。
感慨深いものを感じてしまい、滅と書かれた上着を着せた背中を、そして釦を留めたそこをぺたぺたと触ってしまった。
「む……朝緋、家族とはいえそんな熱心に触らないでくれないだろうか」
「あっ!ごめんなさい!」
わー!わー!何してるの私!これではまるで痴女じゃない。
「なぁに!数年後には君も着るんだ!!その時に存分にさわればよかろうっ」
「そ、そうですね!」
私達は赤く染まった顔を冷ますのに、明後日の方向を向くしかなかった。
それは、学舎から帰ってきた千寿郎に指摘されるほどの赤さを、ずっと保ってしまっていた。
そして選別後に日輪刀になる石を選ぶ代わり、杏寿郎さんの刀に炎の鍔がついて戻ってきた。
そういえば、杏寿郎さんが選別から帰ってきたあと、色変わりの儀をした杏寿郎さんの刀がなくなっていた。いつのまに刀鍛冶の元に送ったのだろう?……千寿郎も、杏寿郎さんも触っていないのに。なーんて。誰が犯人なのかは、よぉくわかっている。
なんだかんだ槇寿朗さんも杏寿郎さんを心配してるのだ。認めているのだ。口で言えば済むのに素直じゃないなあ。
「早く強くならねばな」
日輪刀の鍔になった自身の炎を見つめ、杏寿郎さんがつぶやく。
「まだ鬼殺隊に入ったばかりなのに、目標が高い。杏寿郎兄さんたら、眩しすぎる」
「わはは!夢はでっかく、だ」
「ちょっとくらい休養とってもいいと思いますけどね。なにせ七日間頑張ったばかりで疲れてるでしょう」
「最終選別の中でいやというほど学んだが、こちらが疲れていても鬼は待ってはくれない。休む暇はなく、襲ってきた」
「あー、あそこ昼間も結構暗いですもんねえ」
「なぜ知っている?」
「えっ」
あっまずい。これではまるで私も行ったことがあるみたいな言い方ではないか!
「ああ、いい。要からでも聞いたのだろう。俺が悋気を覚えるほどに君らは仲がいいからな!」
「悋気って……」
うんまあいいか。焦ったー。
「任務も同じだ。任務が来たら、休養している暇はないだろう。時間が食えばそれだけ鬼による被害が拡大する。
俺は隊服や刀が届くまでの期間に十分休んだ。だから大丈夫だ!」
ちょうど槇寿朗さんが部屋から出て外に出た。隊服に炎柱の羽織を纏っている。私達に出かけの挨拶すらしなくなったが、鬼殺の任務に出るようだ。
杏寿郎さんはそれを眩しいものを見るように眺めた。
「早く俺もあの羽織を着たい。父上が纏うあの羽織を。そのための第一歩を、俺はようやく踏み出せた!」
横顔がキラキラと輝いている。槇寿朗さんよりも、貴方の方が私には眩しく見えで仕方がなかった。
「着れるよ。杏寿郎兄さんなら着れる。かあさまとの約束を守り、着ることができる」
あの時、桜の木下で言っていた時よりも近く、その願いまでの距離は縮んでいる。
「ありがとう。
…………朝緋は、少し前に父上が鬼を逃したのを覚えているか?」
「ええ、覚えてますとも」
お玉を落としたし。
「俺はあの時、父上に怒りが湧いてしまった。父上が鬼を逃せば、その分市井の人が危険に晒される」
「はい」
「それだけではない。
歴代の炎柱排出元は『煉獄家』、それは鬼側からしても有名な話だ。
父上が鬼の恨みを買えば、煉獄家に危害が及ぶこともある。父上が、そして今後俺が任務等で留守にしている時、普段屋敷にいるのは誰だ?」
「千寿郎と、私だね」
「そうだ。千寿郎は幼いし、最近強くなってきたと言っても朝緋はまだ鬼殺隊員ではない。鬼を斬ったこともない。
そして何より、女子で稀血。藤の香りの守りすら効かないこともあるーー稀血だ」
『前』の時だけど、鬼を斬った経験はたくさんあるのよね。説明しづらいから言わないし、今は刀も力もないから言わないけれど。
「俺は不安でたまらない!父上にはその鬼を倒してほしかった!
だから俺は早く強くなりたいのだ。柱になりたいのだ。父上が逃した鬼がまだいるなら、そいつの頸も俺が斬りたい。朝緋が、そして千寿郎が安心して暮らせるようにしたい!」
怒っていたあの時から、そこまで考えていたなんて。全ては私達のためだったなんて。
「そんなに急がなくていいですよ。焦らずとも貴方は強くなります。
でも、そういう理由で怒っていたのですね。鬼の報復で、我が家が危険に晒されるかも、と」
「ああ!俺も早く強くなるよう頑張るが、君も気をつけろ!」
「はい、ありがとうございます。
私も負けません。私ももっともっと鍛錬して、もっと強くなります……!」
杏寿郎さんの手を取り、私の気持ちを伝えるように強く握る。彼もまた、強く強く握り返してくれた。
「うむ!!」
「とりあえず……今夜はお芋ご飯かな。ご馳走とはいえ、先日の御赤飯はそこまで嬉しそうじゃありませんでしたし?」
「わはは!芋の方が好きだからな!他のおかずはたまらなく美味かったぞ。
ましてや朝緋が収穫した芋は美味い!俺の大好物じゃないか!」
御赤飯が嫌いとかそういうわけではない。ただ、お祝いやら杏寿郎さんの好物を作るぞーという日には、大抵が主食がお芋ご飯のことが多かった。
きっとそれを期待していたに違いない。でも味噌汁が芋だったのでわっしょいは聞けた。
「そう言っていただけると料理人冥利につきますね。なら、お芋ご飯にお芋の味噌汁、お芋のおかずにしましょう」
「はっはっは!びっくりするくらい芋づくしだな!!」
食卓にわっしょいの声が響き渡る中、家長の席は空いている。
「父上も共に食事を囲んで欲しかったなあ」
「僕もです……」
「同じものをお出ししてるから大丈夫ですよ!食べる部屋は違っても、同じ物を食べるのですから、それは杏寿郎兄さんの無事をお祝いしているのと変わりはありません。
それに、お膳を下げに行った時にお酒ばかりかっくらってお食事を残しているようでしたら、食べ物を粗末にするなーって怒ります!
杏寿郎兄さんはお疲れなんですから、今日はゆっくりお休みください。ね?」
「ああ……ありがとう」
しんみりする空気を打ち破るように、私は食後の果物をお出しした。
それから幾日かして。
杏寿郎さんの隊服が届いた。
家で用意しておいた炎の意匠が施された脚絆とともに隊服を着た杏寿郎さんは、とても凛々しく勇ましく見えた。
隊服とはいえ、シャツや洋物の服を着る杏寿郎さんの姿は久しぶりだ。いつも和服だから『前』の時の隊服以来かもしれない。
……惚れ直しちゃう。
「水や火にも強く、下位の鬼の攻撃くらいならば通らないそうだ」
「どんな素材を使ってるんでしょうね」
そして懐かしい。真新しい隊服に初めて身を包んだ時の感覚は、いつまでも記憶に鮮明にある。
感慨深いものを感じてしまい、滅と書かれた上着を着せた背中を、そして釦を留めたそこをぺたぺたと触ってしまった。
「む……朝緋、家族とはいえそんな熱心に触らないでくれないだろうか」
「あっ!ごめんなさい!」
わー!わー!何してるの私!これではまるで痴女じゃない。
「なぁに!数年後には君も着るんだ!!その時に存分にさわればよかろうっ」
「そ、そうですね!」
私達は赤く染まった顔を冷ますのに、明後日の方向を向くしかなかった。
それは、学舎から帰ってきた千寿郎に指摘されるほどの赤さを、ずっと保ってしまっていた。
そして選別後に日輪刀になる石を選ぶ代わり、杏寿郎さんの刀に炎の鍔がついて戻ってきた。
そういえば、杏寿郎さんが選別から帰ってきたあと、色変わりの儀をした杏寿郎さんの刀がなくなっていた。いつのまに刀鍛冶の元に送ったのだろう?……千寿郎も、杏寿郎さんも触っていないのに。なーんて。誰が犯人なのかは、よぉくわかっている。
なんだかんだ槇寿朗さんも杏寿郎さんを心配してるのだ。認めているのだ。口で言えば済むのに素直じゃないなあ。
「早く強くならねばな」
日輪刀の鍔になった自身の炎を見つめ、杏寿郎さんがつぶやく。
「まだ鬼殺隊に入ったばかりなのに、目標が高い。杏寿郎兄さんたら、眩しすぎる」
「わはは!夢はでっかく、だ」
「ちょっとくらい休養とってもいいと思いますけどね。なにせ七日間頑張ったばかりで疲れてるでしょう」
「最終選別の中でいやというほど学んだが、こちらが疲れていても鬼は待ってはくれない。休む暇はなく、襲ってきた」
「あー、あそこ昼間も結構暗いですもんねえ」
「なぜ知っている?」
「えっ」
あっまずい。これではまるで私も行ったことがあるみたいな言い方ではないか!
「ああ、いい。要からでも聞いたのだろう。俺が悋気を覚えるほどに君らは仲がいいからな!」
「悋気って……」
うんまあいいか。焦ったー。
「任務も同じだ。任務が来たら、休養している暇はないだろう。時間が食えばそれだけ鬼による被害が拡大する。
俺は隊服や刀が届くまでの期間に十分休んだ。だから大丈夫だ!」
ちょうど槇寿朗さんが部屋から出て外に出た。隊服に炎柱の羽織を纏っている。私達に出かけの挨拶すらしなくなったが、鬼殺の任務に出るようだ。
杏寿郎さんはそれを眩しいものを見るように眺めた。
「早く俺もあの羽織を着たい。父上が纏うあの羽織を。そのための第一歩を、俺はようやく踏み出せた!」
横顔がキラキラと輝いている。槇寿朗さんよりも、貴方の方が私には眩しく見えで仕方がなかった。
「着れるよ。杏寿郎兄さんなら着れる。かあさまとの約束を守り、着ることができる」
あの時、桜の木下で言っていた時よりも近く、その願いまでの距離は縮んでいる。
「ありがとう。
…………朝緋は、少し前に父上が鬼を逃したのを覚えているか?」
「ええ、覚えてますとも」
お玉を落としたし。
「俺はあの時、父上に怒りが湧いてしまった。父上が鬼を逃せば、その分市井の人が危険に晒される」
「はい」
「それだけではない。
歴代の炎柱排出元は『煉獄家』、それは鬼側からしても有名な話だ。
父上が鬼の恨みを買えば、煉獄家に危害が及ぶこともある。父上が、そして今後俺が任務等で留守にしている時、普段屋敷にいるのは誰だ?」
「千寿郎と、私だね」
「そうだ。千寿郎は幼いし、最近強くなってきたと言っても朝緋はまだ鬼殺隊員ではない。鬼を斬ったこともない。
そして何より、女子で稀血。藤の香りの守りすら効かないこともあるーー稀血だ」
『前』の時だけど、鬼を斬った経験はたくさんあるのよね。説明しづらいから言わないし、今は刀も力もないから言わないけれど。
「俺は不安でたまらない!父上にはその鬼を倒してほしかった!
だから俺は早く強くなりたいのだ。柱になりたいのだ。父上が逃した鬼がまだいるなら、そいつの頸も俺が斬りたい。朝緋が、そして千寿郎が安心して暮らせるようにしたい!」
怒っていたあの時から、そこまで考えていたなんて。全ては私達のためだったなんて。
「そんなに急がなくていいですよ。焦らずとも貴方は強くなります。
でも、そういう理由で怒っていたのですね。鬼の報復で、我が家が危険に晒されるかも、と」
「ああ!俺も早く強くなるよう頑張るが、君も気をつけろ!」
「はい、ありがとうございます。
私も負けません。私ももっともっと鍛錬して、もっと強くなります……!」
杏寿郎さんの手を取り、私の気持ちを伝えるように強く握る。彼もまた、強く強く握り返してくれた。
「うむ!!」
「とりあえず……今夜はお芋ご飯かな。ご馳走とはいえ、先日の御赤飯はそこまで嬉しそうじゃありませんでしたし?」
「わはは!芋の方が好きだからな!他のおかずはたまらなく美味かったぞ。
ましてや朝緋が収穫した芋は美味い!俺の大好物じゃないか!」
御赤飯が嫌いとかそういうわけではない。ただ、お祝いやら杏寿郎さんの好物を作るぞーという日には、大抵が主食がお芋ご飯のことが多かった。
きっとそれを期待していたに違いない。でも味噌汁が芋だったのでわっしょいは聞けた。
「そう言っていただけると料理人冥利につきますね。なら、お芋ご飯にお芋の味噌汁、お芋のおかずにしましょう」
「はっはっは!びっくりするくらい芋づくしだな!!」