五周目 壱
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真菰と私の足の速さが並ぶようになった頃、煉獄家についている鎹烏が手紙を運んできた。
……なぜか、冨岡さんの頭の上に乗っている。
「カァー!朝緋!朝緋!杏寿郎から手紙!手紙!」
「いたっ、髪が抜ける!嘴で血が出る!朝緋!なんとかしてくれ!!」
冨岡さんの髪を引っこ抜いたり、ドスドスと突いたりと鎹烏は楽しそうだ。完全に遊ばれている……ごめん、微笑ましくって止められない。
「なんとかって、手で振り払えばいいんじゃないの」
考え付かなかった!という表情で固まった瞬間、烏はケケケ、と笑い私の腕へと移動した。その腕と反対側に冨岡さんが並んだ。手紙が気になるらしく、傍から覗いている。
「朝緋のそれは急ぎの手紙か?」
「急ぎなら鎹烏が急ぎだっていうよ。これは兄からの熱烈なラブレター、かな」
なかなかの長文のようだし。蛇腹に折られた、山折り谷折りの箇所が非常に多い手紙だ。
「やぶれたー?破けてないだろう?」
んぶふうっ、駄洒落になってる!
ほんと、私の知っている冨岡さんとは違うなあ。明るくておしゃべりだし、笑顔も絶えなくて、でも少し天然なところはそのまま。
水柱になるほどに強い彼の身に、一体何があったんだろう。
こんなにも冨岡さんの支えになってくれている錆兎が、水柱となったこの人の隣にいなかったことも気になる。何かあって隠にでもなったとかならまだいいけど……。でももし。
やめよやめよ、一瞬だけど縁起でもないこと考えちゃった。
「破れたーではなくって、書いてあるのは近状報告みたいなものかな。お互いどんな修行をしているのか、とかね」
そう。これがラブレターなわけがない。だって、今の杏寿郎さんには、私への恋愛のれの字はないはずなのだもの。そうあって欲しい、と私は思うだけ。
杏寿郎さんから届く手紙の数が片手では足りなくなってきた。
時同じくして、錆兎と冨岡さんが鱗滝さんより、最後の試練を言い渡された。
刀で大きな岩を斬るという試練だ。
そういえば炭治郎も、最後の試練は岩を斬ることだと言っていたっけ。岩って斬れるものなのか、とも。
今の私の体と力だと結構難しそうだけど、もう少し成長したらやれなくもなさそう。私の場合、水の呼吸でなく炎の呼吸……それも、伍ノ型・正規の炎虎あたりを使えば。
でも、刀で岩を斬るなんて、考えるだけでうきうきする。
「岩を斬るって楽しそうだね」
「は?楽しそうって、お前……」
「刀が摩耗するばかりで、なかなか斬れないよ。楽しくはないなあ」
楽しそうと漏らせば、錆兎と冨岡さんから頭おかしいって顔を向けられた。
「ようは破壊すればいいんでしょ。それとも『斬る』じゃないと駄目なの?水の呼吸にはいい感じに突きの型があるじゃない。
一点集中して、岩の中で一番弱そうな中心点。人間で言えばおヘソのとこ狙えばよくない?」
ハッとして顔を見合わせる二人。私の言ったことを実行しようとし始めた。
言うは易く行うは難し。そう簡単に岩をどうこうすることはできず、四苦八苦しているが。
エイエイ言いながら岩に立ち向かう姿を見ていると、私もやりたくなってきてたまらなくなった。代わりに隣りで素振りしてみるも、物足りない。
強くなることに執心し鍛錬好きで脳筋な自らが憎い。
「やっぱり楽しそう。私もいつか斬らせてもらえるかな……」
「さあな。鱗滝さんが許可すれば朝緋も岩斬りの試練を与えられるだろうが……。どんなに水の呼吸の流れを理解しても、朝緋の体が炎の呼吸を使おうとしてしまう内は、鱗滝さんも頷かんだろう」
「そんなこと言われたって、私が普段使いするのは炎の呼吸だし……水の呼吸はあくまで補助的なものとして学びにきてるんだもの」
咄嗟の時に炎の呼吸が出ちゃうのはもう、体に染みついた癖みたいなものだ。大体、私が何度炎の呼吸を使ってきたと思っている?って、錆兎が知るわけないね。
「せっかくこんなにも学んで使えているのに、水の呼吸が補助扱い!?なんともったいないことを!!」
「俺も朝緋は水の呼吸を主力にすべきだと思う」
出たな水の呼吸のガチ勢め。かういう私も炎の呼吸ガチ勢だけどさ。
……この言葉、こういう時に使うで合ってるよね、明槻?
「無理なこと言わないで……いや待てよ、そこまで言われちゃ、どっちもメインにするという手も……?
ねぇ、二つ混ぜたらお湯の呼吸とかになるかな?」
「「ならない」」
「ならないかあ」
即答で「ならない」は、杏寿郎さんを思い出した。
「お湯の呼吸ってなぁにそれ。朝緋は面白いことを考えつくよね」
お湯が駄目なら温泉の呼吸にグレードアップしたいとかも、割と本気で考えたんだけどな。
刀鍛冶の里の温泉、すごく良かったなあ。また入りたい。
「私もね、あと少ししたら岩斬りの試練に入るんだあ。だから残念ながら参加する最終選別は錆兎達と同じ回じゃないけど、錆兎達に負けないように頑張るよ」
「頑張ってね、真菰」
闘志に燃える真菰可愛い。
鎹烏が慌てたようにやってきたのは、二人がそろそろ岩を斬るだろう、その兆しが見え始めた頃だったか。
いつもなら錆兎の肩に止まって撫でてもらったり、冨岡さんの頭に止まって遊んだり、真菰の腕に止まってご飯をもらったりしていた彼だけど、今回はそのどれもなく、私の頭上をバッサバッサと旋回して叫んでいる。
「急ギ!急ギ!!至急、確認セヨ!!」
「ぇ、急ぎの手紙……?」
こんなの初めてだ。嫌な予感がして、胸がざわつく。
足に括られた手紙を受け取り、急いで読む。
「!!……ああそんな、瑠火さんが……っ」
そこには瑠火さんが危篤状態にあると書いてあった。
危篤ということは、命の危機が迫っているということ。いつ亡くなってもおかしくない状態だということだ。
なんで、どうして……。もしかして瑠火さんは結核に……?だったらなんで私に、今の今まで連絡が来ないの。
ううん、それは今考えることじゃない。考えたところでどうにもならないことは、考えるべきではない。
「急いで煉獄家に帰らなきゃ……鱗滝さーーん!!」
放り出すように刀を置き、鱗滝さんに。錆兎達に手紙の話をする。
私の修行は突如終わりを告げた。
本当ならもっとゆっくりとお礼したかったし、挨拶もしたかった。
錆兎達が岩を斬るところだって見たかったし、迫る最終選別のお見送りもしたかった。自分自身、岩を斬るところまで修行が続くと信じて疑っていなかった。
なのにまさか、こんな早々と去る事になるなんて。
「鱗滝さん、お世話になりました!貴方からの教え、忘れずにこれからも精進して参ります!!」
「うむ。おぬしならばきっと良き隊士となれるであろう」
そう言って撫でてくれる鱗滝さんに、思い切り抱きつく。それから並ぶ三人にも抱きついて挨拶を交わした。
「錆兎、義勇、真菰、一緒に修行してくれて、可愛がってくれてありがとう!」
「朝緋は俺の可愛い妹分だから当然だ」
「離れてもそれは変わらない」
「隊士になったらまた会おうね、約束だよ」
頭をぐしゃぐしゃに撫でられ髪をもみくちゃにされたけど、それさえ嬉しかった。離れたくなくって、ちょっぴり寂しくて涙が出そう。
心の中だけでこっそり涙ぐんでいると、鱗滝さんが最後にお面を渡してくれた。
「朝緋、これを持っていけ」
かわいらしい木彫りの狐のお面は、赤の隈取りと炎の描かれたお耳が特徴的なものだ。
「厄除の面という。離れてしまっても、おぬしは儂の大事な弟子だ。いつか参加するであろう最終選別で、おぬしが無事に合格できるよう願いを込めて彫った。教え子達に与える伝統で、お守りだ」
「ありがとうございます」
「俺達も鱗滝さんにもらった。これをつけて、最終選別に望む予定だ」
「錆兎、まずは岩を斬らなきゃ行けないよ」
「お前もだろ、義勇」
錆兎達を見れば、それぞれ彼らにどこか似たお面を手にしていた。真菰のお面もかわいいな。
私も最終選別の時は持っていこう。
……なぜか、冨岡さんの頭の上に乗っている。
「カァー!朝緋!朝緋!杏寿郎から手紙!手紙!」
「いたっ、髪が抜ける!嘴で血が出る!朝緋!なんとかしてくれ!!」
冨岡さんの髪を引っこ抜いたり、ドスドスと突いたりと鎹烏は楽しそうだ。完全に遊ばれている……ごめん、微笑ましくって止められない。
「なんとかって、手で振り払えばいいんじゃないの」
考え付かなかった!という表情で固まった瞬間、烏はケケケ、と笑い私の腕へと移動した。その腕と反対側に冨岡さんが並んだ。手紙が気になるらしく、傍から覗いている。
「朝緋のそれは急ぎの手紙か?」
「急ぎなら鎹烏が急ぎだっていうよ。これは兄からの熱烈なラブレター、かな」
なかなかの長文のようだし。蛇腹に折られた、山折り谷折りの箇所が非常に多い手紙だ。
「やぶれたー?破けてないだろう?」
んぶふうっ、駄洒落になってる!
ほんと、私の知っている冨岡さんとは違うなあ。明るくておしゃべりだし、笑顔も絶えなくて、でも少し天然なところはそのまま。
水柱になるほどに強い彼の身に、一体何があったんだろう。
こんなにも冨岡さんの支えになってくれている錆兎が、水柱となったこの人の隣にいなかったことも気になる。何かあって隠にでもなったとかならまだいいけど……。でももし。
やめよやめよ、一瞬だけど縁起でもないこと考えちゃった。
「破れたーではなくって、書いてあるのは近状報告みたいなものかな。お互いどんな修行をしているのか、とかね」
そう。これがラブレターなわけがない。だって、今の杏寿郎さんには、私への恋愛のれの字はないはずなのだもの。そうあって欲しい、と私は思うだけ。
杏寿郎さんから届く手紙の数が片手では足りなくなってきた。
時同じくして、錆兎と冨岡さんが鱗滝さんより、最後の試練を言い渡された。
刀で大きな岩を斬るという試練だ。
そういえば炭治郎も、最後の試練は岩を斬ることだと言っていたっけ。岩って斬れるものなのか、とも。
今の私の体と力だと結構難しそうだけど、もう少し成長したらやれなくもなさそう。私の場合、水の呼吸でなく炎の呼吸……それも、伍ノ型・正規の炎虎あたりを使えば。
でも、刀で岩を斬るなんて、考えるだけでうきうきする。
「岩を斬るって楽しそうだね」
「は?楽しそうって、お前……」
「刀が摩耗するばかりで、なかなか斬れないよ。楽しくはないなあ」
楽しそうと漏らせば、錆兎と冨岡さんから頭おかしいって顔を向けられた。
「ようは破壊すればいいんでしょ。それとも『斬る』じゃないと駄目なの?水の呼吸にはいい感じに突きの型があるじゃない。
一点集中して、岩の中で一番弱そうな中心点。人間で言えばおヘソのとこ狙えばよくない?」
ハッとして顔を見合わせる二人。私の言ったことを実行しようとし始めた。
言うは易く行うは難し。そう簡単に岩をどうこうすることはできず、四苦八苦しているが。
エイエイ言いながら岩に立ち向かう姿を見ていると、私もやりたくなってきてたまらなくなった。代わりに隣りで素振りしてみるも、物足りない。
強くなることに執心し鍛錬好きで脳筋な自らが憎い。
「やっぱり楽しそう。私もいつか斬らせてもらえるかな……」
「さあな。鱗滝さんが許可すれば朝緋も岩斬りの試練を与えられるだろうが……。どんなに水の呼吸の流れを理解しても、朝緋の体が炎の呼吸を使おうとしてしまう内は、鱗滝さんも頷かんだろう」
「そんなこと言われたって、私が普段使いするのは炎の呼吸だし……水の呼吸はあくまで補助的なものとして学びにきてるんだもの」
咄嗟の時に炎の呼吸が出ちゃうのはもう、体に染みついた癖みたいなものだ。大体、私が何度炎の呼吸を使ってきたと思っている?って、錆兎が知るわけないね。
「せっかくこんなにも学んで使えているのに、水の呼吸が補助扱い!?なんともったいないことを!!」
「俺も朝緋は水の呼吸を主力にすべきだと思う」
出たな水の呼吸のガチ勢め。かういう私も炎の呼吸ガチ勢だけどさ。
……この言葉、こういう時に使うで合ってるよね、明槻?
「無理なこと言わないで……いや待てよ、そこまで言われちゃ、どっちもメインにするという手も……?
ねぇ、二つ混ぜたらお湯の呼吸とかになるかな?」
「「ならない」」
「ならないかあ」
即答で「ならない」は、杏寿郎さんを思い出した。
「お湯の呼吸ってなぁにそれ。朝緋は面白いことを考えつくよね」
お湯が駄目なら温泉の呼吸にグレードアップしたいとかも、割と本気で考えたんだけどな。
刀鍛冶の里の温泉、すごく良かったなあ。また入りたい。
「私もね、あと少ししたら岩斬りの試練に入るんだあ。だから残念ながら参加する最終選別は錆兎達と同じ回じゃないけど、錆兎達に負けないように頑張るよ」
「頑張ってね、真菰」
闘志に燃える真菰可愛い。
鎹烏が慌てたようにやってきたのは、二人がそろそろ岩を斬るだろう、その兆しが見え始めた頃だったか。
いつもなら錆兎の肩に止まって撫でてもらったり、冨岡さんの頭に止まって遊んだり、真菰の腕に止まってご飯をもらったりしていた彼だけど、今回はそのどれもなく、私の頭上をバッサバッサと旋回して叫んでいる。
「急ギ!急ギ!!至急、確認セヨ!!」
「ぇ、急ぎの手紙……?」
こんなの初めてだ。嫌な予感がして、胸がざわつく。
足に括られた手紙を受け取り、急いで読む。
「!!……ああそんな、瑠火さんが……っ」
そこには瑠火さんが危篤状態にあると書いてあった。
危篤ということは、命の危機が迫っているということ。いつ亡くなってもおかしくない状態だということだ。
なんで、どうして……。もしかして瑠火さんは結核に……?だったらなんで私に、今の今まで連絡が来ないの。
ううん、それは今考えることじゃない。考えたところでどうにもならないことは、考えるべきではない。
「急いで煉獄家に帰らなきゃ……鱗滝さーーん!!」
放り出すように刀を置き、鱗滝さんに。錆兎達に手紙の話をする。
私の修行は突如終わりを告げた。
本当ならもっとゆっくりとお礼したかったし、挨拶もしたかった。
錆兎達が岩を斬るところだって見たかったし、迫る最終選別のお見送りもしたかった。自分自身、岩を斬るところまで修行が続くと信じて疑っていなかった。
なのにまさか、こんな早々と去る事になるなんて。
「鱗滝さん、お世話になりました!貴方からの教え、忘れずにこれからも精進して参ります!!」
「うむ。おぬしならばきっと良き隊士となれるであろう」
そう言って撫でてくれる鱗滝さんに、思い切り抱きつく。それから並ぶ三人にも抱きついて挨拶を交わした。
「錆兎、義勇、真菰、一緒に修行してくれて、可愛がってくれてありがとう!」
「朝緋は俺の可愛い妹分だから当然だ」
「離れてもそれは変わらない」
「隊士になったらまた会おうね、約束だよ」
頭をぐしゃぐしゃに撫でられ髪をもみくちゃにされたけど、それさえ嬉しかった。離れたくなくって、ちょっぴり寂しくて涙が出そう。
心の中だけでこっそり涙ぐんでいると、鱗滝さんが最後にお面を渡してくれた。
「朝緋、これを持っていけ」
かわいらしい木彫りの狐のお面は、赤の隈取りと炎の描かれたお耳が特徴的なものだ。
「厄除の面という。離れてしまっても、おぬしは儂の大事な弟子だ。いつか参加するであろう最終選別で、おぬしが無事に合格できるよう願いを込めて彫った。教え子達に与える伝統で、お守りだ」
「ありがとうございます」
「俺達も鱗滝さんにもらった。これをつけて、最終選別に望む予定だ」
「錆兎、まずは岩を斬らなきゃ行けないよ」
「お前もだろ、義勇」
錆兎達を見れば、それぞれ彼らにどこか似たお面を手にしていた。真菰のお面もかわいいな。
私も最終選別の時は持っていこう。